パンチライン・オブ・ザ・イヤー2025 (前編)
セルアウト観の変化、「ラップスタア」の熱狂、排外主義への視点……識者4名が選ぶ2025年のパンチライン
言葉という観点からシーンを振り返る日本語ラップ座談会
2026年3月16日 20:00 7
「RAPSTAR」は、いかに自分を露出し続けるかを競うレース
渡辺 「RAPSTAR」は
ポーザー オーディション番組もディスもみんな大好きっていう。
Tee Shyne「RAPSTAR DIS 2」ミュージックビデオ
渡辺 視聴者は場外乱闘込みで「RAPSTAR」を楽しんでいるイメージがあります。シンプルに、盛り上がるのはいいことだと思う。ラッパーたちも番組に出ることが自分のプロモーションになるとわかっていて、
ポーザー 勝ち上がれた人はそこに合わせてくるし、逆に通過できなかった人のリリースプランにも影響があるんですよ。つまり「RAPSTAR」が放送されているときは、みんな勝っている人の新譜を聴きたがる。そこにしか興味が向かない。
YAMADA それはいろんな意味で寂しいですね。
ポーザー 僕もその話を聞いて「番組なんて関係なく出しちゃえばいいじゃん」と思ったし、実際に伝えたんです。そしたら実はその子、前年に「RAPSTAR」が盛り上がっているタイミングで新曲を出したけど、完全にスルーされてしまったらしくて。本人的にはそれがかなり嫌な経験だったみたいです。
高久 そのラッパーがどうこうではなく、「RAPSTAR」を取り巻く状況という意味で、あまり健全とは言えないですね。
YAMADA
渡辺 視聴者にとって「RAPSTAR」はただのコンテンツかもしれないけど、参加しているラッパーたちにも人生があるから。同時に、参加しているラッパーたちも優勝して慢心してしまうと、そのあとが続かない。
YAMADA 「RAPSTAR」は、今のシーンをマッピングするための媒体の1つなんだと思います。先ほど高久さんもおっしゃっていましたが、リスナーからすると、今のヒップホップシーンは広すぎて、自分の好みのラッパーを見つけづらい。でも「RAPSTAR」でサイファーステージまで上がってきたラッパーをチェックすると、自分が好きなラッパーを発見できる可能性が高いですよね。ポーザーさんがやっているTikTokや「ラフスタ」も、誰かのマッピングをサポートするための1つの形だと感じています。
──YAMADAさんは「RAPSTAR 2025」のサイファーステージで話題になったevisvの「Rooftop」から「意味が違う昔と今の口だけ / 社会人になった友達は愚痴だらけ / 今は行けないかも忘年会とか輪抜け / 代わり花火のようにchartにする打ち上げ」というラインを選ばれました。
evisv「Rooftop feat. SPECTRE」
YAMADA 「Rooftop」というタイトルからもわかる通り、パッと聞くと成り上がっていくことの曲なのですが、リリックに大量のダブルミーニングが込められていて、しかもスピット系のラップではなく歌フロウなんです。そこが新鮮でした。特に驚いたのが「今は行けないかも忘年会とか輪抜け」というライン。最初に聴いたときには、輪抜けは「社会人になった友達の輪から抜けた」みたいなニュアンスだと思っていたんですよ。でも、なんとなく気になったので調べてみたら、彼の地元・高知には「輪抜けさま」という名前の有名なお祭りがあったんです。つまり、このラインでは「お祭りに行けない」という意味もある。
渡辺 地方都市における祭りの重要性って、都会のそれとはまた違うんですよね。私の夫も四国の愛媛県出身なんですけど、年に一度の祭りに賭ける情熱がハンパない。もしかしたらevisvにとって「輪抜けさま」に参加できないことは、私たちが想像する以上に重いものなのかもしれないし、それは地元の日常から抜け出して成り上がる、という覚悟も含んだラインなのかもしれない。
私たちは何に抗うべきで、何と戦わなければいけないのか
高久 僕はフッドステージまで残ったFisongの「Nobody can choose their roots.」という曲から「おれにとって平凡がお前にとってコンシャス」と歌う、かなり重めの節を引っ張ってきました。番組でも紹介されていましたが、Fisongは韓国にルーツがあって日本で生まれ育ちました。自分の居場所をうまく見つけられなかった自身の半生が、日本でいうところの「コンシャス」に勝手になってしまった、というのがこのリリックです。一方で彼は「いい音楽を作りたい」ということも強調していて、同じ曲の中で「こんな歌詞を書けば俺も社会派ラッパー?」と自嘲するようなことも言っています。自分を相対化しながら、しっかりと自分の意思を歌詞に落とし込んでいるんです。だから選ばせてもらったラインだけを取り上げてFisongを社会派と呼んでしまうことも違う。ただ、そう感じつつも、同時に今の日本の状況に対してはとても重要なラインだと思っています。
Fisong「Nobody can choose their roots.」
渡辺 今の高久さんの「彼らにとっての平凡が、社会的なメッセージになってしまう」という話と通じる部分なんですが、私はFisongのフッドステージの映像に登場していた
Moment Joon「入管Freestyle」
──中でも特にその「アクセント」についてのラインをピックアップされたのはなぜですか?
