2025年にスタートした、中村橋之助がリーダー的存在として公演を引っ張る「新春浅草歌舞伎」が2年目を迎える。「新春浅草歌舞伎」は、次代を担う花形が顔を出演する初春興行。2026年は橋之助のほか、市川男寅、中村莟玉、市川染五郎、尾上左近、中村鶴松らが顔をそろえる。11月に浅草寺で行われた成功祈願では、「新春浅草歌舞伎」にちなんだあさかぶポーズで笑顔を見せるなど、公演への気合十分だ。
ステージナタリーでは6人の座談会を実施。さらに後半では、第1部で「『梶原平三誉石切』鶴ヶ岡八幡社頭の場」と「相生獅子」「藤娘」、第2部で「『傾城反魂香』土佐将監閑居の場」、舞踊「男女道成寺」を披露する彼らに役への思いを聞いたほか、2025年の振り返りと2026年の抱負をそれぞれ聞いた。
取材・文 / 川添史子撮影 / 平岩享
笑いが止まらない!6人が和気あいあいと“他己紹介”
──ここではまず、数珠つなぎの他己紹介、皆様の素顔やステキなところをご紹介いただければと思っております。まずは橋之助さん、今年浅草初参加の男寅さんについて教えてください。
中村橋之助 男寅さんは旅行がお好きで、世界遺産検定1級保持者なんですよ。そんな資格をお持ちの方は歌舞伎界にお一人ですから、どんどんこの道を極めていただきたいです。
市川男寅 国内旅行は一人でパッと行っちゃいますが、友人と東南アジアあたりを巡るのが好きなんです。
橋之助 僕の中ではアウトドアなイメージがあって、確か川崎フロンターレも好きだったような……。
男寅 はい、一昨年ぐらいから突如ハマりました!
橋之助 ……(しばし考え込む)すみません、こんなSNSで拾った情報ばかりしかなくて(笑)。というのも、実は僕、これまであまり共演させていただく機会がなくて。弟たちとの共演が多く、福之助とすごく仲がいいんですよ。
男寅 確かに宗ちゃん(福之助、本名宗生)、よっちゃん(歌之助、本名宜生)と同座することも多く、お二人と仲良くさせていただいていますから、1月は国ちゃん(橋之助、本名国生)ともグッと距離を縮めたいです(笑)。でも実は僕たちは同じ1995年生まれで、誕生日も1日違いなんです。
橋之助 僕はいつも「おめでとう」ってLINEするのに、男寅くんはくれない(笑)。
男寅 時々忘れちゃう……今年は絶対に送ります(笑)。僕が12月27日生まれで、橋之助さんは26日。一人っ子の僕から見ると「この1日の違いに何があったんだろう?」と思うほど、国ちゃんはしっかり者の長男タイプ。頼り甲斐のあるお兄さんです。
──同じ歳なんですね! それは浅草のひと月で交流が深まるでしょう。では次、男寅さんから莟玉さんをご紹介ください。
男寅 まる(莟玉の前名梅丸から取った愛称)は見た目からしてカワイイ印象を皆さんお持ちだと思いますけど、すごく芯がしっかりしているんですよ。
中村莟玉 外面はいいでしょ?って自分で言っちゃうんです(笑)。
男寅 いや、やっぱり頼り甲斐がありますよ。国ちゃんを支えながらメンバーとの中継役をしっかりしてくれて、とても助かっています。あとは……(皆が口々に「ビジネスパンダ」と囁く声)そうだった、ビジネスパンダ!
莟玉 ちょっと、人聞きの悪い(笑)。決してビジネスではありません。心からパンダが好きなんです!
