市原佐都子、小泉明郎、高山明、モニラ・アルカディリが自作の構想を語る

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「あいちトリエンナーレ2019」の開幕に先駆けたイベント「パフォーミングアーツ・プレトークin東京」が、6月20日に東京のゲーテ・インスティトゥート 東京で開催された。

あいちトリエンナーレ2019「パフォーミングアーツ・プレトークin東京」の様子。左から高山明、市原佐都子、小泉明郎、相馬千秋。

あいちトリエンナーレ2019「パフォーミングアーツ・プレトークin東京」の様子。左から高山明、市原佐都子、小泉明郎、相馬千秋。

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あいちトリエンナーレ2019「パフォーミングアーツ・プレトークin東京」ビジュアル

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「パフォーミングアーツ・プレトークin東京」には、「あいちトリエンナーレ2019」のパフォーミングアーツ部門でキュレーターを務める相馬千秋、参加アーティストの市原佐都子、小泉明郎、高山明のほか、モニラ・アルカディリがSkypeで参加した。まず相馬が、「あいちトリエンナーレ2019」の全体テーマである「情の時代」を説明し、パフォーミングアーツ部門ではギリシャ悲劇をフックの1つとして考えていることを話す。さらに各作品について紹介した。

そして小泉が登壇。小泉は「このプロジェクトを始めるにあたって相馬さんにいただいたテーマが、ギリシャ神話の『プロメテウス』でした。実はギリシャ神話は一度も読んだことがなかったのですが、読んでみたら扱われているテーマはとても本質的な、人類とテクノロジーの話。それは私にとっても興味深い内容だったので、検討の末、VRの技術を使った体験型の作品を作ることになりました」と説明する。小泉はVRについて「ビデオは主観的なショットと客観的なショットをつなぎ合わせて編集し、ストーリーを語るもの。しかしVRはヘッドセットを着ければすべて主観的なショットになるので、客観的なショットはないわけです。ですので、ビデオの映像とはまったく違った形の作品を作れる可能性がある」と述べ、昨年2018年にイラクの青年と手がけた、自身初のVR作品について言及した。「その作品は、VRの技術によって身体を拡張させると言うより、自分の身体を作品の中に閉じ込める、縮こませるような感覚の作品になりました。しかし今回は、身体がどんどん拡張されるような、気持ちのいい作品を作りたいなと。自分でハードルを上げてしまっているかもしれませんが……(笑)」と笑顔を見せる。さらに小泉はトランスヒューマニズムの考え方に触れ、「自分の肌感覚として危険だと思うのは、身体性とか実体験を軽視しているのではないかということ。実体験が情報やアルゴリズムにすべて還元できるとしても、経験やそこで得た感情が、生きている生命にとってはやはり大事ではないかということです」と話し、「テクノロジーと人類の関係性を、VRの作品の中で何かしら考えることができれば」と意気込みを述べた。

相馬千秋

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続けて市原が登壇。市原は「相馬さんとお話する以前から、ギリシャ悲劇をベースに作品を作りたいという思いがありました。と言うのも、非常に昔の作品であるギリシャ悲劇が今も残っているのは、人間のコアな部分が描かれているからじゃないかと思い、自分が悩んでいることの解決の糸口が、ギリシャ悲劇に描かれているのではないかと思ったからです」と話し、今回は「バッコスの信女」を取り上げることになったと明かす。「ただ、『バッコスの信女』をそのまま忠実に描くわけではなくて、その構造を借りて私が妄想し、まったく新しいものを作ります」と言い、ゼウスと人間の女性セメレーの間に生まれた“半神”のデュオニソスへの興味から、「牛と人間のハーフの生き物を主役にしました」と説明。また、ギリシャ悲劇のスタイルを意識し、「当時は女性の地位が低く、客席も出演者も全員男性だったのではないかと言われています。そこで今回、出演者は全員女性にしました。また牛の魂という役割で、コロスが登場します」と構想を語った。

