「HYDE [INSIDE] LIVE 2024 -EXTRA-」特集|“戦いの場”であり“非日常”、2025年におけるHYDEのライブ論

この記事が公開されている頃には、本格的にスタートしているHYDEのワールドツアー「HYDE [INSIDE] LIVE 2025 WORLD TOUR」。このツアーに合わせ、昨年10月に千葉・幕張メッセ国際展示場9~11ホールで行われた「HYDE [INSIDE] LIVE 2024 -EXTRA-」最終公演の模様を収録したライブ映像作品がリリースされた。

本作には、最終公演のスペシャルゲストであるHiro(MY FIRST STORY)との「夢幻」のコラボを含む19曲のパフォーマンスの様子を収録。初回限定盤にはさらに、2024年のHYDEの動きを追った素顔満載のドキュメンタリー映像なども収められている。

プロとしてステージに立ち始めてから35年近く経つHYDEは、今、何を思い、何を考えながらライブと向き合っているのか。1月に開催されたL'Arc-en-Cielの単独公演「L'Arc-en-Ciel LIVE 2025 hyde BIRTHDAY CELEBRATION -hyde誕生祭-」、そして6月1日にゲスト出演したGLAYの「GLAY 30th Anniversary GLAY EXPO 2024-2025 GRAND FINALE」という2つの東京ドームライブのエピソードを交え、ステージに立ち続ける人間としての矜持を掘り下げる。

取材・文 / 中野明子

L'Arc-en-CielとGLAY、2つの東京ドーム公演を経て

──少し前の話題になりますが、1月に行われたL'Arc-en-Cielの東京ドーム公演について伺えますか?(参照:ラルクhyde誕生祭、東京ドーム2DAYSで10万人が祝福「好きになってくれたことが一番のプレゼント」

自分としてもL'Arc-en-Cielとしても、けっこう新しい感じでライブができた手応えがありますね。いいマインドでステージに立てたというか。根がエンタテイナーなので、これまでライブでは楽曲に没頭するのではなく、“パフォーマンスとして見せる”ことについつい意識がいってしまうことが多かったけど、1月の東京ドーム公演は自分が入り込みやすい曲をあえて選んだので集中して歌えました。新鮮でしたし、完成度が高いものができたと思います。

──1997年以降、東京ドームのステージには20回以上立たれているわけですが、今回のライブを制作するうえで意識したことはありますか?

常に気にしていることはファン目線で作ることですね。1月のライブの前に東京ドームで何組かのアーティストのライブを観て、客観的にドームの使い方を考えたんですよ。実際にお客さんとしてライブを観ながら、あまり映像の演出を使わないほうがいいなとか。大きな会場だとついつい作り込んだ映像を背負ってライブをしがちだけど、ファンはやっぱり僕らの顔を見たいわけで。特に東京ドームはステージから遠いと肉眼ではメンバーの姿なんてほとんど見えないじゃない? それを考えると、メンバーの絵をどれだけ切り取ってスクリーンに映せるかが大事になってくる。だからライブのためにたくさん映像を作るのではなく、メンバーをいかにカッコよく見せられるかを考えました。「ここはtetsuyaさんがカッコいいから映してほしい」「この曲はなるべくkenさんのことを撮ってね」「yukihiroさんはここで」とメンバーそれぞれの見せ場をスタッフに共有して。僕のカメラ目線のシーンとか、ファンが見逃したくないところは押さえてほしいと事前にカメラチームと打ち合わせをしました。そういった踏み込んだ打ち合わせはこれまでにはなかったですね。

──東京ドームの話でいうと、つい先日、6月1日にGLAYのデビュー30周年ライブにサプライズゲストとして出演されましたよね(※取材は6月3日に実施)。お客さんはHYDEさんの出演をまったく知らされておらず、アンコールで登場されたときには、誇張抜きで会場が揺れるほどの歓声が轟いていました(参照:GLAY、ラルクhydeからの祝福も受けた30周年ライブ「いつも最上級の幸せをありがとう」)。

ふふふ。GLAYサイドがかなりシークレットにしてたみたいで、リハーサルでも僕の名前を誰も呼んでくれなかったくらいでした。「あの方が到着されてます」みたいな(笑)。スタッフはみんな知ってるでしょ!と思いましたけど。リハーサルは外音を出すととお客さんに僕の声が聞こえる可能性があるからそこにも配慮をしたり。

──いつ頃出演のオファーがあったんですか?

ライブの3、4カ月くらい前かな。

──今年の1月18日にGLAYが横浜アリーナでライブをした際に、同日にL'Arc-en-Cielが東京ドーム公演をしていることを受けてHISASHI(G)さんが「いつかは対バンしたいと思います」とおっしゃっていて(参照:GLAYが過去と現在をつなぎ、“30年分の愛”を伝えた横浜アリーナ公演レポート)。HYDEさんもL'Arc-en-Cielの東京ドーム公演に向けてのインタビューで「GLAYのライヴで“HISASHIプロデュース”などをやってるのを見て、ラルクがやったらおもしろいだろうなと思った」と話されていたので、共演の伏線はだいぶ前から張られていたのかなと(参照:首謀者hydeが明かす「L'Arc-en-Ciel LIVE 2025 hyde BIRTHDAY CELEBRATION -hyde誕生祭-」への思い)。

いや、そういうわけではないです(笑)。

──さすがに深読みしすぎでしたか。実際のところGLAYとの共演はいかがでしたか? 過去にTERUさんやTAKUROさんとイベントでセッションをされたことはありますが、GLAYとしては初めてですよね?

