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佐々木敦&南波一海の「聴くなら聞かねば!」 6回目 前編 [バックナンバー]

作家・朝井リョウとアイドルシーンの多様性を考える

大好きだけど、こんな気持ちで応援してもいいの?

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佐々木敦と南波一海によるアイドルをテーマにしたインタビュー連載「聴くなら聞かねば!」。この企画では「アイドルソングを聴くなら、この人に話を聞かねば!」というゲストを毎回招き、2人が活動や制作の背景にディープに迫っていく。作詞家・児玉雨子和田彩花神宿劔樹人(あらかじめ決められた恋人たちへ)&ぱいぱいでか美フィロソフィーのダンスに続く第6回のゲストは、作家の朝井リョウ。長年にわたってハロー!プロジェクトへの愛を公言している朝井だが、最近は自発的にアイドルファンを名乗ることについて深く悩んでいるという。アイドルを応援する中で芽生えた葛藤に加え、自身のアイドル観における原体験、オーディション番組に強く惹かれる理由などについて、前中後編の3回にわたってじっくり語ってもらった。

構成 / 瀬下裕理 撮影 / 臼杵成晃 イラスト / ナカG

アイドルとの出会いは「ASAYAN」

佐々木敦 朝井さんとは今日初めてお会いしますね。これまでの作品も読ませていただいていたので、お会いできることを楽しみにしていました。

朝井リョウ ありがとうございます。私も楽しみにしていました。

南波一海 いきなりなんですが、朝井さんとの対談が決まったとき、音楽ナタリーの編集担当者から最近朝井さんがアイドルにまつわる話をすることに悩んでいらっしゃると聞きました。今日はその話からお伺いしたくて。

朝井 具体的に言えば、グッズをたくさん買ったり、SNSで好きなアイドルの知名度を上げようとハッシュタグを使って盛り上げたり、そういうことをしていない自分がアイドルの話をする場に出て行ってもいいのかなという葛藤がけっこう前からあったんです。男女問わず、特定の誰かをものすごく深い愛情を持って応援する気質ではないんだろうなと、以前から感じていまして。

朝井リョウ

朝井リョウ

佐々木 そうだったんですね。僕も特定の個人にハマったわけではなくアイドルに興味を持ったので、朝井さんと同じタイプかもしれません。なんちゃんもきっとそうだよね?

南波 自分もそうですね。でもアイドルファン全体を見ると、のめり込むように応援している人のほうが確かに多いかもしれません。

朝井 業界を支える経済活動に参加していないという後ろめたさがあるんですよね。アイドルがアイドルであるために、現実的に必要なものを提供できていない。新譜のCDが出ても、CDそのものが欲しいというよりは「たくさん楽しませていただきました」というお礼の気持ちで買っているので、そんな人がアイドルの話をしていいのかなと。

佐々木 すごくわかる気がします。そもそものお話を伺いたいんですが、朝井さんがアイドルに興味を持ったのは「ASAYAN」(1995~2002年までテレビ東京で放送されていたオーディションバラエティ番組)を観たことがきっかけだったんですよね? あの番組でモーニング娘。のオーディションを観ていたとすると、当時朝井さんはまだ小学生じゃないですか。ファーストインパクトはどんなものだったんですか?

朝井 子供ながらに、我欲を剥き出しにした人々がせめぎ合っている、という状況が衝撃的でした。歌のパートを割り振られたメンバーたちが、「あの子より1文字でも多く歌いたい」と強い気持ちでぶつかり合っている様子は、それまであまり見たことがない光景で……当時から、誰か個人を応援するというよりは「誰がこの戦場を生き抜くんだろう」という見方で楽しんでいたんだと思います。

佐々木 リアリティショーというか、エンタメとして楽しんでいた?

朝井 たぶん、「複数の人たちから誰かが選ばれる」という装置そのものが好きなんだと思います。でもそういう見方をしていると、いつしか「モメてる、盛り上がってきた」「ケンカしてる、面白くなってきた」という気持ちも湧き上がってきてしまって、そのうち、自分は人間のポジティブな面よりもネガティブな面を見たいんじゃないか、と不安になってくるんです。安全圏から観察しているくせに獰猛な気持ちが膨らんできて、「カイジ」の観客みたいになってくるというか。プロレスのデスマッチを観に行っていた時期があったのですが、行けば行くほど、4、5試合目くらいで始まる流血戦を待てなくなる自分が怖くなったんですよね。プロレスの場合、選手の方々はプロなので話は全然違うのですが、並の凶器じゃ興奮しなくなってきた自分に出会ってしまって。

佐々木 もっともっとみたいな?

朝井 極論を言えば人が死ぬところを観たいと思っているのかなとか、自分でも把握しきれない欲望の芽吹きを感じたんです。だからアイドルを観ているときは、「ちゃんと幸せでポジティブな思いでアイドルたちを観ているんだよね?」と、その都度自己確認しています。

佐々木 なるほど。

朝井 その点「ASAYAN」はかなり作為的にオーディション参加者を追い詰めていたと思うので、それにワクワクしていたのってどうなんだろうとは今になって思います。当時はそういうことは考えておらず、人が競い合っているところや、「あの子よりも私が絶対に上なのに」という強い気持ちで何かに打ち込んでいる人を観るのが好きでした。

