ドラマ「ちはやふる-めぐり-」のBlu-ray / DVDが2月18日に発売された。
末次由紀のマンガをもとに広瀬すず主演で実写映画化された「ちはやふる」3部作から10年後の世界を描く本作は、何事もタイパ(タイムパフォーマンス)最優先で勉強とアルバイトに追われる高校生・藍沢めぐるが、競技かるた部の顧問・大江奏との出会いをきっかけに、青春を遠ざけてきた日々と向き合っていく物語。めぐるを當真あみ、奏を上白石萌音が演じたほか、原菜乃華、齋藤潤、藤原大祐、山時聡真、大西利空、嵐莉菜、坂元愛登ら新世代のキャストが肩を並べる。広瀬や上白石に加え、野村周平、新田真剣佑ら映画版キャストも再集結し、世代を超えて受け継がれる青春のきらめきが描かれた。
映画ナタリーでは、プロデューサーの榊原真由子と、同じくプロデューサーとして映画版の企画から携わってきた北島直明にインタビューを実施。原作者の末次とともに紡いだ今描くべき青春や、フレッシュなキャスト陣の魅力、そして“奇跡の1日”と呼ばれた映画版メンバーの再会秘話まで、制作の舞台裏をたっぷり語ってもらった。
取材・文 / 金須晶子撮影 / 田中舘裕介
「上の句」公開当時は「ちはやふる」ファンの学生でした(榊原)
──「ちはやふる-めぐり-」の放送を経て、改めて今の気持ちをお聞かせください。
榊原真由子 放送開始から半年、最終話のオンエアからも3カ月が経ちましたが、今でも「本当によかった」という声をたくさんいただいています。先日、原作者の末次由紀先生にお会いした際も、「こんなふうに『ちはやふる』がまた広がるなんて」と喜んでくださって。若いキャストの皆さんも「参加できてよかった」と会うたびに言ってくれて、本当に幸せな作品だったと実感しています。
北島直明 僕も一番の思いは「やってよかった」ですね。もちろんこれまで関わった作品で「やらなきゃよかった」なんてものは1つもないんですが、今回は得るものが飛び抜けて多かった。オリジナルストーリーという“原作があるのに原作がない”難しい挑戦でしたし、映画のイメージやファンの思いも背負っての制作でした。それでも、結果的に多くの方に喜んでいただけたのは本当にうれしい。さらに今回はミッションの1つに「若いスタッフを育てる」というのもあり、榊原をはじめとした若手の活躍も含めて、トータルで「やってよかった」と思えています。
──榊原さんは、映画「ちはやふる -上の句-」が公開された2016年当時、まだ大学生だったそうですね。
榊原 はい。入社前の大学生で、シンプルに「ちはやふる」ファンでした。マンガも映画も大好きで、まさか10年後に自分が続編をプロデュースする未来があるなんて、当時はみじんも思っていなかったです。
北島 僕もまだ40代で、この業界では若手の部類ですけど(笑)、でも榊原もきっと10年後には同じ感覚になるはず。いつか「『ちはやふる』、毎週観てました!」という若いスタッフと現場で出会うと思うんです。榊原が学生時代に「ちはやふる」で感じたものが今につながったように、このドラマもまた誰かの背中を押していく。その“めぐり”を強く感じられた作品でした。
タイトルは最初から「めぐり」が合うと思っていた(北島)
──「ちはやふる -結び-」のときに「完璧なタイトルだ」と感じていましたが、今回「ちはやふる-めぐり-」と発表されたとき、またしても「これ以外は考えられない……!」と感動しました。サブタイトルが「めぐり」に決まった経緯を教えてください。
北島 タイトルって制作の途中で変わることも多いんですが、今回は最初から「めぐり」でした。ただ最初は漢字の「巡り」で、「ちはやふる 巡り」だとなんだか旅行っぽいなと。
榊原 「ロケ地巡りツアーみたいだよね」って(笑)。そこから「巡る」にしてみたり、表記違いでいくつか検討しましたが、別の言葉に大きく変えることはなかったです。
──主人公・藍沢めぐるの名前が先にあったわけではないんですね。
榊原 名前ではなく歌です。百人一首の「めぐり逢ひて」という歌(「めぐり逢ひて 見しやそれとも わかぬ間に 雲隠れにし 夜半の月かな」)から着想を得ました。再会を詠んだ紫式部の歌で、「ちはやふる」の世界観にとても合う。「再び彼らに会う」という意味でも、10年後を描く今回のドラマにぴったりだと思いました。
北島 映画「ちはやふる -結び-」で、かるた会の先輩・坪口が(広瀬すずが演じてきた「ちはやふる」シリーズの主人公)綾瀬千早たちに「こういうのはさ、巡ってくもんだから」と声を掛けるシーンがあります。巡り合いは「ちはやふる」にとって大切なテーマ。そのニュアンスを続編でもきちんと回収したいという思いがあり、「めぐり」がふさわしいとなりました。
──観る前も観たあとも、深く納得できるタイトルです。
北島 ショーランナーの小泉徳宏監督から「前回“結んだ”ので、今回は“ほどいて”もいいですか?」なんて言われたりもしました(笑)。
榊原 「ちはやふる ほどく」。もちろん冗談ですけど、そんなやり取りもありましたね(笑)。
千早と同じことをやっても意味がない(北島)
──原作者の末次先生も脚本段階からディスカッションに関わられたそうですね。強く希望されたポイントなどはあったのでしょうか?
