2026年の新橋演舞場は「初春大歌舞伎」で幕開け。市川團十郎を中心に、花形俳優が多数顔をそろえる本公演で、大谷廣松、中村福之助、中村虎之介、中村鷹之資も「鳴神」「熊谷陣屋」「矢の根」「児雷也豪傑譚話」でそれぞれ大役を勤める。
ステージナタリーでは4人の座談会を実施。懐の深い先輩・廣松、“通じ合える仲”の福之助と虎之介、3人に優しい目線を向けられる後輩・鷹之資に「初春大歌舞伎」出演への思いを聞いたほか、2026年に「挑みたいこと」を教えてもらった。
取材・文 / 川添史子撮影 / 平岩享
それぞれに“挑戦”する「初春大歌舞伎」
──まず、皆様が役に挑む思いを伺います。廣松さんは「鳴神」雲の絶間姫、「児雷也豪傑譚話」腰元高嶺を演じられます。
大谷廣松 初めて祖父(四世中村雀右衛門)の絶間姫を映像で観たときに、「可愛いな」と感じました。祖父は80歳を超えても“可愛い”とお客様に言っていただけた役者でしたが、僕はまだ若いので可愛いらしさを出すことよりも絶間姫が持っている情熱や賢さを表現することに重きを置こうと思っています。50年後には「可愛い」と言っていただけるように何度も絶間姫に挑戦していきたいですし、「この姫なら鳴神上人を堕とせる!」とお客様に思っていただけるようがんばります。「児雷也豪傑譚話」に関しては、今作の補綴、演出をしてくださっている石川先生の作品にはここ数年でたくさん出させていただきました。先生の作るお芝居はわかりやすく、皆と話し合いながら作り上げられるので楽しく取り組めます。また役者の立場に立って、役づくり、演じ方もアドバイスしてくださるため大変勉強になります。今回も共に良い役を作っていきたいです。
──次に福之助さん。「鳴神」鳴神上人(Aプロ)と「熊谷陣屋」堤軍次(Bプロ)、「児雷也豪傑譚話」神矢宗高を演じます。
中村福之助 鳴神上人は父(中村芝翫)が何度も勤めていて、子どものころから馴染みのある作品です。演し物(主役)をさせていただくことが僕の歌舞伎役者としての夢でしたから、お話をいただいたときは興奮を抑えきれませんでした! しかもまさか「大歌舞伎」と名がつく公演で勤めさせていただけるとは。この機会を与えてくださった市川團十郎のお兄さんの期待に応えられるよう、喜びを爆発させつつ、諸先輩方のように上品で気高い雰囲気を大切に勤めたいです。軍次は二度目ですが、芝翫型という家の型がある作品でとても思い入れがあります。前回は父の熊谷でしたので、團十郎のお兄さんのお芝居を近くで感じて、今後に生かしていきたいです。また、「児雷也豪傑譚話」は今回のために本を書き直していただくと聞き、お客様と共に僕もとても楽しみにしています。
──続いて虎之介さん。「熊谷陣屋」源義経、「矢の根」曽我十郎、「児雷也豪傑譚話」月影照義を演じます。
中村虎之介 音羽屋のおじ様(七代目尾上菊五郎)にご指導いただく予定なので、まずは教わったことをしっかり忠実にやることが大切だと思っています。十郎は曽我物としての様式美、兄弟の関係性なども意識しながら、五郎の行動の起点になるように心掛けることが大切だと思います。月影照義は、最後全員集合するので「派手な幕で終わればうれしいな」と思っています。
──鷹之資さんは「鳴神」鳴神上人(Bプロ)と「熊谷陣屋」堤軍次(Aプロ)、「児雷也豪傑譚話」奴五百平を演じます。
中村鷹之資 鳴神上人で大事なことは、まず高僧であるということですね。龍神を閉じ込め雨を降らせなくできるほどの力を持った高僧。その人間離れした感じがなくてはいけません。それから絶間姫に誘惑されてからの、ユーモアや色気が自然と出ることを目指して勤めたいです。最後は歌舞伎十八番らしい、荒事ですね。大きく勤めたいです。軍次は、セリフこそ多くありませんが、相模とのやり取りの中に、小次郎への思いとそこに葛藤する気持ちを込めて勤めたいです。奴五百平は、役柄がガラッと変わります。気持ちを変えて、奴らしく、ユーモアと軽さを出して勤められたらと思います。
意外な顔合わせ?実はそれぞれつながりのある4人
──この4名がそろうのは珍しい顔合わせですが、年齢が近いこともあり、会見などでも和気あいあいとお話されていましたね。
虎之介 一番年上の廣松さんがとても優しい方ですから、僕たちが好き勝手に自由な発言をしても許してくれる空気を作ってくださるんですよ。
鷹之資 確かにそれはありますね。「鳴神」はそんな廣松のお兄さんがお相手なので、思い切りぶつかっていける安心感があります。
──懐の深い先輩なんですね。
鷹之資 鳴神上人は雲の絶間姫の懐に手を入れますし(笑)。
廣松 そういえば今年9月の「流白浪燦星(ルパン三世)」でも大ちゃん(鷹之資)演じる長須登美衛門が僕の傾城糸星の懐に手を入れていたから、今回の伏線だったのかも(笑)。
福之助 僕たちの世代は女方が少ないので、廣松のお兄さんは貴重な存在なんですよ。先輩方にもよく、僕たち世代の課題について「女方の人数が少ないところだ」と言われますし。
虎之介 廣松のお兄さんと中村米吉さんはおいくつ違いですか?
