Laughing Hick特集|ホリウチコウタが語る、新作EP「ハロー ノットグッバイ」

ホリウチコウタ(Vo, G)、TAICHI(Dr)、あかり(B)の3人からなるギターロックバンド・Laughing Hickの新作EP「ハロー ノットグッバイ」が5月1日にリリースされた。

強がりや未練、自己嫌悪など、人間の弱さをきれいごと抜きに描いた楽曲で、10代から20代の音楽リスナーを中心に共感を呼んでいるLaughing Hick。新作EP「ハロー ノットグッバイ」は“依存と覚悟”をテーマにしたリード曲「コラソン」を含む、6つのラブソングで構成されている。

音楽ナタリーでは本作の発売を記念して、バンドのフロントマンであるホリウチにインタビュー。Laughing Hickが描く楽曲の世界観や、「ハロー ノットグッバイ」に込めたこだわり、制作を通して得た気付きについて話を聞いた。

取材・文 / 蜂須賀ちなみ撮影 / 梁瀬玉実

「心は邦ロックでいたい」

──ホリウチさんは、いつ頃からロックバンドに憧れていましたか?

父と母が家でよくThe BeatlesやBOØWYを流していた影響で、小さい頃から漠然と「バンドやりたい」と考えていました。小学生になってから映画「スクール・オブ・ロック」を観て、その気持ちがより強くなって。5年生の頃の担任の先生が学校にアコースティックギターを持って来たのをきっかけに、自分もギターに触れ始めました。学生時代を振り返ると、OasisやGreen Day、Sum 41、Weezerあたりのバンドをよく聴いていましたね。そういった洋楽が好きだった背景もありつつ、RADWIMPSやELLEGARDENの影響もあり、ずっと英詞で歌ってました。今思えば、英語を歌っている人の姿がカッコよく見えていたのかも。ロックスターの佇まいへの憧れが、「バンドやりたい」と思った根底にありますね。

ホリウチコウタ(Vo, G)

──いろいろなフロントマンを見て、「自分もこうなりたい」と思ったと。

そうですね。The 1975のマシュー・ヒーリーやArctic Monkeysのアレックス・ターナー、[Alexandros]の川上洋平さん、THE YELLOW MONKEYの吉井和哉さんを見ると「やっぱりカッコいいな」と思いますし。自分がステージに立つときも「ホリウチコウタを演じよう」という気持ちです。理想としては「心は邦ロックでいたい」「ライブの見え方は外タレっぽくいたい」という感じですね。たぶんLaughing Hickの楽曲だけを聴いていた人が初めてライブハウスに来たら、「こんなライブするんだ!」って驚くくらいギャップのあるバンドだと思います。

──「心は邦ロックでいたい」という気持ちがどのように芽生えたのかも知りたいです。初めて曲を書いたのはいつですか?

中学2年生の頃です。当時の友達の恋バナを曲にしました。その曲も英詞で書いていて、すごくまっすぐなラブソングだった記憶があります。「せっかくなら彼の好きそうな曲を作ろう」と思ったものの、実際に聴かせることはなく……なんで作ったんでしょうね?(笑) その理由は自分でもわからないけど、思い返せば、やっていることは今と一緒かもしれない。Laughing Hickは恋愛を入り口としながら、人間臭さ、執着や未練を歌っているバンドなので。

──結成当初からそうだったんでしょうか?

いえ、もともとLaughing Hickは幼馴染に「東京でバンド組むから、ボーカルやってくんない?」と声をかけてもらって組んだバンドなんですよ。その発起人は方向性の違いで1年くらいでいなくなってしまって。彼がずっと「ONE OK ROCKみたいなバンドを目指そうぜ」と言っていたから、結成当初はすべて英詞のもっと洋楽っぽいロックバンドでした。だけど途中から僕の中で「日本語の歌詞で、“邦ロック”をやってみたい」という気持ちが芽生えてきて、ちょうどクリープハイプやMy Hair is Badの音楽に触れた時期で「日本語の歌詞って面白いのかもしれない」と思ったんです。

──面白いというのは、具体的にどの点が?

