小学館のマンガ配信アプリ「マンガワン」、および小学館のWebマンガ配信サイト「裏サンデー」で連載されている松木いっかのマンガ「日本三國」が、西田大輔の脚本・演出により舞台化される。「日本三國」は、文明が崩壊した近未来を舞台に、3つの国に分裂した日本の再統一を目指す青年・三角青輝の活躍を描いた架空戦記だ。
話題作の舞台化に際し、主人公の三角役を務める橋本祥平と、のちに三角が仕える辺境将軍・龍門光英のもとで出会った軍師・賀来泰明役の平野良にインタビュー。これまで多数の作品で共演し気心の知れた2人に、本作の魅力を語ってもらった。
取材・文 / 興野汐里撮影 / 藤田亜弓
方言初挑戦の橋本祥平、宮下雄也から関西弁のレクチャーを受けた平野良
──「日本三國」では、大阪を首都とする大和、小田原都を首都とする武凰、聖籠都を首都とする聖夷の三国が覇権を争う様が描かれ、橋本さんと平野さんはそれぞれ、大和にルーツを持つ三角青輝と賀来泰明を演じます。橋本さんはすでに稽古に入っており、平野さんは本日から稽古に合流すると伺いました(取材は稽古期間中に行われた)。
平野良 稽古の様子を動画で観させていただいたんですけど、祥平はもちろん、龍門光英役の松田(賢二)さんと平殿器役の(宮下)雄也がバチバチにバトルしていて面白いのなんのって! 稽古の初期段階からこんなに仕上げちゃダメだよ2人とも!って思いましたもん(笑)。原作の龍門は見た目がおじいちゃんですが、松田さんが演じる龍門のビジュアルはイケオジじゃないですか。それがどうなるのかな?と思っていたんですが、まったく違和感がなくてびっくりしました。
──松田さんが演じる龍門は、三角と賀来が仕える大和の辺境将軍で、三角は龍門の館で行われる仕官採用試験を突破し、“登龍門”を成し遂げることを目指しています。一方、宮下さんが演じる平殿器は、三角が大阪へ向かうきっかけを作った大和の内務卿です。
橋本祥平 松田さんと宮下さんは大阪出身なので、もうすでに大和の言葉を完全にマスターしていますよね。自分は今回、舞台で初めて方言を使うこともあり、三角が生まれ育った大和の愛媛郡で使われている言葉・宇摩弁の扱いに苦労していて。宇摩弁は関西弁のように常にうねったイントネーションではなく、「~したんじゃ」という語尾が多い方言なんです。宇摩弁を吹き込んだ参考用の音源はいただいたんですが、それでも誰かに直接聞いて勉強したいなと思って、「愛媛県出身 俳優」で調べたんですけど、残念ながら知り合いにはいませんでした(笑)。
平野 祥平、初方言なんだ! 初めてだと特に大変だよね。方言がある芝居は大体、方言指導の方がついてくださるんですけど、身近な人から教えてもらえるとやっぱり安心するんです。自分は稽古が始まる数日前に雄也に連絡して、賀来のセリフ回しを教えてもらったんですよ。「ここ、ちゃうで。ここはこうやで」「そんなにコテコテしすぎなくてええんちゃう?」みたいなやり取りをして。
橋本 わー! 心強いですね。そういえば阿佐馬芳経役の(赤澤)燈くんが、良くんの稽古参加を待ちわびていましたよ。「関東出身だけど関西弁をしゃべる人が増える!」って(笑)。
平野 ははは! 確か、顔合わせのときにも燈とその話をしたな(笑)。
橋本 松田さんと宮下さんの関西弁の応酬がすごすぎるから、自分の気持ちを共有できる人と早く話したいって言ってました(笑)。
託し、託される2人
──舞台「日本三國」で、橋本さんは三角役、平野さんは賀来役をそれぞれ演じます。ご自身が演じる人物の印象を教えてください。
橋本 三角はもともと愛媛郡で司農官をやっていたこともあり、頭が良く、弁が立つ人だなと。最愛の人である妻の東町小紀の身に起こった事件をきっかけに、三角は小紀の願いだった天下泰平を実現すべく、大和の首都・大阪にある龍門の館へ向かいます。一見、三角は大きな夢を抱いているように感じるのですが、実は目の前の幸せを大切にする人。特に感銘を受けた三角の行動は、小紀をはじめ、人を大切にするところですね。三角と小紀がやり取りをするシーンは今後の稽古で作っていくのですが、西田さんがとても良い構成の台本にしてくださったので、2人の会話がどのような形で表現されるのか、皆さんも楽しみにしていただけたらと思います。
