左から宇多丸(RHYMESTER)、U-zhaan。

U-zhaanが食べて聞く「カレーと音楽」 第1回 [バックナンバー]

カレーエリートの宇多丸が説く「音楽とカレーは似ている」

ローカライズで個性を放つ日本語ラップとライスカレー

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カレーは一般的に人気が高い食べ物だが、とりわけミュージシャンに熱狂的な追求者が多いように感じるのはなぜだろう。芸能界「カレー部」名誉会長を名乗る黒沢薫(ゴスペラーズ)、南インド料理レモンライス専門店・Lemon Rice TOKYOを開いた小宮山雄飛(ホフディラン)、カレー店・八月オーナーの曽我部恵一(サニーデイ・サービス)、カレー店・Hammer Head Curryを営んでいた浅井健一(SHERBETS)。北村匠海(DISH//)やセントチヒロ・チッチ(ex. BiSH)もスパイスカレー作りが趣味であることが知られているし、“大阪スパイスカレーの源流”と言われる名カレー店・カシミールの店長はEGO-WRAPPIN'のベーシストとして初期の活動を支えた後藤明人だ。

音楽とカレーにどんな共通点があるのか、ミュージシャンがカレーに惹かれる理由はなんなのか。音楽ナタリーでは、この疑問をインドの打楽器タブラの奏者であり本場のカレーに精通したU-zhaanに託し、さまざまなカレー好きミュージシャンを取材しながら「ミュージシャンにカレー好きが多いのはなぜなのか」を探る連載をスタートさせる。

記念すべき第1回のカレー好きゲストはRHYMESTER宇多丸。自身のラジオ番組でたびたびカレーを特集し、2023年7月に監修したレトルトカレー「ムルグ・アールー・マサラ」が大ヒットとなった彼に、ほぼ初対面のU-zhaanがレトルトカレーの製作秘話や、パッケージにプリントされている「カレーと日本語ラップは似ているのだ!」というキャッチコピーの真意について聞いた。

取材 / U-zhaan / U-zhaan、鈴木身和 撮影 / 後藤武浩

ヒップホップとカレー、ローカライズの歴史

U-zhaan 宇多丸さんが第1回のゲストなんですよ。

宇多丸 わあ、なんてことでしょう(笑)。

U-zhaan 音楽ナタリー編集部から「ミュージシャンにカレー好きが多いのはなぜなのか、音楽とカレーにはどんな関係があるのか調査してほしい」と言われて始めることになった連載なんですけど、どうやって進めていこうか考えているときにRHYMESTERが監修したレトルトカレーを友達からもらったんです。で、そのパッケージに「カレーと日本語ラップは似ているのだ!」と書いてあるのを見つけちゃって。これはまず、宇多丸さんにお話を伺うしかないなと。

宇多丸が監修したレトルトカレー「ムルグ・アールー・マサラ」のパッケージ。

宇多丸が監修したレトルトカレー「ムルグ・アールー・マサラ」のパッケージ。

宇多丸 あのキャッチコピー、ほかにもいくつか候補があったんです。もっと普通に「おいしいよ」ということをストレートに伝えるものとか。でも、どうせ僕らが出すならヒップホップやラップと紐付けて打ち出したほうが面白いんじゃないか、ということであれになりました。

U-zhaan 実際、カレーと日本語ラップにはどんな共通点があるんですか?

宇多丸 要は、どちらも外来文化なんですよ。外国発の文化をどうローカライズしていくかってところが共通していると思っていて。例えばカレーだったら、インドとはまったく違う形にローカライズされた日本独自のライスカレー的なものもあれば、インドそのままの味を目指している人たちのカレー、さらにそれを日本流に解釈した最近のスパイスカレーとか、さまざまなものがある。アメリカのヒップホップと日本語ラップの関係もそれと同じだなと。輸入のプロセス自体が日本語ラップの歴史でもあるので、僕らは常にローカライズを意識する立場だったし。

U-zhaan なるほど、そういう観点なんですね。このレトルトカレーは、どうやって味をプロデュースしたんですか?

宇多丸 レシピを開発してくれたタケナカリーさんと何回もミーティングを重ねて決めていったという感じです。ただ僕はユザーンさんと違って自分ではカレーを作れないので、「このスパイスを、これくらい入れて」みたいなことは言えないんですよ。なので「このカレー店のこの感じ」というように、店の味に例えた説明をたくさんしました。幸いなことに、子供の頃からカレーはよく食べてたんです。日曜日には家族で外食をする、という決まりが僕の家にはあったんですが、店選びのレパートリーにおけるけっこうな割合をインド料理屋が占めていて。なので、小学校に入る前から湯島のデリー(※1)とか、御徒町にあったモーティマハールとかに通ってました。

U-zhaan だいぶ恵まれた幼少期ですね! 辛いのは平気だったんですか?

