そのとき、何を思い、何をしましたか? 第4回 [バックナンバー]
それぞれの思いを胸に動き出す、劇作家、演出家、俳優、ダンサー、プロデューサーたち
──長い眠りについた劇場、そして舞台人たちの思い
2020年5月5日 19:00 6
5月6日までとされていた緊急事態宣言の期限が、5月4日に5月31日まで延長された。日本では、新型コロナウイルス感染症の広がりがいまだ収まらず、予断を許さない状況だ。今や日々の景色や生活のスタイルは様変わりし、劇場も静かに再開のときを待っている。
ステージナタリーでは、さまざまな思いのもとに決断を下した舞台人たちの声を、これまで数回にわたって届けてきた。ジャンルを飛び越え、劇作家、演出家、俳優、ダンサー、舞台スタッフ、プロデューサーらが心境を明かした第1回(参照:劇作家、演出家、俳優、ダンサー、プロデューサーたちが語る | そのとき、何を思い、何をしましたか? 第1回)と第3回(参照:少しずつ前へと進む、劇作家、演出家、俳優、舞台スタッフたち | そのとき、何を思い、何をしましたか? 第3回)。そして第2回(参照:客席から舞台の明日を支える | そのとき、何を思い、何をしましたか? 第2回)では、観客が舞台を支えるための手段としてクラウドファンディングやドネーションなどを紹介した。
今回は、「そのとき、何を思い、何をしましたか?」というテーマはそのままに、この状況下で通常の劇場公演とは異なる形態の表現に挑んだ舞台人たちに焦点を当て、心の内を語ってもらった。“今、自分にできることは何か”を模索し、行動を起こした18組の思いとは。
構成
【舞台人たちが思いをつづる】
劇場公演ではない形での創作活動を行った18組の舞台人たちが、それぞれの思いや実施後の心境を語る。
加藤拓也(劇作家・演出家 / 劇団た組)
インターネット公演「要、不急、無意味(フィクション)」をSkypeで実施(インターネット公演「要、不急、無意味(フィクション)」を行ったのは)劇場で上演できないこと、上演しているものを中継するスタイルがいくつかのカンパニーで続いたこと、演劇を求める人々に応えようといくつかのカンパニーが過去作品の配信を行ったこと、けれどそれは普段僕たちが演劇と呼んでいるものとは違うということ、またそれを皆さん自覚のうえで行っていることから僕は改めて演劇の性質をどこに担保していて、求めて、また求められているのか等、対自分の中で再検討再定義するためです。
上演にあたって、今まで自分の中で蓄積されてきた個人的な演劇の性質を設定しようと試みました。この形での発表を経て、性質についてや、再検討再定義したもっと長めの所感を別途まとめており、その所感が僕にとっては一番重要でした。それから今後あるとすれば意識したいことは今回の形での鑑賞までの観客の導線でしょうか。劇場ではないので鑑賞するまでの導線にさまざまな可能性が残されてると思います。また、次回、この形での発表があるとするならばその導線へのアプローチをもっと試したいです。
一度取り組み終え、こういったプラットフォームでの作品には自分の求める性質は持ち込めるかもしれないし、持ち込めないかもしれません。という、まだまだ未開発な場所だということを感じました。作品の中身に良いようにも悪いようにも影響するポイントやリスク、可能性がまだ見えていないと感じました。しかし劇場公演とは明らかに違います。一緒にするべきではないです。これはこれ、それはそれです。この形式のものを何と呼ぶか、生放送のドラマや映画と何が違うのか等々は再定義の意図等をもって、ある程度取り組んだ人にしかわからないのではないかと思います。僕個人的には、このプラットフォームに作家が求める創作に必要な性質が担保できるのであれば、もっといろいろ試していいと思いますし、個人的にはまだ試すつもりでいます。いずれこの形の発表が何と呼ばれるようになるのかはわかりませんし、試していった結果、僕の求める性質の担保はできなかったからもう二度とやりませんとなるかもしれません。演劇は演劇でまた劇場でやりたいです。
観るハードルの低さに劇場公演のターゲットが広がるかもという意見がありました、が僕はイマイチ「ピン」とは来ていません。一般のお客さんが劇場公演とは直結するとは感じていません。
劇団た組HP
劇団た組 (@wawonkikaku) | Twitter
劇団た組 - YouTube
※現在はインターネット公演「要、不急、無意味(フィクション)」の視聴は不可。
上山竜治(俳優)
「Shows at Homeプロジェクト」を立ち上げ、総勢36名が歌う「民衆の歌」動画を投稿自粛の日々が続き、自分にできることは何だろうと悶々と考えている中、「僕らには歌がある。歌を届けたい」、そう思いました。
まずは、俳優が自主的に立ち上がって発信していくことが大切だと思い、闘うすべての方へシンプルに歌を届けるということを重視しました。
「民衆の歌」の動画を発信するまでの間は、舞台の初日を迎えるような、希望と高揚感にあふれた日々でした。
