BAR くず星

ファンの店 第10回 [バックナンバー]

ゆずファンの2人が営む、小さな部室のようなバー

BAR くず星

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自らがファンであるという理由から、お店を好きなアーティストの色に染め上げてしまった“筋金入りの〇〇ファン”な店主たちがいる。今回は、大好きなゆずに倣い仲良し2人で営むバーを紹介する。

取材・/ 高橋裕美 撮影 / 阪本勇

ゆずっこ同士で二人三脚

明るくポップな店内。

明るくポップな店内。

東京都新宿区歌舞伎町、ホストクラブがひしめく通りから1本入った路地にある雑居ビルの1室。ここにゆずファンが集う1軒のバーがある。扉を開ければ、カラフルでポップな店内でマスターとサブマスターが迎えてくれる。

BARくず星は2017年12月にオープン。大のゆずファンである藤井拓郎さんがオーナー兼マスターを務め、サブマスターのちゅうさんと共に切り盛りをする。藤井さんはマセキ芸能社で芸人として活動していたそうだ。もともとバー好きだった藤井さんはある日、ファンが営み、ファンが集うバーが全国に多数存在すると知る。だが藤井さんが一番好きなアーティストであるゆずのバーがまだないことを知り、未経験ながらも強い情熱で「絶対、俺がやろう」と決意。すぐに新宿ゴールデン街のバーでアルバイトを開始、猛スピードで開店に必要な技術や知識をイチから自らに叩き込みオープンに至った。

藤井拓郎さん

藤井拓郎さん

そしてゆずっこ(ゆずファンの呼称)が集まるオフ会で出会った親友のちゅうさんと、二人三脚で営業するようになった。2人は北川悠仁さんが“リーダー”、岩沢厚治さんが“サブリーダー”と名乗るゆずにちなんで、“マスター” “サブマスター”という肩書きで店に立っている。

ちゅうさん

ちゅうさん

店名はゆずの曲名から取られた。「“星くず”という言葉はあるけど“くず星”は見かけない。でもファンならゆずの曲名だとすぐにわかる。知らない人が見たらなんてことない、ゆずっこ同士の暗号のような店名」として名付けたという。この店全体をゆずにしたいという思いで壁は黄色、天井は緑に塗ったそうだ。バーには珍しく明るい雰囲気にしたのには、たくさんのゆずっこに気軽に入ってもらいたいという2人の思いが込められている。カウンター8席の小さな店だが、日本全国からだけでなく中国、香港、台湾からもファンが訪れるのだとか。東京でゆずのライブが開催された日などには、立ち飲みで20人以上入ることもあるそうだ。

「初めて1人で来た方も、ここで友達がたくさんできます。それを見るのが僕は一番うれしいんです」と藤井さん。ちゅうさんは「ゆずのファンはおとなしく普段ゆずっこであることを発信できてない方が多いのですが、そういう人たちが仲間を見つけられる場所、ファンだと大きい声で言える場所になれたら」と店への思いを話した。そういう2人も来店客と仲良くなり食事や映画に行くことがあるという。藤井さんは「お客さんに対して“僕らの部屋に遊びに来た友達”という感覚で接している」と言い、ちゅうさんも「僕らは部室を守る部長と副部長という感じ」と付け加えた。実際、出前や食べ物の持ち込みは自由で、入店時には「おかえり」や「お疲れさま」と声を掛けるなど居心地のよさを追求している。ほかにもBARくず星主導でBBQやお花見などのイベントも開催しており、今年のお花見には60人以上のゆずっこが集まったそうだ。

ツアーグッズからファンクラブ会報誌第1巻まで

ファンクラブ会報誌がずらりと並ぶ。

ファンクラブ会報誌がずらりと並ぶ。

多くのゆずっこに愛されるこの店には、初来店から30日連続来店した男性や、オープン当時から数えてウイスキーのキープボトルが17本目という女性もいるそうだ。熱烈なファンが多い一方で、一見さんも温かく迎えるのがBARくず星。「ファン歴の長さとか深さとかそういうことを気にするお客さんはいません。初来店の方も常連さんも、みんな仲良く話せるのがゆずファンのいいところです」と、ちゅうさんはゆずっこには優しい人が多いことを自慢げに語った。

藤井さんは小学1年生の頃から5歳年上の兄が家で流していたゆずの曲を聴き続けるうち、妹を含めた3兄妹でゆずファンになったそうだ。ほかのアーティストに飽きることはあっても、ゆずはずっと一番のアーティストであり続けた。「ゆずの魅力はメロディがキャッチーなところ。北川さんも岩沢さんも作詞作曲をやってるので、全然飽きないし、どんどん進化している。ゆずは腐れ縁というか、もう家族みたいな感じ。共に生きる覚悟はできてます」と思いは熱い。

