左からKEN THE 390、般若。

ジャパニーズMCバトル:PAST<FUTURE hosted by KEN THE 390 EPISODE.extra [バックナンバー]

「BATTLE SUMMIT II」から「B-BOY PARK」までさかのぼる“般若の見てきたMCバトル”

歴史塗り替えちゃってごめんね…天才だからしょうがない

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「B-BOY PARK」第1回MCバトルに参戦 すべてが粗削りだった

左から般若、KEN THE 390。

左から般若、KEN THE 390。

──さらにさかのぼるとBBPのMCバトルには、1999年の第1回から出場されています。

般若 第1回は、俺はDEV LARGE(D.L)の推薦枠だったんだよね。でも、今でも不可解なんだけど、俺のバトルは、対戦相手がステージにいなかったんですよ。

KEN どういうことですか?

般若 いなかったというか、バトルが始まっても相手が舞台袖から出てこなくて。それでそいつのターンになったらステージに出てきてラップして、俺のターンになったらまた袖に引っ込んじゃうっていう。

KEN バトルなのに正対しないということか。それじゃバトルにはならないですね。

般若 だろ? それなのに俺が負けたんだよ、審査員のジャッジで。

KEN そうなんですか!

般若 だから……傷付きますよね。

KEN 傷付きますね(笑)。

般若 「出てこないで勝つんなら、俺だって一生ステージに出ないよそんなの」と。

──出なきゃ最強になってしまう(笑)。

般若 いまだに事故だと思ってるんだけど……(当時の雑誌「BLAST」を読みながら)あ! 思い出した! ILLMURAだ、出てこなかったの。

──「BLAST」の記事にはその状況が書いてなくて。

般若 あいつは試合にまともに出てこなかった。そして試合に出た俺はまだラップをやってる。つまりそういうことだよ。これだけは言わせてもらう。

KEN そんな始まりだったんですね。バトルにモチベーションはあったんですか?

般若 もうそれしか手段がなかったという感じだよね。

KEN でも、バトルに出たら名前が売れるという、現在のような登竜門的な側面はまだ未発達でしたよね。

般若 それでも、そこしか名前を売る場所がなかったんだよね。そんな時代。まあ、とにかくすべてが粗削りだった。

──この時期のインタビューで「バトルに賞金を出したほうがいい」と話されているんですよね。

般若 それで「余計なこと言うな」ってBBPを主宰してたAKIRAさん(CRAZY-A)に怒られた(笑)。だから、MCバトルの新しい大会を開いて、賞金を出すようにした漢は素晴らしいし、健全な形にしたよね。格闘技だってファイトマネーがあるし、勝った人間が金をつかめなければ夢がないから。

スナック菓子を食べてるのとあんまり変わらない

KEN 般若さんはMCバトルのルールの変遷を体感してるわけですよね。

般若 そうだっけ?

KEN BBPは持ち時間制、UMBは小節ターン制になって、審査も審査員から観客審査に変わったり。

般若 今聞いてそうなんだと思った(笑)。「UMB2008」も、地方のイベント明けで二日酔いで会場に入って、DARTHREIDERか太華くんにその場でルールを聞いたぐらい(笑)。俺みたいなヤツは事前にわかっちゃうとダメなんだよね。「BATTLE SUMMIT II」で相手を聞かなかったのもそうだし。

──その場の緊張感というか。

般若 やっぱり「わからないとき」が一番面白いから。

──それは自分にとって?

般若 いろんなことがそうなんじゃない? 「ダンジョン」も「なんだこれ! ワケがわかんないけど面白い!」でブームになったでしょ。だから放送が始まってすぐ話題になったんだしさ。

──確かに、MCバトルを知ってる人間はそこまで興奮してなかったと思います。

般若 だから、バトルを知らない、新鮮に感じる人に刺さったってことだよね。同時に俺はブームになったときに「これがバズったってやつか、早く辞めたい」と思ったんだ。俺が登場した放送回の次の日にコンビニに行ったら、店員に「昨日、観ました!」と言われて、その瞬間に「あ、これはヤバい」って。すごく嫌だと思った。

──それは自分の感覚的な部分ですか?

般若 個人的なマインドの部分もそうだし、MCバトル自体10年以上ある方式なのに、ブームになった途端にみんなそこに飛びついたじゃん。それも気持ち悪かった。なんでもかんでもMCバトルっぽい企画になって「もうなんなのお前ら……」って。だから相手にしなかったし、俺自身、自分を「ダンジョンのラスボス」と言ったことはない。

KEN でも世の中的にはそれだけ新鮮な、刺激的なコンテンツだったということですよね。

般若 だからか、今でもYouTubeとかSNSでバトルの動画がよく流れてくるけど、俺はちょっと気持ちが悪くなる。

KEN 目に入れたくない?

般若 MCバトルを見たいと思わないんだよね。見たいのは犬と釣りとマンガ。

──それは情報としてバトルに興味がないのか、自分とつながるものだから目に入れたくないのか、バトルに出るときの状況を思い出してしまうのか、どれが近いですか?

