アーティストたちに、自身の創作や生き方に影響を与えた本を紹介してもらうこの連載。今回登場するのは、文芸誌「文藝」で自伝的小説「三代」を発表するなど文筆活動でも注目を集める韓国出身、大阪在住のラッパー・
01. 不思議な少年(講談社)
著者:山下和美
自分が選んだ道以外にも無限の可能性がある
時空を超えて人間の本質を探る「不思議な少年」。さまざまな時代と空間で異なる登場人物と一緒に活躍する少年は、私からするとすごく羨ましい存在です。簡単に「芸術は自由」「音楽は、ヒップホップは自由」みたいなことを口にする人が多いですが、アーティストとなることで私はあらゆる、ほかの可能性をカットしたわけだし、自分が選んだ狭い窓から人間の本質や人生を考えなきゃいけないわけです。もちろん自分の選択に対して後悔はしていませんが、自分が見ている世界がすべてであると信じ込んでしまう危険性があることをいつも思い出さなければなりません。この本は自分が選んだ道以外にも、生きることには無限の可能性があることを教えてくれる本です。そして芸術家が、自分の狭い世界だけではなく、いつかはその無限の可能性と向き合わなければならない理由も、教えてくれます。
02. 新版 シルマリルの物語(評論社)
著者:J・R・R・トールキン / 訳:田中明子
知恵を与えてくれる第2の聖書
現代のファンタジー小説の始まりと呼ばれる「シルマリルの物語」ですが、私にとってこの作品はファンタジーである以前に、第2の聖書です。聖書が宇宙と世界の創造のような巨大なトピックから、人間のささやかな欲望や感情までを描いているように、この本はトールキンの頭の中で作られたその世界のすべてをいろんな角度から描いています。「指輪物語」が身近な距離で人物を描いて勇気や人類愛を伝えてくれる本だとすれば、何千年にもわたる国や文明の興亡盛衰を描く「シルマリルの物語」は「知恵」を与えてくれる1冊です。世界でもっとも美しい恋の物語も、オイディプス王の運命よりも残酷な運命を背負った主人公の悲劇も、キリスト教の哲学の隠喩のような創造神話も描かれているこの本は、読む時期によって見えてくるものが異なる1冊でもあり、私は恐らく50年後も60年後も読み続けると思います。
03. 無知(集英社、絶版のため書影なし)
著者:ミラン・クンデラ / 訳:西永良成
癒せない傷を背負った人がどこかにいること
ミラン・クンデラは、チェコ出身ですがフランスでフランス語の作品を発表している作家です。彼の小説を読む中で、私が日本に移住してきてから感じた、さまざまな葛藤や疎外感を、地球のどこかで誰かも感じていると慰められることが多くありました。それは「未来はきっと明るい」のような子供っぽくてJ-POP的な盲目的な楽観主義ではなく、自分以外の誰かも、癒せない傷を背負ったまま生きていると確認した安堵でした。
「日本に移民はない」と言われるたびに、「俺の存在が証拠だ。俺が移民だ」と私は言いますが、「移民」と言えばまだアメリカとかを思い出す人がいまだに多いぐらい、日本語の「移民」は日本に根付いていないかもしれません。そこから始まる私の孤独は決して無駄ではないとクンデラの作品を読んで確信することができました。移民は、それ自体が人類の歴史だし、日本の現状と未来だから。
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