「そのとき、何を思い、何をしましたか?」第4回の寄稿者。

そのとき、何を思い、何をしましたか? 第4回 [バックナンバー]

それぞれの思いを胸に動き出す、劇作家、演出家、俳優、ダンサー、プロデューサーたち

──長い眠りについた劇場、そして舞台人たちの思い

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辻圭介(トライフルエンターテインメント プロデューサー)

舞台スタッフにフィーチャーした番組をYouTubeで配信

※動画は現在非公開です。

自分たちの存在意義を見つめ直したときに、我々は「娯楽を提供すること」が使命なのではないかと思いました。舞台ができないのはどうにもならないことですので、今できることの中で最大限お客様に楽しんでいただけることをやろうと考えました。
今はたくさんの動画配信が行われておりますので、その中で埋もれない番組、そして「制作会社だからできる番組」を作ることを重視しました。
Zoom、YouTube、動画編集。ほぼゼロからの勉強でしたのでそこは多少苦労しました。うっかり自宅から無防備な顔を1分ほど生配信してしまったときは心が折れそうでした(笑)。
今は「あの配信も見たい。この配信も見たい」と、もしかするとお客様は舞台が普通に上演されていたときよりも忙しくなっているのかもしれないと感じています(笑)。舞台が再開されたら今度は動画配信ロスが襲ってくるのかも……?

トライフルエンターテインメント
トライフル辻 (@trifleP) | Twitter
トライフルエンターテインメント【公式】 - YouTube

中村修一(狂言師 / 万作の会)

「うちで舞おう」をTwitterで披露

星野源さんの「うちで踊ろう」を拝見し、自分も舞台に立てない中で何かできることはないかと考え、「うちで舞おう」と題して、星野さんの映像(歌)に狂言の小舞を合わせた動画を作りました。おそらく狂言をあまり見たことがない人たちの目にも触れる機会になるだろうと思い、狂言の小舞の中でもベーシックな、よく登場する型を組み合わせ、自分が狂言の小舞に感じる美しさを感じ取ってもらえるよう、基本に忠実にしっかりと舞おうと心がけました。
本来の能舞台は三間四方(5.5m×5.5m)の広さがありますが、自宅では2m四方くらいしか場所が取れないので、その中でいつもの序破急(最初はゆっくり、少しずつスピードに乗り最後に発散する)を表現することは難しかったです。
「うちで舞おう」をやってみて、「狂言の舞を習ってみたくなった」という反応があったのが一番うれしかったです。ただ、実際のところは、2歳半になる息子が起きてきて乱入したハプニングが、皆様に楽しんでいただけた一番の要因になったと思います。
自分が所属する「万作の会」のSNSやYouTubeなどでも、狂言に親しんでいただけるような企画を野村萬斎先生もなさっていますし、この渦中に狂言を通じて少しでも皆様の力になることができればと、皆で思案を続けております。

万作の会
野村萬斎@狂言ござる乃座 - YouTube
中村修一 (@marumaro4) | Twitter
中村修一 | Facebook

中屋敷法仁(演出家・劇作家・俳優 / 柿喰う客)

YouTubeで視聴できる劇団過去作の映像を追加
中屋敷法仁

中屋敷法仁

3月12日に東京公演が開幕しました「改竄・熱海殺人事件」(演出)は、3月28・29日の3ステージと大阪・福岡公演が中止。また、4月に上演予定だった舞台「タンブリング2020」(演出)は全公演が中止となり、現在は延期の日程を調整中です。所属劇団である柿喰う客も、参加予定だった「子どもいきいきプロジェクト」(3月 / 福井)と「ストレンジシード静岡2020」(5月 / 静岡)が延期。5月に予定されておりました新作公演「夜盲症」も、創作に必要な十分な準備期間を確保できないことから、延期を決定しました。この期間、私自身が考えたことは俳優、スタッフ、そしてお客様の心と体の安全です。圧倒的なフィクションを楽しみ、健やかなイマジネーションを育むためにも、安全な観劇環境の確保がなされるべきだと考えます。演劇を愛し、演劇を信じてくださるすべての皆様のために、今は何が出来るのか。試行錯誤の日々です。

中屋敷法仁 (@nkyshku) | Twitter
柿喰う客
柿喰う客チャンネル - YouTube

新妻聖子(ミュージカル女優・歌手)

