
排外主義や差別に音楽でどう抗うか? Worldwide Skippaが目指すのはクラブで流れる“サブリミナルポリティカル”
「皆も気を付けろよ自分の内なる林原めぐみ」のパンチラインで注目浴びた新鋭ラッパーの戦い方
2025年7月11日 18:00 60
日本各地で外国人労働者や海外からの観光客、留学生が増加する一方、外国人を排斥する排外主義の風潮が急速に強まっている。それはマナーの悪い外国人を「外来種」にたとえて批判を浴びた
そんな中、そもそもが海外由来の文化であるヒップホップのシーンですら外国人を敵視するような主張が増加。特に話題を集めたのが、YOS-MAG、
これにシーンの中から反旗を翻し、注目を浴びた若手ラッパーが
彗星の如くシーンに現れたWorldwide Skippaだが、彼はいったい何者なのか。音楽ナタリーは、大きな話題を集めた「ダサくて助かる」について深掘りするため、愛知に住むWorldwide Skippaにリモートで取材を実施。楽曲の制作経緯を聞きつつ、ラッパーとして政治的なメッセージをどう届けるかについて、彼の考えを詳しく語ってもらった。
取材
林原めぐみのブログと「団結前夜」
──排外主義的な内容であるとして話題になった「団結前夜」と声優の林原めぐみのブログへの言及のある「ダサくて助かる」について聞きたいです。「団結前夜」は6月6日にミュージックビデオ公開、林原めぐみのブログが同月8日、その5日後に「ダサくて助かる」がリリースされたというスピード感でしたね。
先に知ったのは林原めぐみのブログの件でした。そのときになんかXの雰囲気も嫌だなと思ってたんですけど、それ自体はいつかどっかの歌詞に入れようかなぐらいに考えていたんです。そしたら同時期に「団結前夜」もXで話題になっていて。客演のメンバーも見知った名前ばかりで、聴いてみたらこれはヤバいなと。あの曲のこれまでのシリーズ(「覚醒前夜」「革命前夜」)も悪い話題のなり方で目には入ってたと思うんですけど、たぶん数字がついてきてなかった。でも、あの「団結前夜」はMVとメンツで跳ねて。コメント欄が移民排斥の嫌な雰囲気になっていて、ラップに興味ない参政党支持者みたいな人たちも巻き込んだ感じの盛り上がり方をしていたので、かなり嫌だなと思いましたね。だから「ダサくて助かる」は「団結前夜」を知ったその日に録って出したんです。自分に向けられた曲ではないからビーフとかじゃないけど、別に出しといて損はないし、大変だけどやるかと思って。
団結前夜 / YOS-MAG, 輪入道, 十影 & Metis (Beat by Yuto.com)
──排外主義に抗うラッパーはいないわけじゃないけど、それをストレートかつポップにできる人は多くはないと思います。
「団結前夜」へのアンサーソングって、僕じゃなくても遅かれ早かれ誰かが出すと思ったんです。けど、普段から熱心にラップを追ってるリスナーがカッコいいと思えるビート上であの曲に批判的なアティチュードでラップする人って現れないんじゃないかなと思って。「団結前夜」のメッセージ性を嫌だと思っている人たちはいるけど、そもそも曲としてダサいと思っている人ってどのくらいいるんだろう? じゃあそこをやろうか、という感じでした。ちゃんと現行のラップを理解している人が、ああいう曲を作るのが大事だと思います。
ダサくて助かる (p pillsbeforesex)
宇多田ヒカルの政治的な歌詞はいいのか
──日本語で政治的なメッセージを入れると、下手にやると堅くなりすぎるというか、異物感が出てしまうことがありますよね。最近だと
政治的な内容を入れるとしても、言葉選び自体はストレートでいいかなと思っています。でも、それを受け取ってもらいやすいように気を付けていることがあって。政治一辺倒の曲にしない、もし何かメッセージを込めるとしても1、2ラインに入れ込むぐらいにとどめるっていうのが自分のやり方です。「
徳利とブラピ
──「結構キツいけどスタバとマクド不買 俺の曲は各地届くまるで Uber Eats」のラインですね。
油断させて急に耳に入ってくるようなものを意識していますね。あくまでちゃんとヒットソングを作りたい気持ちが一番大きいです。その意味で僕は宇多田ヒカルの歌詞はめっちゃいいと思った。
宇多田ヒカル「Mine or Yours」Music Video
Moment Joonとは違うやり方で
──近年大きな話題を集めた政治的なラップの作品として、
Moment Joon - TENO HIRA - YouTube
僕はMoment Joonさんが大好きで、「Passport & Garcon」はすごい名盤だと思うし、完璧だと思うんですが、あれが本筋のラップリスナーに届くことは少ないとも思うんです。本人にもその葛藤があったと思いますが、あのアルバムは「ダサくて助かる」に反応してくれたけど普段はラップをそんなに聴かないようなリベラルの人たちが評価する作品になっていて。だから悪いっていうわけじゃないんです。その人たちも同じくリスナーであることに変わりはないので。でもMomentさんがアルバムを通して移民のことを歌うのと、同じ在日韓国人ラッパーである
Candee - 在日ブルース (Official Music Video)
──ポップな曲にすると思いもよらぬ場所に届くというのは絶対ありますよね。政治的な内容も思想信条を超えてリーチできる。
MomentさんとかFisong(※Moment Joonと同じく移民者で在日韓国人である大阪の若手ラッパー)くんとかはめっちゃ好きだし、完璧なんですけど、僕ができることとは違うのかなと思う。僕にできる最善のやり方は混ぜ込むことですね。“サブリミナルポリティカル”って感じです。でも「ダサくて助かる」はそのルールから外れている曲で。曲の最後に、この曲は不本意だっていう内容の語りが入ってるのはそういうことです。
──Skippaさんの曲はけっこうギャグっぽい歌詞も多くて、政治的なことも入ってるけどあくまで混ぜ込んでる感じですよね。逆にMomentさんみたいに完璧なものを出すというのはそもそも相当難しいと思います。
そうですね、僕にはできない。僕は別に政治に深い知識があるわけじゃないんです。けっこうカジュアルに嫌だなと思ったことを言うだけ。いきなり難しいことを言ってもみんな敬遠してしまうので、クラブで流れるようなスタイルでやりたい。
──例えばケンドリック・ラマーのコンシャスな曲はヒットしてもクラブで流れるかというとそうではない、みたいな話ですね。実際にSkippaさんの曲がクラブで流れていたという声は届いたりしてますか?
