〇〇の話がしたい! 第7回 [バックナンバー]
吉田恵里香が語る、不完全だからこそ愛おしい「スティーブン・ユニバース」のキャラクターたち
全人類が観ることで世界が平和になるアニメ
2026年3月12日 19:00 9
さまざまな著名人が、自分の趣味や好きな映画を語る連載「〇〇の話がしたい!」第7回では連続テレビ小説「虎に翼」などで知られる脚本家・
カートゥーン ネットワークで放送され、U-NEXTで配信中の同作は、人間と地球外生命体の間に生まれた少年・スティーブンの成長を描くアニメ。ストーリーが進むにつれ深まる謎や多様性の描き方で、数々の賞を獲得するなど高い評価を受けているが、日本での知名度はまだ高いとは言えない。そんな作品を子供と一緒に繰り返し視聴しているという吉田が「全人類が観ることで世界が平和になる」「本当の意味で子供向けのアニメ」「Eテレで放送してほしい」と力を込めて主張する。
取材・
シーズン4までならすでに3周目です
私はもともと子供が3歳の頃、一緒に「アドベンチャー・タイム」を観ていて、その流れでお勧めに出てきたのが「スティーブン・ユニバース」でした。そこからこれも子供と観ていたんですけど、私もハマってしまって。ただ、日本だとなぜか吹替がシーズン4までしか作られていなくて、続きは字幕版しかないんですよ。子供と一緒に観る約束をしているので、そこまでしか観られないまますでに3周目に突入しました。そして最近やっと、子供から「字幕を読んでくれるなら続きも観る」と言われて、ついにシーズン5を観ることができています! 子供に黙って観るかどうかの葛藤を常に抱えてたのでうれしいです(笑)。
本当に名作だし、吹替の続きが作られてほしいから、もっといろんな人に観てもらいたい……。どうしたら観てもらえるんでしょうね。とにかく勧め方が難しいんですよ。どういう人にこの作品をお勧めしたいかと聞かれると、「全人類」という言い方になってしまう(笑)。冒険もあるし、日常回もあるし、音楽もいい。監督のレベッカ・シュガーさんが「少女革命ウテナ」とかが好きな人だから演出にすごく影響も受けていて、日本のアニメが好きな人にも観やすいし、テーマは深いし、考察が好きな人にも、おもしれー女が好きな人にも観てほしいです。でも1話だけ観ても何も世界観がわからないんですよね(笑)。スティーブンという主役然としていない男の子が、ジェムという血の繋がりのない3人の女性と一緒に暮らしていて、おへそが宝石で……みたいな。そこから作り込まれた設定がわかってくるまでちょっと時間が掛かります。
それでもまず身を任せてシーズン1を観てみてよ、という気持ちもありつつ、どうすれば作品に興味のない方にも観てもらえるのかを考え、ここでは作品の入り口としてキャラクター紹介をさせてもらいます。あまり好きな言葉ではないんですけど、みんなこじれてるんですよ。こじらせている不完全な登場人物たちがみんな愛おしくて、“癖(へき)”の宝庫ではあると思います。
想定を超えた重い感情を見せつけてくるパール
「スティーブン・ユニバース」には主人公の少年・スティーブンのほかにガーネット、アメジスト、パールという3人がメインで登場します。まずこの作品って、善人であることを押し付けてこないんですよ。彼女たちは地球を守るために戦っているので、やっていることは正義なんですけど、みんなが欲や負の感情、克服すべきものを大事にしているのがすごく好きで。最初に登場したときのイメージとは逆の感情をコアに持っているというか、コンプレックスの裏返しでキャラクターが作られているんですよね。この3人の中だと私が好きなのはパールです。ストーリーの最初のほうでは知的で、チームの唯一の良心みたいな顔をしてるんですけど、一番ヤバいやつっていうのが魅力ですね。
パールは、スティーブンの母親であるローズ・クォーツのことを尊敬していたし、おそらく恋愛的にも愛していたんです。ローズは何千年も前に地球を守るために戦っていて、パールはその側近だった。パールの種族は故郷の星では身分が低かったので、ローズは自分をスペシャルにしてくれた特別な存在だったんですよ。でも何千年も一緒にいたローズが、のちにスティーブンのパパとなるグレッグという人間とくっついて、スティーブンを残して自分の目の前から姿を消してしまう。
それからのパールは、もう会えないローズに対して愛情をずっと持っていて、過去と割り切りたいけど割り切れない部分もある中で、グレッグに対して敵意があったり、忘れ形見であるスティーブンをローズと同一視したり……。わりと最初から「感情が重いキャラなのかな」ということはわかるんですけど、こっちの想定を超える重さを見せつけてくるんですよ(笑)。スティーブンのガールフレンドであるコニーに戦い方を教えて、スティーブンのために命を捨てる兵隊に教育する回とかあるんですよね。自分の大事なものに対しては他人の犠牲もいとわないという傲慢さを持っている。そういう人間味あふれる部分もあるし、それでもよき行いをしようとする立派な部分もある。このパールがもがくさまがすごい魅力で、シリーズを重ねるごとに底なしに重くなるパールの魅力にハマってほしいですね。一方通行の思いの清らかな美しい部分と、狂気な部分を兼ね備えているキャラクターで、日本のアニメを観てる人でも好きになれる要素がてんこ盛りのはず。その一方でパールが次の恋に踏み出そうとする回もあって、一途なことだけが美徳と思ってないという、製作陣の気持ちが感じられる部分もすごくいいんですよね。