「ボディガード」劇中歌を遠隔セッションした動画を投稿

3月下旬に「公演の続行は難しいだろう」となり、真っ先に思い浮かんだのは公演の収録(DVD化もしくはインターネット配信を見込んで)。だが、ミュージカル「ボディガード」の楽曲はすべてホイットニー・ヒューストンのヒット曲で、それぞれに異なる著作権管理団体があり厳密に著作権を管理しているため、映像化は不可能と断言された。ライブでしか届けられない演目ならば再演に希望を見出すしかないのだが、大型ミュージカルが上演できるサイズの劇場は限られている。それらはすべて数年先まで埋まっている状況で、オリンピックの開催時期がずれたことで会場となる予定だった一部の劇場が空くのではと一縷の望みを抱いたが、それも叶わなかった。現在、数年先の再演に向けて各所が調整を続けているところだ。同じキャストで再演が叶えば奇跡だろう。舞台とは、そこに集った者だけが“目撃”できる儚い娯楽。それがどれほど尊くエキサイティングなことだったのかと改めて思う。表現者として今私ができるのは映像の配信くらいだが、ライブとの差は埋めようがない。また、自粛が長引くならば全方向の舞台関係者に還元できるような課金型の新しいビジネスモデルを探る必要もあるだろう。そうしながら待つしかないのだ。集うことでしか達成できない、“あの空間”に代わるものはないのだから。

新妻聖子オフィシャルサイト
新妻聖子 (@seikoniizuma) | Twitter

三浦直之(劇作家・演出家 / ロロ)

オンライン配信通話劇「窓辺」をYouTubeで配信
三浦直之(撮影:三上ナツコ)

三浦直之(撮影:三上ナツコ)

予定していた「四角い2つのさみしい窓」の福島・三重公演の延期が決まり、空いてしまった期間を使ってロロでオンライン配信通話劇「窓辺」を始めた。思い付いたのは3月末のロロ会議のとき。メンバーの「誰かと話すだけで少し気が楽になる」という言葉がきっかけだった。
「四角い2つのさみしい窓」では、透明な壁によって客席とステージが隔てられて演劇が上演される世界を舞台にしていた。
僕は透明な壁に隔てられた世界では演劇は成立しないと思っている。観客が客席を越えて舞台へ上がってしまう可能性に演劇の本質はあると思うから。前説で「携帯電話の電源を切ってください」ってよく言うけど、「舞台上に上がらないでください」とは言わないから演劇が好き。
それでも僕は「窓辺」を無理やり演劇と呼んで、しばらく続けてみようと思う。透明な壁に隔てられた中でのステージと観客のつながり方をもう少し考えてみたい。その作業は、いつか劇場に戻ったときにロロの財産になってくれると信じている。

ロロ | official WEB
ロロ (@llo88oll) | Twitter

宮本亞門(演出家)

「上を向いてプロジェクト」を立ち上げ、多彩な出演者の歌やメッセージの動画を公開

3月5日、ニューヨークでミュージカル「ベスト・キッド」の公開ワークショップをして帰国。間もなく、ブロードウェイの劇場案内人がコロナにかかったと報道。
3月12日、ブロードウェイの公演がすべて中止される。それに伴い2021年の「ベスト・キッド」上演も未定に。
3月18日、オペラ「蝶々夫人」上演のため渡航準備をしていたとき、ドイツの歌劇場側から、「稽古中止、4月26日の初日延期」のメール。
3月25日、次々と公演中止になる状況に、演劇人にできることを、と「上を向いて~SING FOR HOPEプロジェクト」をネットで呼びかけスタート。
3月26日から、連絡先を知っている人や、紹介を通じて各所へ怒涛のように電話、LINE連絡。
即承諾してもらったり、断られたりしてアップダウンの日々。
4月10日、5月1日の「Hibiya Festival」ショーの再々演が中止される。
4月15日、ネット上で「上を向いて~SING FOR HOPEプロジェクト」を配信。翌日「DANCE FOR HOPE」を立ち上げ。

どの時代も、演劇は困難をバネに成熟してきたことを信念に、ただ突き進んでます。できる限りの方法を使って、人たちの心が折れないように。

SING FOR HOPE─上を向いてプロジェクト
DANCE FOR HOPE─上を向いてプロジェクト
宮本亞門(ミヤモトアモン) | ホリプロオフィシャルサイト
宮本亞門 公式 (@amonmiyamoto) | Twitter
宮本亞門 | Facebook

山田由梨(劇作家・演出家・俳優 / 贅沢貧乏)

