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佐々木敦&南波一海の「聴くなら聞かねば!」 5回目 前編 [バックナンバー]

フィロソフィーのダンスとボーダーレスなアイドル像を考える

「アイドルなのに」を越えていけ

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佐々木敦南波一海によるアイドルをテーマにしたインタビュー連載「聴くなら聞かねば!」。この企画では「アイドルソングを聴くなら、この人に話を聞かねば!」というゲストを毎回招き、2人が活動や制作の背景にディープに迫っていく。作詞家・児玉雨子和田彩花神宿劔樹人(あらかじめ決められた恋人たちへ)&ぱいぱいでか美に続く第5回のゲストは、フィロソフィーのダンス。2015年のグループ結成以降、ブラックミュージックをベースにした楽曲やハイレベルなライブパフォーマンスで支持を集め、ついに昨年9月にメジャーデビューを果たした彼女たちに、コンセプチュアルなアイドルグループとしてのアイデンティティや、アイドルとして活動する中での葛藤、またメジャーデビューの先に思い描く未来などについて語ってもらった。

構成 / 瀬下裕理 撮影 / 朝岡英輔 イラスト / ナカG

いつかは来るタイミングが少し早まっただけ

南波一海 こちら、フィロソフィーのダンスを前々から「いい」と言っている佐々木さんです。

佐々木敦 今日はお会いできて光栄です。僕は昨年2020年くらいから急激にアイドルに関心を抱くようになったんですが、フィロソフィーのダンスさんのことを好きになったのは「ダンス・ファウンダー(リ・ボーカル&シングル・ミックス)」(2018年2月発表)のミュージックビデオをYouTubeで観たのがきっかけでした。もともとフィロのスのプロデューサーである加茂啓太郎さんとはHEADZ(佐々木が主宰する音楽レーベル)関連で少しだけ接点があったので、「あの加茂さんが手がけているグループなんだ」と興味を持っていたんですが、動画で曲を聴いたりパフォーマンスを観たりして「こ、これは!」とかなり衝撃を受けまして。なのでこの連載で「アイドルとは何か?」ということについて考えるとき、いつもフィロのスさんの存在が頭にあったんです。

奥津マリリ(フィロソフィーのダンス)

奥津マリリ(フィロソフィーのダンス)

奥津マリリ うれしい! 最近は、私たちに興味を持ってくださった方から直接お話を聞ける機会がなかなかなかったのでとても新鮮です。

佐々木 皆さんが今まで何度も聞かれてきたような質問をしてしまうかもしれませんが……。

一同 大丈夫です!

奥津 はい、質問です! 佐々木さんは、フィロソフィーのライブにはまだ来てくださったことはないんですか?

佐々木 これがね、ないんですよ。フィロのスさんのライブに限らず、僕、アイドルの現場にまだ一度も行ったことがなくて。アイドルにハマった途端にコロナ禍に突入してしまったこともあるんですが、現場に行ってしまったら二度と戻ってこれなくなるんじゃないかと……いや、戻るつもりもないんですが(笑)。でも配信ライブなどは観ていますよ。

奥津 YouTube界で生きるオタクですね。電波を介してすべてを観ている……。

佐々木 ははは(苦笑)。フィロソフィーのダンスは昨年9月にメジャーデビューを果たされましたが(参照:フィロソフィーのダンス「ドント・ストップ・ザ・ダンス」インタビュー)、コロナ禍の中でメジャーデビューに向かってどんなことを考え、行動していたのかを最初にお伺いしたくて。

南波 皆さんはあの状況下でも、まったく挫けていませんでしたよね。

十束おとは そうですね。わりと早い段階からZoomを使ってグループの基礎力を上げる時間を作っていたんです。ダンスレッスンを受けたり、メンバーが中心になってセトリを決めてライブの練習をしたり。その中でメンバー同士で頻繁に連絡を取り合っていたので、誰1人落ち込むこともなく、「4人で一緒にがんばっていこうね」というムードになって。そうしているうちにメジャーデビューに向けて動き始めたので、コロナ禍に入ったからといって動きがぴったり止まったという感覚はないですね。もちろんライブはできなくなっちゃいましたけど。

