コクーン アクターズ スタジオ 第2期生が第1期生に質問 / 松尾スズキのメッセージ / ブルードラゴン稽古場日誌

コクーン アクターズ スタジオ(CAS)は、2024年にスタートした、Bunkamura シアターコクーン芸術監督の松尾スズキが主任を務める“若手を対象とする演劇人の養成所”。2025年3月に第1期生の発表公演「アンサンブルデイズ-彼らにも名前はある-」が行われ、2025年4月に第2期生を迎えた。さらに第1期生の有志11名と松尾は新ユニット・ブルードラゴンを結成。8月には発表公演「シブヤデマチマショウ」を行う。

本特集ではCASに入って3カ月目を迎えた第2期生20名と、ブルードラゴンのメンバーでアシスタントの第1期生4名による座談会を実施。第2期生の荒木穂香、石橋真理愛、伊藤優杏、尾崎京香、笠井涼乃心、久保嗣、粂野泰祐、倉元奎哉、河内洋祐、古賀彩莉奈、酒向怜奈、佐々木春樺、澤田陸人、思方、大河杏、樽見啓、堤麻綾、徳重舞、中川大喜、吉岡苑恵と、第1期生の伊島青、川﨑志馬、小林宏樹、等々力静香が参加した。

さらに松尾に現在のCASに対する思いを聞いたほか、「シブヤデマチマショウ」の稽古に勤しむブルードラゴンメンバーによる稽古場日誌を紹介する。

取材・文 / 熊井玲撮影 / [座談会]藤田亜弓

第2期生が第1期生に質問「CASの1年はどんな経験でしたか?」

CASに入る前と後で変わったことは?

──第2期生にはあらかじめ「1期生に質問してみたいこと」についてアンケートをとりました。ここではそこからいくつかの質問をピックアップし、第1期生にお答えいただきます。質問が読み上げられた人は、質問に込めた思いを一言加えてください。まずは「CASの1年を終え、一番印象に残っているレッスンや、出来事は何ですか?」という質問です。

河内洋祐 はい、河内です! 1期生の方々がCASの1年を通して印象に残っていることが何かわかると、僕たちも外部の方たちにとっても、CASがどんな場所かイメージが湧くのではないかと思うので、ぜひ教えてほしいです。

左からCAS第1期生の川﨑志馬、等々力静香、小林宏樹、伊島青。

左からCAS第1期生の川﨑志馬、等々力静香、小林宏樹、伊島青。

(第1期生たち、しばし顔を見合わせて)

等々力静香 笑いについて追求し続けた印象が、一番大きいですね。これまで笑いについて教えてもらうということはあまりなかったですし、そういうことをやっている俳優養成所ってほかにあまりないと思うので、そこがCASの特色だと思います。どんな芝居もやってみて初めて難しさがわかるということはあると思うんですけど、笑いに関しては特にお客さんがいないと掴めない感覚があって、オクイ(シュージ)さんのレッスンでは、その日にウケても次の日にウケるかわからないということを実感しました。なので、人を笑かすためにこんなに準備したか!という1年だったという印象です(笑)。

小林宏樹 お芝居の場合は、演じている間はお客さんの反応があまり気にならないかもしれないけど、笑いはうまくいくこともうまくいかないこともあるし、目の前のお客さんの反応で答えがすぐわかってしまうから。

川﨑志馬 しかも自分以外の人たちも同じ課題に取り組んでいたりすると、「あの人はめっちゃウケてるのに、俺はウケないな」って比べちゃうところもあって。

伊島青 ただ、やっているうちに自分のキャラクターとか自分にできることできないこと、自分に合っているキャラクターとかが精査できるようになってきた気がしますね。

座談会の様子。

座談会の様子。

等々力 松尾さんのレッスンで、「お客さんを笑わせる3分のエンタテインメントを音楽を使ってやる」っていう課題があって。みんなそれに1週間くらい頭を悩ませていたよね。あれは大変だった……。

伊島 しかもほかの先生たちからもいろいろな課題が出ていたり、発表が重なっている時期で、そのラスボス的な感じで音楽を使ったエンタメの課題があって(笑)。

川﨑 でもそのときにみんなの個性とか良さが感じられて、「ああ、この人こんな感性を持っているんだ!」という発見があったり、みんなそれぞれに「ここにいる意味」みたいなものがわかってきた部分はあったよね。

小林 「こんなに面白やつばっかりだったんだ!」と思って、終わった時に一体感ができて、「よしみんなで飲みに行こうぜ!」みたいな。

一同 あははは!

