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耳で楽しむ「シン・ウルトラマン」 (前編) [バックナンバー]

この選曲は100点満点なのでは……!映画前半はまるで宮内國郎ベスト盤

“異化”ではなく“再現”に向かう原典音楽へのアプローチ

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庵野秀明が企画・脚本、樋口真嗣が監督を務めた、ウルトラマンの誕生55周年記念作品「シン・ウルトラマン」。5月13日の封切りから2週間で観客動員数150万人を突破しているこの映画は、オリジナルに対するリスペクトが詰まった演出やストーリーなどが話題になっており、音楽面においても語るべきことの多い作品だ。

音楽ナタリーは今回、ロックシーン指折りの特撮ファンとして知られ、ウルトラマンに対する愛情と造詣が非常に深いタカハシヒョウリ(オワリカラ、科楽特奏隊)に「シン・ウルトラマン」に関するコラムの執筆を依頼。「耳で楽しむ『シン・ウルトラマン』」というテーマで、劇伴や効果音、主題歌などについて、ミュージシャン目線で、そして特撮ファン目線で徹底解説してもらった。

/ タカハシヒョウリ(オワリカラ、科楽特奏隊)

はじめに

どうも、ミュージシャン・作家、オワリカラでボーカル&ギターを担当しているタカハシヒョウリです。

「シン・ウルトラマン」公開から3週間ほどが経過、興行収入20億円超えの大ヒットを記録しており、すでに鑑賞済という方も多いのではないでしょうか。かく言う自分も、1回目より2回目、2回目より3回目が楽しい……という不思議な現象に遭遇しまして、気付けば「シン・ウルトラマン」を4回リピートしています。

今回は、「耳で楽しむ『シン・ウルトラマン』」ということで、劇伴音楽や、効果音など、「『シン・ウルトラマン』の音にまつわる注目ポイント」を紹介していきたいと思います。

一度劇場で楽しんだ方も、これを読んでから、「音」に集中して鑑賞すると、また違った楽しみ方ができるガイドのようなものを目指しますので、よろしくお願いします。



※こちらのコラムは、作品のネタバレを多分に含みます。「シン・ウルトラマン」未視聴の方はご注意ください。
※曲タイトルの表記は、基本的にパンフレット収録の曲目リストに準拠しています。

 

前半は、まるで宮内國郎による「ウルトラマン」音楽のベスト盤!

まずは、映画を盛り上げる「シン・ウルトラマン」の劇伴音楽について。

「シン・ウルトラマン」の劇伴は、前後半でメインの作曲家が変わるという極端な構成となっていて、前半では初代「ウルトラマン」などで使用された宮内國郎氏による楽曲群を中心とした選曲、物語上の転機となるメフィラスの登場を境目に、後半では庵野作品に欠かせない鷺巣詩郎氏による新規楽曲群オンリーの選曲となる。これは、前半が原典である「ウルトラマン」の展開に比較的忠実であるのに対し、後半ではオリジナルの展開になだれ込んでいくという作劇構造と呼応するようになっているのだろう。

さらに、この「ウルトラマン」からの流用楽曲も2つに大別することができる。今回の「シン・ウルトラマン」のために再録音された「新録音源」と、55年前の「ウルトラマン」や「ウルトラQ」で使用された音源をリマスタリングした「流用音源」の2種類だ。新録はロンドンオーケストラ、リマスタリングは鷺巣氏が“ハリウッドの女王”と呼ぶエンジニア、パトリシア・サリヴァンさんが担当している。

「シン・ウルトラマン」の劇中で使用される新録の「ウルトラマン」楽曲は4曲あり、各戦闘のメインテーマとも呼べるものがそれにあたる。やはり映画の華であるアクションシーンを盛り上げる重要な楽曲なので、迫力ある音質と、映像とのシンクロ度の高さを求めての新録という意図だと受け取った(例外的に「怪獣無法地帯 レッドキングの襲撃(B1)」のみ、「ウルトラマン」で使用されたオリジナルのモノラル音源に、ステレオで新録の管楽器を追加した「新録管楽器によるステレオ配置」という音源が使われている。ちなみに、この楽曲は完全な新録も行われたようだが、そちらのバージョンは映画中では使用されていない。6月22日発売のサントラに収録)。

今回は、そんな劇伴音楽の中から、個人的な盛り上がりポイントをピックアップして紹介していこうと思うのだが、その前に少し「ウルトラマン」の音楽について解説しておこう。

 

