keinインタビュー|このバンドにおける一番の強みとは?メジャー2nd EPに強く現れた楽曲への“こだわり”

人気絶頂の中、2000年に解散したkeinが、22年の時を経て再結成を果たした。

突然の復活劇でファンを驚かせた彼らは2023年8月に待望の1stアルバム「破戒と想像」をリリースすると、翌2024年11月にはキングレコードからのメジャーデビュー作となる1st EP「PARADOXON DOLORIS」を発表。さらに全国ツアーをスタートさせるなど精力的な活動を展開してきた。そして今年7月9日、早くも2nd EP「delusional inflammation」が届けられた。ヴィジュアル系シーンの中で独自の道を行く5人は、どんな思いを持って今作を作り上げたのか──1st EPリリース時に続き、メンバーへのインタビューを通してバンドの現在地を掘り下げる。

取材・文 / 西廣智一撮影 / 佐々木康太

アンダーグラウンドで終わらないのがkein

──keinは昨年11月、新曲のみで構成されたEP「PARADOXON DOLORIS」を発表し(参照:kein特集|衝撃の復活劇から2年、新作でまさかのメジャーデビュー)、その直後に全国ツアー「TOUR 2024『PARADOXON DOLORIS』」を開催しました。ツアーの手応えはいかがでしたか?

aie(G) 「PARADOXON DOLORIS」はライブになじみやすい曲が多かったから、ほかの曲と並んでも違和感がなくて、自然な感じでやれたかな。

眞呼(Vo) 音源を作ってライブをやりっぱなしなので、お客さんに「どうでしたか?」と聞いたり、そのレスポンスを返してもらったりしていない気がして。手応えと言われると、それはまだ得られていないのかもしれません。

aie ツアーの公演数は6本だったし、新作の楽曲は6回しか演奏していないんだよね。

玲央(G) 20年以上前に作った曲と最近作った曲がセットリストで混在していても、やっている側は違和感なかったので、観ている側も同じだったんじゃないかな。バンドの方向性がブレていないことを確認できたのは、大きな収穫だったと思います。

玲央(G)

玲央(G)

──「PARADOXON DOLORIS」にはライブ映えする曲がずらりと並んでいましたし、実際に即効性のある楽曲ばかりだったのかなと。

aie そうですね。再結成してから過去の曲ばかりずっとやってきたけど、“聴かせる”曲が多かったから、もうちょっとライブでアグレッシブな表現ができるような作品にしようと考えて作ったのが前作でした。そういう意味でライブと直結している作品でしたね。だから、違和感なくなじんだのかなと思ってはいるけども、それも半年以上前ですからね。

Sally(Dr) もう覚えてない?(笑)

aie いろいろ思い出そうとすると、打ち上げのときのどうでもいいエピソードばかり出てきてしまって(笑)。

眞呼 小学生の作文みたいな感想しか出てこないかもしれないです(笑)。

一同 (笑)。

──“どうでもいいエピソード”ばかり出てきてしまうということが、逆にツアーがうまくいった証拠なのかなと、お話を聞いていて感じました。

玲央 前向きに捉えていただいてありがたいです(笑)。

aie 集まってお酒を飲んで、バンド内のグルーヴを高めて、ファイナルの新宿LOFTに向けて固めていった。新宿LOFTもいいグルーヴが出てたよね。

──ツアー終了後、個々の活動に戻りつつ次作の準備を進めていったと思いますが、前作のときは「ツアーはこれぐらいの時期にやりたい。だったら、これぐらいのボリュームの作品をこの時期に作りたいよね」という話がメンバー間で出たことで制作がスタートしたという話でしたが、今作はどういう流れで制作に取りかかったんでしょうか?

玲央 最初はツアーの最終日、新宿LOFTの打ち上げのときに攸紀くんから「来年シングル出したいんですよね」という話が出たのかな。

攸紀(B) その場で「半年後だったらいけるかな?」みたいな話になり。

攸紀(B)

攸紀(B)

aie お酒の場での会話だったし、勢いで「じゃあそこに向かってレッツゴー!」とか言って今日に至る感じ(笑)。つまり、ライブの勢いのまま決めたってことですかね。

眞呼 次は歌モノを増やしたいというイメージはありましたよね。

aie 最初は「歌モノ3曲入りにしよう」みたいな話だったけど、気付いたら5曲になり。そうなると、作品全体の印象が変わってくるし、結果的には不思議な1枚になりました。EPを通して聴くと全体的には歌モノって感じでもないし。