榊原 まずは末次先生と物語の根幹を一緒に考えるところから始まりました。特に最初に話したのは「なぜ今、原作にない形で『ちはやふる』を映像化するのか」ということ。コロナ禍を経て、青春がある種の“ぜいたく品”になっているのではないか……奪われた青春もある今の中高生たちをしっかり描きましょう、という意識を共有しました。先生も「それならやる意味がありますね」と言ってくださって。
──劇中で印象的な「青春セレブ」という言葉も、そうした議論から生まれたのでしょうか。
榊原 そうです。かつては誰もが手を伸ばせば届いた青春が、今は一部の人だけが享受できるものになりつつある。「全国大会に行けないなら部活をがんばる意味がない」「将来につながらないなら無駄」そんな感覚こそが、映画版が作られた頃と大きく変わった部分なんじゃないかと考えて。「青春はぜいたく品」という言葉に、全員が「これだ」と思ったんです。
北島 SNSやスマホで個々が完結できる時代だからこそ、青春をがんばる人が少数派になっている。そんな中で「青春セレブ」もいれば、青春を失った「青春敗者」もいる。「ちはやふる」はもともと敗者の物語をたくさん描いてきましたが、今回のドラマもまさに敗者から立ち上がる物語です。映画の尺では描き切れなかった1人ひとりの感情を、ドラマだからこそ丁寧に描けたと思います。
──そこから生まれた主人公が、當真あみさん演じるめぐる。タイパ重視で部活に興味のない高校生です。
北島 千早とはまったく違う主人公にしよう、というのが出発点でした。企画初期には千早タイプの主人公も考えましたが、同じことをやっても意味がないと気付いた。だから、真逆の主人公像が必要だったんです。
──ということは、ドラマの中で“圧倒的主人公”と称されていた月浦凪が主役になっていた可能性もあったんですね。千早に憧れて競技かるたを始めた、めぐるとは対照的な存在です。
北島 むしろ、別の世界線では凪が主人公ですよ。原菜乃華さんが演じた凪は、映画版で松岡茉優さんが演じた若宮詩暢のようなポジション。主人公のライバルであり、食ってしまうくらいのパワーが求められる役でしたが、彼女は完璧に応えてくれました。
──千早を演じた広瀬すずさんの存在が大きいシリーズですが、當真あみさんを新たな主演として迎えることについては、どのように捉えていましたか?
榊原 お二人はきらめきという点では似ている部分もありますが、役者としては別のタイプ。違う個性があるからこそ、広瀬さんが演じた千早という大きな存在を引き継ぐキャラクターとして、めぐるが成立したと思います。
北島 當真さんはオーディションではなく、指名でのキャスティングでした。広瀬さんが主演して映画賞も獲ったシリーズで主人公が変わるのは、観客からすると複雑な部分もあったと思うんです。だから観客の皆さんに納得してもらえる説得力が必要でしたし、僕ら制作スタッフも「主人公を任せられる」と思える存在でなければいけなかった。でも、彼女を見た瞬間に「任せられる」と確信しました。ドラマ「最高の教師 1年後、私は生徒に■された」の現場まで見に行ったんですよ。その場で當真さんのマネージャーに「スケジュールを空けておいてください」とお願いしました(笑)。



