「FINAL FANTASY IX 25th Anniversary Vinyl - Timeless Tale -」特集|植松伸夫&白鳥英美子インタビュー

スクウェア・エニックスのRPG「FINAL FANTASY IX」が発売から25周年を迎えることを記念して、テーマソング「Melodies Of Life」の新録バージョンを収録したアナログ盤「FINAL FANTASY IX 25th Anniversary Vinyl - Timeless Tale -」が7月9日にリリースされた。

「Melodies Of Life」はFFシリーズではおなじみの植松伸夫が作曲を手がけ、白鳥英美子が歌唱を担当したバラードナンバー。ゲームのストーリーと強く結び付いた、命のはかなさと力強さをつづった歌詞、哀しくも温かいサウンドと歌はゲームファン以外からも大きな反響を呼んだ。

あれから25年──海外人気も高い「FINAL FANTASY IX」のアニバーサリーにあわせて企画されたアナログ盤には、「Melodies Of Life」の新録版とオリジナル版などを収録。“歌”を軸に「FINAL FANTASY IX」の世界を旅できる内容となっている。メモリアルなアイテムのリリースを記念して、音楽ナタリーでは植松と白鳥にインタビュー。ひさしぶりに対面したという2人に、25年前のレコーディングのことから振り返ってもらった。

取材・文 / 倉嶌孝彦撮影 / 関口佳代

「白鳥さんに歌ってもらわないと困ります」

──まずは25年前のオリジナル版制作時の話を聞かせてください。白鳥さんは「FINAL FANTASY」の主題歌を歌う依頼が来たとき、どう感じたか覚えていますか?

白鳥英美子 はい。「なんで私にその依頼が来たのかしら?」って、スタッフみんなと面食らった覚えがあります。私はゲーム自体やったことがなかったし、当時どんなゲームが流行っているかもわからないくらいだから「逆に私でいいんですか? もっと若者のほうがいいのではないですか?」と聞き返したくらいでした。そうしたら「植松というスタッフが白鳥さんの『AMAZING GRACE』を聴いてどうしても……」と言われまして(笑)。

植松伸夫 困らせてしまったようですみません(笑)。僕ら世代だと中学生の頃にトワ・エ・モワ(白鳥と芥川澄夫によるフォークソングデュオ)が大ヒットしてましたから、その頃からずっと白鳥さんの歌声にはピュアなイメージを抱いていました。白鳥さんは謙遜して「若者のほうが」と言ってくださったみたいですが、僕はよく映画とかにあるエンディングで突然関係ない売り出し中の新人の曲が流れるようなタイアップの形があまり好きじゃなくて。最後に流れる曲を完璧にゲームの一部にしたかったので、「若者に歌ってもらおう」みたいな考えはまったく持ってなかった。

白鳥 当時植松さんはハワイで作業していらっしゃったので(※「FF9」開発当時、スクウェアの開発スタジオはホノルルに置かれていた)、代理の方とお話しさせていただいていたのですが「植松が『この人に歌ってもらおう』と決めているようなので、白鳥さんに歌ってもらわないと困ります」くらい熱いオファーをいただいて。本当に大丈夫かしら、と心配しながらも歌わせていただきました。

左から植松伸夫、白鳥英美子。

左から植松伸夫、白鳥英美子。

──2000年当時の制作を振り返って、印象に残っていることはありますか?

植松 けっこう作るのに時間がかかった覚えがありますね。確か白鳥さんは「わたしが死のうとも 君が生きている限り いのちはつづく」という歌詞が引っかかったようで、歌詞を書いてくれたシオミ(伊藤裕之)さんと相談してね。

白鳥 最初の歌い出しが「わたしが死のうとも」で本当にいいのかなと思って。

植松 それで「白鳥さんからこういう要望が来てるよ」ってシオミさんに伝えたら、「僕はここを切りたくない」とキッパリ言われちゃって。どうしようこの板挟み(笑)、と随分悩んだものです。最終的には構成を変えて、歌詞をボツにするわけではなく、曲の最後に使うことにしてみた。

白鳥 それがすごくよくて。最後にその一節がくることで、すごくグッとくるんですよ。

植松 実は白鳥さんにお見せする前の歌詞は全然違ったんですよ。歌い出しの歌詞が「ほしのいのちは短くて」だった。確かシオミさんからもらった最初の歌詞だったかな。

白鳥 その話は初めて聞いたので、私のところに届いた頃には変わっていたのですね。

植松 僕は「ほしのいのちは短くて」もけっこう気に入っていたから、すごくよく覚えてる。そう考えると、けっこう二転三転した曲だったんだなあ。

白鳥 私、レコーディングのときはけっこう緊張していたんですよ。とにかくたくさん歌を歌ってきたし、アニメのテーマ曲を担当したこともあったけど、ゲームのことは全然わからなかったから「いつも通りでいいのかな」みたいな不安はあって。でもレコーディングに入ったら植松さんが「もう好きなように歌ってください」と言ってくださったので、自分の中にあるイメージを歌にしました。あまりテイクを重ねずにOKをもらった気がします。

植松 回数こなさなくても十分素晴らしい歌が録れてましたから。確かレコーディングのときは「キーはEとE♭のどっちにします?」という話をして、少し別バージョンを歌ってもらったくらい。2000年はEで落ち着いたんでしたっけ?

