高山徹

エンジニアが明かすあのサウンドの正体 第16回 [バックナンバー]

Cornelius、くるり、スピッツ、indigo la End、sumikaらを手がける高山徹の仕事術(後編)

面倒臭いことを、せっせとやるしかない

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絶対ありえないことでもやってみると面白いものが生まれる

──一部のアウトボードを除いて、ミックスはほとんどWAVESやPLUGIN ALLIANCEなどのプラグインを使って、アマチュアでもそろえられるような環境でやっていますよね。それでも全然音が違うとなると、違いが出ているのはどのポイントだと思いますか?

当たってるかわからないですけど、そのミュージシャンが何をやりたいかを汲み取ることだと思います。「この人がやっている音楽のルーツはたぶんここにあるだろうな」「それから派生した音楽はこういう傾向にあるから、たぶんコンプはこのぐらいだな」とか。

──では普段から音楽のルーツを探るために、いろいろな音楽を系統立てて聴くようにしているんでしょうか?

そうですね。あとはミュージシャンに「最近どんなの聴いてる?」とよく聞きます。以前聴いていたものとの違いなどを話しながら、ミュージシャンがやりたいことや今の音楽の空気を読み取っています。ミュージシャンから教えてもらうことが多いですね。

──それでは、今まで自分がちょっとこのバランスはないなって思ってたようなものを提示されて、振り切ったことをやってみることもありますか?

ありますね。HAPPYという若いバンドは古い音楽から新しいのまで両方聴いていて。当時を知っている僕ら世代だと、「こっちの音楽をやるときにはこれはダサいよね」っていうのがあると思うんですけど、彼らは若いがゆえに時代の感覚がまったくなくて、絶対ありえない組み合わせを持ってくるんです。例えばだけどプログレっぽい音に対して80'sのシンセを乗っけるようなことって、当時の人は絶対にやらないじゃないですか。だけどそういうのを、なんか新しいっていう感覚でぶつけてきたりする。そこを「いや、絶対違うでしょ」って言わずにそのまま突き進むと、面白いものが生まれるという。音楽って実は勘違いで新しいものが生まれることが多いと思っていて、その当時はこうだったよと押し付けないほうが面白いかなと。

簡単にプラグインでできる秘密はない

──話は変わりますが、プラグインのオートメーションはすごい書いたりしますか?

わりと書くほうだと思います。

──ボリュームだけじゃなくてEQとかも書いたりします?

そうですね。ただ、オートメーションだけじゃなくて、セクションごとに細かくトラックを分けて処理してますね。indigoの「チューリップ」では、川谷くんの声を1曲の中で、まずはABCDのセクションに振り分けてるんです。そのあとに、彼は歌の表情のバリエーションがすごく多いので、地声の部分とファルセットの部分とか、喉を締めて歌う部分とか、そのバリエーションごとにトラックを分けて、それぞれのEQとディエッサー(※歯擦音の音量を下げるエフェクト)の設定を変えてます。でも、それが途中で変わってるようにはわからないようにしています。

──なるほど。それはだいぶ秘密な感じがします。

どうしてもファルセットだと抜けが悪くなったりするので、そのときは中高域上げて。でも地声のときは、超高域が伸びるようにしたり。切り刻んでから子音と母音のバランスをそれぞれ決める感じで、細かくフェーダーを書いて、メインの歌だけで6時間ぐらいフェーダーいじってます。

──普通の人がやらないくらい細かいところに本当に時間をかけてるということですね。

そうですね。簡単にプラグインでできる秘密はないと思うんですよね。面倒臭いことを、せっせとやるしかないというか。

高山徹

高山徹

──ほかのアーティストでも、それくらい細かく分けて処理しているんですか?

1本のボーカルトラックで、Aメロ、Bメロ、サビ、大サビは、まず分けます。で、それ以外の細かいところ、ファルセットだったりを、またそこから分岐していってますね。アナログ卓で昔やってたときには限界があったけど、Pro Toolsに移行してそれができるようになってからは、もうどんどん細かくなっていっちゃって(笑)。

──それボーカル以外でもやったりしますか?

そうですね。ギターとかドラムとかも、全部。

──録ってる音数はそんなになくても、トラックはめちゃくちゃ多いみたいなことに。

なりますね。トラックダウンのはずなんだけど、むしろトラックがどんどん増えていきます(笑)。最初はできるだけ少ないトラックでやろうとするんですけど、気になった時点で切って、そこを分けて。で、またずーっと聴いて「あ、ここ気になるな」っていうところから枝分かれして。それをやってくと、いつまでたってもミックスが終わらない。

──なるほど、わかりました。確かにそれはよくなりそうです。わかりましたが大変すぎて普通の人にはそう簡単にできないでしょうね。秘密が解けて今日はよく眠れそうです(笑)。それでは最後に、何か読者へのメッセージはありますか?

コロナウイルスの影響で、真面目にライブをがんばってきたミュージシャンや関係者が今大打撃を受けています。このままだと音楽では生きていけなくなる人も多く出てきます。ぜひとも、気になるアーティストの音楽をサブスクで聴いたりライブ盤のBlu-rayを買ったり、何でもいいので、本当に音楽に打ち込んできた人たちを救ってあげてください。よろしくお願いします。

高山徹

1967年千葉生まれ。1985年にSTUDIO TWO TWO ONEで働き始め、名称がMUSIC INN 代々木となったあと、アシスタントエンジニアとして数多くのメジャーアーティストのセッションに立ち会う。2004年に自身の会社「Switchback」を設立。これまでにフリッパーズ・ギター、Cornelius、CharaくるりASIAN KUNG-FU GENERATIONスピッツフジファブリックsumikaら多数のアーティスト作品に関わっている。2008年には「第51回グラミー賞」最優秀サラウンド・サウンド・アルバム賞に「Sensurround + B-sides」で、ノミネートされる。2010年に日本レコーディングエンジニア協会の理事に就任。

※高山徹の「高」ははしご高が正式表記。

中村公輔

1999年にNeinaのメンバーとしてドイツMille Plateauxよりデビュー。自身のソロプロジェクト・KangarooPawのアルバム制作をきっかけに宅録をするようになる。2013年にはthe HIATUSのツアーにマニピュレーターとして参加。エンジニアとして携わったアーティストは入江陽、折坂悠太、Taiko Super Kicks、TAMTAM、ツチヤニボンド、本日休演、ルルルルズなど。音楽ライターとしても活動しており、著作に「名盤レコーディングから読み解くロックのウラ教科書」がある。

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