石原夏織×フワリ|作曲家との対談で紐解く、初の作詞曲「As I Am」の制作過程

石原夏織が1st EP「As I Am」をリリースした。

「自分らしさ」をテーマに作られた本作には全4曲を収録。表題曲「As I Am」では石原が初めて作詞に挑戦し、等身大の思いをつづっている。

音楽ナタリーでは石原と、表題曲の作編曲を手がけたフワリ(Dream Monster)の対談をセッティング。2023年8月にリリースされたシングル「Paraglider」のカップリング曲「To My Dear」、2024年4月発表のアルバム「Calm Scene」収録曲「Twinkle Ticking」と、フワリはこれまでも石原の楽曲を手がけてきた。信頼の置けるフワリのメロディに乗せて、石原はどのように言葉をつづっていったのだろうか? 楽曲の制作エピソードを2人に語り合ってもらった。

取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 星野耕作

何を投げても受け止めてもらえる安心感があります

石原夏織 フワリさんに楽曲を書いていただくのは今回の「As I Am」でもう3曲目になりますし、ライブにもいつも来ていただいていて。私のオンとオフの両面を知ってくださっている方なので、すごく心強いです。いつも「どんな曲を上げてきてくださるのかな?」ってワクワクしながらオファーさせていただいています。

フワリ ありがたいです……! 夏織さんはまとっている空気感が自然体で飾らない印象があって、自然と人を癒やしてしまう才能をお持ちの方だなと思っていて。おっしゃったようにライブを何度か拝見しているんですけど、すごく心を近くに感じるライブなんですよね。アットホームな空間で温かさがあるから、ついつい足を運んでしまう(笑)。本当に素敵な方だなと思っています。

左から石原夏織、フワリ。

左から石原夏織、フワリ。

石原 うれしいー。そうですね、「ファンの方との心の距離が近くあれたらいいな」と思ってずっと活動してきたところはあります。

フワリ しかも、それをちゃんとMCとかで言葉にしますよね。周りのスタッフさんに対する感謝とか、ファンの方を大切に思っている気持ちを丁寧に何度も伝えていて。

石原 伝えられるときにちゃんと伝えておきたいな、という気持ちがあって。だから毎回のライブで同じようなことばかり言ってしまっている部分はあるかもしれないです(笑)。

フワリ そのお人柄が、ファンの方々や私たちを温かい気持ちにさせてくれるんだと思います。

石原 そういうフワリさんは、最初にご一緒させてもらった「To My Dear」の繊細でドラマチックなイメージからは想像できないようなフレンドリーな方で、初めてお会いしたときにびっくりしたのを覚えています。もっとはかなげな、線の細い雰囲気の方を想像していたので……これ、悪口じゃないですよ?

フワリ あははは。

石原 かと思えば、その次に書いていただいた「Twinkle Ticking」は打って変わってめちゃくちゃカッコいい曲で。あまりにも方向性が違うので、なんて振り幅の大きい方なんだ!と驚かされました。たぶん私は本当のフワリさんをまだ見つけられていないんだろうなと思うくらい、引き出しの多い素敵な女性だなと感じています。

フワリ ありがとうございます。でも夏織さんこそ、しっとりした曲でもカッコいい系の曲でもちゃんとその世界観にフィットしてしまう方ですよね。カメレオンのようにいろんな方向性の楽曲を歌いこなしてくださるので、こちらとしても書きやすいです。もう「やっちゃえ!」みたいな感じで、いつも振り切った曲が書けていますね。何を投げても受け止めてもらえる安心感があります。

石原 そう言っていただけて、ありがたいです……!

石原夏織

石原夏織

「元気元気!」な詞は書けないと思います

フワリ 今回の「As I Am」に関しては、ご本人が作詞をされるということが先に決まっていたこともありますし、「フワリさんの思い描く石原夏織像を大切にしてほしい」というお言葉をいただいていたので、私が抱いているイメージをそのままメロディに落とし込むことを意識しました。夏織さんの醸し出す透明感、華やかさ、さわやかさ……あとやっぱり声がすごく好きなので、けっこうレンジは広くしちゃいましたね。

石原 確かに、音域がけっこう広い曲ですよね。

フワリ キレイに響く高音も、ハリのある低音も両方聴きたかったので、いろんな音域の魅力をおいしく使えたらいいなと思ってメロディラインを構築していきました。

石原 打ち合わせの段階で、「たぶん私は『元気元気!』な詞は書けないと思います」というお話をさせていただいて。それで上げてくださったのがこのメロディだったので、さすがだなと思いました。切なくもありながら、ただ暗いだけじゃなくて、今フワリさんが言ってくださったように華やかさとさわやかさもある。自分の想像を超えるくらい“私”を汲み取ってくださっているのを最初にデモを聴いた段階ですごく感じて、一瞬で大好きな曲になりました。この曲に歌詞を書けるなんて幸せだなって。

フワリ うれしいです……!