ちゅうさんは大学卒業後に、たまたまラジオで「からっぽ」を聴いてファンになった。「希望や友情、努力をテーマに歌っているイメージだったが、しっかり聴くと真逆の曲がゴロゴロ出てきた。むしろ挫折、苦しみ、妬みみたいなものが入った曲が多く、“部屋の隅で体育座りしちゃう”……みたいな思いを歌っている。そういう曲に共感するようになりました」と話す。

棚には所狭しとグッズがひしめく。

棚には所狭しとグッズがひしめく。

店にはアコースティックギターが置かれ、お客さんも弾いたり歌ったりできる。しかし「恥ずかしがり屋のお客さんが多いので、まずは僕らが率先して歌うようにしています」とのこと。藤井さんが幼少時から愛用しているゆずのギタースコアも多数置かれており、お客さんにもぜひスコアを見ながら弾いてみてほしいという。

常連客からプレゼントされた直筆サイン入りポスター。

常連客からプレゼントされた直筆サイン入りポスター。

ほかにも、店内は藤井さんが実家からかき集めたゆずのグッズであふれる。徐々に買い足したり来店客から譲り受けたりしながら、現在その数はオープン当時の倍以上に増えたそうだ。中でも貴重なのが、直筆サイン入りポスター。1998年当時ゆずのラジオ番組でリスナーにプレゼントされたもので、週8で来店している男性ファンが20年間大切に保存していたものを、店の1周年記念にプレゼントしてくれたのだとか。過去のツアーグッズやファンクラブの会報誌も第1巻から100冊以上あり、手に取って見ることができる。お客さんが作ってくれたというBARくず星のチロルチョコやポストカードなども飾られている。

ゆずの曲名にインスパイアされたカクテル

BARくず星オリジナルカクテル。左から、桜木町、君宛のメロディー、カナリア。(ドリンク各種800円~)

BARくず星オリジナルカクテル。左から、桜木町、君宛のメロディー、カナリア。(ドリンク各種800円~)

BARくず星の売りは、ゆずの曲名を冠したオリジナルカクテル。すべて楽曲のイメージに合わせて2人が考案した。ゆずの楽曲数は全部で300以上にのぼるが、この店では現在は100種類ほどのカクテルが楽しめる。レギュラーメニューに加え毎月4、5種類の新作を出しており、まだまだ挑戦していくという。一番人気のカクテルはカナリア。ブランデーベースにハチミツやリンゴが入った「近年の代表曲らしい飲み応えと飲みやすさを追求した」カクテルだ。

好きな曲のタイトルだからという理由で選ばれることが多い桜木町は、横浜港に面する街をイメージした水色のカクテル。「曲のさわやかさを感じ、誰でも飲みやすいように」と、さまざまなフルーツでできたリキュール、ヒプノティックを使用している。

遊び心満載で作られたのが、君宛のメロディー。ラムをベースにピーチやリンゴ、ライムのリキュールを加え、一番下にミントのリキュールを忍ばせる。これは“隠しておいた君宛のメロディー”という歌詞から着想したそうだ。「岩沢さんには珍しくダイレクトに愛情を表現した歌なので、そのパンチ力を表現しようと、酔えるようなショートカクテルに仕上げました」と藤井さん。

お酒に詳しくなくても味のイメージを相談すればぴったりのカクテルをオススメしてくれる。さらにお酒が苦手なゆずっこには200種類以上のノンアルコールカクテルも提供可能。実は店にはドリンクと共に店内を隅々まで楽しんでほしいという思いから、隠れミッキーならぬ“隠れ悠仁”と“隠れ岩ちゃん”がいるのだとか。

メニューはすべてゆずの曲名。

メニューはすべてゆずの曲名。

最後に藤井さんは「今、本当に温かいお客さんに恵まれているので、これがこのまま続けばいいなと思ってます。この店を知らないゆずっこの方々にもどんどん知ってもらって、仲間が何百人何千人になったらいいですね」と語った。そしてちゅうさんも「ここは2人の部屋みたいなものなので、永遠に続くと思うんです。もしお客さんがゼロになっても、僕らはここに集まって一緒にテレビとか観てるんじゃないかな」と続けた。ゆず愛と友情あふれるこの場所で、今日も2人は全国のゆずっこたちの“帰り”を待っている。

2人で演奏を披露することもしばしば。左がちゅうさん、右が藤井さん。

2人で演奏を披露することもしばしば。左がちゅうさん、右が藤井さん。

店舗情報

住所:東京都新宿区歌舞伎町2-23-7-プチプラザ305
電話番号:03-6278-9199
営業時間 :金・土・祝前日18:00~29:00、日~木18:00~25:00
料金:チャージ 1000円、ボトルキープ 4000円~(セット1000円)、
今好きな曲:選べないけどあえて言うなら……「方程式2」「心のままに」「かえるのご帰宅」(藤井さん)、「灰皿の上から」「風とともに」「フラリ」(ちゅうさん)

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読者の反応

鈴木すきゃな @szkn_

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ゆずファンが経営してるバーって東京にあるのか〜!いつか行ってみたいー!🍊❤️

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