もう一度観たいあの舞台 Vol.2 [バックナンバー]
宮崎吐夢・宮澤エマが10年を振り返る
「ここ何年か観たひとり芝居のなかでもベスト級。とんでもない傑作!」、二度と観られない“瞬間”
2025年10月28日 17:00 4
ステージナタリーは2026年2月に10周年を迎えます。あなたはこの10年、どんな舞台に出会い、どんな舞台に心揺さぶられてきましたか?
このコラムでは、さまざまな舞台で活躍中のアーティスト10人に、舞台ファンとしての“10年の観劇ライフ”を振り返ってもらい、「もう一度観たい」と思う、心と記憶に刻まれた舞台作品を教えてもらいました。
アーティストたちの“客席からの視点”を糸口に、ぜひあなたの10年の観劇ライフも振り返ってみてください。
宮崎吐夢
ひとり芝居フェスティバル2015(千歳船橋APOCシアター)で、吹上かずき「起床・決」という作品を観ました。
「♪新しい朝が来た 希望の朝だ」というラジオ体操の歌が流れて布団から元気よく起き上がる若い男。ラジオDJごっこを始める。50代の息子を持つ女性からのお手紙「息子が私によくプレゼントをくれます。それが盗品や犬の死体なんです」に答えたり。そのあと別人格と会話。それにも飽きたのか小説のようなものを書きだす。行き詰って、ゴミ箱を漁ると男の父親からの手紙。読んでいくうちに男が死刑囚でそこが独房のなかということが分かってくる。男は自分の犯した罪を思い出し、激しく苛む。でも夜が明けると男はそれまでの記憶をきれいさっぱり失くしている。「♪新しい朝が来た 希望の朝だ」。男は次の日もまた同じような一日を繰り返す。40分くらいの作品で、作家志望のニートらしき若者の日常を静かに面白おかしく描いた作品かと思って観ていたら、インパクトのある展開とさらに絶望的で余韻のあるエンディング。「この10年で上演された作品の中から、もう一度観たい舞台」というお題をいただき、過去10年分の観劇ノートを読み返してみて、「ここ何年か観たひとり芝居のなかでもベスト級。とんでもない傑作! 整った顔立ちなのにちゃんと変質者に見えてくるのが凄い」と書いてあるけれど、この作品の存在自体まったく忘れていました。日々いろんな舞台を観たり仕事の現場でたくさんの人と会ったりしてても片っ端から忘れていく自分と、この作品の主人公がオーバーラップしたような気分になり、観劇してから10年後にあらためて戦慄を覚えました。
宮澤エマ
今回のテーマに沿って思い返した所、作品全体というよりは、強烈に印象に残っているシーンが思い出されることが多く、ズルかもしれませんがもう一度観たいけれど生では二度と観られない“瞬間”を2作品から紹介させて頂きたいと思います。
一つ目は2017年にシアターオーブで上演されたダイアン・パウルス演出のミュージカル「ファインディング・ネバーランド」来日版からです。病に苦しむシルビアがピーターパンと共にバルコニーから飛び立つシーン、残された彼女のストールが“ピクシーダスト”(ティンカーベルの魔法の粉)のきらめく光の中でふわふわっと浮いて、いつまでも踊り続けるかのような演出が忘れられないです。派手なテクノロジーではなくシンプルかつアナログな演出を通して彼女が亡くなったことを伝え、死してもなお残る彼女の自由な魂の残像が美しくて演劇的でこのシーンはもう一度客席から観てみたいのですが、権利上の問題で上演が難しいのが残念です。
もう一つは2016年にシアタートラムで上演された森新太郎演出の「CRESSIDA クレシダ」です。1630年代のロンドン・グローブ座を舞台にした作品の二幕、ベテラン俳優役の平幹二朗さんが新人少年俳優役の浅利陽介さんに演技指導をするシーン。“少しずつ演技が上手くなっていく”様を表現しなくてはいけない構成は演者としてはチャレンジだなと思うのですが、俳優2人の客席を巻き込む熱量、現実と芝居の境目がぼやけるくらい真実味があるラリーに客席で興奮したのを覚えてます。世代交代というテーマや、演劇は変わりゆく時代と価値観をどう反映するべきかという問いかけ、女性が女性役を演じる事ができなかった時代に少年俳優が演じているのは“何”なのか。「言葉を味わい噛み締めろ、今年初めて食べるりんごの様に」みたいな台詞。この作品のこの瞬間をこのお二人で目撃できて良かったです。
個人的にこの10年を振り返ると素晴らしい作品とのご縁に恵まれていたと思いますし2023年に「ラビット・ホール」という作品で初主演を務めさせて頂いた事はまだまだ女性主役の作品の上演は少ない中で、とても嬉しい出来事でした。この先の10年でも良い作品に巡り合える様にワンシーン、ワンシーン、映像作品でも舞台作品でも大切に演じていきたいです。
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宮崎吐夢さんが紹介していた10年前のひとり芝居、観てみたすぎる!! https://t.co/FzhHAeHosH