「タタラの唄姫」少女たちが唄い戦う!“ダークアクションライブステージ”の稽古に密着|琴音遥役:河内美里、出雲あずみ役:星守紗凪、脚本・演出:松多壱岱に聞く「ココに注目!」

マスクプレイミュージカルを数多く手がけている劇団飛行船は現在、マスクプレイミュージカルのみならず、さまざまな演劇作品の企画・上演を行っている。劇団飛行船が企画・原作を手がけるオリジナル作品、舞台「タタラの唄姫」は、荒廃した日本を舞台にした“ダークアクションライブステージ”。松多壱岱が脚本・演出を務める本作では、悪霊を滅すために、“唄”と“刀剣”を武器に戦う少女たちの姿が描かれる。

本特集では、6月下旬に行われた稽古のレポートを掲載。また、琴音ことねはるか役の河内美里、出雲いずもあずみ役の星守紗凪、そして作品の生みの親である松多に、メールインタビューを通して公演にかける意気込みを聞いた。なお、稽古場レポートには本編のネタバレが一部含まれるため注意してほしい。

取材・文 / 興野汐里撮影 / 藤田亜弓

舞台「タタラの唄姫」稽古場レポート

チェーンソー vs. 刀

「タタラの唄姫」の舞台となるのは、人間に憑依した悪霊の仕業によって荒廃した日本。東京都八王子市裏高雄町にある高雄山の中腹に、結界で守られた学舎・桜花妖錬高等学校おうかようれんこうとうがっこうがあった。そこに通う少女たちは、悪霊たちから国民を守るため、“唄”で剣士に力を与える“唄姫”と、“唄の揺らぎ”を受け悪霊を滅すことができる“剣士”が、“唄刀双うたかたそう”と呼ばれる2人組を結成。河内美里演じる“唄姫”琴音遥、星守紗凪演じる“剣士”出雲あずみがタッグを組むところから、彼女たちの学校生活が始まる。

桜花妖錬高等学校で鍛錬を積んだ少女たちは、倉知玲鳳演じる呪術師の美山みやまれいが束ねる悪霊に憑依された少女たち、安藤千伽奈演じるゑい、西葉瑞希演じるちよ、山﨑悠稀演じるすずらと、激しい戦闘を繰り広げることになる。

本番を約1カ月後に控えた6月下旬、編集部が稽古場を訪れると、第16場の殺陣稽古が行われていた。第16場は、遥やあずみの同級生である2人、佐倉初演じる“唄姫”神楽かぐら柚乃ゆの、鶴見萌演じる“剣士”伯耆ほうき秋菜あきなが力を合わせてちよに挑むシーンだ。

「ちょうちょ、ちょうちょ、なのはにとまれ」と無邪気に歌い、狂気的な笑顔を浮かべて、彼女の武器であるチェーンソーを振りかざすちよ。秋菜は、まゆにしわを寄せながら、苦悶の表情でちよと刃を合わせる。その後、殺陣指導を務める押田美和の調整が入り、ちよと秋菜によるアクションシーンの細かな修正が行われた。

ちよ役の西葉瑞希(左)。
伯耆秋菜役の鶴見萌(中央)。
左から伯耆秋菜役の鶴見萌、神楽柚乃役の佐倉初。

呪術師登場…さらに広がるダークな世界

第16場の殺陣稽古終了後、登場人物の動線や立ち位置を確認するミザンス稽古がシーンごとに行われた。ミザンス稽古は、呪術師の玲と、悪霊に憑依された少女たちの交流を描く第5場からスタート。玲役の倉知はこのシーンの稽古が始まる前から、台本を手に1人自主稽古をし、セリフを入念に確認していた。

第5場の冒頭では、椅子にもたれて眠ってしまい、悪夢にうなされる玲を、ゑいとちよが心配そうに見つめている。先ほど行われた第16場で、猟奇的な一面を見せていたちよも、母のように慕う玲の前では純粋な子供のような表情を見せる。「玲……大丈夫?」と玲を気遣うゑいとちよと相反して、玲に対して冷たい言葉を吐き捨てるすず。ゑい、ちよ、すずの3人が生み出す温度差が、物語のシリアスさをより際立たせ、観衆を「タタラの唄姫」のダークな世界へ引き込んでいく。

第5場を一度最後まで通して稽古したのち、演出の松多が倉知に「玲のセリフなのですが、恨みを込めて話すパートと、悲しみをにじませながらしゃべるパートを切り分けてみては?」とアドバイス。倉知は松多の言葉にうなずき、再び同シーンの稽古に戻る。すると、松多は「良いですね。全体の演技がだいぶ引き締まったと思います」と倉知らキャスト陣をたたえた。

