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耳で楽しむ「シン・ウルトラマン」 (後編) [バックナンバー]

鷺巣ワールド全開な後半の劇伴、原典を徹底再現した効果音、そして主題歌「M八七」

ウルトラマンの「3つの音のアイコン」が使われなかったのはなぜか

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原典を徹底的に再現した効果音、でも「あえて鳴らない音」がある?

シン・ウルトラマン」もう1つの音の注目ポイントは、やはりその効果音だろう。

ウルトラマンの飛行音や光線音、怪獣の鳴き声や足音、外星人が出現したときの奇妙な環境音から、果てはPCが発光し故障する音も、SNS上の画像が消えるときの効果音(!)まで、あらゆる音がみーーーんな原典の効果音。まさか米空軍の爆撃機の飛行音にまで、「ウルトラマン」のビートルの飛行音が使用されているとは予想できず、驚かされた。

とにかく、「シン・ゴジラ」以上に徹底して、どの音を聴いてもどこかで聴いたことがある、という不思議な世界がそこに広がっていた。

 

そんな中で個人的に注目したいのは、禍特対本部に設置された固定電話の呼び出し音だ。

自分の記憶では、田村班長の机の電話は、いわゆる「ウルトラマン」の科学特捜隊の呼び出し音ではなく、「ウルトラセブン」のウルトラ警備隊の呼び出し音が鳴っていた。エレクトーンの電子音で演奏されている科学特捜隊の呼び出し音は、東宝のゴジラシリーズに登場する宇宙怪獣キングギドラの鳴き声の流用であり、また「エヴァ破」の葛城ミサトの携帯の呼び出し音でもあったため、ファンの間ではぶっちぎりで有名な呼び出し音となっている。てっきり「シン・ウルトラマン」でもどこかで鳴るものだと思っていたが、最後まで使用されることはなかった。

物語の後半で、禍特対本部の電話が次々と鳴るシーンでは、ウルトラ警備隊に加えて「帰ってきたウルトラマン」のMAT、「ウルトラマンA」のTACという別の防衛チームの呼び出し音も確認できた。そのシーンでは電話機自体も大きく映し出されるのだが、そこには「IWATSU」のロゴが。こちらは「岩崎通信機」という通信機器メーカーの電話機なのだが、実は55年前の「ウルトラセブン」でも同じメーカーの電話機が使用されている。「ウルトラセブン」のウルトラ警備隊本部に設置された薄緑色の電話機は、岩崎通信機製だと判明しているのだ(出典:「ウルトラセブン研究読本」洋泉社)。

この電話機は、「セブン」だけでなく「帰ってきたウルトラマン」のMATの基地内にもその姿を確認できる。おそらく、この電話機に敬意を表して「シン・ウルトラマン」でも岩崎通信機の電話機を使用しているのだろう。

55年前にウルトラ警備隊に置いてあった電話機と同じメーカーの電話機が、「シン・ウルトラマン」で同じコール音を響かせていた、と思うと感慨深いものがないだろうか。ぜひ、もう一度鑑賞する際は、電話の音や、電話機に刻印されたマークにも注目してみてほしい。

 

以上のように、徹底的に原典に忠実な「シン・ウルトラマン」の効果音なのだが、そんな中でウルトラマンにまつわる「とある重要な音」が使われていないことにお気付きの方も多いだろう。そう、ウルトラマンの残り活動時間が少ない事を告げる「ピコーンピコーン」というカラータイマーの音と、「シュワッチ!」という独特の掛け声だ。

これに前述の「ウルトラマンの歌」を加えると、誰もが「ウルトラマン」と聞いた時に思い浮かべるであろう「3つの音のアイコン」を奪われているのだ。

カラータイマーが存在しない点については、ウルトラマンをデザインした成田亨氏の初期の構想にできる限り近付けたいという意図がすでに発表されているが、それだけではない「ウルトラマンを現代に新生させる」という作り手の意図を感じずにはいられない。つまり、誰もが先入観として持っているアイコンを剥奪することで、すでに固定されているウルトラマンのイメージを解体し、現在進行形の存在として再提示しようという意図だ。

言ってみれば、神格化されたウルトラマンから神性のアイコンを奪うことで、再度この“現在”の“現実世界”にウルトラマンを受肉させるような試みなのだ。

そこから見えてくるのは、今回の「シン・ウルトラマン」の根底にある、「ウルトラマン」という作品自体をトレースするのではなく、「ウルトラマンを見た」という体験をトレースしたいという狙いだ。樋口監督らが、かつてテレビの中で「銀色の巨人を初めて見た」ときの衝撃、そのファーストコンタクトの衝撃を新しい世代に向けて追体験させるためには、広く定着している固定観念を払拭する必要がある。そのための、「あえて採用されなかった3つの音のアイコン」と考えると、劇中で鳴らない音にも意味があるように感じられるのだ。

最後に、「M八七」

というわけで、耳で楽しむ「シン・ウルトラマン」の注目ポイントをさまざまに紹介してきたが、最後に主題歌「M八七」についても少しだけ触れておきたい。

「シン・ウルトラマン」のエンディング曲に採用されたのは、米津玄師氏による楽曲「M八七」であった。

本来のタイトル案はウルトラマンの出身地であるM78星雲から取った「M78」であったが、庵野秀明氏の発案で「M八七」になったそうだ(参照:米津玄師「M八七」インタビュー)。「ウルトラマン」の本来の設定の「M87」が、誤植によって「M78」として定着したという経緯を踏まえて、原点への回帰の意図があるのだろう。

歌詞の中には「微かに笑え」というフレーズも登場し、ここにはウルトラマンをデザインした成田亨氏の「本当に強い者は戦うとき、微かに笑うと思う」という言葉や(出典:2015年7月29日放送 BSテレ東「美の巨人たち 成田亨『MANの立像』ヒーローにしてアート!ウルトラマン誕生秘話」)、ウルトラマンのモチーフとなった仏像の微笑み(アルカイックスマイル)などのイメージが重なり、さまざまな言葉が多くの人々にとっての「ウルトラマン」を乱反射する楽曲となっている。

だが、僕はこの楽曲について、プロモーションとして作品同士が補強し合う完璧な結合に感銘を受けたのだ。

「新世紀エヴァンゲリオン」では「残酷な天使のテーゼ」、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」シリーズでは宇多田ヒカルさんによる楽曲という、音楽的な“バディ”の存在が、作品の世界観の確立と普及に大きな意味を持ったことは疑いようがない。「シン・ゴジラ」では、その役割をあえて伊福部昭氏による東宝特撮映画音楽に託したわけだが、今作では見事に米津玄師氏が果たしている。

実際に、米津氏が主題歌を担当するというニュースで、米津氏自身がリスペクトを込めて描いたジャケット画で、ウルトラマンと接点を持たぬ多くのファンが「シン・ウルトラマン」に注目し、その橋を渡ったのだと思う。

そういう意味で、「ウルトラマンの新たな時代の主題歌」として、1つのふさわしい形であったと言えるだろう。

タカハシヒョウリ

4人組ロックバンド・オワリカラや、特撮リスペクトバンド・科楽特奏隊のボーカル&ギター。女性アイドルグループ・開歌-かいか-や、大槻ケンヂのソロプロジェクト・大槻ケンヂミステリ文庫への楽曲提供も行う。サブカルチャー全般、特に特撮への造詣が深く、文筆家として雑誌やWebメディアでコラムなどの執筆活動を行っている。

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読者の反応

hachi* hachi* @jolly_a_cstm

このタイミング。。全然頭に入ってこないよ…ナタリー……

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