大林宣彦

レジェンドの横顔 第1回 [バックナンバー]

大林宣彦から託されたもの 寄稿・満島真之介

「エンドマークの未来を『ハッピーエンド!』にするために」

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我々にたくさんの感動をもたらしてくれた、映画史に燦然と輝くレジェンドたち。この連載では、そんな彼らの知られざるエピソードを紹介する。

第1回で取り上げるのは、2020年4月10日に82歳でこの世を去った“映像の魔術師”・大林宣彦。晩年の「花筐/HANAGATAMI」、そして遺作となった「海辺の映画館―キネマの玉手箱」に出演した満島真之介が、大林から受け取った次世代へのメッセージを明かしてくれた。

/ 満島真之介 作品解説 / 山里夏生

エンドマークの未来を「ハッピーエンド!」にするために

「花筐/HANAGATAMI」撮影現場の様子。右上から時計回りに満島真之介、大林宣彦、窪塚俊介、大林恭子。

「花筐/HANAGATAMI」撮影現場の様子。右上から時計回りに満島真之介、大林宣彦、窪塚俊介、大林恭子。

「全てが命に見えてきたんだよ。大切にしなきゃいけないね。全てが生命なんだから」

晩年、大林宣彦監督はよくこの言葉を口にしていた。
平成生まれの私が思う命と、戦時中に生まれ育った監督にとっての命への想いはどれほどの違いがあるのだろうか。
いつもそれを考えてばかりいた。
監督が天に昇った日、夜空はとてつもなく美しい月明かりが照らしていた。
満月に近づいていたあの日、私は大林宣彦監督映画には欠かせない満天の月の下で眠った。

大林宣彦監督との出会いは4年前。
私が出演していたNHKのトーク番組を観た監督が事務所に電話をかけてきたのが全ての始まりだった。
「すぐに会いに来てくれないかい」と、言われるがままに監督の事務所へと足を運ぶと、開口一番、「次の映画に君が出ているんだ。よろしくね」。
突然すぎる言葉に頭が混乱していたが、監督の包み込むような優しい声色と佇まいに一瞬で虜になってしまっていた私は、何が何やらわからぬうちに「はい」と答えていた。
台本を開き役柄の紹介文を見たとき、慄いた。

<神話から飛び出してきたようなアポロンのような少年・鵜飼くん>

「これは君そのものだから、何にも準備をする必要はないよ。そのままでいいんだよ」と。
ん? どういうこと……。もう混乱は最高潮に達していた。この人の頭の中には何が蠢いていて、どういう映画を拵えようとしているのか全く想像もつかなかった。
それと同時に、こんな方に出会えるのは、人生でもそうそうない。神様からのご褒美だ。と、胸震わせていたのを昨日のように覚えている。

「花筐/HANAGATAMI」初号試写会にて。左から大林宣彦、満島真之介。

「花筐/HANAGATAMI」初号試写会にて。左から大林宣彦、満島真之介。

そこから4年間、監督の一挙手一投足全てを心に焼き付けたい一心で、金魚のフンのようにくっついてた。
監督はいつでも愛に溢れていた。映画を愛し、人を愛し、自然を愛す。一目会い握手し、ハグをするだけで、全てが洗われる感覚になる仏様のような人だった。
ローマは1日にしてならずという言葉があるように、「人とは、傷つきあって、赦しあって愛を覚える」とよく口にしていた監督の人生の歴史は、想像を絶するものだったんだろうと思う。
広島に生まれ、戦争を経験し、敗戦を味わい、日本の変化を目の当たりにしてきた監督の目には、強さの奥に大きな悲しみが宿っているように見えていたからだ。
平和への強い想いが織りなす作品たちは今でも鮮明に生きている。
それなのに堅苦しくなく説教臭くもなく、ユーモア溢れるひとつひとつのシーンから迸るエネルギーが他人事から自分事へと変化させてしまう。これこそ大林マジックと言われる所以であろう。

「海辺の映画館―キネマの玉手箱」 (c)2020「海辺の映画館―キネマの玉手箱」製作委員会/PSC

「海辺の映画館―キネマの玉手箱」 (c)2020「海辺の映画館―キネマの玉手箱」製作委員会/PSC

映画のコマとコマとの間に隠された魂を撮っていたであろう監督。
「映画は風化しないジャーナリズムである。世の中のことをしっかり観察すること、そしてその中にある良いこと、いけないことを観察し、特に危ういことを人々に伝えて自覚してもらう。
世の中が平和に一歩近づくように映画をつくる。黒澤明監督からの教えを守ってやってきたんだよ。だからね、この先は君たちがそれをつくっていく番になる。よろしく頼むよ」

そんな会話が常に繰り広げられていた時間は、どんな作品を観るよりも心に響いていた。時に涙し、時に大笑いし、とてつもなく満たされた心で帰路に着く。
しかし、一人になると、監督から託された言葉が胸を締め付け、責任と不安で押しつぶされそうになる。
こんなちっぽけな自分に何ができるの。これからの未来をどう進んで行くべきなの。自問自答し続ける毎日を与えてくださる魔法の言葉たち。今でもすぐそばに監督を感じているから、逃げられない。自分と向き合うことの大切さを植え付けてくれた監督は人生の師であり、無邪気な同志のような存在。必ず素敵な未来にします。と誓ったからには、監督に負けてられない。よーし、見ててくださいよ。やってやりますから。と意気込む姿を、天から見下ろし微笑んでくれているはず。

