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中村宗一郎

エンジニアが明かすあのサウンドの正体 第8回 バックナンバー

ゆらゆら帝国、OGRE YOU ASSHOLE、SCOOBIE DOらを手がける中村宗一郎の仕事術(後編)

聴いたことのない、異物感のある音を聴きたい

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誰よりもアーティストの近くでサウンドと向き合い、アーティストの表現したいことを理解し、それを実現しているエンジニアにスポットを当て、彼らの視点でアーティストの楽曲について語ってもらうこの連載。中村宗一郎の前編ではエンジニアになった経緯や機材に対する考え方について紹介したが、後編ではゆらゆら帝国OGRE YOU ASSHOLEギターウルフSCOOBIE DOBorisなどバンドとの関わりについてお届けする。

取材・文 / 中村公輔 撮影 / 塚原孝顕

「ディアンジェロみたいにしてください」って言われても

──OGRE YOU ASSHOLEのターニングポイントになった作品として位置付けられる「homely」(2011年8月発売)では、中村宗一郎さんからビンテージの機材をいろいろ教わって、試したことで音楽性が変わったとインタビューで語っていました。

それはビンテージというか、デジタルディレイをテープエコーに変えるとか、ギターやベース、アンプなどを古いものを使ってみるとか、それくらいで教えるというほどのことはしてないですよ。そういうのを使ってみたら、本人たちの発想が変わったということだと思いますけどね。

──ゆらゆら帝国の「わかってほしい」では、The Kinksのようなサウンドになっていますが、これも古い機材を使ったとか、古い録り方をしたのではなく、現代のやり方でああいう音になっているということなんでしょうか?

アナログの1inchで録ったんですけど、それしかなかったのでそうなったという感じですかね。ガレージロックみたいな音は自分の好みというのもあるんですけど、そもそも演奏者がそういう音を出してないと。「●●みたいにしてください」って言われても「いやそれは……」っていう。数年前は、たまにマスタリングで「ディアンジェロみたいにしてください」って言ってくる人とかいたんですけど、「それができるんだったら僕ここにいないから! ブルックリンとかにスタジオ作ってるから!」って話ですよね(笑)。

──マスタリングもかなりの本数をされていますよね?

数えたことないけど、年間200~300枚はやってるかなあ。今はレコーディングエンジニアの人がそのままマスタリングしたりもするので、それでよければいいんじゃないかなと思います。DDP(※CDプレス用マスターの納品フォーマット)も自分で作成できるし、実際に自分でやりましたって話もよく聞くし。それでも最後にちょっと聴いてみてくださいって来るのもありますが。そもそも、マスタリング代が高いということを知らなかったんですよ。マスタリングスタジオは、昔は1時間3、4万とかしてたでしょ? でも僕のところに来る人たちはそんな予算ないバンドもあるし。僕が「こんなのでよければこのくらいの値段でいいですよ」と言っていたら、どんどん依頼が来るようになりました。だから自分から宣伝はしないようにしているんですよ。「宣伝してお金取ってるのに」と言われても困るから。口コミとか自分で探して来た人だけにやるみたいな。最低限これだけもらえればいいという分のお金だけもらって、手伝いをやっている感覚ですかね。

──宗一郎さんとしては、そういうお金のないバンドを助けてあげたいという気持ちもありますか?

助けると言うと偉そうですけど、自分も同じ立場だと思っているので。「お金ないよね」「わかるわかる、ないよね」ってお互い言い合ってる感覚ですね。

──それでは、「こういう音が作りたい!」といった思いがあって録音しているというより、とにかく予算ありきでできるものを回転していく感じなんでしょうか?