佐々木 当時小学生だった朝井さんにとっては、ガツガツしている人の姿って実生活ではあまり見ないものでしょうしね。

朝井 そうなんです。あと当時の「ASAYAN」で印象的だったのは、つんく♂さんがレコーディング中に出す指示です。私の耳では聴き取れないものを聴き取って表現している人がいる、という感動がありました。常人には何を言っているのか理解できないような指示なんだけど、つんく♂さんの頭の中にはビジョンがあって、いざメンバーが言われた通りに歌い直してみるとグッとよくなっている、という。番組の演出上、つんく♂さんが歌唱指導をしているシーンにはMCや観客の笑いが差し込まれていたんですが、そういう感じで、常人が感知できないものを感知できる人って笑われちゃうんだ、と思ったことを覚えています。笑うっていうリアクションしか取れなくなっちゃうものなんだ、みたいな。小室哲哉さんプロデュースのオーディション企画とかも、小室さんは何をもってこの人を選んでいるんだろうと考えながら観るのがすごく好きでした。私には見えない、感じられないものを受け取れる人の判断基準に触れたいという気持ちは、今も強くあります。

リアリティショーは魅力的だけど

南波 最近もオーディション番組はけっこうご覧になっているんですか?

朝井 大好きなままですね。人の魅力って優劣をつけられるものじゃないと思うんですが、それをなんとか言語化して、ある基準を設けて選抜するという行為の中毒みたいになっています。

佐々木 確かに「カイジ」の世界にもつながるかもしれないですね。

朝井 だから私は結局アイドルファンというよりはウォッチャーなんですよね。もっと言えばオーディション番組ウォッチャー。「この人はアイドルを愛してるんじゃなくてウォッチしているだけ」と言われたとして、「本当にそうです、ごめんなさい」と言うしかない。

佐々木 僕も言われてみればそう(笑)。でも、どうしてもどこか俯瞰で見てしまう?

朝井 1人を応援するときもあるんですけど、どうしても番組の構造的面白さみたいなほうに興味が偏ってしまうんですよね。「PRODUCE 101 JAPAN」シリーズや「Nizi Project」、「THE FIRST」あたりを一緒に観ていた友人の中には特定の個人に没入できるタイプも多くて、いったいどこでこの差がつくんだろう、といつも不思議な気持ちになります。絶対そうなったほうが楽しいんです。

左から佐々木敦、朝井リョウ、南波一海。

左から佐々木敦、朝井リョウ、南波一海。

佐々木 「ASAYAN」が盛り上がっていた頃のこと、なんちゃんは覚えている? 1990年後半から2000年くらいだと思うけど。

南波 めちゃめちゃ覚えています。当時は大学生で、逆に僕はそういうものが苦手でしたね。テレビならではのマッチポンプ感というか、自分たちでドラマを作って盛り上げるみたいな構造が、ちょうど嫌に感じる年頃だったこともあって。もちろん好きな曲はあったんですけど、争わせるのは好きではなかった。でも、それから10年経って、AKB48の前田敦子さんがコンサート中に過呼吸になってしまった話とかは、気持ちは複雑だけどどこかで面白いと感じていた部分もあります。結局、その後の僕はそういうものをエンタメの1つとして享受するようになったんですよね。ただ、極端な言い方をすると、オーディション番組のようなリアリティショーを楽しむこと自体が加害性を孕んでいるんじゃないかと、年々強く感じるようになってもいて。だからそういうものを楽しむことに、ちょっと迷いがあるんですよね。

朝井 最近話題になった、はてな匿名ダイアリーに投稿された記事(参照:アイドルの仕事を辞めた。この世界は本当に糞。ファンも糞。「推し」は糞。 )を読んだとき、「そうだよね……」となりました。私は高校バレーも好きなのですが、スポーツと学生というフィールドに関しても「楽しんでいいのか?」と思うときがあります。ちなみに、「PRODUCE 101 JAPAN」シリーズは視聴者投票制だったので大変でした。「デビューしたい」とがんばっている人に対して、「この子を応援していいのか?」「私の投票で、この子の人生から何か大切なものを奪うのではないか?」と悩み、投票を控えるみたいな、本人からしたら本末転倒な行動を取ったりしていました。そういう意味でいうと、ハロプロはメンバーに対して配信を自発的に行うよう義務化していないし、それが個人のがんばりとして評価されない仕組みになっているところが、アイドルグループを運営していく組織として信頼できる部分だなと感じます。

佐々木 「あなたたちががんばるのはここまで」とちゃんと線引きをしているという。

朝井 配信を自発的にがんばる子が偉いという仕組みになっていないですよね。基本的にはメンバーは自宅からは配信せず、やるときは事務所や然るべき場所から、というルールも感じられます。コロナ以降、自宅から配信に参加せざるを得ないメンバーもいましたが、何時から何時まで、と時間は決められていたはずです。そういうふうに本人たちが守られている様子を見ると安心できますし、「こういう環境にいる子たちは応援していいんじゃないか」という気持ちになります。

佐々木 本人たちはアイドル活動をしているけど、もちろん前提として1人の人間ですもんね。でもその境界線をはっきりさせるか否かが、アイドルのビジネスモデルと深く関わっている部分でもあるわけで。コロナ禍以降、シーンを取り巻く環境が変わってから、いろんなモデルが登場してきたと思うんですが、それこそ「配信は全部本人の家からやってほしいし、そういうときに家で飼っているぺットや部屋に置いてあるものが映っているほうがいい」というファンもいるだろうし、そういう配信をしたせいで酷い目に遭ってしまうアイドルもいる。そこは本当に千差万別でしょうね。

朝井 運営側が「プライベートな空間が映ることでこういうメリットとデメリットがある。どちらを選択する?」と提示して、本人が「メリットを取ってこっちを選びます」と言うなら外から口は挟めないですけど、そのエクスキューズもなしに本人たちはただやるしかない状態になっているケースを見ると、「これはダメだろう」と思います。

佐々木 本当にそうですね。

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