「海外ドラマって何を観ればいいかわからない」──そんな人にこそ薦めたいのが、フランス発の人気シリーズ「アストリッドとラファエル 文書係の事件録」だ。自閉スペクトラム症を抱える論理派と、大らかで猪突猛進な直感派。正反対の女性2人がバディを組み難事件を解き明かしていく本作は、上質なミステリーの面白さと徐々に深まる絆の尊さを同時に味わうことができ、ついつい観るのが止まらない沼ドラマとしてファンを増やし続けている。そんな秀逸な良ドラマがJ:COM STREAMで全シーズン配信中。最新のシーズン6も最速配信される。
支持される理由はどこにあるのだろうか? 本特集では、イラストレーター・おおたうにの描き下ろしイラストと、ライター・前田かおりのコラムを通し、「今さらだけど気になる」というあなたに向けてシリーズの魅力をじっくり紐解いていく。
イラスト / おおたうに文 / 前田かおり
おおたうにが描く「アストリッドとラファエル 文書係の事件録」の個性豊かな人物たち
プロフィール
おおたうに
イラストレーター。女の子とファッションをテーマにしたイラストを得意とし、著作にイラストブック「チェリーコーク」シリーズなどがある。
「アストリッドとラファエル 文書係の事件録」キャラクター相関図
「アストリッドとラファエル 文書係の事件録」の面白さを紐解く4つの視点
文 / 前田かおり
2019年にフランスで始まり、世界中で人気を集めるミステリードラマ「アストリッドとラファエル 文書係の事件録」。主人公はパリ警視庁の犯罪資料局で一人黙々と資料を整理する文書係アストリッドと、捜査の第一線でバリバリと事件を追う警視ラファエル。全く接点はない2人だが、ある事件の資料をきっかけに出会い、やがて唯一無二のバディとして数々の難事件に挑むことになる。
Case 1.
違うからこそ噛み合う、愛おしいバディ捜査劇
論理で事件を読み解くアストリッドと、直感で現場を動かすラファエル。一見相容れない2人の個性が、捜査を思いがけない方向へと動かしていく。正反対のピースがパズルのようにピタリと噛み合う瞬間こそ「アストリッドとラファエル」の醍醐味だ。
自閉スペクトラム症を抱えるアストリッドは、警察官だった父親の影響で子供の頃から事件調書に興味を持ち、犯罪資料を読み込んで犯罪学の知識を自然と身に着けてきた。しかも、圧倒的な分析力や洞察力で見落とされがちな証拠にも目を付ける。一方、ラファエルは大らかで猪突猛進の行動派。予定外を嫌い、自分の部屋では靴を脱ぐなど、自分なりの約束事を大切にするアストリッドとは正反対の性格だ。ラファエルがアストリッドの特別な才能に気付いたことで2人はタッグを組み、戸惑うこともありながら相手を認め受け入れ、最強のバディになる。
そんな2人の魅力は、シーズン1第1話「パズル」からすでに全開だ。医師の不可解な自殺事件をめぐり、アストリッドは過去の類似事件からヒントを導き出す。彼女にとってデータは嘘をつかない絶対的なもの。見過ごされていた情報をつなぎ合わせ捜査を一気に前進させる展開は本作を象徴するといえる。一方のラファエルは“風変わりな”アストリッドの話を偏見なく受け止めて証拠探しに赴いたりと、大胆な行動力を見せていく。食堂で定位置の席にしか座れないマイルールを持つアストリッドの困惑を察し、腰元の銃をちらつかせて先客たちをどかせるという彼女なりの優しさも描かれた。
こうしたバディものは犯罪捜査ドラマの王道でもある。たとえば、日本の代表格といえば刑事ドラマ「相棒」。頭脳明晰な警視庁・特命係の杉下右京が、歴代の相棒たちと見せる化学反応が人気の要因となっている。また奥智哉と青木崇高の顔合わせが話題を呼んだ「十角館の殺人」も記憶に新しく、元ミステリー研究会の大学生と作家の卵による凸凹コンビの構図が印象的だった。異なる強みを持つ者同士が補い合いながら真相へ近づいていく、そんなバディものならではの面白さは「アストリッドとラファエル」にも確かに通じる。
バディものには衝突や反発もつきものだが、本作の2人の距離は思いのほか早く縮まっていく。第1話を経た時点で、ラファエルはアストリッドをどんな現場にも連れて行こうとし、同僚のニコラが「新しい相棒か。最近、僕と組まないだろ」と思わずやきもちを焼く様子からも、早々にバディとして絆が芽生えていることを感じさせる。
またシーズン3では、アストリッドが正式に捜査チームへ加わるため司法警察員の資格取得を目指し、警察学校へ通うことに。感覚過敏を抱える彼女にとっては大きなストレスを伴う挑戦だったが、ラファエルをはじめ周囲の支えを受けながら困難を乗り越え、見事合格。2人は名実ともに正式なバディとして歩めることとなった。アストリッドの頭脳とラファエルの行動力がどんなシナジーを見せていくのか、謎解きを楽しみながら追っていきたい。
Case 2.