般若 それよりも、単純に情報量が多すぎて、自分の制作の邪魔になるんだよね。これはずっと言ってることだけど、MCバトルの動画は無料のエロ動画と同じですよ、マジで。そう思うのには理由があって、バトルは“蓄積”するんじゃなくて、“上書き”されていく感じなんだよね。

──新しいバトルや情報のほうが記憶に残ってしまうというか。

般若 消費される速度が早すぎるよね。アーティストは消費されるものの先、蓄積されるものを作りたいし、そこで戦ったり、成功したり、せめぎ合うことが大事だと思うんだ。

──その意味では、バトルはインスタントな刺激が強すぎるというか。

般若 なんというか……スナック菓子を食べてるのとあんまり変わらないのかな。寿司を食ってるのとは違うよね。

KEN その例えは面白いですね。

般若 ポテトチップスは最初はうまいけど、途中から惰性で食べるし、記憶に残らないでしょ。もちろんスナック菓子を否定してるわけじゃないよ。作ってる人は一生懸命だと思うし。

──バトルもまたしかりですよね。戦うほうは懸命にやってる。ただ、刺激物としての側面や過剰な新陳代謝が要求されていたり、消費されている部分は感じます。

KEN やっぱり感情のピークを切り取るものだから、そうなりがちな部分はあるのかな。

般若 俺自身、バトルで興奮しちゃって、疲れてるのに寝れないみたいなこともあったしさ。でも、MCバトルで名を上げた人が、武道館に立つというのは素晴らしい状況だとは思いますよ。

──「MOGURA」でも重要な役どころであるRed Eyeさんは、「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」をキッカケに飛躍して、武道館までつなげた存在ですよね。だから“名を売る”という機能性と、“消費されるもの”“永続するもの”のバランスが必要というか。ということで、そろそろお時間が来てしまって。

般若 なんだよ、いまからBBPの1回戦目から全部振り返って話そうと思ったのに!

──秘蔵映像も含めて(笑)。

般若 残念だったな~、でも時間じゃしょうがない(笑)。

「俺なんて所詮使い捨てだろ」と思うぐらいでいい

左からKEN THE 390、般若。

左からKEN THE 390、般若。

KEN これから、般若さんがバトルに出ようと思う瞬間はあると思いますか?

般若 もう出ないよ。出るわけないでしょ……いや、相手が女性だけなら考えよう。罵ってくれるんなら一瞬考えます(笑)。あとはなんだろ……文春に撮られてその示談金が2000万だったときかな。

KEN 「示談金2000万……どっかで見たぞあの数字!」みたいな(笑)。

──これからバトルに出る人にアドバイスはありますか?

般若 特にないよ、そんなの。

──これまでの話の流れからすると、ないだろうなと思いながら聞きましたが(笑)。

般若 人生を豊かにしてください、楽しくやってください、だけかな。ほかに生きがいを見つけてもいいし。

KEN バトル以外のやり方も考えるという。

般若 やっぱり、とんでもない精神の持ち主だと思いますよ、続けてる人は。そして、そこにいるのが果たして正しいのかは、正直俺にはわからない。出るのもいいけど、少なくとも曲は作ったほうがいい。それだけラップできるんなら。

KEN 今日は改めてお話を伺って、知らないことがたくさんありました。

般若 本当に感覚でやってるから、うまく答えられなかったこともあるけどね。

KEN いや、本当に貴重な話でしたよ。

般若 俺よりラップがうまいヤツなんてゴマンといると思うんだよ。MCバトルだけじゃなくて「RAPSTAR」とかいろんなコンテンツでそう思うし、俺たちがハタチのときよりも、明らかにラップの基本が確立してる。だからこそ俺たちは粗削りで新しい部分を開拓できてたんだなと、逆に思うこともあるよね。

KEN そのうえで般若さんは勝ってるわけで。究極の質問ですけど、なんで強いんですか?

般若 う~ん……あんまり考えたことがないし、自分の強みがわかってないんだよね。自分の直感に素直にやってるだけ。ただ「自分の代わりなんてそのへんにいるだろう」と思いながらやってる。

──悲観的に聞こえるかもしれないけど、そう思ったほうが楽な部分はありますよね。特別な存在であろうとするのは、ラッパーとして大事な部分である一方、大変な部分もある。でも「代わりがいるわ」と思えれば、肩の力が抜けるというか。

般若 みんな重く考えすぎだよね。「俺なんて所詮使い捨てだろ」と思うぐらいでいいよ。ただ、そう思ってきたのに結局、俺の代わりはいなかったけど!

会場 お~!

般若 ありがとう、ありがとう。惚れんなよ(笑)。

般若(ハンニャ)

1978年生まれ、東京都世田谷区三軒茶屋出身のラッパー。2004年から現在までに14枚のアルバムをリリースし、過去に東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)や東京・日本武道館でワンマンライブを開催。2024年にデビュー20周年を迎えた。2015年からは俳優としても活躍。2025年1月9日スタートのABEMAオリジナルドラマ「警視庁麻薬取締課 MOGURA」でドラマ初主演を務めた。同作は2025年3月13日よりNetflixでも配信される。

般若オフィシャル

KEN THE 390(ケンザサンキューマル)

ラッパー、音楽レーベル・DREAM BOY主宰。フリースタイルバトルで実績を重ねたのち、2006年、アルバム「プロローグ」にてデビュー。全国でのライブツアーから、タイ、ベトナム、ペルーなど、海外でのライブも精力的に行う。「フリースタイルダンジョン」に審査員として出演。その的確な審査コメントが話題を呼んだ。近年は、テレビ番組やCMへ出演、さまざまなアーティストへの楽曲提供、舞台の音楽監督、映像作品でのラップ監修、ボーイズグループのプロデュースなど、活動の幅を広げている。2025年2月19日に13枚目のアルバム「Last Note」をリリースした。

KEN THE 390 Official

※記事初出時より、本部の一部の表現を変更しました。

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