村上てつや(ゴスペラーズ)

アーティストを作った名著 Vol.12 [バックナンバー]

村上てつや(ゴスペラーズ)

人生やアーティスト活動の指針となった3作

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日々創作と向き合い、音楽を生み出し、世の中に感動やムーブメントをもたらすアーティストたち。この企画は、そんなアーティストたちに、自身の創作や生き方に影響を与え、心を揺さぶった本について紹介してもらうものだ。今回はゴスペラーズの村上てつやが登場。少年期や青年期など、それぞれの時代に出会い、影響を与えられた3冊の本について紹介してくれた。

01. 「69 sixty nine」(集英社文庫)
著者:村上龍

「69 sixty nine」文庫版表紙 

「69 sixty nine」文庫版表紙 

ずっと自分の琴線に触れている

痛快な青春小説。モテたいというまっすぐな欲望にいろいろと理論武装して学校をバリケード封鎖したり音楽・映画・演劇などを一緒くたにしたアートフェスをやってみたりと、破天荒で頭が切れ少し自分勝手な主人公が躍動する物語に文字通り胸踊らせて一気に読んだことを思い出す。たぶん高1のときだと思う。そしてそれが作者村上龍氏の半自伝的小説であるというところに強烈なジェラシーを覚えた。こんな青春を送りたいと憧れてみたものの、当然そんな訳にはいかなかったことを大学生のときの自分に認めさせたくていろんなチャレンジをしたことへとつながったのかも。この小説で初めて知ったミュージシャンやその楽曲、映画や詩人の名前も多く自分の知らない世界への憧れを掻き立てた作品。今回改めて読み直して胸が熱く、また少し苦しくなった。ずっと自分の琴線に触れる作品であることがわかりとてもうれしかった。

02. 「japanese road」(集英社)
著者:小林紀晴

「japanese road」表紙

「japanese road」表紙

自分なりの日本地図作りを決意

デビューしてまだ数年、目の前のことを必死でこなすだけだった頃に「自分なりの日本地図を描こう」という決意をさせてくれた1冊。出版されたのは98年で自分は27歳。がむしゃらだった若者時代とは違う自分を確立したくてもがいていた頃だ。ファッション誌での連載を単行本化したこの本は、写真家である著者が日本中を旅しながら撮った写真とエッセー、そして旅先で出会った多様な人々への簡潔なインタビューで構成されている。暗めで湿った質感の写真が多く、景色と言っても著者の心象風景を映したような写真が多いのだが、その中の1枚が自分に決定的な影響を与えた。それは長崎市にある26殉教者記念像の前にたたずむ女性の姿を捉えたもので、その写真を見たことをキッカケに僕は長崎・五島・天草へ隠れキリシタンを知るための旅に出た。4日間たくさんの教会を訪ねてひたすら祈ったこの旅で自分が得たものは計り知れない。これ以降僕はツアーの先々やオフの時間を使ってさまざまな場所を訪ねるようになる。この本との出会いが、いまだに続く「自分なりの日本地図作り」の第一歩だった。

03. 「きみはダックス先生がきらいか」(大日本図書)
著者:灰谷健次郎

「きみはダックス先生がきらいか」表紙

「きみはダックス先生がきらいか」表紙

「違う声が響き合うから美しいのです」

小学校低学年のときに学校の読書感想文の指定図書として読んだのが出会い。一見冴えない先生、通称ダックス先生が子供たちに「確かなものの見方」をゆっくりと伝えていく物語。勉強はできるけど自己表現が苦手な「いい子」であるリツコの目を通して小学4年生のクラスに起こるさまざまな出来事を描いていく。中でも今の自分の仕事に一番影響を与えてくれた場面がクラス対抗の合唱大会に向けた練習での出来事。歌が下手で声を出さない子供がいることに気付いたダックス先生は言う。「歌のうまく歌える子のために、毎日合唱の練習をしているのではありません。人間の声は1人ひとり違うのです。違う声が響き合うから美しいのです」と。読んだ当時はこの部分はそれほど自分に響いてきたという記憶はない。大人になって読み返して驚いた。ボーカルグループとして活動している我々が伝えたいことはこの言葉にすべて集約されていると言っても過言ではない。違う人間が声を合わせるということが持つ楽しさや素晴らしさ、我々はこのことをすべての活動の真ん中に置いています。

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