不完全さに寄り添うまなざし
「アストリッドとラファエル」が支持される理由の一つは、特性ゆえの生きづらさがありながらも、相手の違いを無理に変えようとせず、理解し受け入れながら一緒に歩もうとするところにある。穏やかなまなざしが、シリーズ全体を優しく包み込んでいるのだ。
たとえば、アストリッドは大きな物音や声に過敏に反応してしまうことから、イヤーマフが手放せない。ラファエルはそんな彼女の日常を尊重し、天賦の才が活かされるよう自然に手を貸し寄り添う。結果、本領を発揮するアストリッドに対して、それまで「変わっている」と言っていた同僚や上司の見る目も次第に変わる。もちろんアストリッド自身も世界が広がることで成長を見せていく。
違いがあっても互いを認め合うテーマは、これまでもさまざまなドラマで描かれてきた。自閉症ながら天才的な能力を持つサヴァン症候群の青年が外科医を目指す「グッド・ドクター」や、コミュニケーションに困難を抱えるヒロインが弁護士として成長していく「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」もその一例だ。さらに、発達障害を抱える裁判官が自身の特性と向き合いながら事件に挑む「テミスの不確かな法廷」は、SNSで「アストリッドとラファエル」を彷彿とさせるという声も多く見られた。ジャンルこそ異なるが、人と人が支え合いながら生きていくという点で本作に通じるものが浮かんでくる。
そして忘れてはならないのが、ラファエル自身もまた不完全な存在だということ。熱血刑事らしく感情のまま突っ走ってしまう不器用さがあり、いわゆる誤解されやすいタイプである。シングルマザーとして息子テオの面倒も見ながらキャリアを築いてきたが、仕事に没頭するあまりお迎えに行けず面会をすっぽかしてしまったり、元夫との関係、親権をめぐる葛藤など、家庭と仕事の狭間で揺れる姿には共感を覚える人も多いだろう。
そんな母を、聡明なテオは「強がってるけど僕は知ってる。時々隠れて泣いてるんだ」と理解しており、アストリッドにも「ママが困ってたらこれからも助けてあげて」と託すように言う。その言葉からにじむのは、ラファエルが刑事としても母としても必死に奮闘してきた時間だ。さらにアストリッドの揺るぎない誠実さに触れるうちに彼女の人との向き合い方も少しずつ変わっていく。ラファエルが柔軟性と頼もしさを備えた人へと進化していく過程もまた、このドラマの醍醐味と言えるはず。
Case 3.
守り、導かれ、気付けば対等になっていく2人
シリーズを観続けていくうちに、いつの間にか2人の関係性が変わっていることに気付く。「アストリッドとラファエル」を語るうえで外せないのが、“互いに導き合う存在”へと変化していく関係性だ。シリーズ序盤、アストリッドはラファエルに守られる側として描かれることが多い。しかしシーズンを重ねるごとに立ち位置は少しずつ変化し、警察学校での学びや司法警察員としてのチーム加入と確実に歩みを進めるのを経て、いつしかラファエルにとって対等なパートナーになる。
シーズン1でアストリッドがラファエルの誕生日プレゼントに“指ぬき”を贈り、「あなたは私の指ぬき」と告げるエピソードは、彼女なりの方法で相手に信頼を伝えた象徴的な場面の一つ。裁縫の際に針から指を守るため装着する小さな道具に、自分の心に深く踏み込んで刺激や危険から守ってくれるラファエルの姿を重ねたのだ。感情表現が苦手なアストリッドの最大級の感謝が込められたシリーズ屈指の名シーンになっている。
それに応えるように、シーズン2でラファエルがアストリッドに贈ったのは“方位磁針”だった。「方位磁針は指ぬきがないと動かない(アストリッド)」「いいえ。指ぬきは方位磁針がないとダメ(ラファエル)」──互いにしか通じない会話を交わし、「それが友情かも」とほほえむ2人。ラファエルにとってアストリッドはもはや守るべき相手ではなく、自分を導いてくれる道しるべのような存在になっていることが伝わる場面だ。
この「互いに守り、互いに導く」という関係性から、ふと思い浮かぶのが「ベイビーわるきゅーれ」シリーズの“ちさまひ”コンビだ。殺し屋という極端な職業をともにしながら、社交的で世渡り上手なちさとと、適応能力の低いまひろ。仕事の現場では背中を預け合うプロ同士、日常では凸凹を補い合う、そんな“ちさまひ”のあり方は、どこか“アスラファ”にも重なるのでは。シリアスな犯罪劇の合間に差し込まれる2人のやり取りの積み重ねこそ、私たちが「アストリッドとラファエル」に惹きつけられてやまない理由なのだ。
Case 4.
止められない!本格ミステリーの中毒性
「アストリッドとラファエル」は、毎話の謎解きが上質なミステリーとして完成されている。幽霊や呪いの仕業に見える怪奇事件を論理で解き明かす回もあれば、陰謀論やフェイクニュースから現代社会の危うさを問いかけたり、古代文明をめぐるミステリー、フグ毒や任侠が絡んだ日本文化にフォーカスした事件まで、扱う題材はとにかく多彩だ。実在したとされる錬金術師フルカネリが残した指輪の謎、1920年代フランスを震撼させた連続殺人犯のランドリュ事件をモチーフにした回など、フランスの文化や歴史を下敷きにした物語もあって知的好奇心がくすぐられる。
また、2人が事件の渦中に放り込まれるスリリングな展開にもハラハラさせられる。2人そろって脱獄犯に人質として拘束される危機、飛行機内で起きた殺人事件を地上と上空で連携しながら解決へ導く回、国際的な陰謀に関わる危険な二重スパイに挑むなど、シーズンを追うごとに事件のスケールやバリエーションが広がり視聴者を飽きさせない。
基本的には1話完結、各シーズン8話前後という構成も相まって、気負わずに物語の世界へ入り込めるのも特徴だ。気づけば次のエピソードへ……となる“止まらなさ”があるからこそ、シーズン6まで続いてきたのだろう。本格ミステリーとしての見応えと、愛おしい登場人物たちのドラマが同時に味わえる、それが「アストリッドとラファエル」シリーズのぜいたくな魅力だ。
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