「あいちトリエンナーレ2019」ロゴ

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高山はアリストテレスの詩学・弁論術を軸にした作品を展開する。高山は、自身のバックボーンにベルトルト・ブレヒトがあることに触れ「ブレヒトが仮想敵のようにしていたのがアリストテレス。今回は“情の時代”というテーマなので、感情をどう扱うかということをアリストテレスに遡って考えようと思います」と述べる。また「テキストとして、戦前のアジア主義のものを扱うことにしました。アジア主義とは行き過ぎてしまった西洋主義に対して、アジア全体として戦っていきましょう、という考え方ですが、戦後は禁書になったり、読むべきではないとされてきた一連の思想です。でも僕は、今“右側”と言われているテキストにある種の可能性を感じていて、それを現代の都市空間で街頭演説したらどうなるのかをやってみたいなと。誰かが判断したものではなく、自分の目でそれらのテキストを見直して、そこに含まれる可能性や危険性、見解を自分の頭で考えてみたいと思っています。また、現代の都市空間で街頭演説が成り立つのか、つまり言葉や思想がパブリックな時空間を作れるだろうかというチャレンジもしてみたい」と構想を語る。さらにアジア主義で重要だった天皇制についても言及し、「天皇制に変わる、アジア全体を(統括する軸を)考えたい。それを今回はヒップホップにしてみようと。天皇制を更新する形で、アジア主義の可能性が更新される時空間を作りたい」と思いを明かした。

Skypeで参加したモニラ・アルカディリ。

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最後にモニラ・アルカディリがSkypeで参加した。クウェート人であるアルカディリは、16歳のときに来日し、東京で美術を学ぶ。東京で10年過ごして帰国し、現在はドイツのベルリンを活動拠点としている。アルカディリは「今回発表する作品は、日本で過ごした10年間の最後に起きた本当のお話をもとにしています」と語り、「お母さんが霊能者だというクラスメイトがいて、そのお母さんに会いに行ったところ、彼女は私に40人の男性の霊が憑いていると言いました。『みんな髭が濃く、怖い顔をしている』と。その話にゾッとすると同時に、自分のオブセッションの意味を見出して、納得したところもあって。アラブには霊というコンセプトがありませんが、私はその霊能者の話をメタファーとして取り上げ、どういう作品ができるか考えたいと思いました」と作品の構想を語った。

その後、小泉、市原、高山が再び舞台に上がり、相馬の司会でフリートークが行われた。3人は互いの作品に対する興味や視点に対する共感などを語りながら、自身のクリエーションに対する姿勢や今作についての構想を語った。

「あいちトリエンナーレ」は、愛知県で3年に1度開催される現代アートの祭典。「情の時代」をテーマに掲げた「あいちトリエンナーレ2019」では、ジャーナリスト / メディア・アクティビストの津田大介が芸術監督を務める。会期は8月1日から10月14日まで。

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「あいちトリエンナーレ2019」

2019年8月1日(木)~10月14日(月・祝)
愛知県 愛知芸術文化センター、名古屋市美術館 ほか

[パフォーミングアーツ]プログラム

高山明(Port B)「パブリックスピーチ・プロジェクト」 プロジェクトプレゼンテーション / 学校説明会

2019年8月1日(木)・2日(金)
愛知県 愛知県芸術劇場 大リハーサル室

ミロ・ラウ(IIPM)+CAMPO「5つのやさしい小品」

2019年8月2日(金)~4日(日)
愛知県 愛知県芸術劇場 小ホール

ネイチャー・シアター・オブ・オクラホマ+エンクナップグループ「幸福の追求」

2019年8月3日(土)・4日(日)
愛知県 名古屋市芸術創造センター

劇団うりんこ+三浦基+クワクボリョウタ「幸福はだれにくる」

2019年8月16日(金)~18日(日)
愛知県 愛知県芸術劇場 小ホール

サエボーグ「House of L」

2019年8月31日(土)~9月8日(日) 
愛知県 愛知県芸術劇場 大リハーサル室
※開館時間は日程により変動。

モニラ・アルカディリ「髭の幻」

2019年9月5日(木)~8日(日)
愛知県 愛知県芸術劇場 小ホール

小泉明郎「縛られたプロメテウス」

2019年10月10日(木)~14日(月・祝)
愛知県 愛知県芸術劇場 大リハーサル室

市原佐都子(Q)「バッコスの信女ーホルスタインの雌」

2019年10月11日(金)~14日(月・祝)
愛知県 愛知県芸術劇場 小ホール

劇団アルテミス+ヘット・ザウデライク・トネール「ものがたりものがたり」

2019年10月12日(土)・13日(日)
愛知県 名古屋市芸術創造センター

[パフォーミングアーツ]プログラム エクステンション

・ドラ・ガルシア「ロミオ」
・キュンチョメ「新作」
・田中功起「新作」
・藤井光「無情」
・ドミニク・チェン「新作」

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あいちトリエンナーレ @Aichi_Triennale

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