「海辺の映画館―キネマの玉手箱」撮影時のディレクターズチェア。(撮影:満島真之介)

「海辺の映画館―キネマの玉手箱」撮影時のディレクターズチェア。(撮影:満島真之介)

どんな時でも、優しく微笑み、常に挑戦し続けていた監督が我々に残してくれたものは映画だけではなく、愛と正気。
「映画で歴史を変えることは不可能だが、歴史の未来を変えることは可能だ」と言い残した大林監督の人生のフィルムを受け継ぎ、エンドマークの未来を「ハッピーエンド!」にするために、私は、生きる。
ありがとう、そしてまたいつかどこかで。

最後に、大林監督からいただいた言葉とともに、さようなら。

「人はありがとうの数だけかしこくなり、
ごめんなさいの数だけうつくしくなり
さようならの数だけ愛を知る」

満島真之介

大林宣彦 略歴

大林宣彦

大林宣彦

1938年1月9日生まれ、広島・尾道市出身。3歳のときに自宅の納戸で見つけた活動写真機と戯れるうちに映画作りをスタートする。16mmフィルムによる自主映画制作を経て、1960年代には草創期のテレビCM業界に進出。チャールズ・ブロンソンの「マンダム」をはじめ、カトリーヌ・ドヌーヴなど多くの外国人スターを起用し、3000本を超えるCMを制作した。

1977年の「HOUSE ハウス」で商業映画デビュー。手塚治虫のマンガ「ブラック・ジャック」を実写化した「瞳の中の訪問者」や、薬師丸ひろ子主演「ねらわれた学園」などを監督後、1980年代に“尾道三部作”と呼ばれる「転校生」「時をかける少女」「さびしんぼう」を発表する。ファンタジックで斬新な映像表現から“映像の魔術師”と称された大林の作品は、世代を超えて熱狂的な支持を集めた。

1980年代後半から1990年代にかけての公開作は「異人たちとの夏」「北京的西瓜」「ふたり」「青春デンデケデケデケ」「はるか、ノスタルジィ」など。1作ごとに異なる撮影・演出の実験を試みた野心作を次々と世に放った。阿部定事件をモチーフにした1998年の「SADA」では、ベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞を受賞。大林個人では、2004年春に紫綬褒章、2009年秋に旭日小綬章を受章し、2019年には文化功労者に選ばれた。

2000年代も精力的に活動し、重松清の小説を映画化した「その日のまえに」、東日本大震災を受けて製作された「この空の花 長岡花火物語」、北海道の芦別を舞台にした「野のなななのか」などでメガホンを取る。肺がんと診断され、余命の宣告を受けたのは、2016年8月。治療を続けながら自らの命を削って撮り上げた「花筐/HANAGATAMI」は、「この空の花 長岡花火物語」「野のなななのか」に続く“大林的戦争三部作”の最終章となった。

自身の戦争体験から、長年にわたって平和への祈りを伝えてきた大林。遺作である「海辺の映画館―キネマの玉手箱」は当初、命日となった2020年4月10日の封切りを予定していたが、新型コロナウイルスの影響により7月31日に公開された。

「花筐/HANAGATAMI」

「花筐/HANAGATAMI」 (c)唐津映画製作委員会/PSC 2017

「花筐/HANAGATAMI」 (c)唐津映画製作委員会/PSC 2017

檀一雄の小説をもとに、第2次世界大戦中の日本に生きた若者たちの姿を描く青春群像劇。佐賀・唐津で青春を謳歌する主人公たちのもとに、戦争の足音が忍び寄っていくさまを映し出す。窪塚俊介が主演を務め、満島はアポロ神のような少年・鵜飼役で出演。長塚圭史、柄本時生、矢作穂香、山崎紘菜、門脇麦、常盤貴子が共演した。

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発売元:カルチュア・パブリッシャーズ
販売元:TCエンタテインメント

「海辺の映画館―キネマの玉手箱」

「海辺の映画館―キネマの玉手箱」ポスタービジュアル (c)2020「海辺の映画館―キネマの玉手箱」製作委員会/PSC

「海辺の映画館―キネマの玉手箱」ポスタービジュアル (c)2020「海辺の映画館―キネマの玉手箱」製作委員会/PSC

大林が「あの、夏の日・とんでろじいちゃん」以来20年ぶりに故郷・尾道で撮影したファンタジードラマ。閉館間近の映画館で、スクリーン上の戦争の時代にタイムスリップした若者3人の数奇な体験を描く。厚木拓郎、細山田隆人、細田善彦、吉田玲、成海璃子、山崎紘菜、常盤貴子がキャストに名を連ね、満島は沖縄出身の軍人・金城亀二を演じた。

満島真之介

満島真之介

満島真之介

1989年5月30日生まれ、沖縄県出身。2010年の舞台「おそるべき親たち」で俳優デビューを果たし、2012年に連続テレビ小説「梅ちゃん先生」で注目を集める。同年、若松孝二監督作「11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち」で第37回報知映画賞新人賞を受賞。近年は「花筐/HANAGATAMI」「君が君で君だ」「止められるか、俺たちを」「キングダム」などの映画、大河ドラマ「いだてん ~東京オリムピック噺(ばなし)~」や「全裸監督」「愛なき森で叫べ」などのドラマに出演した。2020年には大林宣彦の遺作となった「海辺の映画館―キネマの玉手箱」に参加。2021年放送の大河ドラマ「青天を衝け」への出演も決まっている。

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