本作は、小野不由美によるファンタジー小説「十二国記」(新潮社)の初ミュージカル化作品。シリーズ本編の第1作「月の影 影の海」を原作に、異世界へ連れ去られた少女・中嶋陽子の苦難と成長が描かれる。脚本・歌詞を
物語は、ごく普通の女子高生だった中嶋陽子が、学校に突然迎えに来たケイキという男に、異世界の十二国の一つ・慶国へ連れて行かれるところから始まる。ケイキとすぐにはぐれ、妖魔に追われ、他人に裏切られるという過酷なサバイバルを経て、ヨウコは自分の真の姿に向き合っていき……。
柚香は、裏切りへの恐怖や孤独、生きるための本能をむき出しにしながら、ヨウコの劇的な変化と精神的な成長を鮮やかに演じた。異界に連れて来られた当初、ヨウコは内股で弱々しく立っていたが、異界で生き抜く覚悟を決めてから、迷いのない力強い佇まいへと一変。また流麗な剣捌きと集中力を感じさせる演技で、柚香はヨウコの覚醒を印象付けた。冒険の過程で何段階にもドレスアップしていくヨウコの衣裳の変化も、彼女の変化を示すポイントとして注目だ。
加藤演じる日本の陽子は、柚香演じるヨウコが見えているもう一人の自分として異世界のシーンに登場。時にヨウコの尻を叩いて奮起を促し、時に弱気な少女の部分を見せて、陽子がヨウコに寄り添い続ける思いを、加藤は真っすぐな歌声で表現する。あるシーンでは、ヨウコの叫びに陽子が声を重ねることで、2人の思いが多面的に描かれた。
ヨウコの絶望の淵に現れる半獣・楽俊は、ヨウコと共に旅をして友人となる存在。太田がつぶらな瞳のネズミのパペットを操りながら、ヒョコヒョコと初登場するシーンでは、観客から笑いがこぼれる。太田の穏やかな歌声と、パペットの動きと一心同体となった豊かな表情は、厳しい世界で終始優しい光を放っていた。
そして、舞台上で強い存在感を見せていたのが、製作発表でキャストたちが“モップ”と呼んだ巨大なストリングカーテンだ。照明を反射させつつ、前後の大移動や大回転をし、舞台空間の印象を次々と変える。異界と現実の“境界”や、星空、街並みなどにも変化し、観客の想像力を掻き立てる仕掛けとなっていた。さらに妖魔の動きを巧みに表現するパペットや、大陸風土漂う壮大な音楽の生演奏が作品を盛り上げ、観客を十二国の世界へと深く引き込んだ。
公開ゲネプロ前に行われた囲み取材には、柚香、加藤、そして演出の山田が参加した。山田は本番を目前にして「緊張しています。でも自信はあります」と率直にコメントし、「原作小説を読んだときと同じような感動を、舞台、演劇、ミュージカルのやり方で届けることに注力しました」「小説はヨウコの一人称で書かれているのが重要だと思ったので、このミュージカルもヨウコの視点で進む。お客様もヨウコと一緒に冒険する気持ちになってくれたら」と期待を込めた。また山田は、原作者の小野と折に触れて意見交換をする機会があったと言い、稽古期間終盤の通し稽古映像を観た小野から「原作者が感動しているとぜひとも出演者に伝えてほしい」と喜びの言葉をもらったエピソードを明かした。
柚香は「この3人の中で一番緊張していると思う」と笑顔を見せ、「次々に試練に立ち向かうヨウコの怒涛の旅路を、皆様にも一緒に体験していただき、ヨウコの成長を見届けてもらえたら」と期待を込める。苦戦したところを記者に問われると「(男役トップスターだった)宝塚歌劇団を退団してから初の本格的なミュージカル出演なので、女性役で歌うのが本当に難しくて。今日より明日、明日より明後日ともっともっと良くなるように、そして何度でも観たいと思っていただけるようにがんばっています」と思いを語った。
加藤は「私が今まで関わった作品の中で、一番歌っている時間が長い作品だと思います。一方で、陽子としてしゃべらないシーンも多く、苦戦しながら作り上げました」と明かし、「最初に大きな妖魔と戦うのが、私演じる陽子。そこでは舞台をすべて使いながら“とんでもない歌”を歌います。がんばっているのでぜひ注目して(笑)」とアピールした。また稽古場では、楽俊のパペットが癒しのマスコットになっていたという。加藤は「稽古場に来たら楽俊にあいさつする人が多い」と明かし、柚香は「椅子でくたっとしているんだよね」と座らされたパペットの姿を身体で再現して和ませた。
最後に、柚香は「原作ファンの皆様も、ミュージカルファンの皆様も、すべての方に楽しんでいただける作品になるよう、スタッフ・キャスト一丸となって作り上げました。『十二国記』という素晴らしい作品に携われて光栄です。大切に、大切に演じてまいりますので、応援のほどよろしくお願いします」とメッセージを送った。
上演時間は休憩含む約3時間15分。東京公演は12月29日まで。本作はその後、1月6日から11日まで福岡・博多座、17日から20日まで大阪・梅田芸術劇場 メインホール、28日から2月1日まで愛知・御園座で上演される。
ミュージカル「十二国記 -月の影 影の海-」
開催日程・会場
2025年12月9日(火)〜29日(月)
東京都 日生劇場
2026年1月6日(火)〜11日(日)
福岡県 博多座
2026年1月17日(土)〜20日(火)
大阪府 梅田芸術劇場 メインホール
2026年1月28日(水)〜2月1日(日)
愛知県 御園座
スタッフ
原作:小野不由美「月の影 影の海 十二国記」(新潮文庫)
脚本・歌詞:
音楽:深澤恵梨香
演出:
出演
ヨウコ(中嶋陽子):
陽子(中嶋陽子):
楽俊:
蒼猿:
舒栄:
延王:
景麒:
新井海人 /
※熊野義貴と鈴木里菜はオンステージスウィング。
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