H△Gとマンガ家・二式恭介がクロストーク|「ちゃんと吸えない吸血鬼ちゃん」を構成する“優しい世界”

音楽ユニット・H△Gによるテレビアニメ「ちゃんと吸えない吸血鬼ちゃん」のオープニングテーマ「青春のシルエット」とエンディングテーマ「線香花火」を収録したシングルが発売された。

「ちゃんと吸えない吸血鬼ちゃん」は、吸血鬼という立場とミステリアスな雰囲気で一目置かれているクラスの人気者・石川月菜と、そのクラスメイトの男子・大鳥辰太の関係を描く“甘やかし餌付けコメディ”。「月刊ドラゴンエイジ」にて連載されていた同名マンガを原作とした作品で、10月にTOKYO MXほかで放送がスタートした。アニメの放送、そしてシングルの発売を記念して、音楽ナタリーでは、H△Gのボーカリスト・Chihoと作曲を担当するYuta、そして「ちゃんと吸えない吸血鬼ちゃん」の原作者・二式恭介のクロストークをセッティング。この日初めて顔を合わせた3人が、同作のアニメ、原作、そして、主題歌について思いの丈を語り合った。

取材・文 / 蜂須賀ちなみ撮影 / 笹原清明

H△Gは楽しく全力疾走中

──H△Gは最近、精力的に活動されていますよね。

Chiho 今が一番エンジンがかかっている時期なのかな、と思います。

──海外での人気ぶりも伺ってます。ソールドアウトしたという今年6月の上海公演の写真をSNSで拝見しましたが、お客さんが上の階までパンパンで。

Chiho 熱量がすごかったです! ずっと熱唱という感じで。

Yuta 観客の皆さんは日本文化が好きな方々なので、日本語でのMCも理解してもらえるし、日本語でリアクションが返ってくることもありました。すごくうれしかったです。H△Gは2022年に結成10周年という節目を迎えて、翌年の活動はちょっと落ち着いていたんですよ。その期間で僕は自分自身と向き合って、H△Gについていろいろと考えました。Chihoやほかのメンバーも当時何を思って過ごしていたかはお互いに話していないけど、おそらくみんな悶々としていたと思うんです。

Chiho 私は「前に進みたいけど、どっちに行こう?」という時期が長く続いている感覚がありました。

Yuta だからこそ、中国ライブの話が出たときにChihoが「やります!」と即答して。

左からYuta、Chiho。

左からYuta、Chiho。

──2024年8月にH△G初の海外公演として開催された、上海でのワンマンライブのことですね。

Chiho チームの話し合いで「中国ライブ、どうする?」と聞かれるまで、私は自分がどうしたいのかもわかっていなかったんですよ。だけど気付いたら「やります!」と即答していました。もともと2020年3月に中国でツアーを行う予定だったんですよ。それがコロナ禍で中止になってしまったので、「どこかのタイミングで行けたらいいな」「国外でH△Gを聴いてくれている人にもライブを届けたい」という思いがずっとあったんです。なので、中国ライブをきっかけに「走る目標が見えた!」という感じで、まずは1ダッシュを決めて(笑)。

Yuta (笑)そこからいろいろな話が動き出したよね。

Chiho 今回のレーベル移籍も含めてね。今はやりたいことがどんどん増えていて、走る目標がたくさん見えているから、楽しく全力疾走している状態です。その目標の1つに「アニメのタイアップ」もあったので、今回のお話をいただいたときはめちゃめちゃうれしかったですね。

原作者・二式恭介先生とご対面

──本日は、H△Gがオープニングテーマとエンディングテーマを手がけたアニメ「ちゃんと吸えない吸血鬼ちゃん」の原作者・二式恭介先生にお越しいただいています。

二式恭介 二式恭介です。お会いできてうれしいです。ちょっと緊張していますが、今日はよろしくお願いします!

Yuta こちらこそお会いできてうれしいです。よろしくお願いします!

Chiho やっとお会いできるんだ!って、今日の対談をすごく楽しみにしていました。

二式 デモの音源を聴かせていただいたり、文面でのやりとりはしていたけど、こうして直接お話する機会はありませんでしたよね。いただいたデモを聴いて「すごく透き通った声だな」と思って、「H△Gの皆さんはどんな方なんだろう?」と思いながら公式サイトとかを検索したりもしました。

Chiho 私も、あとがきで描かれている先生ご自身のイラストを見ながら「どんな方なのかな?」と想像を膨らませていました。

──「ちゃんと吸えない吸血鬼ちゃん」は二式先生にとって初の連載作品。「月刊ドラゴンエイジ」での連載が今年8月に完結を迎え、先日単行本の最終巻が発売され、アニメの放送も始まったばかりというホットなタイミングで皆さんに集まっていただきました。まずは二式先生、今のお気持ちを聞かせていただけますか?

二式 「ホッとした」という気持ちが一番大きいですね。私はアニメの打ち合わせや監修にも参加させていただいて、ラフの段階から拝見していたんですけど、第1話の放送を観て「本当に動いてる! しゃべってる!」と改めて感動しました。「月菜ちゃんたち、こんなに立派になっちゃって」と、驚きもありつつ達成感に近い感情もあって、すごく不思議な感覚でした。SNSでたくさんの方々が「吸血鬼ちゃん」の話をしてくださっていたのもうれしかったです。「原作者冥利に尽きるな」「感無量ってこのことかな」と思いました。ChihoさんもXで作品について投稿してくださってましたよね?

