今でも根強い人気を誇るテレビアニメ「AIR」の主題歌「鳥の詩」で2000年にデビューしたLiaが、活動25周年を迎えた今年、約17年ぶりにオリジナルアルバム「SAGARIBANA」をリリースした。
アニメやゲームの物語に寄り添い、あるときは“主人公”、またあるときは俯瞰した“天の声”として、まるで“女神様”のようにその世界観を歌い上げてきたLiaは、ファンの間で「Liaって実在するの?」と噂されるほど現実離れした存在だった。しかし、その噂に対する本人の答えは「実は普通の人間でした」だった。
「今回のアルバムは、これまでとは全然別物」と語る通り、「SAGARIBANA」では壮大な女神像を脱ぎ捨てて、自らの体験や思いが込められた楽曲を人間らしく、自分らしく歌っている。「これからはもっと新しいことをしてもいいと思うし、自分がしたいことを自分らしく表現していったらきっとファンのみんなもついて来てくれるのかな」と思えるようになったという彼女は、17年ぶりのアルバムとどのように向き合ったのか。この記事ではLiaの思いや心境の変化、「SAGARIBANA」の制作エピソードを掘り下げた。
取材・文 / ナカニシキュウ
なんで17年なんだろう
──このたび、Liaさんの17年ぶりとなるオリジナルアルバム「SAGARIBANA」が完成しました。さっそく聴かせていただきましたが、「17年待った甲斐があった」と思える素晴らしい内容で。
ありがとうございます……!
──とはいえ、そもそもなぜ前作から17年も空いたんですか?
ホントですよね(笑)。なんで17年なんだろう……?
──(笑)。もちろん「17年空けよう」という意思があったわけではないと思いますが。
ないですね。この17年の間にもカバーアルバムやベストアルバムをリリースしてきてはいるんですけど、あまり「オリジナルアルバムを作ろう」という話にはならなかった、というのが正直なところですかね。
──僕が勝手に想像していたのは、おそらくLiaさんは「歌で何を表現するか」ということだけにフォーカスしていて、必ずしも新しいオリジナル曲を必要とする人ではないからなのかなと。
ああー、うんうん。カバーアルバムを出させていただいたのも、「自分にとって何が進化なのか」「何をしたらファンの皆さんが一番喜んでくれるのか」を模索する中での挑戦の一環でした。そのテーマを追求する中で、まあ海外に住んでいたということもありますし、コロナ禍もあったりして……ふと気付いたら、いつの間にか17年経っていたというわけです(笑)。まさかそんなに空いていたとは……。
──つまり、新曲を出せていないことに対する焦りは一切なかったわけですよね。
全然なかったですね。
──そこがLiaさんのスペシャルなところだと思います。普通は2、3年空くだけでも「ヤバい、そろそろ何か出さないと」と焦り始めるものだと思うので。
そうか、普通は焦っちゃうのか……いやもうそこは本当に、作品のおかげもあって。「AIR」や「CLANNAD」「Angel Beats!」といった、ファンの皆さんからの思いもすごく強いアニメ作品と出会わせてもらったことで、いまだに「鳥の詩」(ゲーム・テレビアニメ・劇場版「AIR」主題歌)などをきっかけに新しいファンが増え続けているんです。その「Liaといえばこの曲だよね」という皆さんの思いに応えなきゃいけない、というのがまずあって……もともとあまりガツガツしているタイプでもないですし、だいたいいつも「なんとなく波に乗ったらいい結果が出た」みたいな感じで生きてきたので(笑)、そういった私自身の空気感などもファンの皆さんに伝わればいいな、とは常にちょっと思っているところがあります。
──その自然体の姿勢が、この17年という年月にも表れていると。
にしても、17年はちょっと長すぎますよね(笑)。それだけ経っても「待ってました」と言ってくださる方々がたくさんいて、本当にうれしい限りです。
え? これを私が歌うの?
──アルバム制作はどのように始まったんでしょうか。
今年は歌手活動25周年の節目ということで、自然な流れで「オリジナルアルバムを作ろう」という話が持ち上がりまして。今年の3月か4月ぐらいに、スタッフから「この曲ちょっと歌ってみて」とアルバムの1曲目に入っている「僕と二つの世界」のデモ音源を渡されたんです。今回、GOOD之介(もるつオーケストラ)というミュージシャンが全曲を作詞作曲してくれているんですけど、彼の曲と私の歌のタッグがどんな感じかを聴いてみたいということで試しに録ってみることになり。
──その結果が良好だったことで、全曲をGOOD之介さんに書いてもらうことに?
そうです。ただ、最初にデモをもらったときは「え? これを私が歌うの?」と思いました(笑)。
──どういう部分でそう感じたんでしょう?