十束おとは(フィロソフィーのダンス)

十束おとは(フィロソフィーのダンス)

佐々木 直接会えなかった時期の体験が逆にメンバー間の関係性を強めることになったんですね。

十束 はい。私たちは長い間ずっとこの4人でやってきたんですけど、メジャーデビュー前にさらに絆を深め合えたという点で、あの期間はむしろプラスだったかなと思っています。

南波 フィロソフィーのダンスはずっとライブに力を入れて突き進んできたじゃないですか。でもコロナ禍になってライブ中心の世界から状況がガラッと変わってしまって。

日向ハル 私はそもそもグループがメジャーに行くという時点で、ファンの方々と直接コミュニケーションを取れる仕事はきっと減っていってしまうだろうなと思っていたんですよ。実際去年からコロナのせいでライブやイベントが思うようにできない状態になりましたけど、それっていつかは来るタイミングがちょっと早くなってしまっただけで。自分たちが長く活動を続けてだんだん大きくなっていくなら、必然的にインディーズの頃と同じペースではファンの方と触れ合えなくなってしまうから、やっぱり私たちはライブで皆さんを魅了できるようにならなきゃいけないという気持ちは変わらないですし、コロナじゃなかったらもっと売れていたなんて絶対に言いたくないですね。これまでも「今この環境下でどうベストを尽くすか」ということが私たちにとって課題でしたし、そのことを常に考えているからあんまりネガティブな思考にはならないのかなと思います。

日向ハル(フィロソフィーのダンス)

日向ハル(フィロソフィーのダンス)

佐々木 コロナ禍の厳しい状況も試練の1つとして受け入れられたんですね。すごい……不屈の精神だ。

日向 あははは(笑)。

モリモリ、ぷにゅ、モリモリ

佐々木 メンバー同士で顔を合わせられなかった期間はそれぞれどんなことをして過ごしてたんですか?

奥津 私は活動を再開したときに体の衰えを感じたくなかったので、ずっと1人で筋トレをしていました。でもお休み期間があんなに長引くと思っていなかったので、自分が思っていたよりも筋肉バキバキになっちゃって……一時期は体脂肪率も18%くらいで、女の子でいうとアスリート並みのコンディションになっていたんですけど、あるときリモートでグラビアのお仕事があって、自分で写真を撮って送ったんです。そしたらもう、体が上からモリモリ、ぷにゅ、モリモリみたいな、アンバランスな感じになっていて(笑)。その写真を見て、「なんでも闇雲にがんばればいいわけではないんだ」と気付いて、その後は適度にダンスや筋トレをして復帰の準備をしていました。

日向 気付いてよかった(笑)。

奥津 チチマッチョさんになっていたかもしれなかった(笑)。

一同 あはははは(笑)。

佐々木 佐藤さんはどうですか?

佐藤まりあ えっと……ほかのグループの方を含め「おうち時間が自分を見直す機会になった」というお話をたくさん聴くんですけど、私はおうち時間を本当に無駄にしたタイプです。

佐藤まりあ(フィロソフィーのダンス)

佐藤まりあ(フィロソフィーのダンス)

佐々木 はっきり無駄と言っちゃってる(笑)。

佐藤 結成から6年間ずっと走り続けてきた分、いつも夜遅くに帰ってきてコンビニのお弁当を1人で食べるみたいな生活だったので、家族と一緒にゆっくりごはんを食べられる時間がすごく楽しくて……あとは昼の11時くらいまで眠ったり、お料理したり、ずっと「ハッピー!」という感じでした(笑)。自分の身になることは特にやっていなかったんですが、ただ家族といられる幸せを感じていました。

佐々木 気持ちもリフレッシュできて最高じゃないですか。ご家族もうれしいですよね。

佐藤 はい。家族に「まりあが家にいると賑やかだ」と言われました。私もあんなに長くお休みすることなんてもう二度とないと思うので、すごく楽しかったですね。

奥津 いい話。一番いいよ!