CAS第2期生たち。

CAS第2期生たち。

──次は「CASに入る前と現在で一番変わったこと、変わらなかったことは何ですか?」。

倉元奎哉 はい、倉元です。皆さん1年間通してレッスンして、発表公演も終えて、得たものや成長を感じている部分はあると思うのですが、逆に1年間経ても変えられなかったことはありますか?

伊島 私は、自分の中でやりやすい型にあてはめてパフォーマンスをしてしまうことが多くて。しかもそのパフォーマンスを、ある種力業(ちからわざ)のような、勢いに任せてしてしまうことがよくあります。

川﨑 CASでの1年は、演劇に対してもですが、人の芝居についてなどいろいろな見方を教えてくれる時間でした。開講式のときにみんなも言われたと思いますが、松尾さんがこうと言っても(杉原)邦生さん、オクイさん、ノゾエ(征爾)さんはそれぞれ全然違うことを言う場合もあるし、それぞれ見ている角度も違うから、先生方からいろいろな価値観をもらえることがある。さらに僕自身は、同期からそれを感じることも多かったです。自分は全然知らないカルチャーやボキャブラリーが出てきたり、同じことをやっているからこそ「そういう面白がり方があるんだ!」と気づくこともあって、演劇や映画の見方がCASに入る前と後では全然見方が変わって、面白くなった気がします。

等々力 演劇ってアート的な側面とエンタメ的な側面があると思うのですが、CASは割とエンタメ的な要素が大きいと思うんですね。“お客さんを楽しませることは大前提で芝居する”という意識は、CASに入る前と後で全然変わりました。

──似た質問で、「日常生活においても意識が変わったところがありますか?」という質問もありました。

堤麻綾 はい! 私たちはCASに入って3カ月くらい経ちますが、先輩たちと私たちの違いはやっぱりあって、それはどんなところだろうと思っていて……。なかなか1期生の方にこういうお話を聞く機会がなかったので、日常生活についても伺いたいと思いました。

小林 (蔵田)みどり先生の授業で言われているかもしれませんが、休みを意識するようになりました。詰めて詰めてやっていたけれど、だんだん効率が悪くなってくるから、休むことも自分を高める活動の一環として取り入れるようになりましたね。

小林宏樹

小林宏樹

伊島 休むのが大事っていうところ、すごいあるなと思いますね。どれだけ忙しくても自分の生活を保っていかなきゃいけないというか、バイトもしなければいけないし、ご飯を食べたり掃除や洗濯もしなきゃいけない。最初のころはそれが本当にできなくて、毎日疲れて家に帰って、なんとか朝起きて、近所のコンビニでご飯を買って……という生活をやっていたんですけど、やっぱり体力的にしんどくなってくるし、QOLが上がってるのか下がってるのかわからないみたいな状態に陥って。でもその忙しさの中でもやっていくのがプロの俳優なんだよな、と思うようになり、レッスンしているだけでこんなに疲れてちゃだめだ!と思い直して、休みのタイミングを入れることで自分の周期を見つけるというか、生活を整える努力をするようになりました。

──続けて3月に行われた第1期生による発表公演「『アンサンブルデイズ』を経ての変化は?」という質問です(参照:コクーン アクターズ スタジオ第1期生の発表公演 新作ミュージカル「アンサンブルデイズ」ゲネプロレポート)。

徳重舞 「変化をしたい!」と思ってCASに入って3カ月、自分が進んでいるのか下がっているのか全然わからないのですが、「アンサンブルデイズ」を経たらそれを実感できるのかなと。皆さんは、どんな変化を感じていますか?