見た目は怪しいけど愛情深い理想のパパ、グレッグ
この作品はジェムだけではなく人間のキャラクターも魅力的です。その中でもここで語りたいのが、スティーブンのパパであるグレッグ。2話で初登場したときは、見た目だけだと変な日焼け跡もあるし、しょうもない父親なのかなって思っちゃったんですよ。ファミリーもので父親というキャラクターを描くときって、どうしても道化というか“おかしなパパ”みたいな感じになりがちなんですよね。ちょっと不思議な感じとか、締めるところだけ締める感じになりがち。父性を描こうとするとどうしても……すごく雑な言い方ですけど“聖人的な父性”になりがちだと思うんです。子供とは常に一緒にいて、なんでも受け入れて……みたいな。
でもグレッグは、パパとしての描かれ方がすごくいい。スティーブンと常に一緒にいるわけではない。本当はローズとの子供であるスティーブンを引き取って育てたいはずなのに、自分は一歩引いて離れて暮らしている。それが正解かはわからないし、グレッグ自身も最愛の人を失ってもいるのに。でも、スティーブンと一緒にいない時間も多いのに、対話はきちんとするんですよね。いろんなことに葛藤して、悩みながら対話するのがすごいと思います。あと基本的に、理不尽に怒ったりもしない。スティーブンやジェムたちがめちゃくちゃなことをしても受け入れる。強くはないんだけど愛情が深くてかっこいい理想的なお父さんです。見た目はあんな感じだけど、ローズが惚れる意味もわかりますね。
失敗を愛おしいと思える魅力、ペリドット
最後にもう1人語りたいのはペリドット。敵として現れたのに仲間になるという王道パターンのキャラクターではあります。最初は冷徹で、背も高くクールにも見えていたけど実は手足に強化パーツが付いていて小柄で、それをコンプレックスに思っている。ホームワールドの技術でインテリジェンスな面もフィジカルな面も補っていたことがわかっていく。そして自分たちの星では階級制度の中にいて、選択肢がない中で育ってきてるから視野が狭く偏見に満ちている。不用意な発言や失敗を繰り返すんだけど、スティーブンたちと関わることで、もともとはピュアなのもあって変わっていくという、一番吸収力の高いキャラクターですね。失敗を愛おしいと思えるのはキャラクターの魅力だと思うんです。
今ってアニメとかでも「完璧で善人だけどちょっと何か欠点がある」みたいな、基本が完璧ベースのキャラクターのほうが多い気がしています。そっちのほうが好かれるのもわかってるし、自分でオリジナルのキャラクターを作るときでも、いい面をついつい見せたくなってしまうんですよ。だけどペリドットの場合はダメなところがベースで始まって、その中から湧き出てくる愛情深さとかがいい部分。よくいるようでいて、最近では一周してなかなかいないキャラクターだなと。ガーネットたち3人が調和を取ろうとする中、ペリドットが変なことを言うからみんなが本音をポロポロ出すという、調和を崩す役割なのも面白いですね。
ペリドットがミスをしたり、調子に乗ったり、言い方を間違えたり、自分を大きく見せようとしたりするこの幼さみたいな部分……自分が親になったことと関係あるのかわからないけど、私はそこに愛情を持ってしまうし、幸せになってほしい。「スティーブン・ユニバース」に出てくるキャラクターはみんな幸せになってほしいけど、ペリドットは特にそう思います。
これこそ本当の意味で「子供向け」のもの
繰り返しになりますが、「スティーブン・ユニバース」を全人類に観てほしい。そうすれば世界が平和になると思っています。私が大事にしている「愛」と「対話」をテーマにした作品だし、本当の意味で優しくなれる作品だと思うので、今の社会に疲れちゃってる人にこそお勧めですね。今って世の中がどんどん差別的な方向に向かっていて、優しさとかがわかんなくなっちゃうときってときどきあると思います。もちろんそれはいろんな要素が重なってるからで、その人だけの問題じゃないんですけど。とはいえ個々でできる優しさみたいなことは、「スティーブン・ユニバース」が教えてくれるから、「こうなったらいいよね」と希望を見出せるんじゃないかな。