自分1人では微力でも、一致団結して同じ思いが集まれば、こんなにも大きな力になるんだということを教えていただいたと思います。
動画には医療関係者の皆様を含め、たくさんの方から「いつの間にか涙が流れてきて、疲れていた自分に気付きました。明日からもがんばれそうです」といった、ポジティブなコメントをいただきました。歌や芸術は、溜まったものを発散させて、心に栄養を与えてくれるものだと信じています。
早く元気な姿で、皆様と劇場でお会いできることを心から願っています。
上山竜治 official site
上山竜治 official (@ryuchan_0910) | Twitter
上山竜治- Ryuji Kamiyama (@kamiyama_ryuji_0910) | Instagram
北尾亘(ダンサー・振付家・俳優 / Baobab・さんぴん)
「Baobab北尾亘×カラダレッスン」をYouTubeで継続的に展開多くの人が集うことで完成する舞台芸術。自然と“いま自分にできること”を、探し求めるようになりました。というのも、身体・ダンスを通して舞台以外の場で人とつながれるときに、ようやく自身の存在意義を見いだせると感じたからです。
「Baobab北尾亘×カラダレッスン」を始めるにあたり、“誰にも求められていないかもしれない”という意識を持つようにしました。新たなアクションは0からの冒険です。誰しもが苦境に立つ今だからこそ、価値が生まれる可能性は未知でありながら無限でもあると信じています。とはいえ、慣れないことは発見の連続! レッスン映像の収録は反応のない霧の世界に身を投げるようでした。そのため、内容を精査する中で味わったのは、思考が研ぎ澄まされていくような感覚。これは作品創作に光が差す瞬間とも似ていました。
「Baobab北尾亘×カラダレッスン」(第1弾から第6弾までYouTubeにて公開中)をやってみて、予想以上の反響に驚きました。「毎日実践してカラダもココロも潤っている」という喜びの声が届いています。
この情勢は、身体の尊さに気付くキッカケにもつながっていると感じます。前向きに、0からのアクションを探していきたいです。
Baobab
北尾亘/Baobab (@wataru_159) | Twitter
北川大輔(脚本家・演出家・プロデューサー)
オンライン会話劇「『未開の議場』-オンライン版-」をYouTubeで配信年初のニューヨークの会議で今年度の共同事業の話をした中国・香港の関係者と新型コロナウイルスの話をしていたら、瞬く間に日本にやってきた。経営している劇場を3月初旬の比較的早い時期に閉じたので、金策と風評の双方から苦しんだ。その後、制作を受託していた欧州からの招聘公演も中止になり、正直この時期の進行は各所への差配と会社の会計期末とが重なりもうあまり記憶がない。消沈の中で企画したオンライン会議劇「『未開の議場』-オンライン版-」を蛮勇猛々しい俳優陣の助力を得て4月半ばと5月頭(英語字幕版)に上演した。当然演劇向きにあつらえた台本なのだから生の空間のほうが良いに決まっているが、このインタフェースでできる限りをやったつもりだ。今の自分はといえば、今回の禍で飛び交ういたずらに耳目を引くだけの、半端で鈍らな言葉に疲れている。可視化したこの界隈と世間と自分のズレの一端を思い、これを容認し懐抱して今後を考えるには、どうにもまだ心が折れている。
だだんだん|note
未開の議場オンライン版 公式HP
きゅうかくうしお(辻本知彦・森山未來)
YouTubeで定期的にオンラインセッションを配信演劇、ダンス、ライブなど、さまざまなパフォーマンスが中止・延期に追い込まれ、大した保証を受けられる確証もない大多数が息も絶え絶えな現在。
今だからこそできるパフォーマンスを目下模索中であり、その模索、それすらを観客、あるいは視聴者とどう共有できるかを、やはり模索中である。
現在の混迷を極めた世界より以前にあった、恐らく、混迷を極めた世界を見て見ぬ振りをしていた僕らの世界。
この模索まみれの先には、そんなかつての綻びかけていた世界が、実は少しはマシになるんじゃないかと想像している。
その想像を現実にするためには、今までのように、もしくは今だからこそ、みんなでやはり模索し続けること以外にはない、ということは確信している。
KYUKAKUUSHIO きゅうかくうしお | we disclose the process of our thoughts
きゅうかくうしお (@kyukakuushio) | Twitter
きゅうかくうしお公式チャンネル - YouTube
劇団Patch(中山義紘)
過去公演のダイジェスト映像をYouTubeで公開、LINE LIVEを積極的に実施「今年の劇団Patchはひと味違うぞ!!」と2020年の劇団結成8周年を、1年計画で活気付けようと企てていた企画がすべて練り直しに。
そこで、過去本公演作品のダイジェストを制作し公開しよう!!と、生配信イベント!! YouTube活性化!!を第1歩として企画を走らせました!!