CAS第2期生たち。

CAS第2期生たち。

小林 変化は結果というか……がむしゃらにもがいたり、変化しようと思って変化できるわけではないと思うんです。俺たちも「成長しているな、変化しているな」と実感しながら1年を過ごしてきたわけではなくて、たとえば今、2期生とからむようになってふと「あ、俺たち成長したかも」と実感できる瞬間があるっていうか。だから今はまだ実感はできないかもしれないけれど、とにかくがんばる!ということが大事なのかなと思います。

川﨑 技術面でわかる変化もあります。例えばこのステップが踏めるようになったとか、腕立て伏せがこれぐらいできるようになったとか、そういう成長や習得はシンプルにわかるし、それはモチベーションにしていけば良いと思うんです。ただ「もっと迫力が出るようになりたい」とか「お芝居が上手くなりたい」みたいなことは、宏樹が言っていたように、後からついてくることだと思うから、変わろうとする気持ちを大切に、とにかく目の前のことをがんばるべきだと思うし、「何か変えてみよう」と常に考えながらトライしようと思い続けないと成長はしないと思うので、それが大事かなと思います。

川﨑志馬

川﨑志馬

あと、たまに僕はCASのオーディション用に録った動画とか、レッスンの様子を録ってもらった動画を見返したりして、「うわ、このときの俺、下手くそだ!」と自分の成長を実感したりします(笑)。

一同 あははは!

──ちなみに第2期生の皆さんは「アンサンブルデイズ」はご覧になっていますか?

第2期生 (口々に)はい!

古賀彩莉奈 皆さんがすっごく楽しそうにお芝居しているところがいいなと思いました。

徳重 私は前から5列目くらいで観たんですけど、半分ぐらい号泣してしまって(笑)。こんなにキラキラしたところに行きたいな!と思って、今ここにいます。

中川大喜 あるシーンで、黒衣の人が2・3人マイクを渡しに現れて、そのままはけずに舞台で踊っているところがあったと思うんですけど、表情がめちゃくちゃよく見えて、歌う以上のエネルギーを出して踊っている姿が一番印象的でした。

CAS第2期生たち。

CAS第2期生たち。

小林 (「アンサンブルデイズ」演出の)邦生さんから「本番の日はもうとにかく楽しんで。何が起こっても俺のせいにしていいから、とにかく楽しんで」と声をかけてもらって送り出してもらったんです。実際、やってて楽しかったですね。

──そんな発表公演を経て、「CASを卒業してどんな気持ちになりましたか?」という質問も寄せられています。

酒向怜奈 酒向です。皆さん、卒業したときにこれからに対するワクワクを感じたのか、寂しさを感じたのか、達成感を得たのか……どんな感情を持っていたのでしょうか?

小林 うーん……卒業したって感じある? ここにいる1期生は、ほかの1期生とはまたちょっと感覚が違うかも……。

伊島川﨑等々力 そうだね。

川﨑 「アンサンブルデイズ」が終わったときは、いわゆる文化祭終わりじゃないけど、みんなで号泣して「わあ」ってなるのかと思いきや、ゼロ地点に立った感覚というか、みんな淡々と「お疲れー」という感じで、あんまりそこがゴールだと思っている人はいなかったんじゃないかと思います。むしろ、ここまでは目の前にやることがあったけれど、明日からは何もないんだ、このまま野に放たれるんだ、と実感したというか。藤間(貴雅)さんが閉講式のときに「『アンサンブルデイズ』のカーテンコールで1期生24人の表情を見て、みんなやり切った!という表情ではなく、『これからだ』という表情をしていたのを見て大丈夫だなと思いました」とメッセージをくださいましたが、確かに“門の前に立った”みたいな感覚ではあったかなと思います。

座談会の様子。

座談会の様子。

毎日のスケジュールは? 食べ物は?

──ここからは具体的な質問が続きます。「『アンサンブルデイズ』稽古期間中の体調管理で気を付けていたことや、そのために変えた習慣などはありますか? 食事や休み方、睡眠、仕事との両立など実際どのくらい忙しかったのでしょうか」。

久保嗣 先ほどの“休み”の話と重なるんですが、今仕事をしながら週3の授業を受けて、その生活にやっと慣れてきたところではあるんですけど、1月から「アンサンブルデイズ」の稽古が始まったら週5で稽古になると聞いて、実際どうなるんだろうなと思っていて。

小林 まずアドバイスするとしたら、「アンサンブルデイズ」の稽古が始まる前に、貯金をしたほうがいい!

