ヨーロッパ企画「インターネ島エクスプローラー」クセ強すぎな冒険家たちが“ナビなき未踏”へ!

ヨーロッパ企画、冒険に出る! 上田誠率いるヨーロッパ企画が、新作「インターネ島エクスプローラー」で未知なる島を舞台にした冒険譚を繰り広げる。クセの強い冒険家たちを演じるのは、昨年末に“シン劇団員”となった金丸慎太郎をはじめとするヨーロッパ企画の面々、そして劇団本公演に初参加となる呉城久美と金子大地。

ステージナタリーでは、呉城、金子、金丸、そしてヨーロッパ企画旗揚げメンバーでもある諏訪雅、外部でも活躍が続く藤谷理子、脚本・演出を手がける上田にインタビュー。エチュードから立ち上げていく稽古の様子や、それぞれの“冒険エピソード”などを教えてもらった。

取材・文 / 熊井玲撮影 / 塩崎智裕

初参加から11年、金丸慎太郎が劇団員に!

──「インターネ島エクスプローラー」は金丸さんがヨーロッパ企画入団後初の公演で初座長を務めます。ヨーロッパ企画の作品に多数出演されている金丸さんですが、劇団にとってこれまでどんな存在でしたか?

上田誠 2014年に「ビルのゲーツ」という作品をやった際、初めて金丸さんにお声がけしたんですが、金丸さんはそのとき、別のお芝居で公演地から公演地へ移動する際の旅費を使ってしまって、「ヒッチハイクで次の公演地まで行った」という話をしていて、「うわあ、すごくイヤなこと聞いちゃったなあ」と思って。

一同 あははは!

左から上田誠、金丸慎太郎、呉城久美、金子大地、藤谷理子、諏訪雅。

左から上田誠、金丸慎太郎、呉城久美、金子大地、藤谷理子、諏訪雅。

上田 でもそんな金丸さんの人柄が芝居の印象以上に残っていて、1年後にまたついつい呼んでしまい(笑)、そこからほぼ毎年、出続けてもらっていました。ただ2021年に藤谷さんが入団するまで17年、ヨーロッパ企画には新劇団員が入団することもなかったですし、金丸さん自身も世界一周の旅に出てしまったりと、縛られるのがイヤそうだったので(笑)、劇団員になるかならないかという話をすることもないまま“ずっとヨーロッパ企画に出入りしていた人”というのが、この10年の金丸さんの印象です。

諏訪雅 金丸さんは“めっちゃ慕ってくれている後輩”って感じで、ヨーロッパ企画のことを以前から大好きだと言ってくれていました。勢いがあって、でもそれだけじゃなく賢いし、だから僕らも「これ、どうしようかな」って思ったときに金丸さんに相談することが多かったんですが、「だったらもう、劇団員になってくれたほうがいいな」と思っていたところ、なってくれました(笑)。

藤谷理子 私がヨーロッパ企画の本公演に出演する以前から金丸さんは出演されていて、私はずっと「金丸先輩」って呼んで、慕っています。

──ということですが、金丸さんは昨年末にヨーロッパ企画に入団して、心境の変化はありましたか?

金丸慎太郎 自分でも驚くほど心境の変化がありまして、交際関係から“結婚”したような気持ちというか(笑)。28年という歴史がある劇団に入らせてもらい、「もうここに骨を埋めるんだ」という気持ちで、ヨーロッパ企画という集団が消滅するまでは、個人としても劇団員としても、あの手この手でいろんなことを仕掛け続けていきたい、自分たちが楽しく旅を続けられるようにしていきたい、観ていただくお客さんにも昨年より今年、今年よりも来年と楽しんでもらえるようにしたいなと思っています。

そういう意識は、客演で参加しているときには全くなくて(笑)、このめっちゃおもろくてかっちょいい先輩たちにあそんでもらう楽しさだけを享受していたんですけど、これからは一緒に看板を背負う苦労を分け合い、「劇団がこれで行けるかどうか」というようなこともみんなと感じていきたいと思っています。

金丸慎太郎

金丸慎太郎

上田 金丸さん、京都に引越してきたんですよね。

金丸 あ、そうなんです。18歳から東京に暮らしていたのですが、今年から京都に住んでいます!

──本作はさまざまな冒険家たちが登場する冒険劇ですが、金丸さんが世界一周旅行されたこともきっかけの1つになっているそうですね。

上田 はい、最近ヨーロッパ企画では、公演ごとに劇団メンバー1人を“座長”として立てることをやってみているのですが、座長によって座組のカラーが変わるので、僕的にこのスタイルがすごくいいんです。今回は金丸さんの入団公演だから、金丸祭のような感じにしてみたいなと考えていったんですけれど、金丸さんはエチュード(編集注:台本なしに即興でシーンを作っていくやり方)が好きだから、ガチガチに詰め込んでいく台本よりエチュードで作っていく公演にしたいなと思い、さらに世界旅行の話を聞いて、以前からやってみたいと思っていた旅行や冒険の話はどうだろうと思い、金丸さん主演の冒険劇にしようと考えました。

ヨーロッパ企画のメンバーは“エチュード慣れ”がすごい

──呉城さんと金子さんは、ヨーロッパ企画本公演に初参加となります。オファーをどのような気持ちで受け止められましたか?