私は「ブルーイ」というオーストラリアのアニメも好きで、子供との接し方についての描かれ方がすごくよくて、発達障害の子供が出てきたり、不妊治療の話もあったりとかで、これから親になる友達にも「とりあえず『ブルーイ』を全部観たらいいよ」と言っているぐらい。「ブルーイ」は今年(2026年)の4月からEテレで放送されるんですけど、「スティーブン・ユニバース」は演出や構成も日本アニメ的だし、こっちも日本で放送したらいいと思うんですよね。私は子供と対話するときに、いろんなことが「ブルーイ」と「スティーブン・ユニバース」、あと「アドベンチャー・タイム」で説明できると思ってるので、Eテレでこの3本立ての時間を作ってくれたらいいのにな。「スティーブン・ユニバース」は子供だけじゃなく、特にアニメが好きというわけではないうちの母親からもお褒めの言葉をいただきましたから。さまざまな家族がいること、多様性とか身分の差、植民地支配と次世代が担う責任みたいなことも描かれていて、そこが学校の勉強とは違う形で自然と入ってくる。そういうワードを小さい頃から知っているだけでも捉え方が違うよね、って。子供は5歳なのでまだ難しい話はできないけど、「どう思う?」という話はしますし、いろんな人がいるんだなっていうことを知っているだけでも違うと思います。こういった共生や優しさを描いた作品が、子供の心を育てていくと信じています。もちろんエンタメは万能ではないので、実際どんな子に育つかは変わりませんが……(笑)。
ほかにも「スティーブン・ユニバース」にはいろんなセクシャリティを持ったキャラクターや、いろんな形の家族が出てくるのがすごくいいと思います。これは私の作品のコアな部分にも関係してくるし、そういう部分についても語ろうと思えば語れるんですけど、あまりそこを強調すると、観てくれるパイが減りそうな気もするんですよね。勧め方としてそこが難しい。でも、いろんな層のいろんな人を描いているだけでなく、そういった要素が押し付けがましくなく、自然に入ってくることは本当に素晴らしいと思っています。今って「多様性」とか言われるけど、本作ではそういうカギカッコ付きではない、自然な愛の形とか、絆とか、自分を受け入れることとかが描かれている。だからこれは絶対に、最後まで吹替がなきゃいけない作品なんです。大人だけが楽しむのはもったいない。これこそ本当の意味で「子供向け」のものじゃないの?と。大人も楽しめるけど、子供がこれを深く考えずに自然に観ていることで、世の中の見え方とか、人生の捉え方が変わってくるんじゃないかなと。
ストーリーの最初のほうは本当にいろんな説明がないんですけど(笑)、個人的にはシーズン1の第10話「親友はライオン」まで観てくれると、ライオンという謎の生き物が出てきて、それが最初の引っかかりになって、続きが気になってくるかなと思います。絵がかわいいし、音楽もいいし、1話10分ちょっとだし、ながら見でいいからとりあえず10話まで観てください。シーズン2に入ったらあとは一気見しちゃうと思うので! 皆さんが観てくれることが、吹替版の続きが作られることにつながるかもしれません。
吉田恵里香(ヨシダエリカ)プロフィール
11月21日生まれ、神奈川県出身。脚本家・小説家。2022年に脚本を手がけたNHKよるドラ「恋せぬふたり」で第40回向田邦子賞、ギャラクシー賞を受賞。2024年にはNHK連続テレビ小説「虎に翼」の脚本を担当し、大きな話題を集めた。2026年3月20日に同作のスピンオフ「山田轟法律事務所」が放送予定。さらに2027年には「劇場版『虎に翼』」の上映を控える。そのほかアニメ「神之塔 -Tower of God-」「ぼっち・ざ・ろっく!」「前橋ウィッチーズ」などでも脚本を担い、ジャンルを横断して活躍している。
「スティーブン・ユニバース」作品紹介
アメリカのカートゥーン ネットワークで2013年より制作され、日本では2014年から放送されたアニメ。シーズン1からシーズン5に加え、テレビ映画「スティーブン・ユニバース ザ・ムービー」および、続編の「スティーブン・ユニバース・フューチャー」も制作された。製作総指揮は「アドベンチャー・タイム」にも参加したレベッカ・シュガー。子供向けアニメ番組としては画期的な同性婚の描写などで注目され、2019年には放送界のピューリッツァー賞と呼ばれるピーボディ賞の子供・若者向け部門賞、LGBTコミュニティにおいて著しい功績のあったメディアや人物をたたえるGLAADメディア賞のキッズ&ファミリー部門を受賞。日本国内ではカートゥーン ネットワークで視聴可能なほか、U-NEXTで配信中(2026年3月現在)。またPrime Videoにてスピンオフ企画「Steven Universe: Lars of the Stars(原題)」が開発中であることも発表されている。
カートゥーン ネットワークの公式YouTubeでは期間限定で1話から配信中
アニメ「スティーブン・ユニバース」第1話
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吉田恵里香 @yorikoko
なんと、スティーブンユニバースについて取材してもらいました!最高に面白くて大好きな作品なので皆さん観てください!そしてどうかお願いですから最終シーズンと劇場版とスピンオフの吹き替えを作ってください!
よろしくお願いします!!!!!
#StevenUniverse https://t.co/3wI96YzkdY