「そのとき、何を思い、何をしましたか?」第3回の寄稿者。

そのとき、何を思い、何をしましたか? 第3回 [バックナンバー]

少しずつ前へと進む、劇作家、演出家、俳優、舞台スタッフたち

──長い眠りについた劇場、そして舞台人たちの思い

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ノゾエ征爾(俳優・脚本家・演出家 / はえぎわ)

ノゾエ征爾

ノゾエ征爾

無観客でやった1回きりの本番のあの虚しさは一生忘れないだろう。去る2月末、初日2日前に公演中止が決定した。首相から自粛要請が出された。主催が放送局である性質上仕方ない。とはいえ必死こいて作り上げた新作。わがまま言って無観客での本番をやらせてもらった。どんな作品に行き着いたのかを観たかったわけだが、虚無しかなかった。目の前に観客あってこその演劇であることを身に染みて痛感した。続いて3月末、シアターコクーンでの初演出作品が始動した。日に日に深刻化し、3密しかないこの稽古ってダメなんじゃないか? バレなきゃいいのか? いいわけない。と危惧するうちに緊急事態宣言が出され中止となった。
生活者に根付く演劇ならば、生活者が納得する責任ある判断が必要だ。
この先地球規模でのコンマリ的な淘汰と選択が進むとして。そのとき演劇が「ときめくモノ」であるために、今軽やかな思考が求められる。と言いつつ、1歳半の息子との生活に追われるばかり。なかなか得られなかった息子との時間。この点に限ってはご褒美と考えている。ただ腰がキツい。

ノゾエ征爾
はえぎわ
ニッポン放送プロデュース はえぎわ番外公演「お化けの進くん」|ニッポン放送EVENT
母を逃がす | Bunkamura

畑澤聖悟(劇作家・演出家 / 渡辺源四郎商店)

畑澤聖悟

畑澤聖悟

渡辺源四郎商店第33回公演「大きな鉞の下で」はGWの東京公演と5月中旬の青森公演、計11ステージを予定していた。稽古は3月7日にスタートしたが、緊急事態宣言発出前の4月3日に中止(1年の延期)を決めた。どう考えても東京・青森間の移動は無理である。劇団員は一様に悔しさを述べたが、同時に自分の職場のことを語った。飲食店店員、保育士、小学校教員、市役所職員、看護師である彼らは、自分の職場を、お客様を、子供たちを、患者を守るためには仕方がない、と口をそろえた。我々は東京でなく青森で生活することを選び、同時に演劇を生活の中心に置くことを選んだ。そのためには自立した社会人となり、仕事を持たなければならない。そして青森だけでなく東京やいろんな街で公演を打ち、作品のクオリティを証明し続けなければならない。どちらも地域の力となり、地域を守る仕事である。今回、1つを諦めたが、1つを貫くことはできた。そう考えている。

渡辺源四郎商店
渡辺源四郎商店 | Facebook
渡辺源四郎商店 (@nabegenhonten) | Twitter

藤田俊太郎(演出家 / 虹艶Bunny)

藤田俊太郎(撮影:宮川舞子)

藤田俊太郎(撮影:宮川舞子)

私の演出作では東宝製作「絢爛豪華 祝祭音楽劇『天保十二年のシェイクスピア』」で東京3公演、大阪8公演の計11公演を中止。「act guide 2020 Season 6」の連載「From The Balcony Seats」と「えんぶ2020年6月号」の中で、作品への思いをインタビューで答えました。また梅田芸術劇場製作のミュージカル「VIOLET」全29公演休止に寄せてメッセージを書きました。
今日の段階で本来であれば「VIOLET」の公演中です。演劇活動の自粛は、今までの活動を振り返る契機となりました。まずは中止・休止となった2公演の製作会社が演出の仕事にきちんとした補償をしてくださったことは大きな希望となりました。社会の中での演劇の在り方、演出家の仕事の多様化、1つの公演をより長く続けることも安定につながる可能があるのではないか、など考えるべきことがたくさんあります。まずはウイルス拡大の中、私にとって大切な「劇場」でどのようにして安全にお客様を迎え入れることができるのかを、時間をかけ、製作、劇場関係者の方々と話し合っていきます。

藤田俊太郎
藤田俊太郎 (@shuntarofujita) | Twitter

堀尾幸男(舞台美術家)

堀尾幸男

堀尾幸男

コロナウイルスを知った時、感染拡大で影響を受けたその時

京都で、スーパー歌舞伎を仕込んでいました。
初日が数日遅れたうえ、無観客上演(YouTube配信)となりました。
小生は早々に帰京して、だんだんとコロナが拡大されてゆくニュースを見ていました。
パンデミックと言われて初めて、芸術の価値を認め、即高額給付するという演劇・舞台の仕事に対して、ドイツ・フランスのレベルの高さを、わが日本の政治家との比較で知りました。

自分の認識も、かく、低いものでした。いかに自分の仕事の意味・価値を知らないで、あるいは認識しないで働いていたのだと思います。
「誇りをもつのだ!」と知りました。
しかし、今のこの現実は差し迫った若きスタッフ・若いアーティストの救済を考えるべきかと思いました。
思っただけで、何をしてよいかわかりません。が、1つ考えました。
舞台美術家協会は200人のほとんど若いデザイナーの卵で構成されています。
そこで、“つかみ放題救済BOX”の存在です。
食えなくなった連中は、とにかく、ラーメン代でも、丼代でもあてがう資金になる“日銭BOX”を存在させるのです。
昔、「年末の救済社会鍋」というのがありましたが、それと似たようなものです。
一方で、私をご指名いただいた各プロデューサーに、私を可哀想だとお思いなら、
「お恵み」を少しばかりいただきたいと、御願いに廻ろうかと考えております。