呉城久美 ヨーロッパ企画がエチュードで作品を立ち上げていくというお話はずっと以前から聞いていたので、「飛び込もう!」というつもりで参加したのですが、やっぱりすごく難しいです(笑)。ある意味、初心に返るというか「やるしかない!」と思って、背中を押していただいているような感覚で今、稽古しています。よく「自由にやってください」と言われることがあり「自由ってなんやろ」って思うんですけど、皆さんのエチュードの様子を見ながら「ああ、これが自由に動くってことなのかな」と感じています。

呉城久美

呉城久美

金子大地 この仕事をやらせてもらうようになったときから、同年代の友達の間でも「ヨーロッパ企画は面白い」と話題でしたし、自分もずっとカッコいい劇団だと感じていました。今回、上田さんが脚本を書かれたテレビドラマに出演したご縁で、本公演にも参加できることになって本当にうれしいですし、エチュード稽古も初めてで、台本がないからこそ毎日何が起こるかわからないワクワクがあり、日々のびのびやらせてもらっています。稽古には、本当に無防備で臨んでいるのですが、皆さんの“エチュード慣れ”がすごくて(笑)、毎回勉強させてもらっています。

──お稽古の中で、特に印象的だったことはありますか?

呉城 誰かが球を上げたら、絶対に落とさないぞ!っていう感じで、みんなで助けに行く感じがあらゆるところで起きていて、それがカッコいいなと思います。仲間で作ってるっていうか、守ってる感じがするんです。

金子 設定以外は本当に何もないところから始めるので、自分の中でもみんなの中でもその場でシーンを作っていかなきゃいけないんです。だから僕は「なんかしなきゃいけない!」って焦ってしまうんだけど、ヨーロッパ企画の方々はそのまま何もせずその場にいるんです。まるで普通に会話しているだけのような“堂々としている面白さ”があって(笑)、それがすごすぎるなと驚きました。

諏訪 そのエチュードなんですけど……「あれはエチュードじゃないかも」って最近思っていて。今回、金丸さん1人のシーンがあるんですけど、稽古場で、アクティングエリアの真ん中に金丸さんが立って、上田くんが言った通りに金丸さんが言っていて……。

上田 僕が口立てでセリフを伝えるんです。

諏訪 それはそれでめちゃくちゃ面白いんですけど、「でもこれって本来のエチュードじゃないかもしれないな……」と(笑)。ただ、そういうやり方だからこそ、僕らがあまり構えず、なんか方向性が違ったら上田くんが修正してくれるだろうと思って、リラックスしてその場にいられるというところがあるかもしれませんが。

金丸 とはいえ、1人のシーンは初体験だったので、震えたし、異常量の手汗が出ました!(笑)

一同 あははは!

上田 エチュードから書く方法ってかつては緊急手段で、僕が台本を書けなかったときにメンバーにエチュードをやってもらって作っていたのですが、最近はそういうことはなくなり、劇団公演以外では特に、あらかじめ全部戯曲を書いてから稽古をスタートさせることが多いんです。ただ時間があるならエチュードから始められたらいいなという思いはあって、要は“体験しながら劇を身体に入れていく”のがいいと思っているんです。たとえば戯曲をみんなに配って、家でそれぞれ読んできてもらうと、家ではくすくす笑いながら読んでくれていたとしても、稽古場ではもう知ってるので笑いが起きなくて、それでなんとなく面白さを共有しそびれる、ということがあるんです。これがエチュードだと、稽古場でシーンを生成するので、その場で非常にウケて、セリフの“爆発の瞬間”をみんなで体験することができる。この体験する、ということが大切で、エチュードを通して「ここは面白いシーンなんだ」という感覚の共有をしながら劇を身体に入れていくのがいいなと思っています。

諏訪 なるほど! その話はめっちゃしっくりきますね。シーンとあらすじとキャラクターが決まっていてもエチュード稽古をする意味はなんだろうって思ってたんだけど……。

諏訪雅

諏訪雅

上田 確かにあまりこの話はしていないかもしれないですね。だから僕、「このシーンは稽古場でウケさせないと!」って思うことは時々あります(笑)。稽古場でウケないと、「このシーンは面白くないんだ」とみんなにインプットされてしまうし、そうなると本番にも影響が出てしまうので。もちろん稽古場でめっちゃ面白かったのに本番でウケないことはありますが、稽古場でみんなで笑いながら作ったものはある種の共同体験になるし、コメディでは特にその体験のおかげで先に進める、ということがあると思っています。

──ちなみにヨーロッパ企画の皆さんは、現在の稽古の様子をどう感じていますか?

上田 金丸さんと金子さんの2人のシーンがあるんですけど、めっちゃ面白いです。普段、「このシーンは持たへんな」と思ったらいろいろ配置換えや調整をすることもあるんですけど、2人のシーンは本当に面白くて、このまま二人芝居でもいけてしまうのではないかと思うくらいのパワーがあります。

諏訪 最初に2人のシーンのエチュードをやったとき、僕、金子さんのところまで行って「面白かったです!」って伝えました。

金子 あれ、めっちゃうれしかったです!(笑)

諏訪 これはちゃんと伝えなきゃ、と思って。

上田 呉城さんは途中で登場して、みんなの注目がグッと集まる役なんですが、先日の稽古で割と思い切った提案をしてくれたんです。「確かにこのタイミングで登場するんだったらそういうアプローチもいいかもな」と思って、大きな手がかりをいただきました。

呉城 それしかなかった、とも言えるのですが(笑)。

上田 呉城さんはイエティ(編集注:ヨーロッパ企画の大歳倫弘によるプロデュースユニット)に何度か出演されていて、これまでもけっこうヨーロッパ企画を観てきてくれているんじゃないかというこちらの信頼もあり、また爆発力を持った方だということは以前から知っているので、稽古ではいくつかのパターンを試してもらっています。

──藤谷さんは、劇団員になって5回目の公演ですが、ヨーロッパ企画の稽古の進め方にはもう慣れましたか?

藤谷 そうですね、やっと慣れてきて、ようやくエチュードが楽しいなと感じるようになってきました。

上田 入団したばかりのころはこちらも気を遣ってモノローグを多めにしていたりしたんですが、今回はがっつりとエチュードに参加してもらっています。