廣松 同じ1993年生まれの32歳。学年としては米吉さんが1つ上になるのかな。
──確かに福之助さんと虎之介さんと同世代の女方さんはあまりいらっしゃいませんね。
廣松 その年代は兼ねる方はいても、「真女方(女方のみを演じる役者)」で探すとぐっと数が減るでしょうね。
福之助 虎ちゃんも女方をするけど、「藤娘」を踊った後に梅王(「菅原伝授手習鑑」の勇猛な役)を演じられる珍しいタイプじゃないですか。そう思うと、年の近い廣松さんの絶間姫と、お互いに初役で「鳴神」を勤められる機会はすごくうれしいです。
廣松 僕もまさか、後輩の皆様と大役に挑ませてもらえるなんて思ってもいなかったのでうれしいですよ。大ちゃんなんて、本当に小さな頃から知っているし……国立劇場の楽屋廊下をおもちゃの車でブーッと走っていた子供が、一緒にお酒を飲める年齢に(笑)。感慨深いです。
鷹之資 よろしくお願いいたします(笑)。こうした座組みで、がっつりした古典の大役でぶつかり合えるなんて、本当にありがたい機会です。
廣松 宗(福之助)とは子供時代は同じ座組みに入らなかったので、大人になってから話すようになった仲間の一人ですね。
福之助 以前は、ご一緒するのは草野球ぐらいでしたよね。
廣松 虎も昔から知っているけれど、あまり共演の機会がありませんでした。それが最近は連続してご一緒できていますし。
──福之助さんと虎之介さんは十代の頃から、同座される機会が多いですね。
虎之介 一緒にいると楽しいですし、2025年は偶然にも「伊勢音頭恋寝刃」(3月南座)、「千夜一夜譚 荒神之巻」(5月松竹座)、「菅原伝授手習鑑 道行詞の甘替」(6月博多座)と、自分が演し物をやる時に宗がいてくれる芝居が続きました。そばにいてくれること自体がありがたいです。同い年の相棒なんで!(笑)
福之助 彼とは“(歌舞伎を学んだ)学校が同じ”という感覚がありますね。
虎之介 スマホケースもおそろいだし。
──仲良し! 一緒に買いに行ったんですか?
虎之介 いや、どうやら僕のことをリスペクトしているらしくて、真似したみたいです(笑)。彼は競馬の勝率も高いし、そこは逆にリスペクトしていますね。
福之助 確かに虎ちゃんからリスペクトされている自覚はありますね~(一同笑)。虎ちゃんが覚えているかわからないけれど、酔っぱらったときに「お前は、俺が持ってないモノを全部持っている」と言っていましたから、まあ……本音でしょうね。
虎之介 それはね、覚えてるよ(笑)。鶴(中村鶴松)も一緒だったときでしょう? 宗は違うところもいっぱいあるけれど、通じ合える貴重な存在です。
──26歳の鷹之資さんは、感覚的には少し年下の世代になるでしょうか。
鷹之資 いやそこはぜひ僕も伺いたいのですが……僕は皆さんの目から見ると果たして、どこ世代ですか?
