インドの打楽器タブラの奏者であり、本場のカレーに精通した
スパイスカレーがブームになる以前からカレー愛を熱く語り、その魅力を広く伝えてきた黒沢。本連載1回目に登場した宇多丸とTBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」およびその後継番組「アフター6ジャンクション」で定期的にカレー特集コーナーを担当し、人気を博してきた。
自らを“ハードコアカレーシンガー”と名乗り、最近では“カレー博愛主義”になったという黒沢に、長年にわたり育んできたカレー愛の遍歴と現在について話を聞いた。
取材
「一日に何食カレーを食べてますか?」の熱量
U-zhaan 黒沢さんのカレー本シリーズ「ぽんカレー」の1冊目って、2005年の出版なんですね。
黒沢薫 そう、もう20年くらい前になります。
U-zhaan 本の帯に「一日に何食カレーを食べてますか」っていう異常な質問が書かれてますが、黒沢さんは1日に何食もカレーを食べてたりするんですか?
黒沢 この本が出た当時は、本当に毎日カレーを食べてました。さすがに今は週4日くらいに抑えるようにしてますが。
U-zhaan それでも十分多いと思いますけど。
黒沢 毎日でも食べたいという気持ちは今もあるんです。ただ、カレーって糖質と脂質がかなり多いじゃないですか。
U-zhaan まあ基本的に炭水化物とセットで食べるものだし、油をしっかり投入したほうがおいしく仕上がりますもんね。
黒沢 なので栄養バランスを考えて、毎日食べるのは控えようかと。あと、ある植物のアレルギーが僕にはあるんですけど、カレーに使われるスパイスの中にその植物と似た成分のものがあって。
U-zhaan あ、僕も医者に言われたことあります。あなたはこの花粉のアレルギーだから、DNA配列が似てるこの香辛料は体が勘違いしてアレルギー症状を起こしやすいから気を付けて、みたいな。
黒沢 そうなんです。やっぱり、アレルギー症状が悪化してカレーが食べられなくなるのはまずいじゃないですか。
U-zhaan それは寂しすぎますよね。じゃあ、酒好きの人が依存症にならないように休肝日を作ってるみたいな感じに近いのかな。
黒沢 はい。カレーとは一生付き合っていきたいので。でも食べる頻度が減った分、むしろ愛情は増えてるかもしれない。
U-zhaan また増えちゃったんですか! 今回お話させていただくにあたって黒沢さんの著書やインタビューなどいろいろ読ませていただいたんですが、カレーに対するとてつもない愛と熱量を感じました。あと、カレー愛好家としての活動歴もめちゃくちゃ長いしアイデアも豊富だから、カレー好きミュージシャンがやってみたいことを全部やり尽くしちゃってますよね。黒沢さんのあとは、もう焼け野原ですよ。
黒沢 そんなことないですって(笑)。
U-zhaan いやいや、新宿中村屋(※1)とコラボして3種類もオリジナルカレーを販売したとか、ちょっと尋常じゃないです。
黒沢 あ、新宿中村屋といえば、ユザーンさんたちが監修したレトルトのチキンカレーを食べたときに僕はあそこのカレーが頭に浮かんだんです。初めて食べたはずなのに「この味、どこかで食べたことがあるな」と感じて、思い返してみたら中村屋なんですよ。
U-zhaan えー! とってもうれしいけどなんでだろう。
黒沢 中村屋のカレーの元になっているのはラス・ビハリ・ボース(インド・ベンガル地方出身の独立運動家。日本に亡命して中村屋にかくまわれたのち、中村屋が経営する喫茶店にカレーのレシピを提供)のレシピだから、東インドに住んでいたユザーンさんたちのカレーと共通点があるのかなと思って。
U-zhaan そうか、あの人もベンガル人ですもんね。作る工程が似てたりするのかな。
黒沢 スパイスの配合もあるかもしれない。まあ中村屋のスパイスは秘伝だから誰にもわからないんだけど。そういえば中村屋は最近「ベンゴールカリー」っていうベンガル地方のカレーを出し始めましたよね。食べたことあります?
U-zhaan 食べてみたいんですけど、やっぱりどうしても王道の「中村屋純印度式カリー」を頼んじゃうんですよね。黒沢さんは召し上がったんですか?
黒沢 いただきました。ベンガル料理というより、むしろ欧風カレーに寄っているような雰囲気でしたね。辛味も少なくて尖った感じはないけど、中村屋さんらしくバランスの取れた優しい味のビーフカレーでした。
U-zhaan 食べたくなりますねー。ところで、これまで黒沢さんは全国各地でとんでもない数のカレー屋を訪れていると思いますが、知らない土地のカレー情報はどうやって仕入れているんですか?
黒沢 最初はいわゆるグルメサイトを見ていたんですけど、今はもっぱらGoogleマップです。
U-zhaan レビューとかを参考にするんですか?
黒沢 いや、レビューはあんまり見ないかな。メニューと店のビジュアルを見ればだいたいわかるようになってきちゃって。逆に、評価が高すぎる店のほうを避ける傾向はあるかも。高評価店って、言い換えると“万人受けする味の店”であることが多いんですよ。もちろん万人受けが悪いわけではないんですけど、僕は評価にバラつきがあるような店にニヤニヤしながら行くほうが好きです。
レトルトカレー工場のダクトの太さ
U-zhaan 自分たちが監修しているレトルトカレーの2種類目が出たとき、ちょっと僕はうれしかったんです。レトルトカレーを監修したミュージシャンは何人もいるけど、複数種をリリースした人はあんまりいないんじゃないかな、と思って。でも黒沢さんが出したレトルトカレーの数は、もう複数とかそういうレベルじゃないですよね。
黒沢 今のところ12種類だったかな?
スタッフ いえ、13種類です。
U-zhaan 少ないほうにサバを読むのはやめてください(笑)。
黒沢 作りすぎて自分でも覚えきれなくなってきてるんですよね。
U-zhaan どんなのを今まで作ってきたんですか?
黒沢 初めて作ったのは、赤ワインを隠し味にしたスパイシーなチキンカレー。2つ目がポークカレーでしたね。でも、あれはちょっと辛くしすぎたかも。3つ目がキーマだったかな? その後ホワイトカレーとかサグチキンとかいろいろ作りましたが、原材料費の関係で今はもう生産できないものもけっこうあって。シーフードにも挑戦したいんですけど、加熱したときに具が縮んだり臭みが出たりする問題がまだ解決できていないんです。
U-zhaan めっちゃ専門的な話ですね。黒沢さんがガチで開発に関わってるのが伝わってきます。
黒沢 そうですよ! だって僕、レトルトカレーの工場までダクトの太さを調べに行ってますから。それがわからないと、どれぐらいの大きさの具にすればいいかわからないんですよね。製造工程でどうしても具が柔らかくなりすぎる傾向があるので、食感を残すためにはある程度のサイズが必要になってくる。
U-zhaan レトルトカレーの調理って、具材を煮込んだあと、パウチに入れた状態でもさらに高温加熱殺菌しなきゃならないから食感や風味の調整がなかなか難しいんですよね。
黒沢 まさにそうなんです。だから「煮る→蒸す」という一般的な工程から「煮る」をスキップしてみたり、製造元にはいろんな無理を聞いてもらっています。
俺たちがカレーの地位を向上させるんだ!
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U-zhaan(ユザーン) @u_zhaan
音楽ナタリーで連載中の「カレーと音楽」、今日1/22はカレーの日だということで半年ぶりの第5回を公開しました。ゲストはゴスペラーズの黒沢薫さんです。 https://t.co/KN2wmgUyb6