「マハーバーラタ戦記」尾上菊之助、再演の構想語る「婿選びはインド映画の舞踊を模した踊り合戦に」

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歌舞伎座新開場十周年「吉例顔見世大歌舞伎」昼の部「極付印度伝 マハーバーラタ戦記」の取材会が、昨日10月17日に東京都内で行われた。

左から中村隼人、中村米吉、尾上菊之助、宮城聰。

左から中村隼人、中村米吉、尾上菊之助、宮城聰。

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歌舞伎座新開場十周年「吉例顔見世大歌舞伎」昼の部「極付印度伝 マハーバーラタ戦記」チラシ表

歌舞伎座新開場十周年「吉例顔見世大歌舞伎」昼の部「極付印度伝 マハーバーラタ戦記」チラシ表[拡大]

「極付印度伝 マハーバーラタ戦記」は、2017年に初演された作品。今回は初演版に続き、脚本を青木豪、演出をSPAC-静岡県舞台芸術センター芸術監督の宮城聰、迦楼奈とシヴァ神の2役を尾上菊之助が担う。インドの神話的叙事詩「マハーバーラタ」をもとにした本作では、太陽神が平和をもって人間界を平定する救世主として君臨させようと、象の国の汲手姫に授けた子・迦楼奈を主人公とした物語が展開する。

尾上菊之助

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取材会には、宮城、菊之助のほか、汲手姫役の中村米吉、阿龍樹雷王子 / 梵天役の中村隼人が登壇。「極付印度伝 マハーバーラタ戦記」は、菊之助が、宮城の代表作の1つで同じく「マハーバーラタ」をもとにした「マハーバーラタ~ナラ王の冒険~」を観劇したことをきっかけに制作された。このことについて菊之助は「神と人間の壮大な物語、そして音楽に心打たれました。すぐに『マハーバーラタ』を歌舞伎にさせていただきたい、と宮城先生のところに伺ったのが始まりです」と経緯を明かし、「ただ、そもそも『マハーバーラタ』は、すべてを訳すと死んでしまうのでは、というほどの長さがあります(笑)。どこをやるか、という部分はかなり議論いたしました」と述べる。

宮城聰

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宮城は「初演では、脚本の青木豪さんと『これがレパートリーとして残っていくといいね』なんて言いながら台本を作っていたので、再演がかない、とてもうれしく思っております」と笑顔を見せる。また「僕が、自分の劇団で『マハーバーラタ』を取り上げたのは、もう20年ほど前のことです。ただ、日本の現代劇の劇団で戦争を描くことに、当時はあまり価値を感じられませんでした。というのも、戦争がすぐ側にある国で、戦争を題材にした作品を上演している劇団には敵わないと思ったからです。それで、『マハーバーラタ~ナラ王の冒険~』では、『マハーバーラタ』の中でも、戦争が出てこない場面だけを上演しました。そして2017年に『マハーバーラタ』を歌舞伎化しようという話になったとき、歌舞伎には戦争そのものを描く技術の蓄積が非常にあることに気付きました。そこで、『極付印度伝 マハーバーラタ戦記』は“戦記”というように、戦を中心とした作品にし、『マハーバーラタ~ナラ王の冒険~』と対になるような作品になりました」と語る。

中村米吉

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米吉が演じる汲手姫は、迦楼奈と阿龍樹雷の生みの親。初演版では少女時代の汲手姫を中村梅枝、壮年時代の汲手姫を中村時蔵が演じた。米吉は、初演版で汲手姫を演じていた2人について「共通点は、(本名の)名字が小川という点だけなのですが……」と冗談を飛ばし、会場の笑いを誘ったあと「大きさの部分では太刀打ちできないところがあるのですが、逆に私が1役で一貫して勤めるからこそ、私自身、物語の中で自分の気持ちを持っていきやすいですし、お客様にも伝わりやすくなる部分が増えるかと。前半では、純粋無垢でかれんな少女の部分を、後半では、王様の奥さんとして、5人の王子を養育してきたきっちりとした女性、という部分を見せていきたいですね。……とにかく、急に6人も子供ができましたので、大変です。そのうち3人が年上ですから(笑)。隼人さんで、ギリギリ数カ月年下ですね?」と、隣の隼人と仲むつまじく見つめ合った。

中村隼人

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隼人は「阿龍樹雷は、菊之助兄さん演じる迦楼奈のいわゆるライバル役。勤めさせていただくのは、本当に恐れ多くも光栄」と言葉に力を込め、「迦楼奈は自愛の心をもって戦を収めようとしますが、阿龍樹雷は、天下武装の力による支配が(戦を)収められると考えています。この2人の食い違いや行き違いの対比がでるように勤めたいですね。また、私の役は5人の王子の中の1人。この王子それぞれの人間模様も出していければ」と意気込みを述べる。また役作りについて「前回(阿龍樹雷を)演じていらっしゃった(尾上)松也兄さんの演技を参考にしつつ、ずっと(本作に)携わってきた周囲の方々からアドバイスをいただきながらやっていきたい」と話す。