渡辺 この前に「言うよ『すいません』と」というラインがあるんですね。つまり、私が選んだラインは「すいません」のアクセントを間違えて恥ずかしい、という内容です。私は英語を第二外国語として習うときに、会話においては、発音の良し悪しよりもアクセントが大事と教えてもらいました。でもアクセントって教科書を読んでもわからない。例えば日本語でも、「はし」はアクセント1つで「橋」「箸」「端」と意味が変わってくる。こういうのって実際に住んでみないとわからないことですよね。私は「入管Freestyle」を聴いて、もともと日本語が母国語でなかった人や、海外から日本に移住してきた人たちにとっては、我々にとってなんてことない些細なことを、ものすごくチャレンジングに感じているんだ、と気付かされたので、このラインを選びました。と同時に、私たちは何に抗うべきか、何と戦わなきゃいけないのか。山積みの問題を再認識させられました。
──2025年の日本は経済格差と情報格差が相まって、認知の歪みが差別と排外主義に流れていく場面が顕在化してしまう残念な1年でもありました。
渡辺 「団結前夜」という曲が批判の対象になりましたよね。あえて名前は挙げないけど、あの曲に自分と同世代である40歳前後のラッパーたちがたくさん参加していたことがとても恥ずかしかった。と同時に、この世代でリベラルなことを真正面からラップする人はほとんどいないんですよね。少し上に
──「団結前夜」は、我々と同じようにヒップホップやブルース、ジャズ、ソウル、ファンクといったアフリカ系アメリカ人たちの音楽を通過してきたであろう人たちが、接種する情報の違いによって、反知性主義の具現化と言っても差し支えない歌を作ってしまった、という点に衝撃を受けました。
渡辺 YouTubeやSNSの情報に突き動かされて、半ば衝動的に「俺たちの大事な日本を守らねば」と感じる点は分かるんです。ブラックのラッパーが自分たちのコミュニティを守ってきたように、俺たちもマルコムXのように戦うんだ、ファイト・ザ・パワーだ、と。同時代を生きてきた人間として、ある意味、その構造はわかるっちゃわかるんですよ。でも、そうじゃない。誰がマイノリティなのか、誰が周縁化されているのか、ということを考えると、マジョリティ男性が同じ図式で抗うのは違うと思う。しかもそれがラップという形で創出されてしまった。そこにすごく悩むし、悲しくもあります。
<中編に続く>
- 宮崎敬太
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1977年神奈川生まれのインタビュアー / ライター。K-POPや日本語ラップを中心にオールジャンルで執筆している。
真実の奴隷 @AttamaRaphael
@natalie_mu 今年のパンチライン・オブ・ザ・イヤー、選者が豪華すぎる…!✨
どんな鋭いコメントや選出が飛び出すのか、今からワクワクが止まらない😂
絶対面白い年になりそう…!