そうですね。ほぼほぼ、みんなそんな感じで、時間をかけて楽しめるのは、2年に1回とかあればいいかな。何年か前にオウガと坂本慎太郎くんが重なった年があって、そのときは半年ほとんどそれをやってましたね。ほかの仕事も入りながらでしたけど、3カ月ずつ、延べ日数で30~40日ずつやったと思います。

極端な音が好き

──お話を聞いていると、宗一郎さんは来るものを受け入れているだけで、自分を前に出さない姿勢を感じるのですが、作品の出音は味付けが濃いというか、キャラクターが立ったサウンドになっていると思うんです。その辺りはなぜだとお考えですか?

まあ微妙なことができないってこともありますけど。極端な音が好きというのはあるかもしれないです。でも、バンドが「こういう音にしたい」と言うなら「えー……じゃあこうやっちゃう?」という感じで。「ギターソロになったらほかの音は全部聞こえなくなっていいッス」って言われたらうれしくなってやっちゃう感じかなあ(笑)。

──ギターウルフではボーカルまでディストーションがかかったような音になっていますが、あれも宗一郎さんがそういうサウンドにしようと思ってやっているわけではない?

あれはもう、最初からセイジさんの声にディストーションがかかっているので(笑)。初めからあの声でして。で、キレイに上手に歌えたテイクはNGなんですよ。「普通に歌えてるな」とか言うと「えー、じゃあもう1回行きます!」って。あとセイジさんはカセットテープの4trのMTRの感覚がずっとあって。僕がドラム、ベース、ギター、ボーカルをBUS(※1)にまとめて立ち上げておくんですけど、ミックスのときにミキサーのところまで来て、自分のギターソロになると音量を突いたりするんですよ。「ここ以上にはフェーダーを上げないでね」って言うんですけど、まあ突きますよね。ピークまで行ってるのにさらに上に行こうとして、ガガガーッと力が入る。それをディレクター含めて同席してる全員が「キターッ!」って言って喜んで決まるっていうね。

※1:乗り物のバスのように、複数のチャンネルをまとめるミキサーの機能。例えば何本もマイクを立てるドラムを1つのチャンネルにまとめ、バランスを保ったまま1本のフェーダーで音量をコントロールしたり、まとめてエフェクトをかけたりすることができる

──1990年代だと、エンジニアは言ってもやってくれない怖い人というイメージで、「EQで低音をもうちょっと上げてくれ」と言っても、上げたフリだけして空回ししてやってくれないとか、無視されたみたいな話も聞いたことがあります。そんな中で、プレイヤーがミキサーに触っていいというのは本当に珍しいのでは。

人にもよりますけど、やれるならどうぞというときもありますよ。前に受けたインタビューで、「EQをかけるフリしてかけないような人がいて、そういうことされたらムカつくじゃないですか?」って話をしたら、「ムカつく」の部分が削られて僕がそういうことをするみたいに本に書かれたことがあったんですよ。あれは本当にムカついたな(笑)。エンジニアって昔はお医者さんみたいな扱いで、頼むほうが構えて「これは言っちゃいけないんじゃないか」とか「機械に触ったら壊れるんじゃないか」とか気にしてましたよね。でももしかしたら僕が今そう思われてるかもしれないのでホントすいません、気をつけます……。

好き勝手作っていると時代感なく聴ける

──宗一郎さんが1990年代に手がけられた曲を聴くと、機材も当時のものを使っていますが、不思議と同時代のほかの音楽に比べて古びていないと思います。それはなぜでしょうか?

音にもやっぱり流行があるから、基本的にみんな時代の音を追いかけて寄せていこうとするでしょ。でも勝手にやってると時代感があまりないので、それで今でも聴けるんじゃないかなとは思いますけどなんだかわかりません。

──音を作るときに意外と音のことを考えないで作ってたりしますか?

ミックスするときは絵画を観ているような感じかもしれないですね。ギターとかベースとかドラムとかの絵が1つひとつあって、それをどこにどういうふうに配置していくか。1つの楽器がいい音をしているというよりも、重なったときのバランスを考えながらデザインする感覚かもしれません。

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いまだにアーティストにムカついたと言われる

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