美山玲役の倉知玲鳳。
左からゑい役の安藤千伽奈、美山玲役の倉知玲鳳、ちよ役の西葉瑞希。
すず役の山﨑悠稀。

“三組三様”の選ばれし少女たち

続けて、遥やあずみが桜花妖錬高等学校へ入学する、第2場から第7場の稽古へ。舞台下手には、生徒役を演じるキャスト6人が整列し、舞台上手には、桜花妖錬高等学校の校長・篠笛加奈役の新田恵海と、6人の担任教師・雲藤蛍役の代役を務めるアンダースタディーが並んだ。なお、あずみ役の星守と秋菜役の鶴見は、スケジュールの都合によりこのシーンの稽古を欠席。アンサンブルキャストがあずみと秋菜役の代役を務めた。

左から三味風香役のあわつまい、琴音遥役の河内美里、神楽柚乃役の佐倉初。

加奈が「校長の篠笛加奈だ。それでは“唄刀双”を任命する」と威厳たっぷりに生徒たちに言葉を投げかけると、ピリッとした空気がステージ上に漂う。声優として活動する加奈役の新田は、校長らしい風格を漂わせた低いトーンの声色を見事に操って、1人ひとり生徒の名前を呼び、“唄姫”にマイクの形をした神籬ヒモロギを、剣士には“刀剣”を授ける。それぞれ武器を受け取った生徒たちは、自分が“唄刀双”に選ばれたことをまだ信じきることができていない様子だ。彼女たちは、これから激しい闘いに身を投じることに戸惑いを感じつつ、ただ真っすぐに加奈の姿を見つめていた。

篠笛加奈役の新田恵海(右)。
演出をつける松多壱岱。

毅然とした佇まいで役に入りきっていた新田だったが、緊張感に満ちた入学式のシーンの稽古が終わると、いつもの柔和な表情に戻り、「校長、怖すぎませんでしたか……!?」と松多に確認する。松多も笑顔で「大丈夫です! 今のイメージで良いと思いますよ」と回答。また松多は、生徒役を演じる6人に向けて「それぞれの“キャラ感”と、各ペアらしい“カップル感”をもっと出せると良いですね」とオーダーする。生徒役の6人は2人1組に分かれて打ち合わせをしながら、自身が演じるキャラクター像を固めていく。「自分たちならではの“カップル感”を醸し出すにはどうしたら良いか」と相談し合う生徒役のキャストたちは、まるで本当の同級生であるかように楽しげで、稽古場の至るところから「フフフ」とにぎやかな笑い声が聞こえてきた。

手前左から三味風香役のあわつまい、備前ハナビ役の梅原サエリ。
舞台「タタラの唄姫」稽古の様子。

“唄刀双”に選ばれた3組のうち、第1班は正義感が強く真面目な遥、天真爛漫で少々大雑把なところもあるあずみという凸凹コンビ。「困った方と同じ班になりました……」という遥のセリフが表すように、遥のあずみに対する第一印象はあまり良くないことが伺える。第2班は内気でおとなしい柚乃、社交的でうっかり者な一面がある秋菜。一見すると正反対の2人だが、意外にも互いに好印象を抱いているようだ。第3班は、あわつまい演じる“唄姫”三味風香と、梅原サエリ演じる“剣士”備前ハナビのコンビ。もともと知り合いであり、すでに信頼関係ができあがっている2人の関係性を、あわつと梅原は身体的な距離感の近さで示した。

備前ハナビ役の梅原サエリ(中央)。
舞台「タタラの唄姫」稽古の様子。

第6場から第7場にかけては、“唄姫”と“剣士”が心身共に同調することによって“揺らぎ”を獲得するために鍛錬を重ねる少女たちと、“未覚醒”のまま遥とあずみが悪霊を倒すために緊急出動する様が描かれる。“唄刀双”になったものの、なかなか打ち解けることができなかった遥とあずみ。しかし、特訓中に交わしたふとした会話をきっかけに、互いのバックグラウンドを知ることに。入学当初は楽観的なあずみに冷たい視線を向けていた遥だったが、あずみの過去を知ったことで、彼女と共に戦う覚悟を決める。そんな遥の心の中にたぎる炎を、河内は力強いまなざしで表現した。

残念ながらこの日、星守&河内ペアの演技を観ることはかなわなかったが、これまでにも舞台作品で共演経験のある2人のタッグがどのような化学反応を生むのか、ファンは楽しみにしておこう。

舞台「タタラの唄姫」稽古の様子。
琴音遥役の河内美里。
河内美里・星守紗凪・松多壱岱メールインタビュー キャスト・クリエイターの3人から見た、舞台「タタラの唄姫」の注目ポイントは?
河内美里扮する琴音遥のビジュアル。

河内美里(琴音遥役)

──出演者である河内さんから見た、舞台「タタラの唄姫」の注目ポイントは?

