SIRUPがAyumu Imazuをフィーチャリングゲストに迎えた楽曲「UNDERCOVER feat. Ayumu Imazu」を配信リリースした。
かねてより親交の深いSIRUPとAyumu Imazuだが、コラボ曲を発表するのはこれが初。「UNDERCOVER」は“表と裏”“オンラインとオフライン”という二面性を持ちながら現代社会で生きる矛盾や葛藤を2人の軽やかな歌声で表現した、クールでダンサブルな楽曲だ。サウンドプロデュースはグローバルに活躍する音楽プロデューサー・Taka Perryが担当した。
音楽ナタリーではSIRUPとAyumu Imazuにインタビューを行い、それぞれが考えるSNSとの距離感、“バズ”が重要視されがちな現代における自己表現を軸に、コラボ曲に込めた思いを語ってもらった。また記事の最後ではSIRUPが9月3日にリリースを控えている3rdアルバム「OWARI DIARY」と、現在開催中の全国ツアー「NEXT LIFE TOUR 2025」にも言及している。
取材・文 / 黒田隆憲撮影 / 亜門龍
スタイリスト(SIRUP) / TEPPEIスタイリスト(Ayumu Imazu) / Syuto Tanaka
ヘアメイク(SIRUP) / DAISUKE MUKAIヘアメイク(Ayumu Imazu) / Itatsu(is Inc)
Ayumuとやるならダンスナンバー
──もともとお二人はどのように知り合ったのですか?
SIRUP 最初、Ayumuが「Do Well」のカバーをしてくれたんだよね。
Ayumu そうですね。たぶん5年くらい前だったと思います。
SIRUP それがめちゃくちゃカッコよくて。Ayumuがニューヨークにいるっていうのは、なんで知ってたんだっけ……その前にDMでやりとりしていたのかな。そのへんはちょっと曖昧なんですけど、自分がニューヨークに行ったときに「ワンチャン会えるかも」と思って連絡したのが始まりだった気がする。
Ayumu 実際に会ったのは3年くらい前ですよね、たぶん。そこから何度か遊んだりして、仲よくなっていった感じです。
SIRUP お互いいろんな話をしたと思うんですけど、僕的には地元が同じ大阪っていうところでルーツも近いんじゃないかなと感じました。ただ、実際にコラボするまではめちゃくちゃ時間がかかったね。
Ayumu 確かに。
SIRUP これはね、1回ちゃんと解明しておきたい。俺が「やろうや」って言ったとき、Ayumuが「俺も言おうと思ってたんです」と答えてくれて。お互いコラボしたいと思ってたのに、なぜかずっとそのタイミングを逃してたよね? 遠慮し合ってたというか(笑)。
Ayumu ありましたね、そういう謎の期間(笑)。
SIRUP Taka Perryが間に入ってくれたことが大きかったかも。3人で遊んだりセッションしたり、同じようなメンツで過ごすことも増えてきて。そういう空気感から自然に「じゃあ一緒にやろうか」と。
Ayumu 環境的にもすごくコラボしやすい流れになっていって。制作もめっちゃスムーズでしたね。
SIRUP そう。だからAyumuの「Obsessed」(2024年1月発表)がバズってたから声をかけたわけじゃないんですよ。そこは誤解されたくなくて(笑)。結果的に、あの曲がバズったあとにコラボの話になったから、ちょっと時系列的にそう見えるかもしれないけど。
Ayumu その前から話はしていましたよね。最初はSIRUPさんが「Ayumuとやるならダンスナンバーにしたいな」と言ってくれて。ただ、派手さを前面に出すと、それはちょっと違うなというのもあり……絶妙なバランスを探っていこう、みたいな。
SIRUP 2000年代前半のR&Bの雰囲気を出したいって話してたよね?
Ayumu そうそう。僕も「それめっちゃいいですね」って。「もう、一緒にスタジオ入りますか」という話になって、それが僕が日本に戻るタイミングだったんです。
SIRUP それで自然に制作が始まった感じだったね。
SNS社会を生きる“スパイ”
──楽曲の「ソーシャルメディア」というテーマは、どのような経緯で決まったのでしょうか?
SIRUP 今はSNSに対してネガティブな意見が目立ちがちだけど、プラスの面もめちゃくちゃあると僕は思っているんです。しかもAyumuはそのへん、うまいことやっている印象があって……SNSにいろいろ上げるのは好きなほうだっけ?