平野 自分が演じる賀来と、祥平が演じる三角は似ているところが多く、のちに賀来は信頼の置ける三角に重要なポジションを託すことになります。……そう考えると、自分はほかの作品でも祥平に何かを託すことが多いな(笑)。
橋本 確かに! これまでにもいろいろなことを託していただきました(笑)。
──残念ながら中止になってしまった「ミュージカル封神演義-開戦の前奏曲(プレリュード)-」(2020年)や、ミュージカル「伝説のリトルバスケットボール団」(2024年)などですね。
平野 そうですね。賀来は頭の回転が早く、いつも先を見越しながら行動しているんですけど、賀来のすごさはそれだけではなく、“民”のことをしっかり理解していて、現実をしっかりと受け止めているところ。現在の日本もそうですが、国というものは一部の人たちだけが動かしているように見えて、結局は“民”の力が必要なんだということを僕も常々思っていて。賀来も三角も“民”のことをよく理解しているし、自分たちの頭脳を“民”のために使うことができる。だからこそ、賀来は三角に重要なポジションを託すんでしょうね。
現在の日本にも通じる「日本三國」
──お二人が演じる大和にゆかりのある人物をはじめ、「日本三國」には魅力的な人物が多数登場します。橋本さんは特に賀来がお気に入りだと伺いましたが、賀来のどのようなところに惹かれたのでしょうか?
橋本 僕は思いを言語化して相手に伝えることがあまり得意ではないので、それをしっかりと言葉にできる賀来や三角に憧れますね。ああいうふうな人になりたかったなあ……って。
平野 賀来や三角に限らず、みんなそれぞれ魅力的だよね。龍門の従者・菅生強は、口数は多くないけど芯のある考えを持っているし、同じく龍門の従者・長嶺士遼と菅生の関係性も面白い。阿佐馬も、強くもあり弱くもある、絶妙なバランスで成り立っている。自分たちが演じる大和の人々からすると、敵対勢力ではあるんだけど、聖夷には聖夷の、武凰には武凰の正義があって、単純に善と悪、敵と味方という見方をするのはもったいないんじゃないかなって。登場人物1人ひとりに“個”の考えがあるという描かれ方をしているところが、僕は好きですね。あと、平殿器も圧倒的な存在感があると思います。原作でもまだ何を考えているか明かされてないし、気になる登場人物の1人ですね。
──今、それぞれの登場人物が持つ魅力についてお話しいただきましたが、「日本三國」という作品全体の面白さはどのようなところにあると思われますか?
橋本 「三国志」のような作品を読むとき、最初にぶつかる壁って実は登場人物の名前や地名の読み方が難しいことだと思うんです(笑)。「日本三國」には自分になじみのある場所がたくさん登場するので、導入部分からすんなりと作品の世界に入っていくことができました。近未来の日本を舞台にしたフィクションではありますが、もしかすると今後このような世界になってしまう可能性もある。そういったリアルさを感じる描写も、この作品に引き込まれたポイントの1つじゃないかなと思います。
平野 僕は、現在の日本にも通じるような風刺が入っているところが「日本三國」の一番の魅力だと感じていて、本作は大衆が政治に興味を持つきっかけになり得る素晴らしい読み物だと思うんです。今回舞台化するにあたって、せっかく生身の人間が演じるのだから、“民”の叫びが聞こえてくるような表現ができると良いなって。そのためにまずは、作り手である自分たちが明確な指針を持って作品に取り組む必要があるんじゃないかと改めて思いました。
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