広崎うらん×鶴見辰吾×丘山晴己が新たな息を吹き込むミュージカル「雪の女王」

広崎うらんが演出・振付を手がけるミュージカル「雪の女王」が、3年ぶりに再演される。本作は、福井県福井市のコンサートホール、ハーモニーホールふくい(福井県立音楽堂)の開館25周年記念公演として2022年に初演された作品で、アンデルセンの童話「雪の女王」を原作に、高橋知伽江の脚本・作詞、笠松泰洋の作曲・音楽監督により、プロの俳優たちと県内外から集まった県民を中心としたアンサンブルキャストらが作品を立ち上げる。このたびの再演では、一部新たなキャストを迎え、公演回数も増やしての実施となる。

本格的な稽古開始を目前に控えた11月上旬、ステージナタリーでは初演から続投となる鶴見辰吾、タイトルロールの雪の女王役で初参加する丘山晴己、演出の広崎による座談会を実施。終始和やかな様子で、3人は作品に向けた思いをじっくりと語ってくれた。

取材・文 / 熊井玲撮影 / 祭貴義道

コロナ禍かつ台風に見舞われた、3年前の初演

──ミュージカル「雪の女王」は、2022年に福井で初演されました。新作の立ち上げにはさまざまな困難があると思いますが、広崎さん、鶴見さんはどんなご記憶がありますか?

広崎うらん この企画はもともと、ハーモニーホールふくいさんの壮大なパイプオルガンを使った作品を作る、ということが主眼にあり、通常の劇場ではなくコンサートホールでやるということがポイントになっています。また県民の方と一緒に作ることも重要で、オーディションには福井県内外から想像を超えたたくさんの方が集まってくださいました。年代も中学生から七十代まで本当に幅広く、オーディションするのも申し訳なかったんですが、現実的に舞台に上がれる人数の限界がありまして、人数を絞らせていただく形になりました。

また初演は本番が1日だけだったので、お仕事や学校を休んででもトライしたいという方がいらっしゃいました。たとえば看護師の方など普段ハードなお仕事をされている方たちが夜勤を終えて稽古に参加したり、学校や塾を終えた学生さんが参加してくれたり、いろいろな年齢の方が一緒になって作品を作っていくことができたのが、大変だったけれども楽しかったですね。さらにそこに、鶴見さんはじめ東京で活躍されているプロフェッショナルな方々が加わって、皆さんが現地の方たちと積極的にコミュニケーションを取っていろいろなことを教えてくださいました。そんな現場はなかなかないですし、皆さんもお互いに楽しんでいただいたという記憶があります。

広崎うらん

広崎うらん

鶴見辰吾 この企画では、限られた時間の中でいかに完成度を高めていくかということも重要なことの一つで、しかも一般の方が参加する形のミュージカルですから、まずは心の垣根を取ることが大事でした。その辺はうらんさんがすごく上手で、最初にみんなに「なんて呼ばれたいか」を聞いて、全員にあだ名をつけていったんです。ちなみに僕は「鶴ちゃん」(笑)。そういう形で垣根を取り払ったことで、役の大小や年齢の差も関係なく、みんなが一緒になってどんどん同じものを作っていく空気ができました。しかも公演が1日しかなかったので、それに向かって集中していく、という点で僕を含め皆さんすごくいい経験をしたんじゃないかなと思います。うらんさんが仰ったように、仕事や学校、塾が終わってから稽古に参加する人たちがいる中で、みんな本当によくがんばったと思います。

──コンサートホールでの上演ということで、舞台袖や緞帳があるわけでもなく、演出にも工夫が凝らされましたが、物語が進むにつれ、パイプオルガンがどんどん城に見えてくるのは不思議でした。本番で印象的だったことはありますか?

鶴見 出演できなくなってしまった人がいたんですよね。

広崎 そう、コロナの時期ということもあり、公演のために非常に尽力してくださった方々が本番直前にコロナにかかってしまい、出演がかなわなかったという悔しい思いもしました。さらに1日だけの公演だったのによりによってその日めがけて台風が来ちゃって! 福井自体は風もなく穏やかな天候だったんですけど、福井までの交通に規制がかかり、計画運休が発令されてしまったので、東京や大阪から福井まで来てくれた出演者の親御さんたちが、「帰れなくなると次の日の仕事が困るから」と、公演を観ずして帰ることになってしまったり……。ただ、そういう状況だったので、もともと早々にチケットは完売していたんですけど、急遽現地で劇場まで来られる方にリリースしよう!ということになり、キャンセルになったチケットで地元の方が来てくださったのは本当に感動的でした!!! それが一番、忘れられない記憶ですね。

鶴見 そうか……出演している側だと、現場のことで頭がいっぱいであまり記憶になかったけれど、そうでしたっけ?

