高山徹

エンジニアが明かすあのサウンドの正体 第16回 [バックナンバー]

Cornelius、くるり、スピッツ、indigo la End、sumikaらを手がける高山徹の仕事術(後編)

面倒臭いことを、せっせとやるしかない

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スピッツは録音前から相当作り込んでいる

──スピッツのお話も伺いたいなと思うんですが、彼らのレコーディングはどのような感じで進んでいるんでしょうか?

スピッツはレコーディングの時間が短くて、あっという間に終わります。ただ、そこに行き着くまでの間に相当詰めてますね。完成した状態でスタジオに持ってくるので、だいたい3、4回くらい録ってすぐできあがります。朝ドラの主題歌になった「優しいあの子」(2019年6月リリース)のレコーディングのときに(草野)マサムネくんが言ってたのは、デモの段階でプロデューサーの亀田(誠治)さんといっぱい聴きすぎて、そのイメージが強くなっちゃったから、そこからちょっとでも離れるとなんか違和感があると。それくらい録音前から作りこんでる人たちですね。

──草野さんの声はすごい特徴的だと思いますが、実際録音してみてどうでしょうか?

音程と声量がメチャメチャ安定してますね。デコボコが全然なくてホント録りやすいです。あと基音となるところが複数あるというか、倍音が多い。「この音程でも取れるし、オクターブ上でも取れる」みたいな声質ですね。倍音が多いがゆえに、基音が見えにくいので、楽器に埋もれやすくて抜けにくかったりもしますけど。

──ほかの人と比べて歌を大きく出してるなと思ったんですけど、そういう理由もあるんですか?

曲調的にドラムがドカンってくるような曲ではないし、マサムネくんの声が求められてると思ってそうしてます。ドラマの主題歌ということも考えて。

──ちなみにボーカルはどういうマイクで録っていますか?

最近はTELEFUNKEN ELA M251がずっと定番になってますね。フジファブリックCharaも、indigoの「チューリップ」もそうでしたね。わりといろんなマイクを試すんですけど、僕はあんまりこだわりなくて、「好きなの選んでいいよ」ってミュージシャンに渡すと、選ばれるのはやっぱりELA Mが多いですね。

Chara+YUKIはイメージでリクエストをもらう

──Chara+YUKIもお話を聞きたいと思います。「echo」(2020年2月リリース)では「YOPPITE」と「鳥のブローチ」を手がけられたそうですが、この曲では2人のボーカリストの混ざり具合が肝なのかなと。

そうですね。あの2人は真反対な声質なので、混ぜる加減がすごく難しかったです。倍音の成分が圧倒的に多いのがCharaの声で、YUKIちゃんの声はすごいエッジが立っていて前に抜けてくる。どうしてもYUKIちゃんの声の周りをCharaの声が上下で挟み込むみたいな形になります。ただ「YOPPITE」はずっとユニゾンだったので、混ざって聞こえる感じにしました。そのときはYUKIちゃんがCharaの声にちょっと寄せた発声をしてくれて。一度2人同時に歌ってもらったんですけど、お互いが自分がどっちの声だかよくわかんないっていう話になって(笑)、やっぱ1人ずつ録ったほうがいいねってなりました。

──ミックスするときには、どういうことに気を付けながらやったんでしょうか?

ミックスの話だと、Chara+YUKIはイメージでリクエストをもらうことが多かったですね。「YUKIちゃんが大海原で小さい船に乗って遭難してるところを、私(Chara)が大きな鳥になって助けにいくの」みたいな、そういうリクエストなんですよ(笑)。そういうイメージで伝えてくれたほうが、結果的に早い場合もあるんですよね。一方で凛として時雨のTKくんみたいに自分でミックスもしちゃう人とは、「このトラックの何kHzを何dB上げて」みたいな具体的なやりとりのほうが早かったりもして、どっちもあるんですけど。竹原ピストルさんは何も言わないです。ひと言「よかった」って(笑)。

──想像できます(笑)。

竹原さんは歌い出す前にイメトレしてから歌い出しますね。溜めて溜めて一気に吐き出すみたいな感じの人で。ほとんど弾き語り一発でライブみたいな感じなので、その空気感を録り逃さないように気を付けてます。Corneliusと真反対です(笑)。

こだわりはない

──真逆なものをやるときに、頭の中でスイッチの切り替えは簡単にできるものですか?

1日に2つのプログラムをやれと言われたら無理だと思うんですけど、1回寝れば切り替わるかな。極力こだわりを捨てて流れに任せるっていうのがいいんじゃないですかね。

──ここだけは譲れないポイントは特にないですか?

ないですね、ほとんど。

──こだわりを持たず、特殊な機材を使うわけでもないのに高山さんオリジナルの音になるのが不思議な感じがします。お話を聞いても謎が解けないですね(笑)。

ただミックスに時間はかけますよ。おそらく普通の3倍ぐらい手間をかけてるんじゃないかな。定額制のストリーミングサービスが主流になって、ますます何回聴かれるかが勝負になってきてるので、いかに飽きさせないかが大事かなと思って。インパクト勝負でバーンって作った曲って、パッと聴きカッコいいんだけど3、4回聴いたら飽きる気がしていて。こうやるというパターンはないけど、どうしたらいいか試行錯誤して、やれるとこまで細くやってますね。

──そういう細かいミックスの作業をしていて、達成感を感じるときってどんなときですか?

フジファブリックの「若者のすべて」(2007年11月リリース)は、すごくいいものができたって実感があったんだけど、発売当時はあまり評価されなくて。何年か経ってから評価されるようになって、そういうときに細かいところまでやってて報われたと思いましたね。自己満足かもしれないですけど、誰もわからないようなところまで突き詰めてやっていて、それを聴いててくれる人がどこかにいるってわかったときはやっぱりうれしいですよ。

──「若者のすべて」の特にこだわったポイントも教えていただけますか?

キーボードのダイちゃん(金澤ダイスケ)のピアノが同じことを淡々と繰り返してるんですけど、付点8分のディレイをかけて、それにフィルターで曇らせたり高域を伸ばしたり変化をつけて、大きな流れを作っています。僕の中ではくるりの「ばらの花」と同じようなイメージで。淡々と同じことを繰り返してながらも、エモい、熱いものがくる感じ。くるりでの経験があったので表現できたと思います。

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