山中さわおが“山中さわお&ELPIS”名義でアルバム「Daydream again」をリリースした。
木村祐介(G)、安西卓丸(B)、関根史織(B / Base Ball Bear)、楠部真也(Dr / Radio Caroline)というメンバーからなる山中さわお&ELPIS。これまでも山中の作品やライブを支えてきたおなじみの面々だが、今作「Daydream again」をもって正式にバンド名義で活動していくことが明らかになった。
2025年2月に35年にもおよぶthe pillowsとしての活動に終止符を打った山中だが、その歩みが止まる気配は微塵もない。山中さわお&ELPISという新たなバンドとして再出発を切った彼は、どのような思いで「Daydream again」を作り上げたのか。「音楽を作ることだけが目的で生きている」「俺はとにかくバンドがやりたいんだよ」と語る山中の、リアルな声をお届けする。
取材・文 / 森朋之撮影 / 上村窓
音楽以外の楽しさや幸せを見つけた人に負けるわけがない
──山中さわお&ELPIS名義のニューアルバム「Daydream again」がリリースされました。山中さんは2020年にソロアルバム3作を発表し、2022年以降も毎年リリースし続けていますが、今作の完成度の高さは際立っていると思いました。
自分としても手応えがあるし、その理由も少しわかっていて。まず、単純にたくさんの曲を書いたんだよ。アルバムのバランスとかコーディネイトみたいなものを考えず、日常的にひたすら曲を書いていたし、歌詞が乗ってないものを含めると20曲以上もあって。そこからアルバムに収録する曲を選んだんだ。主役級の曲でも「今回のアルバムでは悪目立ちしすぎるな」と思うものには控室にいてもらって。その曲もいつかは出番が来るからね。そういう作り方をしたから、いいアルバムになったんじゃないかな。
──今回のアルバムにふさわしい、選りすぐりの楽曲が収められていると。
そうだね。曲作りの段階ではまったく計算してなかったけど、うまくまとまったと思う。最後の最後は全体のバランスを考えたけどね。曲順を決めていく中で「こういうグルーヴの、こういう感情を伝える曲があったら美しいはずだ」と思えば、狙って作ったりもしたので。そうだな、すごく音楽に向いているんだよ、俺は(笑)。「大人として」とか「社会人として」という意味では異質だし、いいポジションにいるとは言えないけど、そのぶん音楽を作ることに特化しているし、それだけが目的で生きてるから。音楽以外の楽しさや幸せを見つけた人に負けるわけがない。
──それってミュージシャンとしては幸せなことですよね。
もちろん音楽以外のことをやってる時間もあるよ。映画を観たり、小説を読んだり、テレビのバラエティ番組を観ることだってあるけど、けっこう時間があるんだよ、ミュージシャンは。例えばツアー中に取材をしてもらうことがあって、そんなときは「お忙しいところありがとうございます」と言われる。だけどね、ツアー中なんてめちゃくちゃ暇なんだよ。特にやることもないし、だったらホテルにギターを持ち込んで、曲を作ればいいじゃないかって気分。……アルバムと関係ない話ばかりしてるね(笑)。
俺はとにかくバンドがやりたいんだよ
──前作「あの花はどこに咲いている」に続き、今作にもwash?の奥村大さんがプロデューサーとして参加しています。
うん。前回よりもちょっと踏み込んだ感じでやってくれました。もともと大ちゃんはバンドマンの後輩なんだけど、人としても興味深いし博識な男で。2人で飲んだりしたときに「wash?のあの曲の音は、どうやって出してるんだい?」みたいなことを聞いたら、俺が機材について疎いせいもあるんだけど、返ってくる答えが専門的すぎてまったくわからないんだよね。「レコーディングに呼んでくれたら、機材持って行きますよ」と言ってくれてたんだけど、そのまま何年か過ぎて。
──なるほど。
自分のレコーディングに関しては、エンジニアのタッキー(瀧田洋平)とELPISのメンバーと一緒にやっていて。思い浮かべたサウンドにすぐにたどり着けるし、それだけで十分気に入ってたんだけど、俺は何枚も出すじゃない? だんだんと「今とは違うサウンドの中で聴く俺の歌はどういうものだろう?」という興味が出てきて。そのタイミングで大ちゃんに来てもらったんだ。最初はギターの音作りで参加してくれたんだけど、ギター以外のこともアイデアを出してくれて。大ちゃんは懐に入るのがうまいというか、自然に意見をくれるので、俺もみんなも「試してみようかな」という感じになることが多いんだよ。「曲調に対して、アウトロが元気すぎると思うんですよね」とか「歌詞のこことここを入れ替えてみたらどうですか?」とか意見をくれて。歌のテイクで迷うことはあまりないんだけど、試しに2種類くらいの感情で歌ってみて、「どっちがいいかな」って聞いたりもしたし。そうやって人の意見を聞くのはめちゃくちゃひさしぶりだね。
──それくらい奥村さんのセンスやアイデアを信頼していると。
ピロウズはずっとSALON MUSICの吉田仁さんにプロデュースしていただいてたんだけど、それはSALON MUSICが圧倒的にカッコいいからという理由もあったんだよね。大ちゃんも同じというか、wash?自体がすごくカッコいいし、尊敬というフィルターがあるから、意見を聞いてみようかなという気持ちになる。その人がやっている音楽のファンだってことが一番大きいかな。
──作詞作曲に関しては完全に山中さんの領域だと思いますが、今回のアルバムの歌詞については、どんなスタンスで臨んでいたんですか?
うーん……。まず前作の「あの花はどこに咲いている」はピロウズの解散を発表したあとに出したアルバムだけど、収録されている曲は解散を決意する前に書いたものがほとんどで。今回は解散寸前、もしくは解散後に書いているから、ほぼ全曲に何かしらの影響があると思う。そりゃそうでしょ。俺の人生で一番大きな出来事だったから。
──今回から“山中さわお&ELPIS”名義になったのも、そのことと関係してますか?
母体だったピロウズがなくなったことと、あとは佐野元春さんの影響だよね。佐野さんはザ・ハートランド、ザ・ホーボー・キング・バンド、ザ・コヨーテ・バンドと一緒にやってきたじゃない? あのスタイルはいいなと思うし、俺はとにかくバンドがやりたいんだよ。名義も本当は“THE ELPIS”でいいんだけど、フェスなんかに出たときに「誰?」ってなるじゃないか。でも“山中さわお”という名前があれば、ピロウズのファンはわかってくれる。要は利便性の問題なんだよね。
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「好きだな」と思える人間とじゃないとやれないよ