南波 精神が健全になるんですから、まったく無駄じゃないですよね。

日向 私も同じく、こんなに長い間休みをもらう機会なんてもうないから、とにかく自分を甘やかそうと思って。焦ってもどうしようもないし、6年間ずっとがんばってきたんだから何も考えずに休もうと決めて、今までなかなか挑戦できなかった自炊をしたり、ミュージカル映画を観たりしてました。あと音楽に関しては、グループのルーツになっているブラックミュージックをこの期間に深掘りしようといろいろ聴いてみたりとか、洋楽を歌ってみたあと英語がしゃべれるlyrical schoolのrisanoに電話して、「洋楽のカバーしたから聴いて」「発音どこが違うか教えて」とお願いして、お互いボイスメモを送り合ったりとか。暇すぎるからこそ、やってみたいと思うことに触れられた有意義な時間でしたね。

十束 私は本当に根がオタクなので、お休みとなると何かしたくなっちゃうタイプなんです。だからイチから独学で動画を撮影して自分で編集して、それをYouTubeで公開していました。あと「これまでゲームの大会で優勝したことがないからもっと腕を上げたいな」と思って好きなゲームをたくさん練習していたら、ちょうど大会にお呼ばれして、なんとそこで優勝しました!(笑) それに我が家にワンちゃんを迎え入れたりもしたので、とにかくハッピーにおうち時間を過ごしました。

佐々木 なるほど。各人各様ながらも有意義で充実したハッピーな時間だったんですね。

佐々木敦、南波一海、フィロソフィーのダンス。

佐々木敦、南波一海、フィロソフィーのダンス。

すごく安定した株なんです

南波 そうやってコロナ禍を前向きに過ごせたのも実はすごいことですよね。同じ時期に己と向き合った結果、アイドルを辞めるという選択を取った方も少なくないわけで。それに、今の話も皆さん明るくフランクに話してくれていますが、やっぱり1人ひとりの中で前提となっている志がすごく高いなと。それは4人がグループに加入するまでの道のりが長く、苦労したこともあったからかもしれませんが、日向さんが話していたように「グループを長く続ける」というビジョンのもとで意識的に活動しているからなんだろうなと思います。

佐々木 今年でグループ結成から6年目に入りましたが、このメンバーで長く一緒に活動してこられたのはどんなことがきっかけだったんですか?

日向 極論を言うと、グループがうまくいってなかったら、おそらくそういう気持ちにはなっていないですよね。すべて自分たちが思い描くようにとは言わないですけど、ライブ会場のキャパシティがだんだん大きくなっていったり、ファンの方が増えていって地上波のテレビ番組から声がかかったり、こうやってメジャーデビューが決まったりと、いろんなことが重なっていって「このグループを続けていていいんだ」「この道が正しいんだ」と思えたというか。そういう自信につながったのは、具体的にどのタイミングというより、ずーっと活動を積み重ねてきた結果なのかなと思います。

左から十束おとは、日向ハル、奥津マリリ、佐藤まりあ(フィロソフィーのダンス)。

左から十束おとは、日向ハル、奥津マリリ、佐藤まりあ(フィロソフィーのダンス)。

奥津 これまでは本当に目の前の課題をクリアしていくのに必死で、ふと気付いたら丸5年が経っていたという。今後状況が変わって、やむを得ずまた活動をストップしなきゃいけないときも来るかもしれないですけど、私たちにはここまでずっと続けてきた事実があるので、株価がちょっと変動しようとも(笑)、活動していくうえで別にそこまで支障はないかなって。

日向 すごく安定した株なんです、私たち!

十束 とか言っておいて、そのうち暴落したりして(笑)。

奥津 何かの拍子に炎上したりとかね(笑)。でもそういうことがあったり、別の理由でゆらゆらすることがあっても、もうここ数年で辞めるという話ではない人生になってきました。だから何かあっても「長い目で見たらちっちゃいことよ」と言えるくらいの気持ちの余裕は常に持っていたいですね。

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今は胸を張って言えるよね

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