第1期生 (大きくうなずく)。

小林 しかも後期になるとグループワークが始まって、グループの人たちと時間を合わせて稽古しないといけないから、前期にできるだけ働いて貯金しておくのが良いと思います。

等々力 しかも発表公演はスタッフワークも自分たちで分担するので、稽古の時間以外にスタッフワークもやっていて、私の場合は稽古場に11時に入って22時に出てましたね。だから毎日帰って寝る感じで、働く時間はなかったです。しかも私は稽古に入る前にちゃんとアップしないとダメなので、稽古が始まる前に早めに来てアップしたり。

川﨑 スタッフワークに関しては、なんの仕事を担当するかによって、稽古場で全部やる人もいれば、ある程度持ち帰って家でやっている人もいましたね。そのうえで、この仕事はここまでにやるとか、休むときは休むとか、ちゃんと決めていくことが大事かなと思います。

久保 ちなみに稽古前に何を食べるのがいいか最近考えているんですけど、何を食べていますか? 僕は今、芋を食べることにしてるんですけど……。

CAS第2期生たち。

CAS第2期生たち。

等々力 歌うから、あんまりお腹いっぱいにはならないようにしていました。

川﨑 僕も基本的には食べない。食べるとしてもスティックパンとかゼリー系、カップスープとか……。一時期、稽古中の休憩時間をどれだけ充実させるかをみんなよく考えていましたね(笑)。

伊島 基本的にはモデルのような食事がいいのでは(笑)。あと、ミュージカルだから喉もちゃんと労わらないといけないかなと思います。

小林 稽古期間中、毎日はちみつを飲んでましたね。

──次は少し角度が違う質問で「1期生は先生や制作スタッフの方にとても愛されていることが伺えます。対して僕らはまだまだだなと思うのですが、どうしたら先生方や制作さんから愛される存在になれますか?」。

粂野泰祐 僕はいろいろなものに対してジェラシーを感じてしまうほうなのですが、「ブルードラゴンって何?」「松尾さんのミュージカルにもう呼ばれている1期生がいる!」って思ってしまったんですね。

一同 あははは!

粂野 でも僕らは卒業するときになって、果たしてそこまで至れるのかと思っていて。なので、どのようにして愛されるに至ったか伺いたいです。

等々力 まず言いたいのは、私たちは別に愛されようとしてきたわけではないということ。あと1期生と2期生の大きな違いはやっぱり、1つの作品を乗り越えたかどうかということがあると思います。その点で、2期生も絶対に愛されるから大丈夫!(笑)

小林 一言付け加えると、みんなが見てくれているという意識は持っていたほうが良い。例えばほかの人のお芝居を見ている姿勢とか、どれだけ成長したいかという思いは、先生だけではなく制作さんやスタッフの方たちからも見られているから、その意識を持ちつつお芝居に真摯に取り組んでいたら、きっと“愛される”がついてくると思うな。

CAS卒業が終わりではない、得たものを力に

──ここからはさらに質問が大きくなっていきます。ある意味、難しい質問かもしれませんが、「面白い俳優になるにはどうすれば良いでしょうか」。

荒木穂香 CASは面白い俳優を求めていて、私も面白い俳優になりたいと思っているのですが、1期生の皆さんは1年レッスンを終えて「面白い俳優って何か?」ということはつかめたのでしょうか?