楽曲やそれぞれの戦闘スタイル、キャラクター達の思惑や関係性等、全てが作品全体のテーマや世界観を創り上げていると感じます。それを比較的近い距離感で臨場感たっぷりにお楽しみいただけるのも今回の醍醐味だと思います。

──河内さんは本作で“唄姫”琴音遥役を務めます。ご自身が演じるキャラクターをどのような人物と捉えているか、また、遥という役柄を立ち上げる際に意識していることを教えてください。

ネタバレを含んでしまいそうであまり詳細にお話しするのは難しいですが……唄姫としての道を歩むこと、あずみと出会ったこと、自分の運命をひとつひとつしっかりと受け止めて生きる芯の強い子だなと思っています。遥を演じるにあたっては、あずみ含め周りの仲間が個性豊かな子ばかりなので、それに振り回されている中で自然と遥という人間が構築されているなと、現段階では思っています。

星守紗凪扮する出雲あずみのビジュアル。

星守紗凪(出雲あずみ役)

──出演者である星守さんから見た、舞台「タタラの唄姫」の注目ポイントは?

まずはなんと言っても、プレパフォーマンスでも演じさせていただいた唄と共に繰り広げられる戦闘シーンですね。
各ペア・キャラクターによって抱えているものも違うので、唄と戦いにて表現される個性に注目していただきたいです!
そして、我々にとっての敵となる人物たちにもそれぞれの物語があり、魅力がいっぱいです。
既にSNSにて展開されている「篠笛加奈の記憶」もお見逃しなく!

──星守さんは本作で“剣士”出雲あずみ役を務めます。ご自身が演じるキャラクターをどのような人物と捉えているか、また、あずみという役柄を立ち上げる際に意識していることを教えてください。

あずみは天真爛漫!の権化です。
普段のちょっと(?)おバカなところも、戦闘での燃え上がる闘志も、彼女の魅力です。
しかし、その明るさの奥には消えない傷を抱えています。それが一体なんなのか……。
とにかく「やぁずー!」と全力で楽しんで演じたいと思います!
さらに、唄刀双として共に戦う遥と対照的すぎるところも楽しんでいただければと思います!

松多壱岱

松多壱岱(脚本・演出)

──舞台「タタラの唄姫」の脚本・演出を手がける松多さんから見た、脚本における注目ポイント、演出面での見どころを教えてください。

「タタラの唄姫」は、唄と刀剣、そして少女たちの“揺らぎ”によって悪霊に立ち向かうダークアクション群像劇です。
脚本では、国に命運を託された若き唄姫と剣士たちが、過酷な戦場で葛藤し、成長しながらも絆を育んでいく姿に注目ください。
演出面では、歌唱と殺陣、ダンスが融合する“揺らぎ”のシーンを。
役者、振付、殺陣、照明、音響、みなが全力で魂が響き合う瞬間を視覚化していきます!
また、ライブステージとしての熱量と、演劇としての物語性を融合させたステージにご注目ください。

プロフィール

河内美里(カワウチミサト)

1997年、千葉県生まれ。俳優・シンガーソングライター・声優。「ミスiD 2014」で佐武宇綺賞(9nine)を受賞した。主な出演作に、テレビアニメ「僕のヒーローアカデミア」、「舞台版『PSYCHO-PASS サイコパス Chapter1―犯罪係数―』」、舞台「ROAD59 -新時代任侠特区-」、舞台「やがて君になる」、舞台「リコリス・リコイル」、「『マッシュル-MASHLE-』THE STAGE」などがある。

星守紗凪(ホシモリサナ)

1996年生まれ。俳優・声優・歌手。近年の出演作に、テレビアニメ・ゲーム・ライブ・舞台「アサルトリリィ」シリーズ、舞台「女王ステ」シリーズ、「降臨SOUL」シリーズ、「イリス・ノワール」シリーズ、「スクールアイドルミュージカル」、舞台「カミシバイ -開-」などがある。

松多壱岱(マツダイチダイ)

演出家・劇作家・演劇プロデューサー。2002年、ACTOR'S TRASH ASSHを旗揚げ。物語性・エンタテイメント性のある作品の演出を多数手がけており、代表作に舞台「Cutie Honey Emotional」、「舞台 ヨルハ」シリーズ、「FINAL FANTASY BRAVE EXVIUS 幻影戦争 THE STAGE」、自身のオリジナル作品“白狐丸シリーズ”などがある。