白鳥 はい。Eで歌わせていただきました。

新録で半音下げた理由

──2025年の新録バージョンではE♭のキーが採用されていますよね?

植松 そう、今回はE♭。これは白鳥さんのご希望でしたよね?

白鳥 はい。ちょっと高めのキーの曲だから2000年のときと同じように歌えるかな?と思っちゃって。結局歌えるんですけど(笑)。ちょっと用心して、せっかくだから当時も一度歌っていた半音下げたバージョンも歌ってみたいなって。「Melodies Of Life」の高さだとちょうどファルセットと地声、どちらも使う高さだから半音下げるとその配分が変わる。私の声も25年前とは少し違うし、今なら少し違う魅力の「Melodies Of Life」になるのかな、と思いながら歌ってみました。

植松 曲の味わいが全然違うんですよ。半音ってたかだか白鍵と黒鍵のちょっとした違いのように思われるかもしれませんが、受ける印象が相当変わるんです。

──白鳥さんにとってはコンサートでたびたび「Melodies Of Life」は歌っているものの、レコーディングするのは25年ぶりだったわけですよね。レコーディング時の心持ちも25年前と比べて変わったのではないですか?

白鳥 曲に対する愛情が深まりました。丁寧なところは丁寧に歌いつつ、慎重になりすぎないように、いい意味でコンサートのときの勢いがレコーディングにも入れられればと思いながら歌いました。レコーディングとなると、どうしても音程をきっちり歌おうとしちゃうから。

植松 どうしても、ちょっと置きに行く感じになっちゃいますよね。

白鳥 でもこの25年で何度も生で披露してきたから、コンサートのときの雰囲気も入れられたら一番いいなって。そういう思いも込めて歌っています。

白鳥英美子

白鳥英美子

──新録版でオケも変わりましたよね。2000年版はバンドサウンドが組み込まれているのが印象的でした。

植松 最初はバンドサウンドにするつもりはなかったんですよ。もともとストリングスで鳴らしていた音がどうにも物足りなくて、試しにエレキギターの人にあのメロディラインを重ねてもらったら、それがなかなかよくてね。ただ、これが当時スタジオにいた人にはすごく不評だったの。「そんなの絶対ないほうがいい」「エレキギターのディストーションがかかったソロがこんなところに入っちゃ絶対だめですよ」みたいなことを言われたけど、ここのメロディがすごくきれいなので「多少音色がワイルドなほうがメリハリが付くから」ってゴリ押しました。

白鳥 そこがすごくいいのにね。

植松 ですよね! 白鳥さんにわかってもらえてよかったあ(笑)。新録版のオーケストラアレンジは濱口(史郎)さんに任せているから、「ここはこうすべきだった」みたいなことを僕は思っていないけど、ひさしぶりに聴いたら「2番のこのピアノってこんなに難しかったっけ?」と驚くところもあって(笑)。僕、こんな難しいことしてた?と思いながら聴いてます。

白鳥 新録のオケはすごく豪華になりましたよね。これまでいろんなコンサートで歌ってきた曲でもありますから、このアレンジは自然と体の中に入ってきました。

当初の構成は全編を古楽で

──そもそも、白鳥さんに白羽の矢が立ったのは「FF9」という作品のメッセージ性も関係していますよね?

植松 そうですね。「FF7」と「FF8」はどちらかと言うとSF的な要素が強かったですが、「FF9」はひさしぶりにファンタジー路線に戻した作品だったんですよね。実は僕、「FF9」の制作に取りかかる前に2週間くらいヨーロッパの街を巡ってまして。

──取材旅行、ということですよね?

植松 取材旅行と言うと仕事っぽいけど、自腹の旅行だったの(笑)。単純に自分の気分を高めたかったのと、「FF9」の舞台に似ている中世ヨーロッパの雰囲気を感じたくて。そうやって自分の中でイメージを固めていって、最初は「FF9」の音楽を全編古楽で構成しようと思い、カテリーナ古楽合奏団のところに「スクウェアの植松という者です。ゲームに古楽を入れたいのですが協力していただけませんか?」と直談判しに行ったんですよ。でもそのときは「ウチはゲームの音楽はやっておりませんので」ときっぱり断られちゃって。

植松伸夫

植松伸夫

──当時はまだゲーム音楽が今のような市民権を得ていない時代だったというのもあると思います。

植松 うん。何年か経ったあとに別のタイトルでカテリーナの方々が音楽に携わっていたから、もう少し時代が進んでいれば違ったんだろうなあ。

──それこそ、白鳥さんもゲーム音楽に携わるのはこのときが初めてだったわけで。まだ日本の音楽シーンにおいて、ゲーム音楽が存在感を放つ前の時代だった、とも言えますよね。

白鳥 私もね、当時はまったくゲームをしたことがなかったけど、せっかくこういうご縁をいただいたから「FF9」をやってみましょうと思って、ゲーム機と一緒に買ったんですよ。でもね、最初にちょっと進んだあたりでどうしていいか全然わからなくなっちゃって。私の歌が流れるところまでたどり着けませんでした(笑)。

植松 白鳥さんの歌がしっかり流れるのはエンディングだから、だいたい40時間くらいかかるかな。

白鳥 それは大変(笑)。せっかくだから味わってみたかったなあ。