音楽座ミュージカルの2025→2026を相川タロー×森彩香×小林啓也が語る

オリジナルミュージカルの創作を続ける音楽座ミュージカルが、新たな挑戦を続けている。1987年に旗揚げした音楽座は、解散や再結成などを経て、再来年2027年に創立40周年迎える。前代表・相川レイ子の遺志を継ぎ、相川タローが新代表に就任して10年。2025年は人気作「リトルプリンス」イヤー、2026年は代表作の1つ「マドモアゼル・モーツァルト」&新作の上演と、音楽座のチャレンジは続く。

ステージナタリーでは、演出家の相川と、入団9年目の森彩香、15年目の小林啓也にインタビュー。3人は音楽座の現在とこれからについて、和気あいあいと語ってくれた。

取材 / いまいこういち文 / 熊井玲撮影 / 藤記美帆

代表・相川タローは“同じフィールドにいてくれる人”

──以前から音楽座ミュージカルの作品を拝見していますが、春の「リトルプリンス」を観て、カリスマ性のある先代が亡くなったあと、劇団としての総合力がすごく上がったのではないかなと感じました。皆さんはそのような実感はありますか?

相川タロー 総合力が上がったなということは、確かに感じています。うちは大きな資本が入ってるわけでもなく、完全に自主独立というか、作品の表、裏、販促まで自分たちで全部をやる劇団なので、チケット1枚の重みをみんなが共有しています。もしもっと分業制で……たとえば制作の人は制作、役者は役者という形でバラバラのことをしていたら、今のような音楽座ミュージカルは存在していなかったと思います。

相川タロー

相川タロー

──お二人にとってタローさんはどのような存在ですか?

森彩香 代表は、代表としてだけでなく1人の人間として、こんなにも弱みを見せてくれる人はいないだろうなというくらい(笑)、自分ができないこと、叶えられないこと、自分ではどうしようもできない部分などを自分から開示してくれるんです。一方で、代表のそういう姿を見ると、自分が今考えている課題や悩みがいかに一般的で小さなものかを見直すことにもなり、そういう意味で、代表は私たちと同じフィールドにいてくれる存在です。また、これまでは音楽座という器に乗っかって、それをいかに継続していくかにがんばっていたんですけれども、今の代表になってからは器という感覚はなくなって、私たちが音楽座に感じている好きとか憧れが気持ちのよりどころというか。私たちが「これが音楽座だ」と信じていることだけが音楽座を形作っているのだと感じるようになりました。その意味ではすごく危ういところもあるし、スリル感みたいなものも感じています。

小林啓也 代表はすごくフレンドリーに接してくださるんですけれども、一方でものすごく頑固というか、譲れない部分、「こうありたい」という強さみたいなものはあると思います。僕は先代のオーナーとも一緒に作品を作ってきましたが、タローさんは先代とはまた違う強さがあって、ものを作っているときにタローさんから湧き出てくるエネルギーは闇が深いというか(笑)。背後からグッと魂を握られるような感じがして、ひやっとしますし、それを感じたときに「もっと本気を出さないといけない!」と思うんですよね。同時に“等身大である”ことを認めてくださるので、“もっと良くなりたい、上手くなりたい、こうなりたい!”という思いをみんながどんどん出していけるのはいいなと思います。若いメンバーも含めてメンバーがちょっとずつ変化してきて、それが積み重なってきた今の音楽座は、すごくいい時なんじゃないかなと思います。

左から森彩香、相川タロー、小林啓也。

左から森彩香、相川タロー、小林啓也。

──今お話にあった、作品作りにおけるタローさんの頑固さは、どんなところに感じますか?

小林 クリエーションではまず、タローさんから僕たちに、さまざまな投げかけがあるんです。それをきっかけに、僕たちも「自分にとってこの作品はなんだろう?」と考え始めていくのですが、それはタローさん自身の実感なんじゃないかなと。既存の作品であれ新作であれ、タローさんは「自分自身のものにならないとイマジネーションが湧かない、クリエイティブなものが生まれない」とよくおっしゃるんですが、そこはタローさんのこだわりかなと思います。

相川 僕はもともとゲームデザイナーと言われる仕事をやってきたのですが、ゲームの世界ってある意味、全員参加なんですよ。特に当時僕がいた部署は、会社の不良在庫をリビルドする、無理難題を商品化する部署にいまして(笑)。あの頃は、みんなでアイデアを出しまくって全員で何かを作っていくというのが当たり前でした。それは音楽座でも同じなので、“意見を出し合う”ことにはなじみがあるというか、心地よい感覚がありますね。また、みんなも作品を自分のものとして捉え、「私だったらどう考えるか」という視点で意見をくれるので、それを作品に落とし込んだりします。僕にとってはすごくいい流れができているなと感じますし、結果的にカンパニーメンバー一人ひとりが「私の作品」という自負心にもつながっているのではないでしょうか。みんなはどう思っているのかわかりませんが(笑)。

──タローさんの主な役割は、脚本と演出の部分でしょうか?