劇団員とインスタライブを実施
山田由梨が劇団員に送った本。

山田由梨が劇団員に送った本。

劇団のトークイベントが中止になったので、劇団員と一緒にインスタライブをしました。それから、城崎国際アートセンターでの滞在制作も実施見送りになったので、今後の創作に役立ちそうな本を劇団員それぞれに送りました。今だからできるやり方で、みんなとつながっていたいなと思っています。
(実施にあたっては)自分の負担になりすぎないように、できる範囲でやろうと思っています。劇団員と話すことやインスタライブを見てくれている方と話すのは私も楽しいし、そういう時間を共有できるのはいいなと。本を送ったのは、こういうときだからこそ、それぞれが知識を蓄えて勉強できたらと思って。
こんなに気軽につながれるということや、家にいながら楽しむことができるのは新たな発見でした。それは出演予定の木ノ下歌舞伎「三人吉三」のオンライン稽古をしていても感じることです。でも、実際に集まることの代替には絶対にならないということもわかりました。
インスタライブはコメントをリアルタイムで送ってもらえるので、普段のトークイベントや公演とは違うコミュニケーションが取れて新鮮です。今だからこそ雑談できるところとか、気軽に集えるところは必要だと思う。劇団員たちの本の感想も気になるので、また配信したいと思います。

贅沢貧乏
贅沢貧乏(@zeitakubinbou) | Twitter
贅沢貧乏/ZEITAKU BINBOU(@zeitaku_binbou) | Instagram

山本卓卓(劇作家・演出家 / 範宙遊泳)

過去作の映像をYouTubeで公開し、毎週1本ずつラインナップを追加

私は「コロナが終息したら思う存分演劇をやるんだ」とは考えていません。なぜならいつ来るかわからない未来を待つよりも今作りたくてたまらないからです。確かにことごとく上演予定の公演は中止になりました。とほほな感じではありますが、何年かかっても絶対上演してやる、と思っているのも事実なのです。私は私の演劇活動を中止し社会の正常化を待つ気などさらさらなく、むしろこの異常な生活の日々こそ演劇、と捉えています。これまで勝手に我々が作り上げてきた演劇の定義なるものが、瓦解し再構築されることを私は歓迎したい気持ちでいます。それは従来の、舞台上の俳優と客席に座る観客という形式からはズレるかもしれません。しかし、こうした状況で作ることは、演劇とは何かという本質的な問いを深掘りすることにほかならないと信じています。気高くやってゆきたいものです。あとは多くの命が尊重され差別されることのない世界でありますようにと心の底から願うばかりです。

範宙遊泳/Theater Collective HANCHU-YUEI
範宙遊泳 (@HANCHU_JAPAN) | Twitter
TheaterCollectiv HANCHU-YUEI - YouTube

【舞台人たちの思いを知って】

このコラムでは、4回にわたって舞台人たちに「そのとき、何を思い、何をしましたか?」というテーマで思いを語ってもらい、舞台が直面している現状を見つめてきた。ここでは、これまでのコラムを振り返る。

じわじわと、しかしたった3カ月程度の短い時間で加速度的に、新型コロナウイルスは舞台の世界にも大きな影響を及ぼした。まずは命を守るための行動が第一だが、舞台に関しては身体を媒体にする生の表現、それを観に多くの観客が集まる形態だからこそ、姿の見えないウイルスとの闘いは、厳しいものになるだろう。

このコラムが動き出したのは、4月半ば。急な依頼にもかかわらず、第1回では17組がコメントの執筆を引き受けてくれた。その頃は政府による緊急事態宣言発令後だったので、中止か続行かの判断に揺れていた時期の葛藤をつづってくれた人が多かったように思われる。中にはオンラインでの映像配信や作品制作にフットワーク軽く挑戦し、新たな表現方法を探し始める人たちもいた。続く第2回は、“劇場に足を運べない今、観客は何ができるのか”ということに重きを置いて特集を組んだ。ステージナタリーでクラウドファンディングのニュース記事が出始めたのは、3月末。以降、現在ではさまざまな規模での支援の形が立ち上がってきている。第3回では、26組もの舞台人がそれぞれの心境を寄せてくれた。創作を断ち切る苦悩、公演中止に伴うさまざまな問題、今後の活動への不安……それらを抱きながらも、いったんはこの事態を受け入れ、思考を先に進めようとする意思が感じられる言葉ばかりだった。第4回では、これまでのような上演スタイルとは異なる状況で、新たな表現方法にトライした18組からの思いが届いた。“集まる”ことができないため、オンラインを介した活動にシフトせざるを得ない“今”。演劇とは何か、自分の使命とは何かを内省する、さまざまな意見が並んだ。

このコラムでは、“今、舞台界で何が起きているか”の一部を可視化することを目指した。クリエイターやアーティストたちがこの事態にどう向き合い、決断を下したのか、その思いを受け止めつつ、再び劇場の扉が開かれる日を待ちたい。

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Momoko Kawano @momo_com

"それぞれの思いを胸に動き出す、劇作家、演出家、俳優、ダンサー、プロデューサーたち"
──そのとき、何を思い、何をしましたか? 第4回 https://t.co/F0uokjbL7W

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