GLAYのメンバーとはこれまでも一緒に演奏することがありましたし、アットホームでそんなに気負わずに一緒にできますね。

──非常にいい関係性なんですね。

それでもデビュー30周年ライブという晴れの舞台に呼んでいただけたのは光栄でした。そんな大切なライブに僕が出ないほうがいいんじゃないの?とも思ったけど。しかも、打ち合わせを兼ねた飲みの席で、TERUちゃんが「HYDEくん、1曲目から出てよ!」とか言い出して。「ライブが始まっていきなり誰だかわからない人がいたら、お客さんが困っちゃうでしょ? 僕の顔がスクリーンに映ることになるし、30周年の最後のライブにそれはやめたほうがいいよ!」と断りました。GLAYはそんなことを本気でやろうとする、ちょっと変わった人たちです(笑)。あ、JIROちゃんだけが「うーん」って顔してましたけどね。だから「JIROちゃん頼むよ!」と説得してもらいました。

「HYDE [INSIDE] LIVE 2024 -EXTRA-」の様子。

「HYDE [INSIDE] LIVE 2024 -EXTRA-」の様子。

自分を追い込めば追い込むほど

──さて、ここからは「HYDE [INSIDE] LIVE 2024 -EXTRA-」について伺います。映像化された幕張公演に限らず、「HYDE [INSIDE] LIVE 2024」はここ数年のライブで踏襲していた“NEO TOKYO”の世界観からガラッと変わりましたよね。19世紀のゴシックテイストの世界が舞台になっています(参照:HYDEが“INSIDE”をさらけ出した狂騒の幕張公演、マイファスHiroとの「夢幻」生デュエットも)。

これまでと同じコンセプトだと今の自分の感性とはちょっと合わないというか。突き詰めていったらどんどん華やかになっていくだろうけど、それは今やりたいこととは違ったんです。2016年以降のライブは退廃的な雰囲気の未来都市を舞台に、HYDEがそこでゲリラライブをすることによって“NEO TOKYO”を改革していくというコンセプトでした。でも、2023年のツアー(「HYDE LIVE 2023」)でそのコンセプトをやり尽くすことができた。だから、ちょっと初心に戻って、ゴシックな世界観やサーカス的な雰囲気のエンタテインメント──自分の好きなものを見つめ直して、もう一度リスタートした感じですね。これまで表現していた世界の未来じゃなくて過去に踏み込んでます。まあ、こじつけですけど。

「HYDE [INSIDE] LIVE 2024 -EXTRA-」の様子。

「HYDE [INSIDE] LIVE 2024 -EXTRA-」の様子。

──「スター・ウォーズ」シリーズみたいな。

そうそう。「エピソード0」的なものです(笑)。

──ライブの構想はいつくらいから着手されたんですか?

うーん、ちょっと覚えてないです。2、3カ月前くらいだった気がする。アルバムははっちゃけるタイプの激しい曲がメインなので、ライブでもそこが制作のうえでポイントになりましたね。本編だと静かなのは「ON MY OWN」と「永久 -トコシエ-」くらいかな。自分としては理想的なライブを作れたと思います。

──ライブ映像作品のプロデューサーとしてHYDEさんの名前がクレジットされていますが、プロデューサー視点でこの映像を観たときにグッときた曲は?

やっぱり本編ラストの「LAST SONG」かな。この曲で雰囲気をガラッと変えるために、そこまでにガーッと勢いを付けていく流れを作ったので。1曲前の「MIDNIGHT CELEBRATION II」を激しく歌えば歌うほど、「LAST SONG」での感情の入り方が変わるんです。自分を追い込めば追い込むほど感情的になれる。ずっと虐げられていたいじめられっ子が初めて言葉を発する感じ。

──血糊を滴らせて、すさまじい量の紙吹雪の中で歌う姿は衝撃的でした。

あと、MY FIRST STORYのHiroくんとの「夢幻」のコラボも1つの山場でしたね。去年は「夢幻」をフェスやテレビ番組など、いろんなところで歌うことが多かったけど、この日のパフォーマンスがピークだったと思います。Hiroくんと歌うときは半分でいいから楽ですね(笑)。

──(笑)。

「夢幻」を歌うHYDEとHiro(MY FIRST STORY)

「夢幻」を歌うHYDEとHiro(MY FIRST STORY)

あとはエンタテインメント性が増しますね。2人でバトルしているように歌う曲なので、それをステージ上で表現するのは楽しい。1人で歌うとなると“普通”になっちゃうし、曲に入り込める度合いが変わるんです。