蛇石マリナ(Vo)、及川樹京(G)、本石久幸(B)の3人からなるヘヴィメタルバンド・Mardelasが今年メジャーデビュー10周年を迎えた。これを記念して10月にリリースされた2枚組ベストアルバム「Brand New Best 2025」は、メンバー選曲による全22曲入り。3人はこれまでにリリースしてきた楽曲を厳選のうえリレコーディングおよびリミックスし、さらにアレンジも一新してバージョンアップさせた。
Mardelasは過去曲とどのように向き合い、10年間の集大成とも言えるこの強力な作品を完成させたのだろうか。バンドの成り立ちや10年の歩みを振り返りつつ、ベストアルバム制作の裏側を語ってもらった。
取材・文 / 西廣智一
Mardelasの成り立ちを振り返る
──Mardelasは今年でメジャーデビュー10周年を迎えましたが、改めてバンドの成り立ちを教えていただけますか?
蛇石マリナ(Vo) Mardelasはもともと私のソロプロジェクトとして2014年に立ち上げて、その年の10月にインディーズからシングルを出しました。ちょうどそのちょっと前に、キングレコードのディレクターさんとお会いしまして、「よかったら一緒にやりませんか?」とお声がけいただいたんです。それで2015年4月にアルバム「Mardelas I」でメジャーデビューしまして、その段階からソロプロジェクトではなくてバンドとして活動していく形に切り替わったので、そこから数えて今年で10年になります。
──蛇石さんと及川さんは、Mardelas以前からの付き合いだそうで。
蛇石 (及川は)大学時代の軽音部の先輩です。
及川樹京(G) 僕が大学4年生、彼女が1年生のときに出会いました。今でこそ女性ボーカルのメタルバンドはそれなりに存在しますけど、当時は本当に少なくて。彼女はもともとメタルは通っていなかったそうですが、メタルにぴったりな高い声が出たので、「適任がいるな」ということで一緒にやることが多かったんです。
蛇石 それで、Mardelasを立ち上げるときに彼に相談をして、ギターを弾いてもらうことになりました。
──その後、2017年に本石さんがMardelasに加入します。
本石久幸(B) 蛇石とはDESTROSE(蛇石がかつて在籍したガールズメタルバンド)時代に知り合っていましたが、2人が大学の先輩後輩ということを知らなかったので、「この2人が組むのか」と驚いたことをよく覚えています。当時は、“嬢メタル”とカテゴライズされるガールズメタルバンドが多かったじゃないですか。そんな中で、Mardelasは見た目もやっている内容に関しても王道のハードロックやヘヴィメタルでしたし、僕もそっち側のサウンドが好きだったので、加入することにしました。
──Mardelasがメジャーフィールドで活動し始めた2015年以降、自分たちの立ち位置についてはどのように認識していましたか?
及川 2015年前後って、ガールズメタルバンドがいくつかメジャーデビューし始めていた時期で、今思うと1つのムーブメントとして盛り上げたいという思惑が業界内にあったんじゃないかと思うんです。でもMardelasに関しては、そうした周りの流れに合わせて売れたいという気持ちが一切なくて。純粋に「ヘヴィメタルバンドを立ち上げた」という気持ちが強かったので、当時はほかのバンドと一緒にされたくないと思っていたと同時に、ムーブメントがあることは自分たちにとってはすごくいい方向に作用するんじゃないかとも考えていましたし。だからこそ、こうして10年も続けてこられたのかなと思います。自分たちがどういうことをやりたいのか、バンドのカラーや個性をどう打ち出していくのかをしっかり考えることができたのも、そういうムーブメントがあったからこそだなと。
蛇石 そもそも、そういうシーンが嫌になって前のバンドを辞めたところもありましたし、Mardelasも同じガールズメタルバンドにカテゴライズされていることはわかっていましたけど、特に気にしないようにしていました。ブームはいつまでも続くものでもないだろうし、フラットに物事を見ていたんじゃないかな。それよりも、私は長く続けることのほうが大事だと思っていて。バンドを続けていくうちに自分たちの立ち位置やスタイルをお客さんにわかってもらえればいいのかなと考えていました。
──その時代その時代の流行を意識して、音楽性を変化させていくバンドも存在しましたし、軸を見失って長く続かなかったバンドも少なくありません。そんな中で、Mardelasはハードロックやヘヴィメタルという軸足を大切にしながら、作品を重ねていく中で曲のバリエーションを広げていった印象があります。
蛇石 そう言っていただけてうれしいです。私も「根本にあるものはずっと変わってないんだな」と、ベストアルバムを作ってみて改めて感じました。もちろんアルバムによっては微妙に変化を付けたところもありましたけど、根本にある“やりたいこと”は10年間変わってないんですよね。
10年間のターニングポイントは
──そんな10年間を振り返ってみて、バンドにとっての大きなターニングポイントを挙げるとすると?