宇多丸 だんだん上げていった感じです。例えばデリーだったらコンチネンタル(辛さ0)から始めて、小4でカシミール(極辛)みたいな。

U-zhaan 早!

宇多丸 そうなんですよ。なので小さい頃からカレーエリートだっていう自負はあって、周りの人が辛い辛いと言っているのを見て「大人のくせにだらしがないな」と思ってました。

U-zhaan 嫌な子供ですね(笑)。

左から宇多丸(RHYMESTER)、U-zhaan。

左から宇多丸(RHYMESTER)、U-zhaan。

宇多丸 デリーはまだ健在ですけど、残念ながらモーティマハールは閉店してしまって。あの味がまた食べたいな、と思ってたところにレトルトカレー監修の話が来たので、レシピ開発担当のタケナカリーさんには「モーティマハールのチキンカレーみたいなのがやりたい」とまず話しました。

U-zhaan もう閉店してるのに、味のイメージの共有はできたんですか?

宇多丸 モーティマハール系列店の中で一番近い味だったインドカリー 夢屋(2023年8月28日に閉店)を参考にしてもらったり、渋谷にあったカレーハウス チリチリ(※2)みたいな酸味を出したい、と伝えたり。これまで僕が食べてきた幾多のお店へタケナカリーさんも食べに行ってきてもらったりして、細かい擦り合わせをしました。そのあとは彼がそれらを分析・再構築したものを3種類ぐらい作ってもらって試食し、僕が気に入ったほうをまた2方向に分岐させて再構築してもらい……ということを繰り返して。

U-zhaan それ、めちゃくちゃきちんと監修してるじゃないですか。

宇多丸 いやいや、とにかくタケナカリーさんの分析力がすごくて。僕の脳に浮かんだ思い出の味が3Dプリンターで出てきちゃったみたいな驚きでした。

宇多丸に蓄積された名店データの結晶

U-zhaan それにしてもこのカレー、本当においしいですよね。

U-zhaan(ユザーン) (@u_zhaan) - Instagram

宇多丸 えー、ユザーンさんありがとう!

U-zhaan 原材料に魚醤が入っていたのに驚きました。インド料理ではほぼ使われない調味料だから。

宇多丸 そこは僕の考えるローカライズの塩梅というか、日本米にも合う方向というか。やっぱり、日本人の感覚に合わせて再解釈したものが好きなんです。RHYMESTERの音楽もそういうものだと思うし。

U-zhaan それでいて、インドの人が食べても違和感なくおいしいと思いそうな味に仕上がっているのもすごいですね。

宇多丸 そこも大事なところで。これはインド料理ではない、と現地の人たちから言われない程度にはインド料理のフォーミュラを守ってる感が欲しい。

U-zhaan フォーミュラを守ってる感(笑)。それ、きちんと実現できてますよ。あくまでインド料理の範疇内で真剣勝負してる感じが味から伝わってきます。あと、酸味の使い方が非常にうまいですね。

宇多丸 うれしい! まさに、酸味がいい感じに効いてるものにしたかったんです。

左から宇多丸(RHYMESTER)、U-zhaan。

左から宇多丸(RHYMESTER)、U-zhaan。

U-zhaan インドではタマリンドやヨーグルトで酸味を出すことが多いけど、これはブドウ酢を使ってるんですよね。西インドに「ポークビンダルー」っていう、お酢をかなり使うカレーがありますが、あれっぽい方向なのかな?

宇多丸 酸味の出し方とか詳しいことについては、ちょっとタケナカリーさんに聞かなければわからないですね。僕が言わんとしている味を彼が分析して、量産もしやすい形に考えてくれたんだと思います。あと、油の少なさもポイントです。さっき話に出たカレーハウス チリチリのカレーも、ほとんど油分を感じなくて。食べているときはガツンと満足感があるんだけど食後に胃がもたれない、あの感じを目指しました。

U-zhaan このカレー、宇多丸さんに蓄積された名店データの結晶と言っていいですね。

宇多丸 気に入ったお店があっても、時間が経つとそれが失われていっちゃうじゃないですか。閉店したり、遠くに移転したり、シェフが変わったり。「あの感じがまた食べたいんですけど!」っていう気持ち、そこだけなんです。

U-zhaan 昔から、カレー屋に行くたびに味の分析とかしてたんですか?

宇多丸 いやいや、分析してないです。僕はゴスペラーズの黒沢薫くんみたいな、自分でも作るタイプではないので。彼のように貪欲に新規開拓するわけでもなく、東京のオールドスクールな名店にずっと通っていただけで。

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ラーメンよりもカレーのほうが音楽っぽい?

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U-zhaan(ユザーン) @u_zhaan

今日は #カレーの日 だそうです。 https://t.co/r0MWYrSrE5

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