なんていうんですかね……地に足がついた感じの、人間っぽい感じ? 今まであまりそういう曲を歌ってきていないので。アニメの世界観を表現する歌だったり、みんなを励ますような伸びやかな曲は多かったんですけど、自分の内面を語るようなものはあまりなかった。こういう曲を歌えるアーティストさんはほかにもたくさんいそうというか、正直「私じゃなくてもよくない?」という感じがしたんですよね。イマイチしっくりこないままスタジオに入ったんですけど、実際に自分の声を乗せてみたら「あれ? この曲いいかも」みたいな(笑)。「私、こっちもいけるんだ?」という新たな発見がありましたね。25年もやってきて、今さら言うようなことではないかもしれないですけど(笑)。
──そのお話はちょっと意外です。聴かせていただいた印象でいうと、全曲が“今のLiaさんが歌いたい歌”に聞こえたので、明確にそういう意図で作ってもらった楽曲群なんだろうと思っていました。
結果的にはそうなりましたね。でもそれは私自身というよりも、周りのスタッフの強い意向だったんだと思います。来る曲来る曲「これ本当に私が歌う用に書いた曲ですか?」と思うものばかりで(笑)、不安を抱えたままレコーディングに臨んでいましたから。でも、この25周年というタイミングで新しい表現にチャレンジできたことは大きな刺激になりましたし、今でもまだ自分からいろんな引き出しが出てくるとは思っていなかったので、本当にいい風の流れに乗らせていただいている感覚ですね。「またここから行ける!」という新鮮な気持ちでいます。
──新人のような気持ち?
そうなんです! 25周年をきっかけに、スタッフ間でも「みんなで新しい、面白いことをしていこう」というムードになっているんですよ。今までにない視点からの意見が出てきたり、私自身もいろんなアイデアが湧いてきているので、今後がすごく楽しみだなと思っていて。
──めちゃめちゃいい話ですね。
んふふふ。
──実際、今回の「SAGARIBANA」はまるで1stアルバムのような作品だなと感じました。
ああ、でもそうかもしれない。今まではアニメやゲーム作品に関連する楽曲が多く、その作品にできる限り寄り添うことを意識していましたが、今回はそのような枠の外で作ってもらった曲を歌っています。“アニソン歌手・Lia”ではなく、“アーティスト・Lia”としての初心に戻った感じのアルバムになっていますね。
歌に関して悩むことはない
──具体的な楽曲制作の流れとしては、LiaさんからGOOD之介さんに「こういう曲を歌いたい」と伝える形ではなかったということですか?
私から直接伝えてはいないんですけど、今年の初め頃にスタッフからいろいろ質問をされたんですよ。歌を始めたときのことや、歌で救われたこと、逆に救われなかったことなど……その話をもとに、スタッフとGOOD之介でどのような楽曲、どのようなアルバムにするのかを詰めていったようです。
──例えばどういう話をしたんですか?
どういう質問に対しての答えだったかは忘れちゃったんですけど、何かの話題で「ボストンの空」と答えたのを覚えているんですよ。なんの話だったかなあ……なんか空の話になったんですよね。「やっぱり香港の空を思い浮かべますか?」と言われて、「いや、もしかしたらボストンかも」って。ボストンのバークリー大学で過ごした4年間というのは私の中ですごく貴重な、とても濃い時間だったんです。アメリカに行って「上には上がいる」と思い知らされた。音楽的にも、私がそれまで触れてこなかったジャズやブルースを基礎として重んじる学校だったこともあって、イチから勉強し直さなければいけなかったんですよ。どちらかというとクラシック畑で育ったので、インプロビゼーションなんてやったこともなかったですし。ゴスペルクワイアにもオーディションで入ったんですけど、それも初めての経験で。
──今回のアルバム制作と同じように、それまでやってきたこととまるで違う音楽との向き合い方が要求されたわけですね。
完全に未知の世界に足を踏み入れたことで、大きな壁にぶつかりました。そんなときにふと空を見上げたら「ああ、青いなあ」と……そのときの、澄んだ冷たい風の記憶がすごく印象に残っているんです。そういう話をバーッとLINEで書き始めたら、すっごく長くなっちゃって。そのやりとりからキーワードをどんどん拾ってくれて、GOOD之介が一生懸命曲に落とし込んでくれました。だから、私から直接「こういう曲を」という話はしていないんですけど、私の生きてきた過程や今考えていること、感じていることなどがそのまま曲になっています。
──なるほど、納得しました。その結果、これまでのゲーム曲やアニメ曲とはまったく違う、“自分を歌う”というチャレンジになったわけですよね。
うん、そう。今までとはまた違う感情の込め方になりましたね。これまでのように作品の主人公になりきって歌うのでもなく、神様視点で“天の声”として歌うのでもなく、普通の人間として歌うので。あと今回、アレンジをコニシハヤオくんという、カバーアルバムのときも何曲か編曲をしてくれた人が全曲手がけてくださって。GOOD之介ともども、すごく私のよさを研究して理解したうえで作ってくれているので、それも相まって私もスッと曲に乗れたというのはありますね。
──例えば声優さんの場合、基本が“他人を演じる”仕事ゆえに「“自分として歌う”とはどういうことなのか?」と悩む方が多い印象があるんですが、Liaさんはそこの苦労は特になく?
私は全然、歌に関して悩むことはないんです。ゴスペルだろうがクラシックだろうが、何を歌ってもLiaらしくなるということについては自信があるので。今回は本当にいろいろな引き出しを開けていて、逆に「Liaとしての一貫性を保てるかな?」というぐらい、いっぱい開けました(笑)。
──なるほど。表ではあまり使ってこなかった引き出しであっても、Liaさんの場合はすぐ開けられる準備が常にできているということなんですね。
うんうん、そうなのかもしれないですね。
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「REBORN」を歌いながらリボーン


