アーティストたちに、自身の創作や生き方に影響を与えた本を紹介してもらうこの連載。今回はアイドル活動と並行して大学院で美術を学んでいる
01. マネとモダン・パリ
発行:三菱一号館美術館、読売新聞社、NHK、NHKプロモーション
人生を変えた展覧会のカタログ
2010年にオープンした三菱一号館美術館の開館記念展、「マネとモダン・パリ」のカタログです。この展覧会は私が美術と人生を共にするきっかけとなったものです。
当時、15歳ながらに絵画は美しいものという固定観念を持っていたのですが、黒色を多用したり、人が倒れている場面を主題としたりするマネの作品を観て、想像を超えた世界に衝撃を受けました。同時に、画家や絵画へ関心を抱くようになり、絵画は美しいだけじゃないところに楽しさがあると気付きました。
マネは主題、描写の2つの面で西洋絵画に変革をもたらし、近代絵画への道を切り開いた画家であるが故に(?)伝統と革新など矛盾する性質が作品の中に多く残されています。それこそがマネ作品の魅力だと感じているのですが、そんなマネ作品を言葉にすることはとても難しいです。私はマネ作品を通して言葉で表現する難しさ、大切さも知りました。そして、マネ作品を通して近代とそれ以降の時代、それは現代の私たちにつながっているという視野を持つことができました。
マネと自分の出会いから現在までのすべてをここで語ることはできないのですが、とにかく自分の中にあった価値観が壊れた最初の経験であり、それによって人生が変わった、そんな展覧会のカタログです。
02. Don't Follow the Wind:展覧会公式カタログ2015(河出書房新社)
著者:Chim↑pom +椹木野衣+Don't Follow the Wind実行委員会
視点を変えてくれる美術の力
福島県の原発事故に伴う帰宅困難区域を舞台とする展覧会「Don't Follow the Wind」の公式カタログで、私が手に取ったのは、この展覧会のサテライト展示である「ノン・ビジター・センター展」がワタリウム美術館で開催されたことがきっかけです。展示や公式カタログからは、単純にテレビの情報だけでは知ることのなかった福島の現状や自分の考えの及ばなかったことを知ることができましたが、私が特に感じたのは美術の力でした。この点については本書の椹木野衣さんの「美術と放射・能」で触れられている、以下の考察が重要です。
「美術と美術作品と美術の力(紺珠・鑑賞・感動)をめぐる三者のズレと重なりが、ちょうど、放射能と放射性物質、そして放射線との違いに該当する」(66ページ)
美術の力によって、私たち鑑賞者は問題を知ること、またそこへ思いを馳せること、そして自分の生活において視点を変えることが可能であり、表現の場で時事問題を扱っていたとしても美術の力が発揮されることを知りました。そして、自分の生きる社会に目を向けることが特別なことではないと教わった気がします。無意識に潜む忘却こそ特別なものにしていかなくてはいけないと感じます。
03. 男も女もみんなフェミニストでなきゃ(河出書房新社)
著者:チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ / 訳:くぼたのぞみ
私の怒りを肯定してくれた
私はジェンダーに興味があり、フェミニズム的視点から周囲の出来事や自分の気持ちを考えてみることがあったりします。この本はそんな私が感じる疑問にいつも寄り添ってくれるライターさんからいただいた1冊です。特に印象的なのは、著者がラゴスで若い女であることについて記事を書いたとき、知人から「怒りを表に出さないほうがいい」と言われた出来事を振り返る箇所です。著者は「私は怒っています。私たちはみんな怒るべきです」と述べ、怒りはポジティブな変化をもたらすことに触れつつ、女性に求められている姿、そこに潜むジェンダーを明らかにしていきます。この本は私がジェンダー的に感じた怒りを肯定し、自分が感じる疑問に希望を見出してもいいと背中を押してくれました。
ただ私の場合、怒りを原動力にしても内容が伝わっていかない現実があるため、自分がしなやかに変化する術を身に付けました。本当はそのようなことをする必要はないけど、そうしなければ一歩を踏み出すこともできません。自分の素直な感情が蘇るこの本はもう読まないと決めていますが、自分の感情を肯定できる大切な本に変わりありません。
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和田彩花 @ayakawada
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