インスタでメンションをいただいたり、自分が東京のクラブにいるときに流れることもあったりして、うれしいです。
同じ言葉ばかりの日本語ラップへの不満
──そもそもなんですが、Skippaさんはどういう経緯でラッパーになったんですか?
自分はTwitter(現X)で知り合ったラップリスナー同士で1年前くらいに集まったOMGというクルーに所属していて。僕がラップを始めたのはクルーメイトのyou geekがラップを始めた影響が大きいですね。
──本格的に活動を始めたのはいつからですか?
名前がWorldwide Skippaになったのは最近なんですが、ラッパーとして初めて世に出したのはSoundCloudの1曲目に上がってる曲で、2024年5月ですね。大学を2024年3月に中退して、それからラップを始めて作ったのが、その曲なんですけど、そのあと半年間は何もせず、音楽も一切聴かず、シンプルに引きこもっていました。だからラップを始めたのは1年前くらいだけど、実際にラップしてるのは半年ぐらいです。
──ラップを再開したきっかけは?
近所にシャトレーゼができて、そこでバイトを始めたのをきっかけに社会復帰したんです。それで気分転換で仙台のPlain Jayというラッパーのリリースパーティに行ったら、Plain Jayと彼の弟のHuncho Foxが熱い話をしてくれて。別に「ラッパーになれ」とかではなく、「キツイけど一緒にがんばろう」ぐらいの感じだったんですが、それで僕は本気でラッパーになりたいと思っちゃって(笑)。
──住んでいるのはずっと名古屋ですか?
基本的にはそうです。大学時代は長野に住んでいて、中退して名古屋に帰りました。
──大学時代からしょっちゅう東京のイベントにも通っていたそうですが、名古屋から仙台のPlain Jayを観に行くのもよっぽどだし、もともとかなり熱心なラップのリスナーだったのかなと。
めちゃくちゃオタクです。
──そういう人が実際にプレイヤーになると、リスナーとしてラッパーに向けていた厳しい基準を自分に課すことになりますよね。
完全にそうですね。
──例えば先ほど話が出た「徳利とブラピ」では「みんな同じ歌詞でつまらん 立てる波風」とあります。続く「ラッパーが擦り倒した 言葉味はありません」もかなりクリティカルですが、今の日本のシーンの歌詞に対する問題意識を聞かせてください。
「みんな」とは言っても、正直売れている人はわりと面白いと思うんです。でも僕は相当な量の日本語ラップを聴いていて。クラブに行ったときも前座から全アクト観るくらい。そうすると、どこかで聞いたことあるような言葉しか流れてこないなと思うことが本当に多いんです。
──そういうラップオタクの視点から今のスタイルになったと。
ラッパーとして売れるには、ほかと違いを出していかないといけない。でも自分が歌い上げる系とかフロウの面白さで勝負するのは無理だと思ったんです。音痴だし。それはまた別のセンスの話になってくるじゃないですか。そういう才能はなくても、練ればなんとでもなるのが歌詞かなと思いました。軽視されがちだけど、ラップにとって一番大事なのは歌詞だと思いますし。
──歌詞で個性を出していくという点だと、「trust me」(「Skipping Tape Vol.1」収録)という曲の「『全部奪う』とかラッパーの詭弁」という部分にもリスナー視点の批評性があるように思いました。
trust me
「全部奪う」はマジで頻出ワードですね。「この言葉が出てきたら俺だったらスキップするよな」って思うような歌詞は書かないように意識してます。使わない言葉を書き留めていた時期もありました。
面白い歌詞とつまらない歌詞の違い
神奈川県人権啓発センター(公式) @K_JINKEN
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人権ラップです