相川 そうです。音楽座では創立以来、ワームホールプロジェクトという名のもと、作品に関わるスタッフ、キャスト全員が当事者となって意見し合う創作演出システムをとっていますが、狭義でのワームホールプロジェクトは、僕を中心に4、5人くらい。そこでまずたたき台を作ります。10稿ぐらいたたいたら、もう少し広義でのワームホールプロジェクト、つまりカンパニーメンバーを交えて、ああだこうだと意見を聞きます。その段階では演出、音楽、振付などいろいろな要素がリンクしてきますので、それぞれにイメージを伝えながら作品を作っていくというような流れになるんですが、その中心は僕です。

2025年、新たな息が吹き込まれた「リトルプリンス」

──2025年は「リトルプリンス」イヤーとして、全国各地での劇場公演、文化庁主催の小中学校での巡回公演、関連イベントなどが1年を通して行われました(参照:音楽座ミュージカル「リトルプリンス」と新しい自分を探しに行こう、王子役の森彩香・山西菜音が語る思い)。「リトルプリンス」はサン=テグジュペリの小説「星の王子さま」を原作に1993年に初演された人気作ですが、「リトルプリンス」に取り組み続けた1年、皆さんにとってはどんな時間でしたか?

相川 「リトルプリンス」イヤーという形でやってみようと思ったのは、実は現実的な側面が大きいです。何しろこのような形で制作しているので、1つの作品を立ち上げるのに非常に時間がかかってしまうんですが、2026年に新作を予定していることもあり、2025年をどうするか考える中で、広報チームから「『リトルプリンス』イヤーという形でやってみるのはどうか」という意見が出てきたんです。

また、2025年は、音楽座ドリームシアターも始めました。音楽座ドリームシアターは、音楽座ミュージカルの作品を用いた演劇活動を通して、地域や学校・企業の活性化や人材育成に寄与するプログラムで、これは僕が代表になったときからずっと構想を持っていたものです。若い子たちにもっとミュージカルという文化を広めたい、ついでに音楽座ミュージカルも知ってもらいたいという思いからスタートしたこのプログラムは、ありがたいことに今年3月、愛知県の幸田町さんで実施することができました。自分にとってさらに良かったのは、幸田町で子供たちと触れたことが、本公演の「リトルプリンス」の脚本作りに役に立ったことです。

「リトルプリンス」より。

「リトルプリンス」より。

──森さん、小林さんも長く「リトルプリンス」に携わってこられました。「リトルプリンス」イヤーを通して、何か感じたことはありますか?

 代表が今申しましたように、幸田町で代表自身が子供たちと触れ合ったことをきっかけに、5月から7月に行われた春の「リトルプリンス」公演では、王子の言葉遣いや飛行士の呼び方が変わりました。本当にその辺にいる男の子というニュアンスが加わって、たとえば初対面の大人にも「お前」って言っちゃうような口調になったのですが、それによって「星の王子さま」という原作に対して私が抱いていた印象や、「リトルプリンス」に感じていたイメージが変わり、その違いをどうしたら自分が面白いと感じて挑めるのか、しっくりくるまでに実はかなり時間を要しました。というのも、音楽座に入団して初めて王子を演じたとき、代表から「森はダメだね」と言われ、「自分は舞台に立てないんだ」と思ったところから私の「リトルプリンス」は始まっていて、私が音楽座で大事にしたいこと、人生の中で忘れていた大切なことが「リトルプリンス」には詰まっていました。だから、それまでの自分が大切にしてきた作品に対する思い、憧れてきた「リトルプリンス」の世界観と訣別をすることは、自分にとってとても大きな出来事だったんです。でもその後、“お別れ”はこれまで出会ったことがないものに出会うためのものなんだ、ということを、やはり作品を通して感じました。

森彩香

森彩香

小林 僕は、この“クソガキの王子”が大好きなんですよね(笑)。

一同 あははは!