企画を始めたときに意識したのは、まず自分たちが元気な姿を見せる!!ということ。
明日が楽しみになるエンタメを届ける!!という、劇団としての本質は曲げず、流されず、劇団Patchの歴史と今と未来を多くの人に面白がってもらうこと。
そして、応援してくれる皆様に寄り添って手を取り合って進んでいくということ!!を重視しました。
4月27日に劇団結成記念生配信をLINE LIVEで行い、生に勝るものはないにしても、応援してくれている方々とのつながりを強く感じることができました。
こんな事態だからこそ、応援していただいている皆さんと共に進んでいきたいと思っています。
手段が変わっただけで、これまでと劇団の動き方は変わっていないと思います!!
芝居作りと一緒でトライアルアンドエラーを繰り返しながら、光を目指して進んでいくしかないと思っております。
また、劇団員とのコミュニケーションも明らかに増えました。
この先には確実に劇団の未来が見えているので、どの選択肢を通ってそこへいくのか、その選択に劇団員が胸を躍らせてます!!
そして、劇団Patchは明日もさまざまな仕掛けを企てる!!
「今年の劇団Patchはひと味違うぞ!! 見てろよーー!!」
劇団Patch Official site
劇団Patch【公式】 (@west_patch) | Twitter
劇団Patch - YouTube
近藤良平(ダンサー・振付家 / コンドルズ)
「こんどうさんのたいそう」をTwitterで継続的に展開ふりかえると今までは常に、人に出会ってする仕事でした。たまたまな感じで、「工作」するように試してみたら少し気分がよくなりまして配信してみました。おうちにいることを、ポジティブにとらえ、少しでもからだを動かしてもらえたらなと思います。
普段SNSをさほど利用していないので、人々への伝達、広がり方はよくわかりません。その場の思いつき程度の映像ですが、早送りや映像加工はせずに、皆さんもすぐにまねなどして参加できればと思ってます。
1人作業なので、良し悪しのチェックはなしで、思いつきを貫く!感じです。小学校の頃から、小さなゲームや手遊び歌などを作ってたのを思い出し、自分なりに「昔のままだー!」という発見。「日記」を書くような感じがする。
観客というかたまたま見てしまった感じかもですが、皆さん、それなりに楽しんでいるかなと。かつてのNHKでの「サラリーマン体操」を思い出すなど。どちらにせよ、動いたりすることを、ポジティブにとらえてもらえればうれしいです。
本日まで続けてみて、皆さま方もアイデアを出すなど、継続するヨロコビを感じています。「緊急事態宣言」が終わるまでは引き続き、やります。
近藤良平 (@ryoheikondo0) | Twitter
CONDORS - Dance Company
condors (@condorsofficial) | Twitter
新国立劇場
オンラインで「巣ごもりシアター」を展開3月の段階では公演再開に向けて、オペラ・舞踊・演劇の各ジャンルともリハーサルを行っていました。しかし、状況はどんどん深刻になり、次々と公演が中止に。少しでも成果をお客様に届けたく、3月末のダンス「DANCE to the Future 2020」の一部をライブ・ストリーミング配信し、4月上旬に上演予定であったオペラ「ジュリオ・チェーザレ」は、通し稽古とインタビューを映像収録、配信しました。
緊急事態宣言後はリハーサルすら不可能となりましたが、そんな中「再び安心して劇場にご来場いただける日が訪れるまで、舞台芸術の力を支えに“巣ごもり”していただきたい」という願いから、インターネット上で「巣ごもりシアター」を4月10日にスタートしました。オペラ、バレエの公演記録映像を無料配信し、演劇部門からは新国立劇場のために書き下ろされた戯曲をデジタルブックの形式で無料公開しています。これが大きな反響を呼び、映像配信は各作品3万回以上の再生を記録、オペラを全編観るのは初めてという方からも感動の声が多く寄せられたのは、うれしい驚きでした。戯曲もそれぞれ自由にお楽しみいただいている様子をSNSで拝見し、舞台芸術の可能性を改めて感じています。