蛇石 やっぱりコロナですかね。あの期間を通して、自分たちができることを自分たちでやっていかなきゃいけないんだと心に決めたというか。それまでも同じようには考えていましたけど、メンバーみんなにより自覚が芽生えましたし、あの時期に試行錯誤しながらいろんなことに挑戦できたのもよかったと思います。例えば、自分たちでYouTubeチャンネルを動かして、カバー企画とか配信ライブとかいろんなことやりましたが、配信をあとから見返すと反省点も見えてきて、ステージングがさらによくなりました。そういうことの積み重ねでバンドとして成長できたという意味では、やっぱりコロナの期間は大きかったんじゃないかなと思います。
──結局あの時期に何をしたかで、その後が大きく変わりましたよね。
及川 本当にそうですね。厳しい言い方をすると、惰性でなんとなくやってきていた人たちが一気に淘汰されたのがあのタイミングでしたし、そこで活動を止めなかったということは、やっぱり自分たちは本当にやりたいからMardelasをやっているんだと自覚できました。それにYouTubeを本格化させたことで、自分たちが出ていける場所がライブに限らずたくさんあることに気付けました。
蛇石 「お客さんはこのバンドに何を求めているんだろう」っていうことも、YouTubeをやってみてすごく考えるようになりました。もちろん自分たちがやりたいことをやるのが大前提ですけど、お客さんは良質な音楽を作って届けることを私たちに求めているんだろうなと感じたので、YouTubeではあえて音楽に関することしかやらないというスタンスでいましたし、そういう私たちの思いや姿勢がしっかり伝わったと思っています。
──YouTubeだからこそ、普段見せない側面を打ち出したりすることもできるけど、そうじゃなかったと。そこも含めて首尾一貫していると思います。
及川 僕、昔から思っていたんですけど、勝てることをやらないとダメなんじゃないかと。それは、さっきおっしゃっていたトレンドに合わせてサウンドを変えるとか、そういうことではないですよね。自分が得意とすること、自分が好きなことをぶつけない限り他者に勝てないと思うので、そのスタイルをずっと貫いてきたのがこの10年だったのかなと。YouTubeにしても、話がうまい人はそこで勝負すればいいけど、うちらはそうじゃない。音楽と真摯に向き合って結果を出したいという思いが昔からずっとありますね。
──本石さんはコロナ禍でどんなことを考えながら、バンドと向き合っていましたか?
本石 当時は「コロナ禍が早く終わらないかな」と思ってましたけど、今思えば僕もあまりマイナスイメージはなくて。今まであまり時間を割けなかったことに思いきり時間を使えるタイミングでしたし、その期間にアルバム「Mardelas IV」(2022年9月発売)の曲をじっくり作れました。ライブをするだけがバンド活動ではないので、遠回りではなかったなと思います。
──現在の体制になってから5年、この3人がMardelasにそろってから8年が過ぎました。出会った頃と比べて、お互いの印象は変わりましたか?
蛇石 あんまり変わらないですよ。ただ、音楽の話とかすると「ああ、そうだったんだ」と意外に思うことは多いですね。例えば、本石は歌詞をしっかり読んでいたり。
本石 歌詞は大事じゃないですか(笑)。レコーディングのときも、歌詞があったほうがいいし。
蛇石 え、そうなんだ。
本石 ベースを弾くとき、歌詞があるとないとでは気持ちの込め方が全然変わってくるしね。
及川 いい意味でお互いに踏み込まないというか、質問をされないと話さないこともある関係性なので、今の話を聞いて僕も「意外と考えているんだな」と驚きました。
本石 いやいや、普通ですよ(笑)。
蛇石 照れちゃった(笑)。
及川 仲よくしすぎると、よくないことまで許しちゃうような関係になる可能性もあるじゃないですか。そうならないのはいいことかなと思います。
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