──莟玉さんのパンダ好きは有名ですものね(笑)。莟玉さんと染五郎さんはご共演も多いです。
莟玉 本当にいろいろな舞台でご一緒しています。染五郎さんが初めて歌舞伎座で初主演をなさった「信康」(2022年)では、正室である徳姫も演じさせていただきましたし、折に触れ、お互いにチャレンジングな舞台で共演させていただけるのはとってもうれしいこと。コロナ禍の2020年11月に歌舞伎座で「義経千本桜」四の切を演らせていただいた際も、染五郎さんの義経で静御前を勤めました。三谷幸喜さんの「歌舞伎絶対続魂(ショウ・マスト・ゴー・オン)幕を閉めるな」の劇中劇でも義経様と静で再会したばかりですし(笑)。年下でいらっしゃいますが頼もしい、「主役をやるために生まれてきた方」です。
──ご共演の思い出もお話しくださって、さすがしっかり者の莟玉さん。では染五郎さんから左近さんをご紹介ください。
市川染五郎 彼のことは、いつも本名の「大河」と呼ばせていただいているのですが、先ほどの写真撮影にもう、大河の魅力が全部詰まっていましたよね……(我慢できず思い出し笑い)。
──撮影では左近さんがゲラ(笑い上戸)で笑いが止まらず、最終的には皆さんに伝染して大爆笑になりました。
染五郎 “ゲラな大河”が僕の笑いのツボなんです。彼が笑い始めると、ついこちらの笑いも止まらなくなってしまって。舞台では、昨年は「吉野川」でご共演させていただきました。川を隔てていたのでお芝居で絡むことはなかったのですが、一緒の作品に出る機会自体がうれしくて。女方も立役も両方おできになって、とても尊敬しています。個人的には、溌剌と荒事をなさっている大河も大好きです。
──前回の「新春浅草歌舞伎」のお年玉挨拶では、皆さんが左近さんの面白エピソードを日替わりでご披露されていたのも楽しく、今回も期待しております。左近さんから鶴松さんの印象はいかがでしょう?
尾上左近 皆さんご存知の通り、鶴松さんと言えばサウナですよね。中村屋さんは皆さんがサウナ好きでいらっしゃるから(真顔でジッと鶴松を見つめる)。
中村鶴松 ……(僕の紹介)終わった。
一同 (笑)。
──いや、絶対にほかにもあるはずです……よね、左近さん!
左近 はい……サウナが好きな優しい先輩です。
橋之助 また終わった(笑)。
莟玉 多分、サウナが好きで優しい先輩は、歌舞伎界じゃなくても、世の中にいっぱいいると思うよ?(笑)
左近 ……あとは、情熱的なお姿も勉強になりますし、またご一緒させていただけることをうれしく思っています。舞台では誰よりも汗をかいていらっしゃるんです。
鶴松 うん、サウナ行ってるからね。
一同 (大爆笑)。
左近 えっと、あとは、女方と立役を50%・50%ではなく、100%・100%でなさってこそ初めて「兼ねている」と言えると思うのですが、そのことを実現されていることもすごくて尊敬しています。後輩の僕が申し上げるのも失礼なのですが、舞台に品があって、踊りもステキで、中村屋さんのパッションをしっかりお持ちの方です!
一同 (大拍手)。
──素晴らしいご紹介、ありがとうございます! では鶴松さんから橋之助さん、お願いします。
鶴松 国ちゃんは僕にとって公私共にファミリー。この中で一番共演しているのも国ちゃんですし、プライベートで飲みに行ったり、遊びに行くのも圧倒的に一番多く、彼のことはなんでも知っています。小さい頃から怒られるのも一緒で、僕が怒られていると国ちゃんが気配を消して、国ちゃんが怒られると僕が気配を消すのがお約束(笑)。今回演らせていただける「傾城反魂香(吃又)」は子供の頃から2人で憧れていたお芝居で、12月に京都で(中村)勘九郎の兄と七之助の兄に教えていただく予定です。2人ともガラスのハートの持ち主なので、大好きな演目をもっと大好きにするため、そして大嫌いな演目にしないように(笑)、一緒に切磋琢磨して頑張ります!
──皆様の和気あいあいとした雰囲気が伝わるやりとり、ありがとうございました。最後にリーダー的存在の橋之助さんから、お客さまへのメッセージをお願いいたします。
橋之助 歌舞伎への愛、「新春浅草歌舞伎」への愛をしっかりお客様にお届けするべく、懸命に稽古に励みますので、このメンバーの今をぜひ、劇場で感じてください。昼夜別立ての狂言となっておりますので、第1部、第2部ともご観劇いただき、お帰りの際は劇場の近くで美味しいものを召し上がっていただいて、新春は浅草の街ごとお楽しみいただけたらうれしく思っております!
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2026年最初の公演だからこそ…6人が意気込みを語る