小林 俺たちもまだ、面白い俳優を目指している途中だということは大前提ですが、やっぱりいろいろなものを観ることで自分にとっての“面白い”という価値観が確立されていくところがあると思います。なので、まずは自分が何を面白いと思うかということを確立させるのがいいんじゃないかと思います。今ブルードラゴンで稽古していてもそれぞれが面白いと感じるところは微妙に違って、でもやっぱり同じ先生たちから教わっているからある程度共通点はあって、「これが面白いんじゃない?」「こっちのほうが面白いんじゃない?」と話し合いながら同じところを目指していくところが楽しいです。

等々力 私は、演出家が面白がっていることを、いかに面白がれるかも大事かなと思っています。松尾さんが面白いと思うことと邦生さんが面白がることは全然違いますが、台本は全部自分の中に入れたうえで、どれだけ自由になれるか。演出家に求められたことを面白がってすぐ実践できるかどうかは重要じゃないかと思っていて。特に私はもともと面白い俳優というタイプではないと思っているので、演出家に要求されたことに柔軟にしっかりと応えていく必要があると思っています。

──続けて「コクーン アクターズ スタジオでの経験が、その後のオーディションや仕事の現場でどう生きていますか?」という質問です。

伊藤優杏 先ほどのお話でも「3月の卒業公演がゴールというわけではない」とおっしゃっていましたが、改めて1年間の成果は今、どう生きているのか教えていただきたいです。

CAS第2期生たち。

CAS第2期生たち。

小林 あの授業のこれがこれに生きた、という瞬間を感じるときよりも、やはり1年間多くの先生方から多くのことを教わったので、気づいたら成長している。過去の自分と比べたときに、成長を感じられている、という感じですかね。

川﨑 卒業後、自分が求めるイメージと自分自身のレベルのギャップに悩んでいる人もいるようです。講師の方たちのおかげでいいものをたくさんもらって、イメージもできるようになったのだけれど「もっとこうしたい、もっとこうできる」と思っても、現場で自分の技術が追いついてないと感じたり。

──ちなみに1期生の方たちは松尾さんのアシスタントをやることで「ああ、このときの松尾さんの発言はこういう意味だったんだ!」というような発見はありますか?

小林伊島川﨑等々力 (口々に)ありますね。

等々力 たとえば同じ台本を使った稽古だと、自分たちがやったときのことを思い出して、「ああ、自分もああいうふうにやったな」と思ったり、「ああ、あのとき松尾さんが言っていたのはこういうことだったんだ」と思うことはあります。

──では次の質問です。「コクーン アクターズ スタジオを卒業して、今後どのように自分のキャリアを展開していこうとしているのか、何かビジョンはありますか?」。

古賀 今のことをちゃんと考えないといけないと思いつつ、やっぱり先のことを考えてしまうし、藤間先生の授業でも自分の将来をどうしたいか早いうちに持っていたほうが良いと言われるのですが、1期生の皆さんはレッスンを受けている当時、将来についてどう考えていましたか?

CAS第2期生たち。

CAS第2期生たち。

小林 キャリアに関しては自分でコントロールできるものではないので、かなえるためにがんばることは大事だけど必ずしもそれがかなうとは限らないと思うんです。ただいろいろな俳優さんがいる中でこの人の演技が好きだなとかこの人は面白いなと思う人がいたら、それを盗んだり、自分の武器を磨いたほうがいいんじゃないかと思います。

川﨑 藤間さんは「今日はこういう現場に行ってこういう監督がいてこういう俳優さんがいて……」と言った感じで、現場の話をレッスンの中ですごくしてくださると思うのですが、それは僕らもいつかそういう現場に行くと思ってしてくださっている話だと思うんです。その話を聞くたびに思うのは、トレンドをどれだけ敏感にキャッチしておくかみたいなことかなと。そのトレンドを無理に好きにならなくても良いと思うんだけど、例えばNetflixの上位にはこういう作品が並んでるとか、テレビドラマにはこういう作品が多いということがわかれば、やっぱり英語をしゃべれたほうが良いなとか、こういう知識は持っておいたほうがいいなと感じられる。それはちょっと大事かもしれない。

──また「スタジオのレッスン外で自分を作っていることは何ですか?」という質問もあります。

吉岡苑恵 私もやっぱり未来のことを考えて、自分なりにいろいろな場所に出向いたり、いろいろな作品を見たり、カルチャーを吸収しようとしているのですが、先輩方はもっと魅力的な自分になるために、CAS以外でどういう行動をなさっているのでしょうか?