石原 「自分で作詞を」というお話自体はスタッフさんとの間で以前から何回か出ていたんですけど、実はずっとお断りしていたんですよ。「自分の本心を表に出すのとか、恥ずかしいな」という思いがあって……もちろん、歌詞って別に自分の内面を書くものだけとは限らないですけど、私は書いちゃいそうだなという予感もあったので。素直な人間ではあるから(笑)。

フワリ わかります。さっきも言いましたけど飾らないお人柄で、ファンの方に誠実に向き合われる方だから……でも、恥ずかしいですよね。

石原 はい(笑)。でも今回、初めてEPという形で作品をリリースするにあたって、何かやったことのないものに挑戦するのもいいかもしれないなと思ったんです。それと、本心を出さずにずっと殻に閉じこもったままでいるのもよくないんじゃないかと自分的にここ数年感じていたこともあって、うまくできないかもしれないけど1回やってみようと。たとえ多くの人に広く受け入れてもらえなかったとしても、自分が大切だと思う人の誰かに刺さればいいやと思って臨みました。

フワリ その視点はとっても大事だと思います。普遍的であろうとしすぎると、どうしても焦点のぼやけたものになりやすいですから。

石原 たぶん私って、周りから見たら“元気で明るい人”に映っているんじゃないかと思うんですよ。それなのにこんなネガティブな言葉を並べちゃって大丈夫かな?という心配もあったんですけど、そういう部分も自分だしなあと思って。

フワリ そうやって、自分を飾らずにさらけ出せるのは強さですよね。強い女性だなと思います。

石原 そう思えるようになったのも、長年ずっと私を見てきてくれたファンの皆さんの存在があってこそなんですよ。弱いところを見せたとしても、みんなだったら受け入れてくれそうっていう……甘えになっちゃうかもしれないですけど、その信頼感はすごく大きいですね。

フワリ 素敵なお話です……!

左から石原夏織、フワリ。

左から石原夏織、フワリ。

「絶対に変えたくないな」と思えたフレーズ

フワリ 実際、これはもう本当に石原夏織さんそのものだなと感じられる詞で。

石原 ありがとうございます! でも最初はやっぱり経験値が少なすぎて、どこから手を着けたらいいのかすらわからなかったんですよ。「みんなどうしてるんだろう? サビから作ってるのかなあ?」とか、余計なことばかり考えちゃって(笑)。

フワリ 正解はないですもんね。

石原 そうなんですよね。その中でまず、自分自身の経験を直接は反映させずにフィクションとしてみんなが共感できそうなものを書くか、完全に自分のこととして書くかで迷ったんです。でもやっぱり初めて書くからこそ、自分の経験に沿ったものにしたほうが「これはあのときのことを言っているのかな?」みたいなものが見えて、より伝わるのかもしれないなと思って。いろいろ悩んだんですけど、後者でいくことにしました。

フワリ その判断が本当に素晴らしいです。そっちを選ぶのは勇気のいることだと思いますし。

石原 恥ずかしくはあったんですけど(笑)。で、私は家にいると作業が進まないタイプなので、仕事と仕事の合間でカフェに行ったときとか、電車に乗っているときなどにデモ音源を聴きながら「こうかな?」と思ったフレーズを携帯にメモっておいて、家に帰ってから実際に口に出してみて「これは歌いやすいな」とか、そういう感じで言葉を組み合わせていきました。

フワリ 初めての作詞で口の回しやすさにまで気を使えるなんて、すごいです。普通そこまで考えられないですよ。言葉のチョイスもすごく素敵で、「薄雲」とか「花手紙」とか、曲の世界観にぴったり合う単語を見つけてくださって……しかもその「花手紙」の「は」が、すごくいい摩擦音だなと感じたんです。意味合いだけでなく、音としてもおいしいポイントをちゃんと突いてくださっていて、本当に素敵な歌詞だなと思いました。

石原 わあ、やったあ。うれしいです。自分でも意外とうまく書けたかなと思っていて(笑)。サビは「探した」「気づいた」「見つけた」と語尾をそろえてリズム感を出すことを意識しましたし、あと2番に入るところで雰囲気が変わる様子を表現したかったんですけど、この部分を書いたのがすごい大雨の日だったんですよ。カフェにいたんですけど、店内からその景色を見ていたら、大雪だったデビュー日のことをふと思い出して。

フワリ 「季節が過ぎて 春の雪ふりそそぐ 『ずっと待ってた』」のところですね。

フワリ

フワリ

石原 そのときその瞬間の自分の感情と情景とをうまく結び付けて書けた感触があったので、「お、これは絶対に変えたくないな」と思えたフレーズでした。

フワリ すごい。初めて作詞をした人の話とは思えないです(笑)。

石原 プロデューサーからも、「ちゃんと詞になっててびっくりした」と褒めてもらいました(笑)。ただ、自分でやってみて、いつもプロの作家さんはすごく緻密に考えて歌詞を書いてくださっていたんだなと思いました。伝えたいこととメロディがうまく一致しなかったり、ハマったとしても歌いづらかったり……これだけ神経を使う作業を常日頃やっていらっしゃるなんて、本当にすごいです。もう頭が上がらなくなりました。