Chiho ネットにいる仲間たちに共感して、ついいっぱい投稿しちゃいました。タイムラインを荒らしちゃったかもしれない(笑)。「ちゃんと吸えない吸血鬼ちゃん」は、とても温かい作品ですよね。私たちは楽曲を制作するにあたって、二式先生が描かれた原作のコミックスを読んだんですけど、読んでいる私自身もクラスのみんなに温かく受け入れてもらえているような感覚を覚えました。それがすごく心地よくて、読み進めるのが楽しかったです。

Chiho

Chiho

Yuta  学園生活の光と影、人と人とのつながりが丁寧に描かれていたのが印象的でした。

Chiho 誰かに優しさを向けるまでの葛藤とか、登場人物の心の機微みたいなものがチラッと見える瞬間があるのがいいよね。優しさの奥行きが見える感じがして。

Yuta そうそう。人と人が出会って、それぞれの違いを知って、お互いに認め合っていく。「吸血鬼ちゃん」で描かれている「みんな違っていいんだよ」というメッセージは、僕らが音楽を通して表現したいことでもあるので、すごくシンパシーを感じました。

二式 素敵な感想をありがとうございます。

──とてもユニークな世界観ですよね。作品の舞台となる樫ノ木台という街、そして樫ノ木台高等学校では、吸血鬼の月菜をはじめ、さまざまな種族の人たちが暮らしている。そこではバトルなども起こらず、とにかくみんなが和やかに楽しく過ごしていると。

「ちゃんと吸えない吸血鬼ちゃん」

「ちゃんと吸えない吸血鬼ちゃん」

二式 昔はバトルマンガもけっこう描いていたんですよ。人と人ではない種族のバトルとか。「そのときに作ったキャラクターたちを1つの学校の中に入れて、学園生活をさせたら、どうなるだろう?」みたいな一人遊びをしていたことが、この世界観が生まれたきっかけでした。

Yuta へえー!

Chiho 戦ってた世界線もあったんですね!

二式 キャラクターたちは、「ドラゴンエイジ」さんでの連載が決まってから生まれたんですけどね。「血を吸うのが苦手な吸血鬼がいたらかわいいだろうな」というふうに。大鳥は「月菜ちゃん見守り隊代表」みたいなイメージでした。

「楽曲の意図をここまで汲んでくださるんだ」

──アニメ化にあたって特に大事にしたかったことはありましたか?

二式 「悲しいことが何も起きない、優しい世界である」ということは大事にしたいなと。制作チームの皆さんは私の思いをすごく汲み取ってくださって、本当にありがたかったです。

Chiho 私は第1話を観たとき、本当に感動しました。月菜ちゃんは、最初はクールな感じでクラスのみんなと接しているけど、血を吸うときに小さくなって、雰囲気がガラッと変わるじゃないですか。それを演じ分ける、田中美海さんの表現の幅の広さに驚きましたね。あと、大鳥くんがコッコちゃんの声を出すシーンも印象的でした。

二式 あのシーン、アフレコを見学していたんですけど、私もブースでめちゃめちゃ笑っちゃって。

Chiho そうだったんですね。私はマンガを読みながら、声を想像して脳内再生しながら楽しんでいたんですけど、自分の想像とはまた違った角度でピッタリとハマる声だったので。「なんて巧みなプロのお仕事!」と鳥肌が立ちました。

Yuta 僕はやっぱり、オープニングとエンディングの映像に感動しました。制作チームの皆様の愛を映像から感じて、「楽曲の意図をここまで汲んでくださるんだ」と深夜に一人で温かい気持ちになっていました。

Yuta

Yuta

二式 私は原作者の立場から、H△Gさんに同じことを感じていましたよ。「吸血鬼ちゃん」の世界観を歌詞や曲調でまっすぐに表現してくださって。愛を込めて曲を作ってくださったんだなと思いました。どちらの曲も大好きです!

Yuta うれしい……!

──Yutaさん、うれしさのあまり手で顔を覆い、足をバタバタと動かしていますね(笑)。

Yuta すみません、本当にうれしくて(笑)。実は最初は少し不安だったんです。原作を読み始める前、ビジュアルを見たときに「キュートなイラストだな」「キュートではないH△Gの楽曲は合うんだろうか?」と思ったので。だけど読み進めていくうちに「H△Gの音楽をストレートにやればハマる」と確信できました。僕の手が最初に止まったのが、単行本2巻のみんなで花火をするシーン。絵にすごく力があったので、「先生の描きたい“青春”がここにある」と僕なりに感じました。H△Gは「青春期の葛藤や光と影を描く」というコンセプトで始まったユニットです。それに、先ほどもお伝えした通り「みんな違ってカラフルなのがいいよね」「ときには色が混ざって濁るかもしれないけど、それでも前を向いて仲よくやっていこうよ」というメッセージが僕らの楽曲と共通していたので、「直球でいけばいいんだ」と思えました。

二式 花火のシーンは、吸血鬼と人間の物語を描くうえで連載当初から入れたいと思っていたので、そう受け取ってもらえてうれしいです。友達が写真に映らない吸血鬼だった場合、思い出を残す方法はいろいろあると思うんです。私はキャラクターを自分の分身として作っている節もあるので、一番身近な「絵を描く」という手段を大鳥に選んでもらい、月菜ちゃんの絵を描く展開にしたいとずっと考えていました。