左から中村隼人、中村米吉、尾上菊之助、宮城聰。

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再演での新たな演出について、記者から質問が飛ぶと、菊之助は「私はインド映画が大好きで。2幕目の婿選びのシーンは、前回はクイズ形式でやっていましたが、今回はインド映画の舞踊を模した踊り合戦をして、その勝ち残った者が王妃さまに選ばれるという場面を新しく作ろうと思っています」と微笑み、「内容に関しては、それぞれの役柄の葛藤をより鮮明に描きつつ、所作事や戦乱の殺陣も、もっとブラッシュアップして、お客様に楽しんでいただける場面を作っていきたい」と瞳を輝かせた。

宮城は「これは、菊之助さんのアイデアなのですが、“神様の代理戦争”ということをより鮮明にしたほうが良いのではという意見をいただきました。私たちは戦争や紛争というものを目にしたとき、一体どうすれば良いのかさっぱりわからなくて、人間の愚かさに絶望してしまいます。しかし、その後ろで2つの原理がぶつかり合っていると考えれば、もしかすると何か解決策があるのではないか、という希望が感じられてくるんですね」と話し、「インドには『解脱しないうちはいくら死んでも、また苦悩の中に戻ってきてしまう。解脱することによって、俗世に戻らなくて済む』という考え方があります。まさに5人の王子たちは最後、解脱することによって、この世に戻らなくてもよくなるわけです。大事なのは、本当の意味での平安を求めていく心である、ということが、再演を通してもう一度訴えられれば良いなと思っています」と思いを述べた。

公演は11月2日から25日まで東京・歌舞伎座にて。

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歌舞伎座新開場十周年「吉例顔見世大歌舞伎」

2023年11月2日(木)~25日(土)
東京都 歌舞伎座

昼の部

「極付印度伝 マハーバーラタ戦記」

脚本:青木豪
演出:宮城聰

出演
迦楼奈(かるな) / シヴァ神(しん):尾上菊之助
太陽神(たいようしん):坂東彌十郎
仙人久理修那(せんにんくりしゅな):中村錦之助
帝釈天(たいしゃくてん):坂東彦三郎
百合守良王子(ゆりしゅらおうじ):坂東亀蔵
風韋摩王子(びーまおうじ):中村萬太郎
汲手姫(くんてぃひめ):中村米吉
阿龍樹雷王子(あるじゅらおうじ) / 梵天(ぼんてん):中村隼人
納倉王子(なくらおうじ):中村鷹之資
我斗風鬼写(がとうきちゃ) / ガネーシャ:尾上丑之助
鶴妖朶王女(づるようだおうじょ) / ラクシュミー:中村芝のぶ
沙羽出葉王子(さはでばおうじ):上村吉太朗
森鬼獏(しきんば):尾上菊市郎
森鬼飛(しきんび):上村吉弥
道不奢早無王子(どうふしゃさなおうじ):市川猿弥
亜照楽多(あでぃらた):河原崎権十郎
羅陀(らーだー):市村萬次郎
多聞天(たもんてん):市川團蔵
大黒天(だいこくてん):坂東楽善

夜の部

一、「秀山十種の内 松浦の太鼓」

出演
松浦鎮信:片岡仁左衛門
大高源吾:尾上松緑
近習鵜飼左司馬:市川猿弥
同 江川文太夫:中村隼人
同 渕部市右衛門:中村鷹之資
同 里見幾之丞:中村吉之丞
同 早瀬近吾:市村橘太郎
門番平内:片岡松之助
お縫:中村米吉
宝井其角:中村歌六

二、「鎌倉三代記」

出演
三浦之助義村:中村時蔵
時姫:中村梅枝
おくる:市川高麗蔵
阿波の局:中村歌女之丞
讃岐の局:中村梅花
富田六郎:中村松江
母長門:中村東蔵
佐々木高綱:中村芝翫

三、「顔見世季花姿繪」

出演
〈春調娘七種〉
曽我五郎:中村種之助
静御前:尾上左近
曽我十郎:市川染五郎

〈三社祭〉
悪玉:坂東巳之助
善玉:尾上右近

〈教草吉原雀〉
鳥売りの男実は雀の精:中村又五郎
鳥刺し実は鷹狩の侍:中村歌昇
鳥売りの女実は雀の精:片岡孝太郎

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