等々力 私はお芝居をしたり自分を確立するうえで、自分が好きなことを好きだと言えるようになることが大事かなと思っていて。もともと私は好きだと思ったものについて調べるのが好きなんですが、かといってそれについて1時間しゃべれるほどではないなと思ったので、たとえば好きな画家さんについて調べたらそれをノートにバーっと書き出してみるとか、良いと思った俳優の映画を全部観るとか……良いと思ったもの、気になるものについてさらにとことん調べまくるようにしています。

伊島 私は一次募集でCASに落ち、入学のために貯めていたお金で、東京で一人暮らしを始めました。その後、二次募集で受かったので金銭的に大変だった……ということはあるのですが(笑)、とにかく一人暮らしを始めて1人で考えこむ時間が増え、当初はめちゃくちゃ落ち込んでいました。そんなとき、実家に帰ると親や猫に癒されることも多くて、普通の日常があるってすごく幸せなことなんだなっていうことを実感して、そこから家族の時間を大切にするようになりました。また皆さんの中にも頭で考えるのが得意な論理的思考型の人もいれば、感覚型の人もいると思うのですが、私はどちらかというと後者で、「今こういうものが流行っているから、こういうことをやってみよう」というような意識でインプットしたり、周囲と接することはできないタイプ。なので、できるだけ自分の気持ちを開いて、いろいろな人と話をするように意識しています。芝居をするにも誰かに共感してもらうことは大事だし、誰かに共感してもらうには自分も共感できないといけないと思うので。

伊島青

伊島青

川﨑 僕はCASとは別にダンスレッスンに通っていたんですが、CASのレッスンで振付稼業 air:manさんに教えてもらったことを、ダンスのレッスンに持ち込むことで小さなアウトプットの機会を作るようにしたんです。すると自分の成長を実感できることがありましたね。あと、僕はその日何を学んだかというその日のレッスンについて、noteで日記を書いていました。

──次が最後の質問となります。「演劇が好きという気持ちだけじゃ続けられないと感じたことありますか。そんなとき、自分を支えてくれた考え方や信念があれば教えてください」。

思方 演劇の仕事は、好きだという気持ちがないとできない職業だと思うのですが、でも好きという気持ちだけでは食べてはいけない職業でもあると思っていて。今までは演劇が好きだからがむしゃらになれていた人生だったのですが、この先その気持ちだけで生きていけるか、自信がちょっと揺らいでいるので、皆さんが「演劇が好き」という気持ち以外で支えになっている信念や、自分の夢の保ち方みたいなものがあれば伺いたいです。

伊島 私は事務所に所属しているので、CASの1年間が終わってから実は、CMや映画、舞台のオーディションをかなりたくさん受けているのですがずっと落ち続けていて……CASが終わったら何か変わるかもと信じていた部分、現実にぶち当たってしんどいなと感じていたのですが、一方で「ここにいれば何かが変わる」と人任せにしていた部分があるんじゃないかということは反省していて。CASで学ぶことって別に未来への保証ではないし本当に自分次第だなって。あと、これは私が人に言われたことなのですが「好きなことをやるためには、それ以外の9割でやりたくないこともやらなきゃいけない」ということで、自分が舞台に出たときのうれしさ、誰かに喜んでもらえたという感覚が好きで演劇をやっているけれど、その楽しいところだけをやるのが役者ではなく、それ以外のことも含めて役者の仕事だと思うようになりました。

小林 俺は逆に、この1年を通して「好きだ」という気持ちがあれば演劇を続けていいんだなって思うようになりました。映像の仕事も経験があったから、俺は別に演劇じゃないとダメだという気持ちも特にはなかったんですが、CASでの1年間を経て演劇がもっともっと好きになったんです。また松尾さんやオクイさんが小劇場の舞台で日替わりゲストとして出演して、本気で人を笑わせようとしてる姿や、後で「あそこはもっとこうしたかった」と本気で悔しがっている姿を見てカッコいいなと思ったし、目の前の人を楽しませることに全力で向き合える、そういう人生でありたいなって思ったんですよね。その思いがある限りは続けていきたいなと思ったから、俺は好きって気持ちだけで突っ走っていいんじゃないかと思うようになりました。