──ツアーが終わってすぐに制作に入っていたら、また違った内容になっていた可能性も?

aie 確かに、打ち上げの翌週にスタジオ入りして曲作りを始めていたら、もしかしたら違ったものになっていたかもしれない。ちょっと寝かせてから曲出しを始めたことで、それぞれの中で1回モードが変わりましたから。

──リード曲の「波状」では“歌モノ”感が強く打ち出されているものの、EPを通して聴くと全体的には従来のkeinらしさと、新曲を携えたツアーを経たからこその現在進行形のkeinがいいバランス感で混在している印象が強いです。

aie ああ、確かに。

玲央 そこは意識的でしたね。

aie うん、むしろ狙ってた気がする。だから、フルアルバム(2023年リリースの「破戒と想像」)と前作のEPの間に位置するようなアプローチかな。

aie(G)

aie(G)

玲央 俯瞰してkeinというバンドを見たときに、「あなたたちの売りはなんですか?」と聞かれたら、やっぱり眞呼さんが歌うきれいなメロディと違和感のある歌詞、全員が別の方向を向いて演奏しているんだけど、それがひとつの塊になっているところだと僕は捉えているんです。メロディのキャッチーさや抜け感もちゃんと要素として入っていて、アンダーグラウンドで終わらないのがkein。だから、今回も漠然と「そういう作品を作りたいよね」と話しました。aieさんが説明したフルアルバムと前作EPのちょうど中間という話は、まさにそのことですね。

──では、昨年のツアーでの経験が今作の楽曲にも反映されている?

玲央 やっぱりライブをやっていると、「このへんにこういう曲が入ると、ライブの展開がもうちょっと変わるよな」とか考えたりすることが多くて。加えて、僕たちが持っている要素の中でまだ表に出していないものを今作で表現することができたら、ライブが変わるのかなという意識もあったので、その結果がこの5曲だと思います。

最新の我々を表現できた

──今作はとにかく1曲目「斧と初恋」から意表を突かれました。歌メロやハモリ、ビート感もそうですけど、前作以上に尖っている印象を受けました。

aie 20年前の自分たちだったらできなかった曲だし、前作の延長線上にある、最新の我々を表現できた気がします。

玲央 タイトルからして攻めてますからね。僕、このタイトルを最初に見たときに「これは眞呼さんにしかできない言葉選びだな」と思った。そういう意味でも、keinの強みが一番表れている曲だと思います。

眞呼 この曲の歌詞は女性の立場で書いたんですけど、主人公の女の子は殺人鬼で。最初の歌詞の部分が物語のエンディングになっているんですが、聴いた人の解釈次第でハッピーエンドともバッドエンドとも受け取れるようになっています。

眞呼(Vo)

眞呼(Vo)

──「斧と初恋」は攸紀さん作曲ですが、どのようにして生まれた曲なんですか?

攸紀 僕はこのEPの制作にあたって3曲提出したんですけど、その中でたぶん採用されないだろうなと思っていたのがこの曲だったんです。でも、1回スタジオで合わせてみましょうという話になり、もともとサビがない曲で「何か足りないな」ってことでその場でサビを付け足したんですね。結果的にそれがハマったので、サビを付けることの大切さを改めて学びました(笑)。

一同 (笑)。

攸紀 眞呼さんのメロディもすぐにできて。スタジオでアドリブで歌ったんですけど、もうこの完成形のサビそのもので、自然とメンバーみんなが入り込めた曲です。

──この曲はビート感もすごく気持ちいいですよね。

Sally ありがとうございます。実は僕、こういう跳ねたビートの音楽をあまり通ってきていなくて、わりと挑戦ではありました。サビとかは気を付けないとメタルっぽくなってしまうのでそうならないよう意識しつつ、基本のリフのところでもサビと比べて変化を出せるようにリズムを組み立てました。

Sally(Dr)

Sally(Dr)

──今までのkeinにもこういうタイプの楽曲があっても不思議ではないのに、実は初めてという。そういう意味でも、非常に新鮮な1曲です。

aie 俺のイメージだと、今回のEPは90年代的なアプローチの作品なんですけど、その中でもこの1曲目だけはちょっと異質ですよね。でも、全体的には我々が好きな90年代の日本の音楽にわりと近いサウンドだと思います。

──その「90年代の日本の音楽」にグランジやオルタナロック的なザラつきが加わったのが、「斧と初恋」なのかなと。

aie まさに、おっしゃる通りだと思います。