一同 (笑)。
鷹之資 いわゆる今の“浅草世代”に入れていただくこともありますし、お兄さんたちの世代に入ることもあって、自分自身としてはどちらもうれしく楽しいのですが、こうしたインタビューでどうお話したらいいか迷うところがあるんです。
福之助 この“世代感”についての話は面白くて、みんな言うことが違うんですよ。僕たちがよく言われていたのは、(尾上)松也さんから(中村)隼人さんまでが一括り説。いわゆる前の浅草歌舞伎の世代ですよね。
廣松 確かに、一緒に飲みに行ったりするのもその年代までだったかも。僕のすぐ下が30歳になる(中村)橋之助と(市川)男寅で、そこからは「また違う年代」という認識というか。
鷹之資 なるほど確かに、隼人さんまでの世代は人数も多い印象があります。
虎之介 大ちゃんは僕と宗みたいなひねくれ者とつるむより、国ちゃん(橋之助)みたいなストレートで熱い王道世代と絡んだほうがいいと思うよ。
一同 (笑)。
鷹之資 そんな、皆さんと仲良くさせていただきたいです!
2026年、4人が“極めたいこと”は…
──観客から観ると今の若手の方たちは皆さん芸に熱心で楽しみです。お正月公演を劇場で過ごされることが多い皆さんですが、何か思い出はありますか?
鷹之資 20歳になった年のお正月に歌舞伎座に出ていて、「醍醐の花見」が掛かっていたんですね(2020年、大野治房役)。豊臣秀吉役の(中村)梅玉のおじさまと石田三成役の(中村)勘九郎のお兄さんに「成人式なんだって? おめでとう」とお酒を注いでいただいたあの月は、豪華な成人式の思い出になりました。
福之助 それはいい思い出だね。2024年に僕と虎ちゃんと大ちゃん、あと(中村)玉太郎くんと(中村)歌之助で「五人三番叟」を踊ったこともあったよね。
鷹之資 ありましたね!
福之助 お正月に楽しみな演目が控えているのって、役者にとってつくづく「うれしいことなんだな」と感じます。しかも今回は大役の初役。こんなに年越しが楽しみなことって、初めてです。
──皆様、晴れやかなお正月を迎えられると思います。最後にそれぞれ、2026年に“極めたいこと”を教えてください。プライベートでも、お仕事の面でもどちらでも結構です。
廣松 一つ目は料理の盛り付けです。もともと料理は好きなのですが、盛り付けが適当になってしまいます(笑)。妻は食器を集めるのが趣味なので、食器に見合った美しい盛り付けをマスターしたいです。二つ目は、地方公演も多く家を空けがちなので、仕事以外の時間は子育てに全振りして歌舞伎界一のイクメンを目指します。
福之助 「カメラロール」ですね。普段は写真や動画を撮ることがあまりなく、カメラロールは愛犬めんまの写真であふれかえっています。最新の携帯を持っているにも関わらず、宝の持ち腐れになってしまっている気がしてなりません(笑)。「あの時なんで写真撮らなかったんだ!」と何度も後悔してきたので、2026年は仕事、プライベートどちらも記録にしっかりと残していきたいと思っています! 日記のようにカメラロールに自分の記録をしていけるように意識的に撮りまくって、いつかはその撮影技術も極めていければいいなと思います。
虎之介 舞台においては何事も極めることは難しいし、長い時間が掛かるものですので、日々の継続努力が大切だと思います。プライベートでは何かを極める程の時間が与えられてないので特にありません!(笑)
鷹之資 私はよく真面目すぎると言われるのですが、以前父のお寺の老師に、「真面目すぎると言われるのは、まだ中途半端やからや! 真面目も極めれば何も言われん。それは真面目が足らんのや‼︎」と言われました。真面目を極めます。
プロフィール
大谷廣松(オオタニヒロマツ)
1993年生まれ。大谷友右衛門の次男。祖父は四代目中村雀右衛門。1998年、青木孝憲の名で初お目見得。2003年、二代目大谷廣松を襲名し初舞台。2月に「廣松の会」を開催。
大谷廣松 (@hiromatsu.official) | Instagram
中村福之助(ナカムラフクノスケ)
1997年生まれ。中村芝翫の次男。祖父は七代目中村芝翫。2000年、初代中村宗生を名乗り初舞台。2016年、三代目中村福之助を襲名。5月に「第四回神谷町小歌舞伎」に出演。
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中村福之助 (@fukunosuke_3) | Instagram
中村虎之介(ナカムラトラノスケ)
1998年生まれ。中村扇雀の長男。祖父は四代目坂田藤十郎。2001年、林虎之介の名で初お目見得。2006年、初代中村虎之介を名乗り初舞台。
TOR@ (@toranosukenakamura) | Instagram
中村鷹之資(ナカムラタカノスケ)
1999年生まれ。五代目中村富十郎の長男。2001年、初代中村大を名乗り初舞台。2005年、初代中村鷹之資を披露。2013年より自身の勉強会・翔之會を主宰している。



