小出祐介(Base Ball Bear)率いるバンド・material clubが11月26日にビルボードライブ東京にてワンマン公演を行う。
2018年に小出の音楽プロジェクトとして始動し、2024年にバンド形態で再始動したmaterial club。小出、福岡晃子(ex. チャットモンチー)、成田ハネダ(パスピエ)、キダモティフォ(tricot)、YUNA(ex. CHAI)という実力者ぞろいでありながら“新人バンド”を自称し、これまでフェス出演を含む4回のライブを行ってきた。
音楽ナタリーではビルボードライブ公演開催にあたり、小出と成田にインタビュー。material clubの活動に感じている面白味やこれまでのライブについて、バンド形態だからこそ引き出されるメンバーの個性などを語ってもらい、ビルボードライブ当日への意気込みを聞いた。
取材・文 / 金子厚武撮影 / 小財美香子
公演情報
material club「物質的III」at Billboard Live TOKYO
2025年11月26日(水)東京都 ビルボードライブ東京
[1st]OPEN 17:00 / START 18:00
[2nd]OPEN 20:00 / START 21:00
<メンバー>
小出祐介(Vo, G) / accobin(B) / 成田ハネダ(Key) / キダモティフォ(G) / YUNA(Dr)
こいちゃんをめちゃくちゃ崩してやりたい
──material clubは去年バンドとして再始動し、2ndアルバム「material club II」をリリースして、ワンマンとフェス合わせて4回ライブを行いました。ここまでを振り返っていかがですか?
小出祐介(Base Ball Bear) どう思います?
成田ハネダ(パスピエ) 俺から?(笑)
小出 俺はさ、バンド形態になった段階で「これでいろんなことができるな、ハッピー」みたいな感じだから。呼ばれた側としてはどうなの?
成田 material clubは皆さんそれぞれ精力的に活動してるから、制作やライブのときは集中的にガッと集まるんです。で、それが終わると「次はいつ会えるかな?」みたいなペースでやってるので、その都度その都度、自分的にはイベントというか、文化祭的な(笑)。
小出 そういう感じだよね。今のところはね。
成田 それがコンスタントに続いてるから、今はバンド形態の地固めをしている段階なのかな。まずはいろんな人にライブを観てもらえたらいいなと思いますね。
小出 うん、同感です。
──バンド形態になった理由としては、「打ち込みが面倒くさい」ということと(笑)、「ライブをやるため」だったそうですが、ライブの構想はどの程度ありましたか?
小出 アルバム制作で全員が集まれた時間は少なかったけど、その中でも「全員で演奏したら、こんなに曲の形が変わるんだ」みたいなことがあって、これは数をこなしていったらもっと面白いことになるんじゃないかと、その段階から思ってましたね。で、その後の東京と大阪のワンマンのときは、新曲だけじゃ曲数が足りないから、1stアルバム(2018年リリース「マテリアルクラブ」)の曲もアレンジしなきゃいけなくて。最初は同期込みで音源を再現する方向で準備してたんですけど、やっぱり同期を走らせるのは面倒くさかった(笑)。「それで身動きが取りにくくなるのであれば、なくていいんじゃないか」とナリハネ(成田)も言ってくれて、結局同期はナシでやることにしました。そうしたら、スタジオで遊んでるうちに「閉めた男」(「マテリアルクラブ」収録曲)とかがどんどん変形していったから、その現象もとてもバンドっぽいなって。今ってさ、パスピエとかBase Ball Bearだと、リハごとにわざわざメシ食いに行ったりしないじゃん?
成田 しないですね。
小出 でもmaterial clubは全員が集まる時間が毎回貴重だから、より親睦を深めるために、リハ1回やるだけでもわざわざごはんに行って。メンバーだけで打ち上げをしたり、そういうのも込みで楽しいよね。打ち上げは全部カラオケだし(笑)。
──仲いいですね(笑)。成田さんはmaterial clubのライブにどんな心持ちで臨んでいますか?