「人間の弱さやみっともなさを、ここまで書いてもいいんだ!」というところ。そこから僕も飲みの場で友人たちから聞く恋バナや自分自身の経験をもとに、心の葛藤を描く歌詞を意識し始めました。今は「邦ロックの代表格になりたい」という気持ちで活動していて。そのためには現場で名前をしっかりと売っていくのも大切ですし、聴いた人に「私の曲だ」と思ってもらえるような歌詞やサウンドにトライしていきたいと思っています。

ホリウチコウタ(Vo, G)
ホリウチコウタ(Vo, G)

必要だった模索の時間

──Laughing Hickは現在、ホリウチさん、TAICHIさん(Dr)、あかりさん(Ba)の3人編成ですね。

TAICHIとは結成当初から一緒で、あかりは2023年に正式加入したんですけど、2人がいてくれることでいいバランスになっているなと思います。TAICHIはヒットチャートや流行りの音楽をちゃんと追っているタイプ。王道のポップスが好きな人なので、「これはキャッチーか?」という判断をするときに彼の物差しを頼りにしています。あかりは、10代の頃の自分に近い感性を持っている人。バンドを好きになったばかりの頃の自分が、ちゃんとドキドキするような曲になっているかを知りたいときに、あかりから意見をもらうことが多いです。3人のフィルターを通すことで初めてLaughing Hickらしさが出てくる気がしています。

──日本語で歌詞を書くことに対する思いを聞かせてください。洋楽で育ったホリウチさんにとっては、まったく新しい挑戦だったわけですよね。

そうですね。日本語を扱うことの難しさは今でも感じていますし、制作がなかなか進まない時期もありました。

ホリウチコウタ(Vo, G)

──それはいつ頃ですか?

2020年から21年頃ですね。ちょうど今の事務所に所属したタイミングだったんですけど、壁にぶち当たってしまって。いくら曲を書いても、周りの大人を納得させられない時期でした。曲を書き続けているうちに「本当に書きたいものを書けているんだろうか?」「ただ大人が納得しそうなものを書こうとしているだけでは?」と、何が正しいのかわからなくなって。最終的に「これでダメだったら、この事務所が合わないってことなのかもしれない」と、自分の好きなように作ったんですよ。そしたら事務所の人に「これだよ」と言ってもらえた。そこで打破できたというか、自分的にもひと皮剥けた感覚がありましたね。

──その期間があったからこそ、気付けたこともあったのではないでしょうか。

そうですね。「日本語の魅力ってなんだろう?」「自分が歌って説得力が宿る言葉ってなんだろう?」と模索していた期間だったので。最終的にたどり着いたのは、「ドキドキするような人間臭さを歌いたい」という結論でした。クリープハイプやMy Hair is Badを聴いて「ここまで書いてもいいんだ!」と感じた僕が、やっと自分の言葉にたどり着いた瞬間でしたね。だからあの期間はリリースがなかったけど止まっていたわけじゃなくて、むしろ今のLaughing Hickになるために必要な時間だったと思います。

「歌詞の存在って大きいんだな」

──「カシスオレンジ」や「愛してるって」「女だから」など、“クズ男”やその彼に惹かれる女性の心情を歌った曲がTikTokで火が付き、多くの音楽ファンに広まっていきました。

洋楽で育った自分はメロディ重視で音楽を聴くタイプなので、「歌詞を変えるだけでこんなに聴いてもらえるのか」「歌詞の存在って大きいんだな」と驚かされました。SNSを通じて楽曲や自分たちの名前を少しずつ知ってもらえている実感がある反面、ツアーを回ったりフェスに出演するたびに「まだ出会っていなかった人がこんなにもいるんだ」と感じていて。今回のEP「ハロー ノットグッバイ」は、出会いを終わらせたくない、別れに抗いたいという気持ちで作りました。

ホリウチコウタ(Vo, G)

──「ハロー ノットグッバイ」は、どの曲も“あきらめない人”が描かれてますよね。相手の態度に怒りながら、それでも好きだと歌っていたり、相手に依存していることを自覚しながら突き進んでいたり。

太宰治や又吉直樹の小説の主人公って、まっすぐとは言えないじゃないですか。そんな主人公のほうが人間らしくて好きだからっていうのはあるかもしれないです。それに僕自身もまっすぐな人間ではなくて、世の中を斜めに見ているし、ほかの人からの褒め言葉を素直に受け取れないんですよね。自分にちょっと捻くれたところがあるからこそ、そういう人のことを受け入れたいし、味方でいたいという気持ちが曲に表れているんだと思います。

──本作のサウンドやアレンジ面に対する手応えはいかがですか?

学生時代の自分がもし聴いたとしてもカッコいいと思えるような音楽を、今の自分たちで表現できたなと。手応えは全曲に感じているけど……「ogorareya」のサビの入りは気持ちいいですね。いちリスナーだった頃の自分でもアガると思う。楽曲のキャッチーさとロックバンドとしての「とがっていたい」という気持ちを、うまく両立できた手応えがあります。