
再生数急上昇ソング定点観測 (2025年7月2週目) [バックナンバー]
致死量の平成を浴びる「イケナイ太陽」令和版 / 「T氏の話を信じるな」のT氏って誰? / ROF-MAOは「アガれ」ではなく「AGATTA」
今、盛り上がり始めている曲 / これから盛り上がりそうな曲について詳しく解説
2025年7月11日 18:30 1
YouTubeでの視聴回数チャートや、ストリーミングサービスでの再生数が伸びている楽曲を観測し、今何が注目されているのかを解説する週イチ連載「再生数急上昇ソング定点観測」。今週はYouTubeで6月27日から7月3日にかけて集計されたミュージックビデオランキングの中から要注目トピックをピックアップします。
文
まずはこの週の初登場曲の振り返りから
今週のYouTubeのミュージックビデオランキングは、2位に
aespa「Dirty Work」ミュージックビデオ
10位には
乃木坂46「Same numbers」ミュージックビデオ
54位に登場したのは
BABYMONSTER「HOT SAUCE」ミュージックビデオ
人気女性グループの楽曲が並んだ今週は、下記の3曲をピックアップする。
ORANGE RANGE「イケナイ太陽(令和ver.)」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場8位
「イケナイ太陽」は2007年にリリースされた17thシングルの表題曲で、フジテレビ系ドラマ「花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス~」のオープニングテーマとして人気を博した。そこから18年を経て、7月2日(=夏)に公開されたのが今回のMV。 “平成あるある”72連発や、過去の
筆者が真っ先に心をつかまれたのは、ドラマ、バラエティ、CMのパロディだ。1分5秒の、黒板の前で自己紹介をする教師は「GTO」の名シーンを再現したもの。続く1分6秒からのチアガールを従えてワンピースを着た女性が踊る場面は、ORANGE RANGEの「おしゃれ番長 feat.ソイソース」が使われていた「ポッキー」のCMが元ネタだ。1分23秒から竹刀を持って教室に入ってくる、眼鏡にジャージ姿の教師は「ごくせん」を想起させる。ほかにも1分38秒からの生徒が屋上に立って全校生徒の前で告白する場面は、バラエティ番組「学校へ行こう!」内で中高生から人気を集めた企画「未成年の主張」の再現。2分54秒あたりでボタンを連打するシーンは雑学バラエティ番組「トリビアの泉 ~素晴らしきムダ知識~」を思わせるなど、「あったあった!」と懐かしさに思わず声を上げたくなる。
“平成あるある”はテレビネタだけにとどまらず、当時の中高生の日常もリアルに映し出している。派手に装飾したスクールバッグ、男子生徒がシャツの下に着ているカラーT、ガラケーに付けている尻尾のストラップや、学生がこぞって飲んでいたリプトンの紙パックなど“あの頃”の解像度が異様に高い。
そんな話題のMVで主演を務めているのは、お笑い芸人・
ORANGE RANGE「おしゃれ番長 feat.ソイソース」ミュージックビデオ
7月9日には2008年リリースの「おしゃれ番長 feat.ソイソース」のMVも再公開され、早くも注目されている。ORANGE RANGEはこの夏「ナツい夏★プロジェクト」として、ほかにも夏を盛り上げる企画を構想しているとのこと。次はどのような試みで楽しませてくれるのか、今後の動向から目が離せない。
ピノキオピー「T氏の話を信じるな」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場9位
「T氏の話を信じるな」は、
T氏の「よしよし 僕の教えに従順な君を愛してあげるよ」という優しい言葉に、「へえ そうなんだ~ 好きになっちゃう / T氏にすべてを捧げましょう」とさらに信仰心を深めていく“君”。そんな様子を見た第三者が「T氏の話を信じるな / フェイクの愛に依存すんなって」と目を覚ますように促すが、“君”は「言わないで やだ / 信じなきゃ 狂っちゃうわ」とその助言を払いのける。そしてT氏はさらにこう助言する。「気にしなくていい、周りのみんなが異常であなたは正常だ」。次第に“君”は周囲の人を拒絶するようになり、T氏への崇拝の念をさらに強めていく。
「T氏の話を信じるな」は自分に都合のいいデマに惑わされる現代人の心理を描くだけでなく、洗脳や依存の構造を巧みに表現している。ちなみに、筆者が週刊誌の編集をしていたとき、宗教関連の取材でこんな話を聞いたことがある。
「悪質な宗教団体が、入信して間もない信者に命じることが1つあって。それは親族や友人に対して、強引に勧誘したり法外な値段で数珠や印鑑を買わせることなんです。ただ、彼らの目的は信者の人数増加やお金ではない。信者の周りから人が離れていくようにして、孤立させた上で『私たちだけは、あなたの味方ですよ』と優しい言葉をかけて『ここが自分の居場所なんだ』と思わせる。そうすることで、より深く依存させるんです」
――まさに、T氏が“君”に行っていることと同じだ。
ここで大きな疑問が浮かぶ。T氏とは誰なのか、である。MVの概要欄に「※本動画に登場するすべてのデザインは架空のものであり、実在の団体・文化・出来事とは一切関係ありません」と明記されているので真相は不明だが、もともと重音テトは「エイプリルフールの嘘がきっかけで生まれたボカロ」であり、その存在自体が虚構を土台にしている。そう考えると、もしかしたら「T氏(=テト)を信じるな」という意味なのかもしれない。ポップな楽曲でありながら、これほど生々しく奥が深い歌詞を当てるピノキオピーのソングライティングの巧みさに感服する。
ROF-MAO「AGATTA」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場97位
楽曲提供をしたのはVtuberやアニメへの曲提供、ゲーム音楽などで高い評価を受けているOHTORAとmaeshima soshiだ。2人はyama「こだま」やYUKI「パ・ラ・サイト」など有名アーティストの楽曲も多数手がけ、それぞれの魅力を引き上げてきた実績がある。今回の楽曲もポップでエレクトロなサウンドメイクによって、ROF‑MAOの歌声が生き生きと弾けている。
YouTubeのコメント欄では「『ん…?お前『AGATTA』か…?』ってなるイントロからしっかりアガるの好き」「『アガれ』でも『アゲろ』でもなく『アガった』だから、問答無用で楽しくなれるの大好き」など、夏にぴったりな盛り上がりソングを絶賛する声が多く上がっている。
- 真貝聡
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ライター / インタビュアー。雑誌やWebで執筆するほか、MOROHA「其ノ灯、暮ラシ」、BiSH「SHAPE OF LOVE」、PEDRO「SKYFISH GIRL-THE MOVIE-」といったドキュメンタリー映像作品や、テレビ特番「Mrs. GREEN APPLE ~Review of エデンの園~」にインタビュアーとして参加している。
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音楽ナタリー @natalie_mu
今週は…
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今盛り上がり始めている曲について解説する連載
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