松井るみ(舞台美術家)

初日を迎えられなかった作品たち。

初日を迎えられなかった作品たち。

2月26日の深夜、絶賛上演中だった「天保十二年のシェイクスピア」の公演中止の連絡を受け、頭の中が真っ白になった。
中国の演劇関係者からの情報で、日本もいずれ同じ状態になると恐れていたが、こんなに早く襲ってくるとは。35年の演劇人生の中でいまだかつてない戦慄を覚えた。これから一体、何が起ころうとしているのだろうと。
その後、大道具は完成したのに仕込めない、劇場にセットは仕込めたけれど舞台稽古ができない、舞台稽古は最後までたどり着いたのにゲネプロができない、そして初日が迎えられない公演が、次々と続く。可児市と英国リーズの共同制作では、リーズでの初日公演2時間前に中止をアナウンスされ断念。
俳優が存在できない、お客様が観ることのない舞台美術を目の前にして、何て自分の仕事が空虚なのだろうと思い知らされる。
いつ劇場に戻れるかが分からない今、ようやく未来に向けて考え始めたばかり。舞台美術家にいったい何ができるのだろうかと。

Rumi Matsui
Centreline Associates

松浦茂之(三重県文化会館 副館長兼事業課長)

松浦茂之

松浦茂之

台風や体調不良による公演中止は何度も経験しているため、公演中止そのものは慣れっこなところもあるが、今回のコロナ騒動は「先が見えない」「状況が悪くなるばかり」という点で、我々劇場やアーティストにとって戦時中に匹敵する未曾有の惨事だ。この2カ月何をしているかと言えば、中止・返金・補償をひたすら繰り返しているだけ。3・11の後は「劇場よ、アーティストよ、立ち上がろう」と言えた。しかし3密の敵視に始まり、今では県外からのアーティスト招聘も禁止され、「劇場よ、今は立ち上がるな」といった有様だ。1つはっきり言えることは、こと私に関してはコンサートや演劇のライブが、仕事とはいえ日常に組み込まれていたことがどんなに幸せなことであったか、そして後ろ向きな事務ワークだけの日々がどんなに虚無なことかを、身をもって味わっている。出口の見えない長いトンネルの中にいるようだ。

文化会館 | 三重県総合文化センター

松本幸四郎(歌舞伎俳優)

松本幸四郎

松本幸四郎

「三月大歌舞伎」公演が、3度の初日延期があり、最終的には一度も幕を開けずに中止。YouTube配信のために無観客の歌舞伎座で二日間舞台を勤めました。
幕が閉まったとき、大役を歌舞伎座で演じられた幸せ。勤め終えた安堵感。しかし、それがすかさず空虚感。誰もいない観客席。この幕が次に開くのはいつかわからない。
不安しかないはずなのに、歌舞伎座を後にするとき、
「次にここに来るときは皆に再会して芝居を作り、満杯の観客席にするぞ」と心で叫びました。
芸能は、社会が豊かでゆとりあるときに必要でもありますが、不安や悲しみに沈んでいるときにこそ、必要とされ続けた歴史があります。
歌舞伎が皆様の心に必要とされる「夢」になることを目指しています。
舞台は役者、スタッフが集まり、作品を作り上げ、多くの人々に共有していただくものですが、今はそれができません。できないという現実をしっかりと受け止めたうえで、誰も集まらずに役者、スタッフと作品を作り上げ、集まらずに多くの人々が共有できる方法を打ち合わせています。これを実現することが、今の自分がすることだと信念を持って動いています。
世界に平和が訪れることを心から祈念しております。

松本幸四郎|松本幸四郎オフィシャルサイト
松本幸四郎オフィシャルブログ「残夢」

山田由梨(劇作家・演出家・俳優 / 贅沢貧乏)

山田由梨

山田由梨

4月中旬から予定していた城崎国際アートセンターでの滞在制作が実施見送りになりました。延期できるのかはわからない状況です。この滞在制作で旗揚げ10周年に向けた創作を始める予定でした。
幸い、私が主宰している贅沢貧乏はたまたま公演の予定がなかったので大きな被害はありませんでしたが、もし自分が何年もかけて構想した作品が直前で中止になったら、劇団の主催公演が中止になり借金を負っていたらと、あらゆる中止のニュースを自分の身に起きることとして想像しては身を切られるような思いになります。
5月末から6月に出演する予定の公演は、今オンライン稽古で読み合わせをしています。楽観的にやれるかもしれないということではなく、粛々と今やれることを未来のためにやっているのだという気持ちです。でも、やるからには本気で読み、コロナのことなんかつい忘れて、早く立ち稽古したいなあと当たり前に思ってしまうのです。

贅沢貧乏 OFFICIAL SITE
YURI YAMADA(@yamadayuri_v) | Instagram
山田由梨/贅沢貧乏 (@YYUUUUYYam) | Twitter

(以上、五十音順)

※初出時より、本文の表現を一部変更しました。

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