等々力 私は京都から上京してきてCASに入ったんですけど、最初は知り合いもいないし、CASにしか友達がいない状況で、演劇を好きでい続けられるのか、なぜ自分が演劇を続けるのか、途中でわからなくなるんじゃないかと思っていたんです。でも逆に、大学で演劇に没頭していたときよりも、バイトがあったり演劇以外のこともやらないといけない今のほうが、演劇のことを好きだと感じることが多くなりました。なので、演劇が好きだという気持ちがあるならもうちょっと自分のことを信じて続けてみたら良いと思うし、もしそんなに好きではないなと感じたら離れて違うことをやってみると「やっぱり演劇好きだな」って感じられるかもしれないと思う。また逆に、他にもっとやりたいことが見つかったら、無理して演劇を好きになろうとしなくても大丈夫なんじゃないかと思います。

川﨑 僕は最初、たとえ演劇が好きでも、プロを目指さないんだったら、売れることを目指していないなら、好きと言ってはいけないんじゃないかと思っていたんです。でも別に仕事をしながら趣味で演劇をやっていたっていいと思うし、そういう人たちがプロよりも演劇が好きじゃないかというと全然そんなことはないなと思って。いろいろな好きのレベル、種類があるし、いろいろな演劇の関わり方があるから、そう思うと売れることが正義っていうことではないなと思うようになって楽になりました。これは鴻上尚史さんの言葉ですが、たとえば演劇スクールの先生とか、小学生の前で舞台をやっている市民劇団の人たちや、演劇の裾野を広げる活動をしてる人たちだと。確かにプロとして見せるだけが演劇への関わり方ではないと思うし、演劇を身近なものとして見せる関わり方はいろいろあるんだと思ったら、自分の好きな気持ちを疑わなくて済むんじゃないかと思います。

等々力静香

等々力静香

もちろん、CASのみんなが、俺が知らない演出家たちの話をしているのを聞くと「俺、何にも知らないな。演劇そんなに好きじゃないのかな」って思って落ち込んだりもするけど、個人の興味やスタンスの違いもあるんだと思うようになりました。

小林 (うなずきながら)俺らも10年後、20年後に全員俳優をやっているとも限らないし、多分辞める人もいると思うけれど、結局自分がどういう生き方をしたらハッピーかということが一番大事じゃないかなと思います。演劇が好きだからと言って演劇をやり続けなければいけないというわけでもないし、何が自分にとってハッピーかということを模索し続けることが大事なのかなと思います。

第2期生 (それぞれにうなずく)。

等々力 じゃあみんな、3月の発表公演まで……(と1期生同士で顔を見合わせて)

第1期生 がんばってね!

第2期生 (それを受けて、顔を見合わせて)はい! ブルードラゴンもがんばってください!

CAS第1期生と第2期生。

CAS第1期生と第2期生。

1期生プロフィール

小林宏樹(コバヤシヒロキ)

1996年生まれ。2017年、倉本聰作「走る」で俳優デビュー。以降は、舞台やナレーション、TVドラマを中心に活動。特技はサッカーとクラヴ・マガ。JAPAN MENSA会員。主な出演作にキ上の空論「幾度の群青に溺れ」、朗読劇「エモっ!」など。

川﨑志馬(カワサキシマ)

2000年生まれ、東京都出身。2021年より活動を開始。演劇公演だけでなく、ダンス公演・映像作品・声の出演などにも取り組んでいる。自主公演では脚本や「銀河鉄道の夜」「楽屋」などの演出にも挑戦。特技は歌、アクション、篠笛。趣味は銭湯めぐり。

伊島青(イジマセイ)

1997年生まれ。上智大学卒業。舞台・映画・ CMなどに出演。主な出演作に映画「STRANGERS」、CM「大戸屋に帰ろう」、Uber Eats「今日も、誰かが、丁寧に」など。

等々力静香(トドロキシズカ)

2001年、愛知県生まれ。京都芸術大学舞台芸術学科卒業。卒業制作で企画・演出・出演を行い、学長賞受賞。特技は歌、ダンス、寿司握り。趣味は美術館巡りとお絵描き。来年1月から2月にかけてCOCOON PRODUCTION 2026「クワイエットルームにようこそ The Musical」に出演予定。