小林 ファンタジーにいる子供じゃなく、本当にそこにいる子供が飛行士に声をかけている感じが今の台本にはあるから、そこが大好きです。僕は今回キツネをやったんですけど、このクソガキ王子と一緒にやれるのはものすごいうれしいなと、ワクワクから始まりました。ちなみに僕も「リトルプリンス」は9割9分失敗ばかり経験した作品で(笑)、いろいろな役をやらせてもらいましたけど、うまくいかずに役を降ろされたりもしたし、苦い思い出がたくさんあります。でもだからこそ一番思い入れも深くて、大事というか離れられない作品で、ある種のイメージがこびりついていた作品でもあったんです。それが、今年の春の公演ですごく景色が変わって、王子の在り方が変わったことの影響は大きかったなと思いますね。王子が変わったことで、キツネも変わりましたから。また作品に対する思いという点でも変化があって、それまでは自分の役をやり切ることに注力していたところがあるんですが、バトンをつなぐ気持ちが強くなったというか。自分が出演するパートだけじゃなく、自分が出ていないシーンや全体で踊るシーンもすべてがうまくいくようにと意識するようになり、その中で自分もうまく入って次につなげられたら、と思うように変わったんです。たとえば王子とキツネのやり取りが終わって、飛行士が出てきたときに王子が思いを吐露するシーンがありますけれど、王子に思いをちゃんと吐露してもらうためには、その前のキツネとのシーンがちゃんとできていなければあのシーンは成立しないんだと意識して臨むようになりました。すごく好きな作品だから、今までは「こうだ」というイメージを強く持っていた部分もあるのですが、そうではないこともすごく感じて……今、やっていてすごく楽しいんですよね。

「リトルプリンス」より。

「リトルプリンス」より。

──「リトルプリンス」に新たなバージョンが生まれたわけですね。

相川 ありがたいことにうちはオリジナルミュージカルですから、同じ作品でもテーマや演出が違うさまざまなバージョンが生まれ得るんです。たとえば「シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ」にもいろいろなバージョンがありますが、今は初演を復活させたバージョンでやってます。という意味で言えば、今後「今回は“クソガキ王子”バージョンの『リトルプリンス』でいきます!」という打ち出し方ができるので(笑)、そこは相当な強みだなと思います。

──「リトルプリンス」はWキャストでの上演でした。俳優のお二人にとって、Wキャストは実際、どうなんでしょう?

小林 僕のWキャストの相手は入団4年目の泉陸だったんですけれども、経験で言えば僕のほうが長く、最初はある意味、僕が引っ張っていかなきゃいけない部分があったんです。でも稽古が進む中で僕にはない……僕にはもう出せない(笑)無鉄砲さみたいなものが、彼にはあるなと如実に感じたんですね。と同時に、「あ、俺は小手先の、テクニックっぽくやってしまっているな」と自分に感じるところもあって、彼にアドバイスをしながら、彼のいい部分をこっそり盗む(笑)という感じでした。もちろん、こっそりだけじゃなく、良かったところは稽古でも本番でも演出チームに共有しましたし、彼にも伝えましたが、お互いに作品について話をしながら一緒に意欲を高めていきました。

小林啓也

小林啓也

小林 また個人的には、前回キツネを演じた際にある意味頭打ちな感じもあったのですが、小中学生を前に演じたり、Wキャストだったりしたことで、自分が持っているものと新たな発見とを掛け合わせながら毎公演演じさせてもらえました。この前、泉に「啓也さんは何でも出来るのに、まだ発見があるんですね!」って言われたんですけど、「何を言ってるんだ!」と(笑)。なので、泉とは良き仲間、良きライバルとして接しています。

 Wキャストはですね……つらいですよ。

一同 あははは!

 先ほどもお話しした通り、私の今回の挑戦はこれまで積み上げたものを一度ゼロに戻す・壊すという、かなり重量級の課題だったんですけれど、Wキャストの山西菜音はあまりにも無鉄砲というか、爆弾みたいな女優で(笑)。普通だったらこうしないな、というようなことを、舞台上でも日常でもやってしまう素晴らしさがあり、私が当たり前に感じているようなことを、いい意味でけっこうぶち壊してくれたんです(笑)。また役のうえでも、私が選んでこなかったことを彼女がやっていて、(自分には)“いよいよ手がなくなってきたな……”と思って作品に飛び込んだ感じがあり、それはありがたいことだと思っています。