エンジニアが明かすあのサウンドの正体 第8回 [バックナンバー]
ゆらゆら帝国、OGRE YOU ASSHOLE、SCOOBIE DOらを手がける中村宗一郎の仕事術(後編)
聴いたことのない、異物感のある音を聴きたい
2019年11月22日 13:00 20
いまだにアーティストにムカついたと言われる
──アーティストのインタビューなどで、宗一郎さんにダメ出しをされたという話をたまに見かけるんですが、実際はどうなんでしょう?
ここがまずいかなあってときに必死で伝えようとすると、言い方が悪いので怒らせちゃったり、しょぼんとさせちゃったり……。あんまり言わないようになったんですけどねえ。どうしても言わないとってことがあるんですよ。まあ、ホント楽しくできればいいなあと思ってますけど、なんだかすみません! あるアーティストは、「あのとき中村さんにめちゃくちゃ言われて、本当にムカついて……」って言うから、「でも言ってもらってよかったです」と言ってくれるのかと思ったら「本当にムカつきました」だけで終わって(笑)。そのアーティストにはいまだに「本当にムカついた」って言われますね。でも、まあいまだにウチに来てくれてるからいいかなと思いますけど。
──オウガにもいろいろアドバイスされているそうですね。
オウガはクリックに合わせて録るとかギターをダビングするとか、普通のやり方でレコーディングしようとしていたから、「もっとふざけろ! 大至急ふざけろ! 聴いたことないものが聴きたいんだから、普通にやってどうするんだ」という話をしたことはありましたね。どういうふうにやるかはバンドとの関係性によって変わります。ドラムのグルーヴについてはけっこう気になるので、つい口出しすることはあるかな。
一郎くんは異常なくらいにドラムがうまかった
──
ゆらゆら帝国の(柴田)一郎くんって、ちょっと異常なくらいにドラムがうまかったんですよ。同じような8ビートの曲とかあるんですけど、チッチッってカウントした瞬間にどの曲かわかる。ドラムでちゃんと作曲しているから、ドラムだけ叩いていても曲がわかるんですよ。「空洞です」も、ものすごく工夫していると思います。
──ドラムをミュートするためにガムテープを1本使ったという伝説がありますが。
そういう極端なことを言うのは、たぶんみんなを驚かせたいというサービス精神でなんだと思います。桃太郎すしで3万円食ったとか、そういう伝説を作るのが好きな人なんですよ(笑)。
──坂本さんの歌詞の語感とサウンドのすり合わせで意識していたことはありますか?
それはもう坂本くんがめちゃくちゃ考えて練ってきてましたね。どこにアクセントをつけたいかを意識してワードを考えてくるので。曲の中でアタックをどう出すかみたいなことは、すごく考えてると思います。
──ゆらゆら帝国の場合、宗一郎さんはどういう関わりだったのでしょうか?
サウンドの方向性をプロデューサーの石原洋さんと坂本くんが詰めてきて、僕は「だったらこうする?」と提案して、お互い納得がいくまで実験する感じでしたね。いい音で録るというより好みの音を目指す方向なので、なかなか難しかったです。ベーシックのレコーディングが終わるとあとはだいたいその3人で作っていて、完パケしたマスターを渡すまでメンバー以外は誰も聴いてないですね。レコード会社の人にもできたものを渡すだけでした。そうやって自分たちだけで作るというのがメジャーでやる条件でもあったんですよね。
何か引っかかる音に興味を惹かれる
──デモで決めてきた音を清書するようなレコーディングはあまりされないんでしょうか?
──PEACE MUSICのスタジオ以外で録音することはあるんでしょうか?
ほかはほとんどないです。できないし。
──ミュージシャンがレコーディングして持ってきた素材だとやりにくくないですか?
逆に「ちゃんと録れてないからしょうがないじゃん」と言えるので、そこはあまり気にしてないです(笑)。しかも彼らはせーので録っているから音かぶりもすごくて。でも、そういう音かぶりも含めてバンドの魅力ですよね。
──宗一郎さんとしては、Borisのようにキレイに整っていない音のほうが好みだったりしますか?
整ってないんですかね?(笑) 好みというか、基本的に聴いたことのない音を聴きたいんですよ。「どうやって録ったらこうなるの?」という音のほうが魅力的というのはあるかもしれない。それがいいか悪いかわからないですけど、そういうものに惹かれますよね。ゆらゆら帝国も普通のものを目指してたわけじゃないと思うので、異物感というか、何か引っかかる音とか、そういうのが重要だったんだと思いますね。
中村宗一郎
ゆらゆら帝国、
中村公輔
1999年にNeinaのメンバーとしてドイツMille Plateauxよりデビュー。自身のソロプロジェクト・KangarooPawのアルバム制作をきっかけに宅録をするようになる。2013年にはthe HIATUSのツアーにマニピュレーターとして参加。エンジニアとして携わったアーティストは入江陽、折坂悠太、Taiko Super Kicks、TAMTAM、ツチヤニボンド、本日休演、ルルルルズなど。音楽ライターとしても活動しており、著作に「名盤レコーディングから読み解くロックのウラ教科書」がある。
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