1966年に放送開始した特撮テレビ番組「ウルトラマン」の音楽は、前番組の「ウルトラQ」から引き続き宮内國郎氏が担当した。ジャズ畑出身、元トランペッターであった宮内氏の音楽は、地面から沸き立つようなビートと、軽快なブラスで、シンフォニックな“面”ではなく、リズミカルな“点”で鳴らすようなサウンドが特徴だ。

(「シン・ウルトラマン」で使われるかがファンにとっては1つの注目ポイントであった)主題歌「ウルトラマンの歌」も、同時代の子供向け番組の主題歌と比較すると、明るさの中にしっかりとエッジが立っていて、実はかなり洒落た楽曲だ。当時、テレビの前にいた子供たちは、この曲のビート、ブラス、そしてセブンスコードのスタイリッシュさに、それまで体験したことのない未来の響きを感じたはずだ。まさに「ウルトラマン」の空想と浪漫の世界を、サウンドの面からも確立したのが宮内國郎氏の音楽だったのだ。

 

では、「シン・ウルトラマン」に話を戻そう。

「シン・ウルトラマン」はオープニングから、宮内音楽のオンパレード! 「シン・ゴジラ」の際に原典から引用された伊福部昭氏の音楽は、ここぞ!という場面で伝家の宝刀のように抜かれたが、今回は「ああ! もうそんくらいの感じでバンバン行くのね!」と圧倒されるほど多用される。

「シン・ゴジラ」のロゴを突き破って現れる「シン・ウルトラマン」のタイトルクレジットとともに流れる「メインタイトル ウルトラマンOP(Q・M1T2+タイトルt5)」「メインタイトル タイトルB」から、“禍威獣”の脅威と“禍特対”の結成を描くダイジェストの「ウルトラQ テーマIII(M-2 T2)」へとなだれ込んでいき、怪獣出現を盛り上げる音楽も、そのどれもが「ウルトラQ」「ウルトラマン」からの宮内楽曲。

ここまで宮内音楽100%、まるで宮内音楽のベスト盤フィルムコンサート!

ウルトラマンが登場し、初陣となる透明怪獣・ネロンガとの戦闘では、「科特隊出撃せよ 電光石火の一撃(A1)」が新録バージョンで流れる。この戦闘は、胸で電撃を受け止めるなど「ウルトラマン」でのネロンガ戦をなぞっており、選曲も原典の再現となっている。

楽曲がストップし、無音になってからスペシウム光線を発射する流れも同じだが、ループの末にフェードアウトで終わるオリジナルに対し、「シン・ウルトラマン」版は楽曲の最高潮での“キメ”で終わるのが、新録ならではの盛り上がりポイントとなっている。

無劇伴の中で炸裂するスペシウム光線のあと、光波熱線の異常な威力に震撼する禍特対メンバーのコメントとともに流れるのは「無限へのパスポート ブルトンの最期(M2)」。不穏な楽曲が、突如出現した未知の巨人への恐怖を煽る素晴らしい選曲で、オリジナルのネロンガ戦ではウルトラマンが飛び立ったのち、主題歌の変奏曲「科特隊出撃せよ 大団円(A5)」で文字通り大団円的に明るく終わるのと好対照となっている。

ちなみに、この「無限へのパスポート ブルトンの最期(M2)」も新録が行われたようだが、劇中では使用されず、サントラのみの収録となっている。公式書籍「シン・ウルトラマン デザインワークス」に収録の庵野氏の手記によると、編集時にオリジナル音源に戻した楽曲が2曲ほどあるとのことだが、おそらくそのうちの1曲がこれだと思われる(もう1曲が、後述の「ミイラの叫び 出撃(M4T2)」か)。

ここで「新録のほうが音質がいいなら、新録を使ったらいいんじゃないの?」と考える読者もいるかもしれないが、当時の録音技術で限られた時間の中で録音された演奏には、微妙なズレや音の歪みがあり、その部分が再現できない独特の魅力ともなっている。そのため、必ずしも再録音して音質が向上したから、単純によりよくなるというものでもないのだ。それは、音質がいい“別物”だったりするのである。

「新録」と「流用」のどちらを採用するかというジャッジは、「選曲」としてクレジットされている庵野氏なりの判断基準で為されたのだろう(このあたりの経緯等は、おそらくサントラのブックレットに掲載されると思うので、楽しみに待ちましょう)。

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「シン・ゴジラ」と「シン・ウルトラマン」で異なる、原典音楽への向き合い方

読者の反応

西田亜沙子(終末トレイン作業中!) @asakonishida

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