鶴見辰吾

鶴見辰吾

広崎 (うなずきながら)福井は、風も吹いていない穏やかな天候だった。悔しすぎて「これはもう1回やらないといけないですよね!?」という話はすぐ出ていて、「雪の女王」の再演が先か、北陸新幹線ができるのが先かと思っていたくらいでした(笑)。

一同 あははは!

思いっきり女王役をやりたい(丘山)

──再演では、タイトルロールである雪の女王役を丘山さんが演じます。「雪の女王役で」とオファーがあったときには、どのように思われましたか?

丘山晴己 「雪の女王」と聞くとどうしても「アナと雪の女王」のイメージがありますが、今回は元の童話に沿った内容ということで、ストーリーが違うんですよね。でもいずれにしても「女王になれるんだ!」っていうワクワク感がたまらないなと思いました。思いっきり女王役をやらせていただきたいと思います(笑)。

──ビジュアルを見ても、すでに女王然とされています(笑)。

丘山晴己扮する雪の女王の、宣伝ビジュアル用イメージ。

丘山晴己扮する雪の女王の、宣伝ビジュアル用イメージ。

広崎 そう、もう完成してるんですよ!

丘山 (笑)いっそ、ヒールも履きたいなと思っていて。

広崎 初演で女王役を演じた水夏希さんは、高いつららをイメージしたヘッドドレスをつけていたんだけど、それをそのままはるちゃん(丘山)がつけると高くなりすぎちゃうので、今回ははるちゃん仕様のデザインに変わります(笑)。なので、ハイヒール履いても大丈夫そうですよ! はるちゃんに女王役をお願いしたいと思ったのは、「Fate/Zero」というお芝居でご一緒させていただいたときに、彼がアーチャーという王様役をすごく素敵に演じていたからなんです。演出家の西森英行さんとも「はるちゃんは多くを語らずして、自分の身体で体現しているのがすごいね」と稽古中からお話ししていたんですが、「あれ? アーチャーのゴールドの色合いを青くしてみたら、そのまま雪の女王じゃん!?」と思って、今回女王役をお願いしました!(笑) あと今回、僕ははるちゃんに身体表現もしてほしいと思っていて、雪の女王の心情を動きで見せてもらいたいなと思っています。

丘山 うれしいです!

丘山晴己

丘山晴己

──鶴見さんは初演からの続投です。

広崎 鶴見さんはハーモニーホールふくいさんとのシリーズに不可欠な方です。

鶴見 うらんさんとの仕事は、いつの間にか半分ライフワークみたいになってきましたね。私とうらんさんは、ハーモニーホールふくいさんの音楽朗読劇シリーズをずっと続けていて、「ハーメルンの笛吹き男」から始まり、私のリクエストで「ガリバー旅行記」もやりましたし、このシリーズで沖縄や八王子にも行ったりもしました。「雪の女王」はその集大成的な感じがあって、この作品が上演できることをすごくうれしく感じています。

鶴見辰吾扮する語り手。

鶴見辰吾扮する語り手。

広崎 これまでの音楽朗読劇シリーズでは、鶴見さんがナビゲーターとなって物語を運んでくださり、僕が演出しながら小さい子供たちとワークショップをやってきたんです。そこから、こんなに大きなスケールで「雪の女王」をやらせていただけることになって僕も本当にうれしいし、これは鶴見さんなしではできない企画です。

──再演に向けて、ブラッシュアップされる部分はありますか?

広崎 今回は1日公演ではなく4日間公演がありますし、ゲルダ役とカイ役がWキャストになるので、刺激し合ってもらえるんじゃないかなと期待しています。また山賊の娘カリン役を、篠木隆明くんという男の子が演じます。オーディションでは随分いろいろな方法で見させていただいたんですけど、山賊の娘役としてもっと野生味がほしいと訴えていたところ、作曲・音楽担当の笠松泰洋さんが「はい!」と急にご自分が立候補されて(笑)。まあ初演時もでしたが、僕のオーディションはいつでも壮絶で、今回のオーディションでもそれはそれは面白い戦いと取り組みとコラボレーションが展開されました。そして最終的に篠木さんにお願いすることにしました。オペラ界からミュージカル界、ベテランから新人の方までたくさんの方がオーディションを受けてくださって、それはそれは強烈で濃厚な2日間でした! 結果的にいろいろなジャンル、いろいろなキャリアの方が混ざって、音楽や表現方法も含めて刺激し合えるような座組になったんじゃないかなと思いますし、ミュージカルというカテゴリーにとどまらない、福井発のオリジナル作品になればいいなと思っています。