Ayumu どちらかというと中間くらい、ですかね(笑)。好きとも嫌いとも言えない感じです。
SIRUP 自分は最初、SNSを更新するのがめちゃくちゃしんどくて「得意じゃないな」って感じだった。でも利点はあるし、楽しさもわかってきてはいた。僕だけでなく、SNSに振り回されている人は多いじゃないですか。特にミュージシャンは「こうすべきだ」「こうしたほうがいい」と言われがちだし、そんな中で個性を出していくのはやっぱり難しい。そういったことを押し付けがましくなく問題提起できたらいいなと思ったのが、この曲の始まりだったかな。
Ayumu 確かに。そういう話をしましたね。
SIRUP そこから“スパイ”のアイデアも出てきた。表ではうまくやっているように見えて、実は裏の顔があり、心のどこかに引っかかっているものもあるという。そんな裏表の感情を、うまく歌詞に落とし込めたらいいよね、みたいなことを最初に共有した覚えがあります。
Ayumu そういう曲って自分は今まで書いたことがあんまりなかったので、すごく新鮮でした。しかも、なんかこう……決めつけない感じ。「いい」「悪い」とジャッジするのではなく、表と裏、どっちの側面もあるということを歌詞として表現するのが面白かったです。
“バズる曲”とミュージシャンのアイデンティティ
SIRUP SNSがなければ、自分が今のように多くの人に知られる機会もなかったと思うんだよね。そういう意味ではミュージシャンや表現者にとって、SNSはすごく大きい存在だと思う。その一方で、今は“バズ”を狙わなきゃいけない空気感も多かれ少なかれあるじゃないですか。そんなの狙ってできるものじゃないのに、みんなめちゃくちゃ考えているから「自分もやらないと埋もれちゃう」みたいな。
Ayumu わかります。僕もSNSを通じて曲が広まったわけだし、「いい曲ならちゃんと届くんだな」と実感したんですよね。チャンスが均等に与えられている感覚。ただ、今おっしゃったように「バズる曲を作らなきゃ」とプレッシャーを感じることもあるし、たとえバズってもすぐに終わってしまう。それがちょっと寂しいというか、音楽の本質的な部分までちゃんと伝わっているのか不安になるときもあります。
SIRUP もちろんSNSを「やらない」という選択もあると思う。それでも「どう見せるか?」を常に考えなきゃならないのであれば、自分の人格とは別の“アバター”を作って楽しむこともできますよね。ただ、そこは「本当の自分」と切り離して考えないと、何かあったときにすごくしんどくなってしまうかもしれない。とはいえSNSでファンの反応は見たいし……(笑)。その間で揺れることもあるのかなと。
Ayumu 僕は「Obsessed」をリリースしてから、聴いてくれる人の数が明らかに増えた感覚があったんです。ただ、「Obsessed」って自分の中ではけっこうイレギュラーな楽曲だったので、それで知ってくれた人たちは、果たしてほかの曲も好きでいてくれるのか?とすごく考えてしまって。そんな中、自分のアイデンティティをどう出していくかがすごく大事だなと思います。
SIRUP なるほどね。
Ayumu なので、さっきおっしゃっていた“もう1つの人格”とか“アバター”を作るって話にもすごく共感します。「Obsessed」を出してからの1年間ぐらいはもう、ずっと悩みながら曲を作っていたんですよ。一時期は「バズる曲ってなんだろう」みたいなことばかり考えていた。でもそのうち「バズる」や「ブランディング」といった表層的なことよりも、自分にとって音楽とはなんなのかっていう、もっと根本的な部分に立ち返るようになってきた。そういうプロセスも含め、「Obsessed」は改めて自分を見つめ直すきっかけになった曲ですね。
──SIRUPさんも「LOOP」など、いわゆる“バズった曲”があった中で、どう自分の中の折り合いをつけていったのですか?
SIRUP 僕の場合、デビューしてごはんを食べていけるようなポジションになったのがだいぶ大人になってからで。だからこそ、いろいろ考えましたけど……結局は、さっきAyumuが言っていたように、自分が「いい」と思った曲を、その時代に対してどう届けていくか?ということでしかないなと。
Ayumu 自分が納得できる曲を発表し続けることが、アイデンティティを確立していくことだと僕も思います。曲をリリースするときもそうだし、ライブでどんな演出をするか、どんな衣装を着るかという部分も含め、自分が「これがいい」と思うものを選んで発信していくこと。それが一番大事なことだと、特に最近は強く感じています。
SIRUP リスナーの立場で考えてみても、それこそSNSは欠かせない。それだけではなくライブや音源など、いろんな形でアーティストを楽しむ時代だと思うんですよ。リリースのたびに「この曲はこういう思いで作ったんだよ」とアーティスト自ら説明できるプラットフォームがあるのは、すごくいいことじゃないですか。そういう意味で、自分はSNSをプラスに捉えています。
──しかも最近は、昔の曲が突然バズったりもする。「初動が肝心」と言われていた時代からは隔世の感がありますね。
SIRUP そうですね。だから時期とか新旧とか、あんまり関係ないし気にしすぎる必要はないと思う。ミュージシャンにとって、それは希望でしかないですよ。ちゃんと続けていれば、いつか新しく出会ってくれた人が、過去の曲もさかのぼって聴いてくれるということですから。
Ayumu であれば、やっぱり自分が「いい」と思える曲をずっと作っていきたいし、そのときそのときでベストを尽くして広げていくしかないですよね。
SIRUP うん。「いい」と思える曲を作り、ファンと一緒にその曲をシェアして、コミュニティの中で大切なものに育てていく。これから先も、そんなふうに音楽をやっていけたらいいなと思っていますね。
次のページ »
「ちょっとだけ泣きそうになった」MV撮影