ライブでの公演が舞台芸術の醍醐味であることは言うまでもありませんが、今はオンラインで皆様とつながり、劇場で再会できる日を待ちたいと思います。(文 / 新国立劇場 広報室)
巣ごもりシアター
[巣ごもりシアター]おうちで戯曲 | 新国立劇場 演劇
第7世代実験室
リモートリーディング「リチャード三世」をYouTubeで展開演劇の魅力はもちろん、観客が作品を独占できる劇場にあるけれど、入り口として拡散できる側面があってもいいのではないかと思っていました。そこで、この機会に(外出)自粛中の演劇ファンの皆様はもちろん、今まで興味がなかった方の入り口となるコンテンツを作ろうと考えました。
重視したのは、古典を扱うことです。
動画は入り口にすぎず、視聴者に「劇場で観てみたい」と思わせたい。それにはリモート映像では完結しない、非現実的で壮大なドラマのほうがいいと思いました。古典は退屈で難しいイメージですが、演劇にしかない面白さが詰まっている。それをぜひ、なじみのない人にも知ってほしくて、ドラマのような連続モノとして1話15分程度の尺で、カッコいいサブタイトルを付けたり(笑)、できる限り工夫をしました。
実は、実験的に第1話を作ったとき、全員に“対カメラ”の演技をお願いしたんです。
基本的に演劇では、観客は客席という定点から舞台を観ています。そのため、舞台上では俳優がアップやルーズ、フォーカスを自分の演技で見せる必要がありますが、この状況下なら、定点カメラでも退屈しない画が撮れるのではないかと。一方、声はマイクが拾うので「映画を撮るときのような自然さで」とお願いしたところ、映画的要素と演劇的要素が合わさった面白い表現になったと思います。
数話を終えて、「劇場で続きを観たくなった」「いつか上演してほしい」と言っていただけてホッとしました。私たちのような若輩者が古典を扱うのは勇気が必要だったので、演劇ファンの方に怒られるのではないかと思っていたんです(笑)。観劇経験のない方にもご感想をいただき、もし入り口として貢献できているなら、とてもうれしいです。
たくさんの俳優さんにご協力いただいているので、あわよくば皆さんのことも応援してもらえたら……(笑)。
第7世代実験室 (@dai7sedaizikken) | Twitter
谷賢一(作家・演出家・翻訳家 / DULL-COLORED POP)
「コロナに負けず演劇を! ダルカラ配信祭」をYouTubeで実施中止になったイベントを、配信でもいいからぜひ上演してほしいという強い要望が観客からありました。「お金を払ってでもいいから観たい」と言って、10万円もの金額をオファーしてくださって。大金ですが、それだけでは足りず、広くカンパを募れば成立する(=俳優・スタッフにギャラが払える)かなと思い、やってみました。
こだわったのは、まず基本無料で誰でも観られるということ。いわゆるフリーミアムの考え方です。そのうえで、我々の試みを面白いと思ったり、支援したいと思った人のみカンパにご協力いただく。そして映像のクオリティを高くすること。最終的に10名近いスタッフが携わり動画が作成されました。
やはり家で観られる・無料で観られるというのはハードルが低く喜ばれたようで、とても好意的な声が多かったのですが、いくら映像の質を高めても、演劇の代替にはならないのだなという至極当然のことを再発見しました。続編を期待する声も多くありましたが、あくまで私は演劇作家なので、早く演劇をやれる環境を取り戻したいです。
コロナに負けず演劇を! ダルカラ配信祭 | DULL-COLORED POP
谷賢一 (@playnote) | Twitter
関連記事
Momoko Kawano @momo_com
"それぞれの思いを胸に動き出す、劇作家、演出家、俳優、ダンサー、プロデューサーたち"
──そのとき、何を思い、何をしましたか? 第4回 https://t.co/F0uokjbL7W