米津玄師|強い覚悟を持って鳴らす祝福の歌

タイトルが「M78」から「M八七」になった理由

──この曲に「M八七」というタイトルをつけたのはどういう由来ですか?

最初は「M78」という仮タイトルだったんですが、映画サイドに確認をしたら、庵野さんから返ってきた言葉が「『M78』にするのであれば、『M八七』のほうがいいのではないでしょうか」ということでした。

──それはどういう意図だったんでしょうか?

自分がそのコメントを受け取って勝手に判断したんですけれど、ウルトラマンの出身地は、最初の企画の段階ではM78星雲ではなくて、M87星雲だったらしいんですけど、なんらかのきっかけでその後の呼び名がM78になったという逸話を聞いて。今回の「シン・ウルトラマン」においてウルトラマンがカラータイマーを付けていないのにも、そもそもデザインをした成田亨さんが最初に目指した本来のウルトラマンの姿をよみがえらせるという理由がある。「シン・ウルトラマン」は、成田さんや当時の方々が本来作りたかったウルトラマンを踏襲する意図のある映画なんですね。だからタイトルが「M八七」になったのもそういうことなのかなと思います。漢字表記もカッコよくて気に入っています。

「M八七」MVのワンシーン。
「M八七」MVのワンシーン。

──シングルのカップリングには先日配信リリースされた「POP SONG」と、新曲の「ETA」が収録されています。この「ETA」は、いつ頃、どのような感じで作ったんでしょうか。

これは「STRAY SHEEP」(2020年8月リリースのアルバム)に入れようと思って作ったんですが、入れるのを止めた曲。そのときのインタビューでも話したかもしれないですけど(参照:「STRAY SHEEP」インタビュー)、暗すぎるからやめようと思ったんですね。基本的なテイストはその頃から変わってはいないんですけど、方向性をちょっと変えつつ、今回それがようやく日の目を見た感じです。

自分のことを好きでいてくれる人に会いたい

──この曲は「この先で待っている あなたへと会いにいく」という歌詞の言葉がとても印象的で、ひさしぶりのツアーが発表されたということとの関連も考えてしまいました。

その捉え方はみなさんに任せようと思います。無意識のうちにそういう思いはあったかもしれないです。

米津玄師

──ツアーに向けてはどんな思いがありますか。

2年半ぶりなんで、果たしてうまくやれるのだろうかということは考えますね。ブランクもあるし、ライブがないときに作った曲をライブ用に再構築しなければならない作業もある。でも、やっぱりライブは自分の活動において必要なことだと思います。自分のことを好きでいてくれる人と面と向かって会う機会はとんとなくなっていたので、ひさしぶりに会ったときに自分がどう思うかにも興味はあります。

──途切れていた期間、ライブに対しての思いには変化はありましたか?

自分としては、もしなくなってしまったとしても、それはそれでいいかと思ってしまうタイプの人間なんです。でもそう思ってしまうことに対する危機感も同時にあって。自分はもともとライブをやることに適性があまりないと思っているんです。レコーディングスタジオやデスクトップの前で、延々と1人で積み上げたり崩したりを繰り返しているのが一番好きな人間なので。でも自分のことを好きでいてくれる人に会いたいという思いもあるし、やらなきゃいけないことでもある。ちゃんと向き合ってやっていこうかなと思っていますね。そのときのために、鈍った体をちょっとずつ取り戻せるよう、がんばっていこうと思っています。

本当に譲りたくないものは絶対に明け渡すな

──最後に聞かせてください。「M八七」という曲を作るにあたっては下の世代に伝えていく意識があったという話もありましたが、この曲に込めたことだけでなく、今の米津さんが自分よりも若い世代に対して思うことや、伝えたいことにはどういうものがありますか?

そうだなあ……本当に譲りたくないものは絶対に明け渡すな、ということですね。もちろん社会で生きていくためにはある種の妥協が必要だし、いろんなものと折り合いをつけていかなければならないとは思うんです。でも、本当に譲りたくないものは、一切譲る必要がない。それを明け渡した瞬間に自分の人生がぐちゃぐちゃになってしまう。それがどういうものかは人それぞれ違うことなんで、一概には言えないですけれど、その範囲がどこにあるのかを自分の人生を振り返って考えてみてほしい。社会に揉まれて「これが正しい」とか「あれが正しい」と言われて、あっちに行ったりこっちに行ったりするような感じになることもあると思うんです。でも、そのときに甘い言葉や目先の利益に飛び乗らずに、「この関門、このしきい値を超えた瞬間に自分が崩れてしまう」というところを自分でちゃんと設定して、そこだけは何があっても死守する。それは大事にしてほしいなと思います。

米津玄師

公演情報

米津玄師 2022 TOUR / 変身
  • 2022年9月23日(金・祝)東京都 東京体育館
  • 2022年9月24日(土)東京都 東京体育館
  • 2022年10月4日(火)大阪府 大阪城ホール
  • 2022年10月5日(水)大阪府 大阪城ホール
  • 2022年10月8日(土)兵庫県 神戸ワールド記念ホール
  • 2022年10月9日(日)兵庫県 神戸ワールド記念ホール
  • 2022年10月18日(火)愛知県 日本ガイシホール
  • 2022年10月19日(水)愛知県 日本ガイシホール
  • 2022年10月26日(水)埼玉県 さいたまスーパーアリーナ
  • 2022年10月27日(木)埼玉県 さいたまスーパーアリーナ
米津玄師(ヨネヅケンシ)
1991年3月10日生まれの男性シンガーソングライター。2009年よりハチ名義でニコニコ動画にボーカロイド楽曲を投稿し、2012年5月に本名の米津玄師として初のアルバム「diorama」を発表した。楽曲のみならずアルバムジャケットやブックレット掲載のイラストなども手がけ、マルチな才能を有するクリエイターとして注目を浴びる。2018年3月にリリースしたTBS系金曜ドラマ「アンナチュラル」の主題歌「Lemon」は自身最大のヒット曲に。「Lemon」も収録した2020年8月発売の5thアルバム「STRAY SHEEP」は、200万セールスを突破する大ヒット作品となった。同年の年間ランキングでは46冠を達成。Forbesが選ぶ「アジアのデジタルスター100」に選ばれ、芸術選奨「文部科学大臣新人賞(大衆芸能部門)」も受賞した。デビュー10周年を迎える2022年5月に映画「シン・ウルトラマン」の主題歌「M八七」やPlayStationのCMソング「POP SONG」を収録したシングル「M八七」をリリース。9月より全国ツアー「米津玄師 2022 TOUR / 変身」を開催する。