もう一度観たいあの舞台 Vol.3 [バックナンバー]
杉原邦生・北尾亘が10年を振り返る
もう観られなくて良い、観られないから良い。ダンスと呼ぶには忍びない唯一無二のスペクタクル
2025年10月29日 17:00 2
ステージナタリーは2026年2月に10周年を迎えます。あなたはこの10年、どんな舞台に出会い、どんな舞台に心揺さぶられてきましたか?
このコラムでは、さまざまな舞台で活躍中のアーティスト10人に、舞台ファンとしての“10年の観劇ライフ”を振り返ってもらい、「もう一度観たい」と思う、心と記憶に刻まれた舞台作品を教えてもらいました。
アーティストたちの“客席からの視点”を糸口に、ぜひあなたの10年の観劇ライフも振り返ってみてください。
杉原邦生
僕が最も影響を受けた演出家の一人である蜷川幸雄さんの舞台が観られなくなって、もう随分と時間が経ってしまったけれど、(きっと)もう観られないからこそ、もう一度観たいと思う舞台のひとつが「海辺のカフカ」だ。2012年の初演後、2014年再演、2015年世界ツアーと上演を重ね、蜷川さんの死後、「ジャポニスム2018」の一環として2019年2月にフランス・パリで上演された後、同年5・6月に東京で凱旋公演が行われた。その上演が特に印象に残っているのは、そこに〈演出家の不在〉を感じなかったことへの衝撃が大きい。〈演出〉という仕事は具体的に目撃したものや体感したものの印象が残りやすいけれど、実は、作品を満たし、上演中に流れているもの、あえて言葉にするならば〈空気〉のようなものにこそ、演出家の作家性が現れるのではないかと思っている。だからこそ、演出家の鼓動と息吹が消え、遺された作品やその上演から僕たちは、否が応でも演出家の〈不在〉を感じ取ってしまうのだと思う。では、なぜ蜷川さん亡き後に上演されたあの「海辺のカフカ」では〈不在〉を感じなかったのか。なぜ、2012年の初演と変わらぬ(もちろんいろいろと変わってはいるのだけど)鮮烈な印象を得られたのか。そのわけを探りたい、という想いが強いのかもしれない。
と、書いてはみたものの、同時に、とても好きな作品だけれど、「もう観られなくて良い。観られないから良い。」と思っている自分もいる。それが舞台の良いところだから。
北尾亘
NODA・MAP「フェイクスピア」!と即答したい所ですが(WOWOW放映も拝見したので)、MADE in JAPANのダンス公演を挙げさせて頂きます。
イデビアン・クルー「バウンス」(2025年2月)感服いたしました。
予測不能で圧倒的な群舞の美しさとクールさ、思わず吹き出すコミカルなシーンと裏切りのシニカルな瞬間がマリアージュ。かつて自身がクルーと衝撃的に出会った「排気口」(2008年初演)の興奮が呼び覚まされました。
(あの日、「コンテンポラリーの世界に可能性はある!」と1人決意を固めた自身に伝えたい、、「13年後もイデビアン・クルーの作品に衝撃を受け、その感動はBaobabメンバーと共有し合えている」と)
タイトルから想起する身体の弾みはもとより、井手茂太さんの創造世界は舞台の境界線を鮮やかに跳び越え観客の心と感覚を“共振”させる。一見バラバラ(和装や昭和レトロなど)に見える時代を超えた“祝祭の装い”で、斉藤美音子さん・宮下今日子さんをはじめイデビアン作品には欠かせぬクルーと異色キャストが交わり合い、個性が溶け合いながら展開する群舞は健在!
世田谷パブリックシアターは時に笑いや驚きの感嘆詞、カンパニー30周年を自ら祝した“祝い花”演出には拍手まで巻き起こる! 私の心も躍りバウンスし続けました。
ダンスと呼ぶには忍びない唯一無二のスペクタクル。もう一度“体感”したいです。(そして、こんな舞台が創りたい!)
この10年はBaobabとしても多くの作品と共に飛躍させてもらいましたが、まだまだ創作欲求は“弾み”続けています。
北尾亘(Baobab)
KUNIO @KUNIO_info
【✨コラム掲載✨】
#ステージナタリー 10周年のコラム企画「もう一度観たいあの舞台」vol.3 にて、#杉原邦生 が寄稿させていただきました。杉原が選んだ作品とは……?
杉原との親交も深い、演出・振付家 #北尾亘 さんのコラムとあわせて、ぜひチェックしてみてください! https://t.co/BKo8htoCIu