成田 僕がライブで心がけてるのは、とにかくこいちゃん(小出)をめちゃくちゃ崩してやりたいってことで。
小出 そうなんだ。
成田 本当にね、ちゃんとしてる人なんですよ。バンドメンバーとして一緒のステージで音を出すって、すごく貴重な経験だと思うんですけど、実際ステージ上で見てて「リハと本番でこのぐらいスイッチが変わるんだ」とか「ここはこういう持って行き方をするんだ」とか、すごくしっかりしてるんですよね。でも僕はプライベートでも会ったりする中で、ステージでは見せてないこいちゃんの一面も知ってたりするから、「まだみんなが知らないこいちゃんをマテクラで出せたら面白い」みたいなことは考えます。それはあっこ(福岡晃子)さんにも思ってて、ステージに立つと本当にしっかりしてて……。
小出 よくそんなに周りを見る余裕あるよね。俺もあっこも、そんな余裕ないからがんばってるだけだよ(笑)。
成田 リハであっこさんと目が合うとニコッて笑ってくれるんだけど、ステージだとクールなままだから、目線が合う距離まで近付いて行って……。
小出 強行突破してくる(笑)。逆にこっちからすると「ナリハネって、こんなに仕掛けてくる人だったんだ」って感じ。パスピエのライブではなかなかあそこまで動き回ったりしないでしょ?
成田 はい。でも崩してやりたいっていうのは、パスピエでも思ってはいます。
小出 それはほかのメンバーとか、バンドそのものに対して?
成田 そうですね。例えば、キーボードで始まる曲があって、その前にちょっとアドリブを加えるときとかに、メンバーには事前に伝えないんです。で、メンバーが「どうする?」と頭をグルグル回してる。そういう瞬間がすごく好きなんです(笑)。
ナリハネのエアギター、コードが完璧
──今は同期を使うバンドはたくさんいるし、特にフェスとかでは時間がしっかり決まってて、事前に用意した通りにやるのが普通だったりする。でもそうじゃなくて、文字通りライブだからこそ起こるハプニングやアクシデントも大事にするということは、現代のライブのあり方に対する1つの提案にもなっているように思います。
小出 同期を入れないことにしたのは本当にいい選択でしたね。あそこがバンドとしての分かれ目でした。
成田 本当にそう思う。メンバー全員が同期系じゃないバンドを通ってきてる人たちだしね。
小出 そうね。逆になんで1回、同期を入れようと思ったんだろう。もはや面倒くさくて考えられないもん。
──もちろん1stアルバムを打ち込みで作ったから、というのはあったでしょうけど。
小出 1stアルバムの曲も、演奏すればできるのにね。まあ、制作に携わってない曲をみんなで1回理解して、分解して、構築するって、大変なことかなと思ってたんです。でもあっさり再構築できて、「ここからどのくらい遊べるか」というところまで1回目のリハで行けました。
──さっきも話に出た「閉めた男」は6月のLIQUIDROOMのライブではメタルバージョンになってましたね。
小出 最初にライブでやったときは、曲の途中でサンプラーを使ったクイズコーナーが始まるという、意味のわからない展開がありました(笑)。リキッドのときは、あのメタルバージョンに至るまでにポッと出のアイデアを何個か試してはいたんだけど「1回、元の構成はまったく無視して、リフものの曲にしたらどうか」って話になり、気付いたら……。
──ヘドバンの曲になってた。
小出 で、その方向に行くんだったら、もう本気でやろうと。YUNA(ex. CHAI)ちゃんはああいう激しいドラムを叩いたことがないって言ってたから、Rainbowとかを聴いてもらって(笑)。
──成田さんはLIQUIDROOM公演では「閉めた男」でキーボードを逆から弾いたり、「Curtain part.2」でエアギターをしたり、パフォーマー的な側面も目立っていました。
小出 あのエアギターは「どういう意味?」と思いながら見てました(笑)。まあでも確かに、そうならざるを得ないパートっていうか。
──「Curtain part.2」の音源の前半には鍵盤は入ってないですからね。
小出 事前に出たアイデアはマラカスを振るとかだったけど、それだと予定調和すぎるから、そうじゃないチョイスを考えたら、とんでもないモンスターが生まれました。
成田 さっきも言ったように、ステージでのこいちゃんはしっかりしてるから、ちゃんとお客さんに曲を届けようとすごく集中してて、最初の30秒ぐらい俺のエアギターに気付いてくれなかったんですよ。それが悔しくて悔しくて。
小出 そんなことやってるって思わないから!
成田 「じゃあもう近付くしかないか」と1歩ずつ近付いて、気付いたら隣にいた(笑)。
小出 あのエアギター、ちゃんとコードが合ってるんですよ。怖くないですか? ナリハネも「ポイントは、ちゃんとコードを押さえてるところなんですよ」とか言ってて、何を言ってるんだろうなって(笑)。
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material clubはハプニングが本当に面白い


